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交易の国へ 道中の街編 8

投稿ペースを遅くしたおかげで、依然と同じくらいの量を溜めることが出来ました。今後はこれ位を維持して頑張りたいと思います。




 食事を終えて話し合いをするために、シンの知り合いのお店に向かっている僕とクリス。それからCランクパーティーの『ハートエッジ』のメンバー。





歩くこと数分、少し繁華街から外れて人もまばらになり始めた通路になった。

 クリスとサーラは余程気が合ったのかずっと喋っている、ナーグはちょこちょこ声お掛けては吹っ飛ばされる。懲りないな・・・。

 僕はミームちゃんと一緒に淡々と歩くシンの後ろを付いて行く、何度か二人に短い質問をされてそれに返答することを繰り返していたらシンの歩みが止まった。


 「ここだ、オーナーとは友人でな。ここなら大丈夫だ。」


 そう告げると彼は中に入って行く、中から「いらっしゃい」と渋いダンディーな声が聞こえた。

 連れだって入って行くと洒落たバーのような雰囲気で照明もさほど明るく感じない、間接照明みたいでやわらかな空間を演出している。

 そして一番目立つのは間違いなくカウンターに存在しているその人だろう。


 「オーナー、すまない全員に旨い酒を出したいんだ。」


 オーナーと呼ばれたその方はまさにダンディーな男性を具現化した様な存在だった。

 年齢は若くはないと思うが、背筋がしっかりとしており。醸し出す風格が人生経験豊富な大人のそれであり、決してぶれない落ち着きのあるたたずまいで立っている。

 着ているスーツっぽい服装がしっかり着こなされており、所度事に見受けられる小物にも気配りが感じられる。

 オールバックに固められた髪型にしっかりと手入されている髭、優しく穏やかに見える顔つきをしているが、灰色の瞳には幾度の修羅場を抜けてきた強者の凄みがにじみ出ていた。


 「ああ、丁度いいのがある。」


 太く低い声は耳の中にしっかり響、耳元で囁かれているような錯覚さえ覚える。

 多くは語らず、シンに用意したカギを渡してそのまま作業に戻って行った。


 「く~!痺れるね~!」


 サーラが女性の声を上げる、気が付くと顔が真っ赤だ!

 まさかと思いミームちゃんを見るが、・・・なんともないみたいだ。むしろ緊張しているみたいでガチガチに固まっている。もう一人の方は・・・、あっ、こっちもなんともないみたいだ、クリスはあんな感じの男性は見慣れてるみたいだな。


 「サーラはあの殿方が好みなのですわね?」


 「バッカ!こんな所で言うんじゃないよ!・・・聞こえちまうだろ~。」


 おいおい、乙女になってんな。すっかり尻すぼみになって良く聞こえませんよー。


 シンが歩き出し「行くぞ」と急かしてくるので付いて行こうとしたのだが、なかなかサーラが動かないので強引だが引っ張っていくと言う、なんとも情けない姿をさらしてしまった。

 憧れの人とかを前にすると惚けてしまうっていうのはこう言うことなんだろうか?僕には関係ないな。


 部屋に着き、我に返ったサーラは机に突っ伏し湯気を出してしまった。ナーグにいじられクリスからはあれやこれやと質問攻めにあったのも原因だろうが、二人ともその辺にしておいてやれって、話が進まないからいい加減にしようか?


 「・・・お前ら、話が進まないんだが!」


 ほーら、怖いお兄さんが怒ってしまいました。

 ミームちゃんと一緒に「怒っちゃいました」「ねー」と言いながらミームちゃんは気に入ったのか、僕の膝の上でのんびり飲み物を飲むのだった。




 一行は落ち着きを取り戻し、先ほど話せなかった事件の手掛かりについて話し合いをした。

 僕は術式が刻まれた問題の魔鉱石を取り出し、全員に見せながら今日調べたことについて説明した。先程僕が考えた仮説は伝えてない、見落としている部分もあると思うから変な先入観は持ってほしくなかった。

 ナーグは魔鉱石を見ると、最近あの森に現れる魔物の多くから良く取り出されているという情報が出てきた。


 「これはあまり品質が良くなくて買い取り額もしょぼいんで鉄くず扱いなんっすよ。冒険者仲間から聞いたっすから間違いないっす、でも・・・術式まで刻まれてたかは分からないっすね~。でも結構出てるっすから集められたのがまだ熔かされてないはずっす。明日俺が見てくるっすよ。」


 ・・・さっきまでのふざけてた奴に見えないんだけど?大丈夫?サーラさんに殴られ過ぎて壊れたかな?


 「ナーグにそっちは任せよう、これが出回り始めたのは数週間前・・・そう『孤高の魔女(偽物)』が現れたのもそれくらいだ。仮にだが・・・この謎の魔鉱石と、連続冒険者殺しの犯人と関係があるなら?・・・、サーラはどう思う?」


 難しい顔をしながらシンはサーラに意見を聞いてみるようだ。この魔鉱石が本当に『孤高の魔女(偽物)』に関係してるかも分からない段階だから憶測なのだが、彼は何か確信を得ているような目の輝きをしていた。


 「さーね、これだけでははっきりしないよ。そんな関係性より、ギルドの大規模作戦の方に関係しているような気がするよ。アタイ等はその作戦の詳細聞いてないけど・・・森の方で魔物がここ数週間で突然増えたんだろ?だから増えた魔物を大規模討伐することにした。・・・もし仮にさ?この魔鉱石が魔物の急な増加に関係していたら?こんなモンでもし魔物が増えてるんだったら、世界中魔物だらけになっちまう・・・アタイ的にはそっちの方が心配だよ。まぁ、どちらにしても確定出来る状況じゃないよ、まずはもっと証拠を集めないとね。」


 サーラはまだまだ決めには早いと言いたいようだ。だが、その通りだな・・・。

 しかし困った、『孤高の魔女(偽物)』を捜しに行ったのに・・・まったく別の大規模作戦の事にまで話が広がっちゃってる。どちらの可能性がある以上、両方を調べたいのだが・・・ここは一度原点に戻って、目標を犯人探しに絞った方が良いいかな?


 「ナナミ?私が何か手伝えることはありませんの?」


 少し悩んでいるとクリスが僕の顔を覗き込みながら聞いてきた。


 「クリス・・そうですね。少し調べなきゃいけない事が増えてしまって。そうだ、この魔鉱石について調べて貰えませんか?、魔物の大量発生に何かしら関わっているのは間違いないと思うのですが。私は『孤高の魔女(偽物)』の方を調べたいですし、魔鉱石の方なら危険も少ないでしょう?」


 こういう時は思い切って頼もう、・・・本音は僕が調べ始めると、とことん調べ上げて時間ばかり掛かるから流石に短期決戦には向かない。この魔鉱石に関しては、サンプルだけ貰って旅が終わった時にじっくり調べよう、何かの応用に使えるかも知れない。

 大規模作戦も間近だし、その間はクリスも時間があるだろうからその空いてる時間で調べて貰えば効率も良い。それに、『孤高の魔女(偽物)』に接触するよりは危険は少ないはずだ。


 そんな会話をしていると、シンが僕の方を睨みつけてきた。


 「おい!勝手に話を進めるな、二人だけではどう頑張っても時間が掛かる。クリス様にはサーラとミームが付き添え、サーラなら護衛も兼ねれる戦力になる。キリーへの報告に行くならミームの魔法の専門的な知識が役に立つはずだ。ナナミと俺は殺人鬼を探す、だが無理はするな、情報が集まってからの方が良いだろう。ナーグはなんでいい、とにかく二つの件について情報をありったけ集めろ、今は相手の方が圧倒的有利に居る・・・ここで踏ん張らないと街自体が危険になる。」 


 シンは僕に向かて「これくらいしないとダメだ」と最後に付け加えた。

 僕もクリスも「えっ・・・?」て状態なのだが、どうやらパーティー全員で手伝ってくれるらしい。本当に良いのか?かなり危険だぞ?しかも、殺人鬼の方は超危険だぞ?・・・それになりより、これは僕への罰なんだ、だからその・・・。


 「良いのですか?私は訳あって無償でこの依頼を受けているんです、ですから報酬がありません。」


 冒険者には最も大切な物、生活の基本でありそれが無ければ仕事など受けない。しかもそれが危険を伴うならなおさらだ、冒険者は危険を顧みず仕事をするわけでは無い、金が入るから受けるのだ。

 今回の仕事は危険度なんか計り知れない、既に十人以上も殺してる残虐な奴だ。それなのに?


 「やっぱりな」「だろうと思ったっす」「キリーにしてやられたね」「ナナミは強いから仕方ない」


 四人はさも「分かっていたよ」言わんばかりにそれぞれ思い思いの言葉を口にして、うんうんとうなずいていた。


 「ナナミ、冒険者登録しないと言ってたのにこんな事件に首を突っ込んでるのはおかしいとは思っていた。おそらく、施設内で問題を起こしたんだろ?」


 「えっ・・・どうしてそれが?」


 僕のその返答に、四人はさらに何か言いたげな表情を作り「キリーの奴」等とボソッと呟いた。

 それぞれの表情や顔色が、なんだか騙された人を見る様な生暖かい物となっており、僕はさらに混乱した。

 クリスは自分なりに考えているのだろうか、顎に手を当て目を閉じている。


 「ナナミ、登録前の奴が問題を起こした場合すぐには仕事が出来ない、それどころか登録すらできないんだよ。もしかしたら罰を下されてこんな事してるのかもしれないが、普通は奉仕活動だ。」


 「確かに、そう言うことが普通だと聞きました、最悪の場合は衛兵に突き出すとも言われましたが。ですが、・・・この罰は特別で、命の危険もあると言われました。」


 「そりゃーさ、命については注意されるだろうさ。今回は相手が相手だからね。でも、いきなりそんな仕事は押し付けないさね。良く考えてみな、どう考えても新人に依頼する仕事じゃない。キリーは気付いたのさ、ナナミ・・・アンタの強さにね。アタイ等だって分かる、少しだけどアンタの力を目の当たりにして、そして感じたのは『規格外の強さ』って事だよ。キリーは本当に強い冒険者だったんだ、アイツの攻撃を受け止められれば一流と言われてる。ナナミもキリーの攻撃受け止めたんだろ?問題起こした奴には容赦なく不意打ちするからね~・・・。」


 「いいえ、受け止めてませんわ。ナナミは完璧に避けて、次の行動に移れるように構えていましたわ。」


 サーラさん・・・キリーさんってそうやって力量計ってたんですね、しかもあの不意打ちはデフォなんだ・・・。

 てか・・・サーラさん達には、本当に少ししか魔法を見せてないのに『規格外』と見破られるのか、流石は冒険者・・・常に生死がかかる戦いをしているだけはある。相手の力量を瞬時に把握したり特定したりしないと命取りになるからね。ベテラン冒険者って言うのは、誰であってもそんな所は何百年経っても変わらないな・・・。


 サーラの問いに対して僕でなく、クリスが返答すると言う形になってしまったが。その返答を聞いたシンやサーラは目を見開いて驚いていた。


 「ナナミはホントに凄い!魔法も出来て回復も出来て、接近戦も出来るなんて!御爺様が何度も話してくれた『本物の魔法使い』みたい!」


 「それなら当然戦力に数えられるさね、キリーにとっては棚から牡丹餅だったろうね、冒険者達を苦しめさらには貴族から難題を押し付けられた事件の解決の糸口が、このタイミングで現れたんだから。」


 「・・・私は、騙されたのですか?それても利用されたのですか?」


 なんだろう、口に出してしまったが、騙されたとか利用されたとかじゃないような気がする、まぁ・・・そうだったとしてもやってしまった事へに罰なのだから、受け入れちゃうだろうな。

 でも納得した。もともとおかしな話だ、クリスと似たような罰と言う時点で気が付くべきだ。ただリスクが格段に違うだけ、力のある実力者なら対応できる仕事をやらされてるだけだ。

 適材適所と言う言葉があるが、まさにそれじゃないか?クリスにはクリスの出来る事を、そしてキリーも有名な冒険者だった、そんな奴の一撃を見極められる人はそれだけの実力がある、ならば強い奴に向かわせるのは自然?只の一撃で見極められるとは思えないが・・・彼がそう思える確信的な何かがあるとしたら?

 もしかして・・・。


 「そうか・・・罰は只の口実で、あのハルバードを避けた時点で私に仕事をさせるのは決まっていた?」


 「たぶんそうっすね、理由なんて何でも良かったんですよ。キリーさんの不意打ちの一撃は、本当に凄い物なんすよ。『防ぎきるか、潔く受けるか』と、冒険者の中では言われてるくらいの代物っす。完璧に避ける人が居るとは思いませんでした。」


 あー、それだ。

 避けた時点で確信したんだ・・・誰も避けることが出来なかった一撃を、運が良かったとは言え避けきってしまった。

 あー、納得した。なんだかスッキリした、なんでこんな罰なんだろうと一瞬思ったけど・・・いろいろ考えちゃってたし。元『孤高の魔女』としての意地があったのと・・・素を出しちゃった羞恥心で余計考えなくなって、後悔の念でどんな罰でも黙って受け入れようって気しかなかったからな深く考えなかった。


 「要は、しっかり働いて犯人を捕まえてくれと言うことですね。・・・ですが、それでもやはりお金は出ないと思います。皆さんにお支払いする分が出せませんから、やはり手伝ってもらう訳には・・・。」


 クリスも仕方がないと諦めた顔をしている。

 キリーさんの思惑については理解した、僕がその時そんな裏も読み取れないほど、クリスに対してやった行動に後悔していたのかが改めて分かった。ショックだったもんなー。

 とにかく黙って受け入れて行動しようってしか考えてなかったんだろうな。


 しかし、それが分かったからと言って先ほど四人に言ったお金のことは解決してない、無償でやってもらうなんてこちらとしても負い目を感じるし。有難い申し出だが、今後の事も考えると引いてもらうしかない。

 そう思ったのだが、パーティーリーダーであるシンはメンバーの顔を見て改めて口を開いた。


 「だから、それは良いんだよ。どうせキリーの奴だって報酬は用意しているだろうからな。それに・・・俺達はアンタから既に報酬は貰っている。昨日の金貨一枚、ちょっとの護衛料としてはかなり多すぎだ、口止め料としても多すぎだぞ?・・・それだけで十分だ。」


 シンさん、自分んで言った通りお人好しだね。でも僕とは違うよ、貴方のはお人好し過ぎる。

 そんなの「それはそれ、これはこれ」で通すのが冒険者のはず、護衛料が多すぎたからと言うのは些か無理があるよ。どうしても無償で手伝う気満々だね~。全く・・・優しすぎると損するぞ?


 どうしても意見が変わらないようなので、クリスと少し相談し、結局手伝ってもらうことにした。こちらとしては手伝ってもらうことに対しては助かるし歓迎だ、人出は多い方が良いし。

 その後は、先ほどシンが言った通りに明日それぞれ行動を開始すると言うことで話はまとまった。途中で落ち合う場所や魔鉱石を調べるための施設など、詳しい時間までも確認していく。


 大方の事が決まった所で、時刻は夜の「九の刻」を過ぎていた。

 話すことも区切りがついたので、僕達は店を出てそれぞれの宿へ戻って行った。






 長い長い一日がようやく終わりを迎えようとしている。

 いやー、本当に長かった。そしていろいろ一気に考えさせられた、特に今の自分の身勝手さについて。ヘヴィーに会って、すこし落ち着けたから良かったな。

 宿の部屋に戻ってきて、今日の事を振り返りながらクリスに買って貰った物の整理をしていると、シズシズと静かに側にクリスが寄ってきた。


 「ナナミ、その今日の事と・・・それから、ゴーリラの件もまだ話していませんでしたわ・・・。」


 ああ、冒険者ギルドで待ち合わせに遅れた理由だったか・・・そう言えばそんなこともあったな。


 「本当に今日は____」


 「良いんだよクリス、謝るのは『僕』だ。本当にごめん。」


 クリスが言い終わる前に僕が割って入り先に謝った。しっかりと『自分』を出して、『隠さないで』話す。


 「僕さ、いつも一人で居たからどう接すれば良いのかとか、どこまで踏み込んでいいのかとか、そんな事でさえ分からなくなってて、僕のやり方をクリスに押し付けてた。旅の進行具合ばかり優先して、クリスの気持ちを考えてるつもりで、全く考えてなかったよ。それにさ、この街に着いた時にすぐに宿に入って話し合いしたでしょ?あれをしたことで満足しちゃって、分かって貰ったと勘違いしていた。」


 間抜けな話だ、分かったつもりになって満足していた。


 「クリス・・・僕と君は王城を出て旅を始めたあの時、旅仲間になった。でもごめんね、僕・・・今の今まで旅仲間なんて正直思ってなかったかもしれない、『人間の仲間』なんてずーと居なかったから。クリスのお目付け役でストッパーでとかそんな事ばかり考えてたんだ。まっ、今でもそれは少し感じてるけど。」


 クリスの事を鬱陶しいとは思う事もあるし、今後も面倒を起こす前に僕が止めなきゃならないかもしれない。


 「そして焦っていた、早くこの旅を終わらせて自分のやりたい事をやりたかったんだ。僕にはやらなきゃいけない事がある、どんなに月日を重ねてもやらなきゃいけない。だからのんびり歩いて・・・とか言ってたけど本当は急いでたんだと思う。だから、余計な面倒を起こしたくなくてクリスの自由を縛っていた。と言ってもクリスはサラッと抜け出して行動してたけどね。」


 ここまで僕が一方的に喋っているが、僕は少し目線を下にして話してしまった。大事な話なんだからクリスの顔を見て言わなきゃいけないのに、直視できないでした下を向くなんて・・・、肝心な時にいつも勇気が足らない。僕はコミュ障だ、元居た世界でも・・・こちらの世界でもそれは変らない。

 それどころかこの世界に来て余計ひどくなってると思う、人を避けて生活して、関わり合いやすい魔族と共に暮らし、魔法の研究するだけの日々を過ごしていたから。

 魔王戦争時代の時に無理やり一緒にさせられたパーティーの時はこんなことは無かった、突き放していたからね自分勝手にしていたし相手の事なんか気にしてなかった。


 「その・・・だからと言う訳では無いですが、今日の事は私が悪いのでクリスは謝らないでください。クリスはクリスです、私が縛り付けちゃいけなかったのです。面倒事に関してもそうです、事あるごとに神経質になってしまってました。私は何度も面倒事を経験してます、そうなる体質なんですから今更それが増えた所で悩んでも仕方ないとやっと気が付きました。いざとなれば力技でどうにかできますし・・・その・・・これからは、クリスのしたいようにしてください。もし何かあってもその時に二人で考えて乗り越えていきましょう、私達はもう『旅仲間』になったんですから。」


 全部言い終える前に仮面を被ってしまった・・・なんだか声も小さくなり自分の伝えたい事がまとめられず、そしてなりより・・・思いを打ち明けるのは思いのほかパワーがいる。


 「すみません、こんなはずじゃなかったんですが。こうして人間に対して話し合いをする時に『自分』出して話すのは本当に久しぶりなんです。事前に言いたい事を決めていたんですが・・・今はこれが限界で。」


 言いたい事なんかたぶん言えてない、そしてそれは難しく言葉を並べる事じゃなくて、もっと簡単に一言で済んでしまうかもしれない。

 冷静になって話してるつもりなんだけど、こうなるともう上手く最後までまとめられなくて、言いたい事思ってることがそのまま口から出て来て止められない。伝えたい事ばかり頭の中に浮かんでそれをそのまま口にする感じ。

 ごめんなクリス・・・僕がこんなコミュ障で、伝わってくれると嬉しいんだが。


 少しオドオドしながらクリスの顔を見た僕は・・・想像していたより八割り増しくらいの真面目な顔をしているクリスにちょっと怖くなってしまってまた下を向いてしまった。

 あー・・・クリス怒ってるのかなー、それともなんか思うところがあったのかなー、それともクリスの話を最後まで聞かないで僕が話を始めたのがいけなかったかなー。


 「ナナミどうしたんですの?この短い時間の間に何がありましたの?」


 クリスはそんな事を聞いてきた。


 「落ち着いて考えることが出来たので、私自身について思うところがあったんですよ。」


 クリスはまったく表情を変えない。

 どうしたんだろう?怒っていると言う訳では無いみたいだが・・・。


 「・・・私は今嬉しく思っていますわ、ナナミが本来出すことのない『本当の自分』で思いを伝えてくださいましたから。なんなら歓喜の声を上げはしゃぎたい気持ちがありますわ、ですが腑に落ちませんの。私と別れてからそんなに時間が経っていませんのに・・・どうしてそこまで変れるのですか?」


 おぉう、クリスが自分の気持ちを抑えるなんて、僕はそっちに驚きです。

 これはあれかな、僕が魔族のヘヴィーに会えたから気持ちの整理が出来た、それが大きく今の僕に反映されてるんだけど。そこの心境の変化の過程を気にしているのかな。

 まさか魔族と会ってたなんて言えないし、隠しておきたい。それに、伝えたら伝えたで何か起きそうで怖い。クリスの好きなようにしていいとわ言ったが、なるべく危険は避けさせないといけないと思う。会わせても面白そうだから連れてってやりたいけど・・・ヘヴィーに締め付けられたら死んじゃうもんなー。


 「知人と会ったから、そう言うことにしておいてくださりませんか?」


 「・・・そうですか、その方を紹介して頂けませんか?貴方をこの短時間でここまで変化させる方に是非お会いしてみたいですわ。」


 「そう言うと思いました。ですが今は駄目です。たまたま近くに仕事で来ていただけのようで忙しいみたいですから、ただ必ずその時が来たらご紹介します。」


 「そうですか、今朝までのナナミでしたら断固拒否でしたのにそこまで態度が軟化するなんて。お会いするのが楽しみになりましたわ!」


 そう言ってキャッキャとはしゃいでいる。

 どうせ自然と会うことになるだろう、今はまだ僕の事もクリスはそんなに知らないし、クリスの事も僕は知らない。話すことは多くあるけど、自然と話せるようになってくるだろう。態度が軟化したとか言ってるけど、僕はそんな急には変らない・・・相変わらず口五月蠅くてクリスを叱りつけるだろうけどから、あまり気を抜くなよ?クリスティーナ王女様?


 さて、僕の話はもう少ししたい事もあるんだけど、先に聞かなければならない事がある。


 「さて、話を聞いてくれてありがとうクリス。お次は貴方の番ですよ?」


 僕がそう言うとクリスは固まった。


 「ゴーリラ戦士団長殿と何があったのか、教えてくださいね?」


 「くっ!ナナミ?是非これからも自分の事を『僕』と称してくださるなら喜んでお話ししますわ!」


 「いいからキリキリ話してください。」


 誰がそんな言葉遣い使うか!あれは特別だ!いちを・・・クリスを仲間だと認めて・・・少しは本当の自分を見せても良いと思ったから出しただけであって。これ以上するつもりは無い!この女性の身体でその口調だとなんだか違和感があるんだよ!だから仮面は被ったまま居させてもらうからな!


 さて、ドスの利いた声にクリスは負けを認めゴーリラとの出来事を話し始める。

 聞いたところ幼い頃からの幼馴染で、ゴーリラが学生になった頃から接点が少なくなりお互いに会うことが少なくなった。そんな状態だったのだが、ゴーリラが若くして戦士団団長に任命された事で一転、事あるごとに付き従うようになりお互いに意識し始めるようになった。

お互いに会えなかった年月分、仕事を理由にして何度も会い。公務でも自分の我儘だと知っていてもゴーリラを護衛にさせたりしてたそうだ。


 クリスはゴーリラに思いを告げられれば受け入れるつもりで居たのだが、いつまで経っても言ってこず、自分が学園を卒業する頃になってようやく「ゴーリラ様が決意なされた」と言う噂を耳にして期待したそうだ。

 そして卒業式当日、男性からしたら最高の告白の機会が訪れた。入場の時のエスコート、この入場前に告白することが多いと周りの女性生徒たちから聞いていたので、衣装もメイクも髪型も小物に至るまで最大限に気合いを入れて準備した。

 ・・・準備したのに・・・待っていた言葉は無かった。言われた言葉はいつものお小言だった。



 そこまで話を聞いて僕は頭を抱えた、ヘタレ、いや根性無の方がしっくりくるか?あの戦士団長しっかりしているように見えてなんてことやらかしてるんだ。



 クリスの話は続く、せっかくの卒業式を台無しにし王女としての威厳も見せれなかったことにショックを受けたクリスは何とか式は乗り切ったものの、ゴーリラとの関係には大きな亀裂が出来てしまった。

 それからしばらくしていつも通りに振舞えるようになって、周りは「いつも通りに戻った」と思ったらしいが、クリスは前と同じ気持ちになれず、ゴーリラに対して壁を作ってしまったらしい。

ゴーリラはいつも通りにしており・・・あの時の事なんかこれっぽっちも気にしていないように見えて、それを見るたびにイライラが表に出てしまい言い争いになってしまう。しかし、それは日常だったのでますます周りからは「今度こそうまく行く」と思われているそうで、それすらも鬱陶しく思ってしまった。


 そんなことが続いてモヤモヤしていた時にナナミ(僕)が現れて・・・共に旅したいと女王に懇願したらしい。


 「・・・正直に言いますと、逃げてきたのですわ。何度かナナミに言われて王城に戻った時、偶然ゴーリラに会うことがありまして。口論になり、彼のプライドを傷つけるような事を言ってしまいましたわ。」


 「なるほど、それでこの街にゴーリラ戦士団長の姿があったので見つからないようにこっそり移動していたら、待ち合わせに遅れてしまったと・・・そして、大規模作戦の後方部隊で鉢合わせないか心配になったと。」


 クリスは苦笑しながら「ええ、正直追って来たのかと思いヒヤリとしましたわ」と言ってきた。

 男性はデリカシーが無い時ホントにタイミングが悪く最悪の事を口にしたりするからな、僕も男だから人の心配している場合ではないのだが・・・ゴーリラ団長殿貴方の失敗談は今後の糧にさせてもらいます。


 「そしたら、クリスは今ゴーリラ戦士団長殿は会いたくないのですね?」


 「・・・正直、分からないのですわ。でも、彼をこの街で見つけ遠くらから見た時・・・今は近づきたくないと思いましたわ。」


 気持ちの整理がまだ終わらないんだな・・・それほど卒業式の出来事がショックだったんだろう。


 「分かりました。ゴーリラ戦士団長殿に関しては貴方の気持ちを最優先にしましょう。どうしても会いたくないのであればそれでかまいません、私も協力しましょう。と言うか、一度距離を取るのは良いかも知れませんね。それにこの旅の途中で良い出会いがあるかもしれません。」


 「ありがとうございますわナナミ。でも、出会いはいりませんわ!この旅はとことん楽しみたいですもの!」


 そうだね、僕は余計な事を言ってしまったかな?本人が気にしていないようだから大丈夫そうだが。

 『楽しむ』・・・このまま旅を続けていたら長い事クリスを我慢させなきゃならないとこだった。今日は長い一日だったけど、ヘヴィーに会えて良かった。自分の中でこれからの注意事項や方針が決まったからね。

 

 さて、話も聞いたし最後の話をしようか。


 「クリス、最後にとても大事な話があります。」


 「なんですか、また改まって。」




 「・・・『マジックバック』をクリスに貸します。」





 クリスは今日一番で、さらに隣の部屋から苦情が来る位の大絶叫を腹の底から出して一日を終了した。






ここまで読んで頂きありがとうございます。

気が付けば投稿を始めて既に一カ月を超えていましたね。驚くべきことです、まぁ、気合いを入れて作成しているわけでもないので、これからも緩く続けて行こうと思います。

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