交易の国へ 道中の街編 7
思ったよりも早く私の事情が解決いたしましたので、再び投稿再開させていただきます。
ただ、これから作成していなかった分、ストックが無いため亀更新なのは変わりませんのでご了承ください
時刻は既に午後6の刻・・・人々は帰宅し家族と共に食事をし、あるものは仲間と酒屋に向かい始める時間。女王の国 第一王女 クリスチィーナ・ベルクはある者達と共に食堂で談笑していた。
「なんだい!シン!アンタギルドに居たのに騒ぎに気づいて無かったのかい?!」
「五月蠅い、大声で言わなくても聞こえてる。資料を調べてたからな、騒がしいと思ったが・・・。」
「サーラさん、ダメっすよ。リーダーは集中すると外部の音聞こえないっすから。」
クリスは、冒険者Cランクパーティーの『ハートエッジ』のメンバー達と共に食事をしていた。
こうなった経緯は偶然である。
ナナミが行ってしまった後、キリーに後日集まる詳細の話を聞きその場で髪染めのやり方を教えてもらい部屋を後にしたのだが。その時、二階の資料室に居たシンをクリスが発見。今日の朝はろくに挨拶も出来なかったので声を掛けた。
シンは既にクリスの顔を覚えていたので、髪を染めていて印象が変わっていてもすぐに判別し挨拶をし返した。
お互いの話をして無事冒険者にクリスがなれたことを報告すると、シンはナナミが居ないことに気付き彼女の所在を確認すると、既に大きな依頼を受けたそうで出かけてしまったと言う。
クリスは自分が王女だとはバレていないと思っているのだが・・・シンは既に気付いている為、お忍びと言えど王女一人にしてはマズイとシンは考えた。それで自分が同行すると提案し、それを快くクリスは引き受けナナミに言われた買い物を手伝ってもらうことにした。
シン的には「王女になんてこと押し付けてる!」と心の中で言っていたが、クリスの楽しそうな顔を見て「これはこれで楽しんでるからいいのか?」と、複雑な心境になってた。
その後は、街を観光しながらはしゃいで駆け回るクリスにシンは振り回されながら必死に付いて行き。買い物も、どこに何が売っているのかすら分からないクリスを案内したりして、あっという間に夕方になった。
一息つこうと入った飲食店で、シンの仲間であるナーグに出会う。
大きな勘違いをしたナーグに「リーダー!いつからそんなカワイイ彼女出来たんっすか!!」と開口一番で叫び声を上げられ、シンとクリスの逆鱗に触れてしまった彼は、罰として今日買った全ての荷物を持つはめになった。
グチグチ言うナーグを連れて、クリスが今日のお礼に御馳走すると飲食店に向かっていた時、最後にミームを小脇に抱えたサーラと合流。
サーラーは焦り気味にいろいろ言い訳をして離れようとしたのだが、クリスが思い出して「あー!あの時のお姉さん!覚えてますわ!私ですわ、クリスティーナですわ!」と口走ってしまった。
そうなると当然クリスの正体も全員にバレることになり・・・。まぁ、既に全員気が付いているのだ遅かれ早かれこうなっていたと思うが。お互いに触れなければそれでおしまいのはずだった。
クリスは「・・・やってしまった、またナナミに怒られる」と、顔を真っ青にして膝お抱え小刻みに震え出した。
人通りのあるここで落ち込んでもらっては困ると言うことで、パーティー行きつけの飲み屋に来て今に至る。
ここまで来るとクリスも落ち着きを取り戻し、食事を楽しんでいた。
「と言うか、ナナミが受けた依頼って・・・まさか『孤高の魔女(偽物)』関連だったのか?」
「そうだとアタイは思うよ。それに、ミームがあの娘に対して尊敬の眼差しで見る位凄い魔法使いだ。」
「うん!特に最後の転移魔法、魔法の国に居る大魔術師様にも出来ないと思う。」
先ほどからチラチラ話題に上がるナナミの事を、自分の事のように嬉しそうに聞いているクリス。もちろん、彼らが気になり始めるのはナナミの正体だ。
一国の王女を一人で護衛し、洗練された魔法のほかに上位の魔法ですら軽々こなす・・・まだまだ本当の実力を出していない彼女を知りたいと思うのは自然なことかもしれない。
だが、冒険者は相手の事を詮索するのは暗黙のルールではあるが、良くないとされている。
・・・しかし、ここにそんなことお構いなしの青年が居た。
「凄いっすねー、リーダーもサーラさんもそれにミームまで目の当たりにしてるなんて。王女様?その子いったい何者なんです?」
そう言ったとたんサーラの腕が、ナーグのアゴの下へ刺さる。見事なナックルだ。
もろに食らったナーグは目を白黒させながら、痛みで開かなくなった口を押えながら「ふがー!」と抗議している。
「ナーグ、アンタ状況分かって言ってんのかい?次から「王女」とか言わない、これだけでもヤバイのに・・・さらに詮索するたぁ良い度胸してるねー。悪いけどアタイの関係ない所でやっとくれ。」
クリスも一瞬何が起こったのか訳が分からなかったが、サーラが言いたい事は直ぐに理解できた。
「申し訳ありませんわ、私のせいで・・・」
「貴方のせいではないですよクリス様、俺らが勝手に決めて行動しただけだ、責任を感じる必要は無い。・・・今のは完全にナーグの無責任な発言が原因だ。」
シンの最後の言葉は間違いなくナーグ本人に向けて言ったものだろう。ナーグも「やっちまたなー」って顔をしながらクリスに頭を下げてきた、サーラの一撃がまだ聞いてるみたいで喋れないみたいだが。
少々沈んだ雰囲気になってしまったが、ミームが何かに気が付いたようで酒場の入り口の方へ視線を送る。シンも気が付いたようで、鋭い視線がさらに鋭くなり「やっとか」とでも言いたげな表情で入り口を見る。
僕はクリスを探していた、宿に行ったら店主に「まだ帰って来ていない」と言われ、食事かな?と思い昨日も行った飲食街へ足を向けた。
正直探すのが面倒なので感知魔法を使いクリスを見つけたのだが・・・はぁ、濃い一日まだ続くみたいだ。
そこそこ賑わいを見せている一軒の酒場・・・またいろいろ説明しなければならんのか。
足取りが重くなるのを感じながら、中へ入って行く。店内は魔道具による照明でしっかり明るく、丸いテーブルが適当に置いてあり、ガタイの良い冒険者や青年が酒を飲み交わしている。綺麗な店員さんが飛び跳ねるように駆け回り、大きなコップや皿を驚くべきバランス力で持ち歩き運んでいる。
少し奥まった一角に、見覚えのある小さな女の子が手を振っている。キツイ眼光で僕を睨みつける男性も見えるのだが・・・うーむ、今朝の事もあるしなー・・・まさかこんな早く再会するとは。
ちなみに、クリスはこちらに目を向けず俯いたままだ。僕の予測が正しければ、なーんかまた軽く口走った感じだろう。
ミームが手を振っていたのでそれに答え、僕もそちらに向かう。
「ミームちゃん、こんばんは。クリスと一緒に居て下さったのですね、ありがとうございます。」
「そのことについてだ、お前はこの方を一人にするとは____」
「ちょーい待ち!シン、今言うことじゃないさね。アンタはそう言う所がなっちゃいないよ!向こうにも事情があるんだ、分かってやんな。それに、それ聞いたらさっきのナーグとやってる事変わんないさね!」
「うっ・・・むぅ・・。」
ははは、言いたい事はたぶんキリーさんと同じ事なんだろうな。でもこの人達には話す訳にいかないし、申し訳ないがそのまま何も聞かないでほしい。
「・・・その様子だと、クリスが何者であるか知っているのですね?」
まぁ、キリーさんと反応が似たような感じだからそうなのかなと思ったのだが。
「アタイが一度会ってるんだよ、その時の事クリス様も覚えてたみたいでね・・・そこまで言えば、だいたい想像つくんじゃないかい?」
「ふふっ、クリスがついつい名乗ってしまったのではないですか?『私ですわ、クリスティーナです!』と、言う具合に。」
「なっ!!ナナミ見ていたのですか?!」
あ、まさかそうだったの?いやー、期待通りと言うか・・・予想通りと言うか・・・揺るがないねー。
「当てずっぽですよ、まったく仕方ないですねクリスは。」
僕は諦めに近い笑顔なのだが、それを見たクリスは目が点になっていた。
怒られると思ったのかい?まぁ、帰ったら口うるさく言うかもしれないけれど、今朝の件で思うところがあった。そしてヘヴィーに抱きしめられた時、落ち着いた・・・、バレないようにしなきゃとかいろいろ焦って考えすぎてたような気がする、何かに追われてるような切羽詰まったような感覚かな。すぐに変えるのは無理だけど、物事をもっと緩く見ようと思う。
クリスの正体がバレた、僕の力がバレたとか、そうなったら仕方が無い次どうするか考えよう。そう思えるように変わっていこうと思う、そうじゃないとクリスも楽しい旅出来ないからね。
これは僕だけの旅じゃなくなってる、クリスを連れて行くと決めた時から二人旅なんだ。この街でその事に気が付けて良かった・・・。
「ナナミ・・・。」
「さて、私も何か食べたいですね。クリス?美味しい物はありましたか?」
「・・・ここの料理はどれも美味しいですわ!」
元気を取り戻したクリスは、先ほどまでとは違い遠慮が無くなったような気がする。
その変化を見ていた4人は、表情を崩しあたたかな表情になった、彼等達もクリス同様にお互いに打ち解け合い壁が無くなったような気がする。
僕の心の壁はだいぶ厚くて重くてなかなか開かないので、もう少し先になるが・・・クリスに対してだけはちょっと開いたような気がする。
「ナナミあの後何か分かったの?」
食事を食べつつ談笑してい僕達は、ミームちゃんの一言で少し真面目な空気になる。僕の視界の端でナーグ君だけは口を開けられず涙目になっているのは気にしない。
正直、収穫と言う収穫は得られず・・・良い情報はあまりないような気がする。結局魔物を調べたがあの埋め込まれた魔鉱石がどのように作用しているのか分からなかった。
だが、一つの仮説は浮かび上がった、・・・『あの魔鉱石は魔物を作り出すモノ』
あくまでも仮説だ、魔物から取り出した魔鉱石も反応しないし、埋め込まれている魔物も普通の変わりない魔物だった。だから、「怪しい奴が去った後に急に現れる」と言うへヴィーの言葉思い出し、もう一つの何かとこれを使い作り上げる時にのみ発動し、その後は只の魔鉱石になると・・・。
なんともフワッとした仮説だが・・・確証がない分仕方がない。何かヒントになる物は無いかと調べても見たが、それらしいものは無かった。
これがしっかり立証できれば、魔物の増加の原因は間違いなくその怪しい人物であり、この魔鉱石が関わっていると見ていい。もしかしたらその怪しい人物は、噂の『孤高の魔女(偽物)』なのかもしれないが・・・こちらも確証がない。
情報は無かったが、仮説だけが出来上がってしまったが、なんの証拠もないのでそれすらも怪しい。こんな真実かどうかも分からないこと伝えても、混乱するだけだよなー。
しかも、僕の受けた依頼だし・・・明日キリーさんには報告する予定だしな。ミームちゃんに話していいのかどうか。
「ナナミ、私はここに居る皆さんなら大丈夫だと思ってますわ。それに、私たちより多くの経験をなさっていますわ、違う意見が聞けるかもしれませんわよ。」
クリスはウィンクしながら僕に言ってくる。
まったく・・・シンさんの顔を見て見ろ、嫌がってる顔してるじゃないか!「また面倒な」みたいなこと言うぞ?
「貴方様にそう言われたからには、腹を決めねばならないな。おい、ナナミ言ってみろ、お前がもし奴を追っているなら奴は冒険者の敵だ、俺らだって力になる。それに冒険者の先輩だからな、後輩でしかもなりたての新人が困ってるなら助けるのが先輩の仕事だ。」
あっれー?おっかしーなー・・・そんな表情には見えなかったけど?
「シン・・・はぁ、アンタはお人好しだねー。まっ、リーダーがそう決めたならアタイ達はそれに従うだけさ。でもまぁ、ここで面倒だとか言ってたら顎砕いてたけどね。」
サーラさん?なにニヤニヤしてやる気になってんの?
この二人はお互いに見やると、ニッと笑いながら手を拳にしてそれを突き合わせた。ほら、良く男同士の友情が生まれた時に良くやるあれ!サーラさん女性なのにめっちゃカッコイイよ。
「ふが!ふがが!ふがーふがいふが!」
なにか外野で騒いでいるが、未だに顎が治らないようだ。・・・いい加減治してやるか、このままの方がうっとおしい。
僕は指先に小さな魔法陣を出現させ、ナーグに向かって癒しの効果を飛ばす。別に魔法陣なんかいらないんだけど、ミームちゃんが綺麗と言っていたのでちょっと見せてあげようと思ったからだ。
あっという間に顎が治ったナーグは「あっ・・・治った?」と半信半疑で触っている。
治ってるよ、その証拠に喋れるだろうが!
そしてミームちゃんは目をこれでもかと見開いてい、僕を凝視している。おかしなことでもしただろうか?いたって普通の回復魔法だが、それとも魔法陣がおかしかったかな?
「ナナミ・・・もしかして教会の人なの?」
・・・いやーな予感がしたのでクリスの方を見ると、クリスもなんでビックリしているのか良く分からない?と言った顔をしてきた。どうやら知らずにやらかしたわけでは無いらしい。
しかし、どうしてそう思ったんだろう?確かにこの世界には神を崇拝する教会は存在する、英雄の国に大聖堂があり神様が人々にお告げを下ろすところでもある。でも、それが何か関係あったのだろうか?
「ミームちゃん?私は何か変な事しましたか?これ位の回復魔法でしたら誰だって出来ますよね?」
「なるほどな・・・これはいろんな意味で規格外だ。キリーの奴には嬉しい誤算だろうが・・・厄介だな。」
「いいかいナナミ?今の魔法は今後は軽く使ったら駄目さね。もちろん使えること事態隠した方が良い。今の事は黙っておきな、ナーグ?アンタもだよ。」
え?シンやサーラまで怖い顔になってる、本当にどういうこと?!
クリスも困惑した様子だった。そんな中、ミームちゃんは小さい身体を器用に僕の身体の間に滑り込ませ、膝の上に乗って小声で話し始めた。
「ナナミが使った回復魔法は、私が生まれる前に、英雄の国にある教会の本部が使用禁止魔法として全世界に発布した。」
「もうかなり前の事で、おおよそ50年から60年前の出来事だ。」
はぁ?!
「まっ、待ってくださいませ!私も知りませんでしたわ!どうして・・・。」
「クリス様・・・それはあり得ないっすよ、庶民の俺ですら小さい時に教えられたっす。曰く『魔法使いや魔術師が使う回復魔法は邪法であり世界を狂わす、正しい教えを伝えられ神から力を分け与えられた聖人のみが使える御業が正法である』だそうで。怪我した時に、協会に行った時は散々口うるさく言われたっすよ。」
勉強嫌いで戦闘ばかりやってたお転婆姫は置いとくとして・・・なんじゃそら。いやいや可笑しいでしょ!何百年と使ってきたのに、最近になってその急転換は何?!
僕は呆気に取られてしまい、天を仰いでしまった。
「今は魔法使いや魔術師でも回復魔法を使える者は居ない、老人の人の一部は使える人も居るらしいけど、取り締まりが厳しい。」
ミームはさらに小声になってしまい、最後はかすれるような声だった。
「なるほど・・・そんな中で私は使ってしまったと・・・。」
「うん、でもいつも御爺様は言ってた『おかしいのは教会だ、儂らの魔法は邪法ではない』て。」
僕もその意見には賛成だ、もし本当に邪法なら既にこの世界は滅んでるだろう。それだけ魔法使い、魔術師には必須スキルだった。なんなら回復魔法エキスパートが居たくらいだ・・・なのに。
「私は覚えたくても覚えれない、情報は統制されて残ってる資料は全て魔法の国が管理してる。」
それもそれでおかしいよな、邪法を残しておくなんて何たる不敬!神に対する侮辱だ!とか言って協会は怒りそうだが・・・なんか裏があるんだろう。
「まあ、悪いことだけじゃなかったんだ。ポーションや薬草なんかの重要性を再認識して、魔法が無くてもある程度の傷は癒せるようになったし。魔法使いとは別の聖人を入れることで、それぞれの役割がハッキリした分討伐の効率が上がったりもした。だが、聖人があまり多くいないし、だいたいは教会に勤めている、冒険しようなんて奴はめったに居ないのが現状だがな。」
「あと、聖人に治療してもらうには結構な額を用意しなきゃならないらしいよ、協会からも安定した給金が出てるみたいだし、自然と収入が多い方に寄って行くさね。」
シンとサーラが付け加えて情報をくれた、只の回復魔法がここまで面倒な代物になっているとわ、今後は気をつけた方が良さそうだな・・・。
さっきまで楽しかった食事が、一気にお葬式ムードになってしまった・・・これはいけない。僕がやってしまった事ではあるが、空気を換える意味でも行動しよう。
「暗い話になってしまいましたね、良ければ場所を変えませんか?先ほどの続きも話したいですし・・・もう少し、皆さんと話をしたいですから。クリスもそれでかまいませんか?」
「ええ、そうですわね。まったく!私としたことが恥を晒してしまいました!こんなことならもっと勉学に力を入れていれば良かったですわ。」
おいおい、無理に場を和まそうと自虐ネタぶっこんで来なくていいから!誰が拾うんだよ!
「ぷははは!クリス様自虐っすかー!確かに今のはビックリ___」
ナーグが全てを言い終わる前に、彼は皆の視界から消えた。僕には見えた、見事な裏拳が顔面をとらえ勢いで吹っ飛んでいくところまで。
・・・サーラ姉さん・・・マジパないっす・・・マジリスペクトっす
「ナーグもなかなか気が利くようになったじゃないか、一発殴れてすっきりしたよ。」
「あのバカ・・・普通乗っかるか?」
「あら?彼の反応は正しいのでわ?」
皆それぞれ違う反応をしているが、クリス・・・君はもう少し王女様らしくしようか。
気絶しているナーグを起こし、揃って店を出た。奢ると言ったのだが結局固辞され、割り勘で払うことになった。次の店に向かう途中、シンが僕に寄ってきて店の希望を聞いてきた。
「知ってる店で信頼できるところがある、そこで構わないか?」
「ええ、お願いします。明日キリーさんにも報告しますが、皆さんの意見が聞きたいので。」
「そうか、分かった。 ・・・今朝は、すまなかった。そしてさっきも・・・。どうやらアンタは俺の思ってるような奴じゃないみたいだ。」
「・・・おや、まだまだ分かりませんよ?人には見事に本心を隠して演じ切ってる人も居ますから。」
「その心配、今この瞬間に無くなった。自分隠してるような奴が人の心配するかよ、俺もそうだが・・・ナナミ、アンタはお人好しだ。」
言い終わるとさっさと先を歩いて行ってしまった。
なんだよ・・・結構頑張ってるんだけどなー。イヤダナー、僕はそんな優しい人間じゃないのにー、今朝なんかクリスに自分の希望押し付けたしー、秘密は多いしー。
気恥ずかしいんだよ!お人好しとか言うな!そしてサラッと「俺もそうだが・・・」って!同じにすんなー!お前は本当のお人好しで!僕の成り行きの仕方なくなんだ!根本がちがーう!
「うがーーーー!!!」と叫びたくなる衝動に駆られる、怒り?嬉しい?恥ずかしい?嫌悪感?なんとも取れない、とにかく混沌だ!良く分からない混乱して理解できない、僕の中にシンの余計な一言で理解できない感情に埋まっていた。
あー!どこかに魔法を高出力でブッパしたい!!
ナナミ達が飲食店で食事をしている頃・・・
戦士団の滞在する宿の一階にある酒場にて、団長ゴーリラを含む戦士団団員全員が集まり食事をしていた。屈強な身体つきのせいか、大き目の丸テーブルが小さく見えるくらい圧迫感がある。
食べる姿は貴族の振舞なのだが、一度に口に運ぶ量が多く、あっという間に皿が空っぽになる。そのたびに「かわりをくれ」と団員が声を出し、店員であるお姉さんがせっせと運んできている。
ここに居るのは全員貴族なのだから、それにふさわしい店や宿を取ればいいのだが『有事の際の訓練』も兼ねている為、どんな状況にも対応できるよう平民の者達に合わせている。
だが、それでも一般人からしたら高い宿で泊っているし飯も豪勢だ、ある程度の線引きはしているように見える。
「うむ、なかなか悪くない食事ですね。しかし、王都の料理人の味が恋しいですよ。」
一人の団員が言うと、それぞれ苦い笑みを浮かべて答えた。
そんな和やかな食事風景なのだが、ゴーリラ戦士団長にはあまり良い表情はしていない。
初めは、食事が口に合わないのかと心配してた団員達だったが・・・ライーオが『いつもの病気』だと言ったとたん、団員たちの目が座り食事に集中した。
「いつまでそんな顔をしているんですか?せっかくの食事なのです、楽しく食べましょう?」
団長を気遣うのも副団長としての務め、だが・・・流石にこれにはうんざりしてきた。
「すまない、だが・・・どうも気になることがあってな。」
静かに発言したゴーリラの言葉は、少し呆れていた団員たちの食事の手を止めさせるほど効果があった。
(クリスティーナ王女様の事で悩んでたんじゃなないんだ・・・。)
全員の心の声は完全に一致していた。
「団長、一体何が気になるんです?」
「ああ、食事中にする話ではないんだが、例の『孤高の魔女(偽物)』が起こしている殺人事件についてさ。」
そう言うとゴーリラはいつもの堅苦しい言葉づかいでは無く、仲間と気さくに話す感じで話し始めた。
「狙われているのは殆どが冒険者だ、しかも・・・冒険者なら年齢関係なく無差別に。何か目的があるんじゃないかと感じる・・・。それに、これだけの事が戦士団に報告が届いていなかった。沢山の犠牲が出たんだ、普通なら兵が動かなければおかしいのにそれもしていない・・・。」
ゴーリラは日中に団員からの報告を受けて飛び出して行った。現場に着いた時には数人のギルド職員、それから応援に来ていたであろう冒険者の女性二人が街へ帰宅途中だった。その為、検分は終わってしまったのかと思っていた。
近くに居たギルド職員に近づいて行くと、戦士団の人が来るとは思っておらず少し慌てて対応してくれた。
詳しく話を聞くと、街の兵は簡単に検分を済ませるとさっさと撤退し、全てギルド任せにしているのが現状だと分かった。なんでも冒険者ギルドに圧力をかけている貴族が居るそうで、今回の事件の犯人の身柄を何としてでも確保しようとしているらしい。
ゴーリラはその話を聞いて憤りを覚えた、被害者の事や殺された人数などその場で聞けることはなるべく聞いた。ギルド職員も戦士団団長様なら今の苦しい現状を打破してくれると思い、詳細をすべて開示した。
職員からは「ギルドマスターにもぜひ会って助けてあげて欲しい」と言われたので、大規模作戦の事も含め明日面会に行くと伝言を頼んだ。
今日の出来事を思い出し、さらに眉間にしわを寄せて苦々しく食事を口にする。
「複雑な気分なんだ、もっと早く気付いていれば犠牲は最小限で済んだ!しかも、犠牲が増えている原因は、民を守るために存在しているはずの貴族の我儘のせいだと?!」
叫びはしないが、語尾が強くなり今にもテーブルに拳を叩きつけそうだ。
団員たちは話を聞き終わると、ゴーリラと同じようにやり切れない顔をする。自分達も同じ貴族、だが志はそんな我儘を言うような奴等とは同じなんかじゃない、とでも言いたそうに。
「すまない、やはり話すべきじゃなかった。せっかくの旨い飯が冷めてしまったな・・・。」
「いえ、団長殿。・・・この件は知らないままでは駄目なんですよ。我々は国を守り、民を守る、勇敢なる戦士団なのです。全てを暴き、悪しき者へ鉄槌を下さなければならない!今は悔やまず、前を見ましょう。」
ライーオはしっかりとした眼差しでゴーリラを見る。
「我々も微力ながらお力になりますよ、存分にご命令してください。それに、ここに居る皆も同じ気持ちです!何も心配することはありません!」
ライーオがそう宣言すると、周りに居た団員も頷きそれに答える。
ゴーリラも、それぞれの顔を見て、思いは一つだと言うことを確認し、先ほどまで腐っていた自分の心と思いを入れ替えるように気合いを入れて思いっきり自分の両頬を両の掌で叩く。
辺りは魔道人形がどこかにぶつかったのでは?と、ビックリする人が居るほどの音が鳴り、ライーオ含む団員達も驚いたが、ゴーリラ戦士団長の表情が引き締まり自然と自分達も気合いが入る。
「ありがとうございます。腑抜けた自分はもう倒しました、明日に備えてしっかり食べるとします。」
そして宣言通り、彼は勢いよく食事を平らげ始めるのだった。
団員達は「まったく忙しい団長だな~」とヘラッと笑いながら食事を再開、明日からの仕事に備えしっかり食べようとし誰も止まらず、結局、料理長の『待った』が入るまで全員で食らい続けるのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
なんだか予定よりもだいぶ話数が多くなってしまい、まさかの王都よりも長くなるとは思ってもみませんでした。これ、話数管理って難しいですね・・・。