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交易の国へ 道中の街編 6

こうして書き続けていて思ったことがあります。

時間があっという間に進んで時間が足りない!

そうして自然と焦りが生まれてしまう。



 城壁を囲む街から少し東側の方へ歩くと森が見えてくる。

 この森は『大森林山』と呼ばれている、木々が山頂までビッシリ覆っているためこの山はそう呼ばれるようになった。魔物が多く生息している地域でもあるので、危険エリヤとして一般人は近寄らない。わざわざ来る奴等は魔物の討伐を目的とした冒険者達や、素材採取に来た者くらいだろう。


 そんな森の入り口では、今朝起こった事件の調査をしている者や、知らせを聞いた冒険者ギルドの職員などで小規模だが人だかりが出来ていた。

 そんな中に冒険者パーティー「ハートエッジ」のメンバー、サーラとミームの姿があった。


 「どうだいミーム、なんか分かったのかい?」


 そうサーラが言うと、小さき少女は首を横に振った。


 「ダメ。何もない、追跡も引っかからない。」


 少女のその言葉に、サーラ以外の人達も小さな溜息を吐く。

 ミームはこの街に居る魔術師の中では一番の使い手だ、若くして才能が有り周りから「天才」と言われるほど。そんな少女の追跡でも犯人を見つけ出せなかったのだ、一同は落胆と言うより殺戮犯がどれだけの力を保有しているのか想像できなくなり、途方に暮れている。


 そんな周りの事などお構いなしに、ミームは相手の分析をしている。転移魔法を使った形跡はあるが、目的地に飛ぶと言うよりは・・・その時の残りの魔力で当てもなく飛んでいるように思える。

 そのせいかより一層追跡がしにくくなっており特定できない。使った魔力は少ないのだから、そんなに遠くへは飛べないはず・・・ならば感知魔法で気配に気が付けるはずなのにそれすらない。相手が隠蔽魔法で存在を薄くしていれば可能だろうが、あれだけ魔力を使いさらには使い切って転移しているはず、隠蔽する余力など無いと思う。


 答えの見えない疑問を永遠と自分自身と議論している、そんな考え込んでいるミームを見ていたサーラは。


 「ミーム、いったん考えるの止めときなって。それより、とりあえずやっとギルドの応援は済んだんだから、もう街へ戻ろう。」


 「ダメ、時間が経てば余計に被害が出る、これ以上はダメ・・・。」


 「・・・なら尚更だ、アタイだって許せないからね。でも、ここで得られるものが無い以上、ジッとしているのも時間の無駄さ。」


 サーラの言いたい事が分かるのか、ミームは悔しそうに俯いてしまった。

 少女だって分かっているのだ、それでも何とかしたいと気持ちの方が強くなってしまい頑なになってしまっている。

 サーラはミームの肩にやさしく手を置き、黙ってミームを励ました。


 ギルド職員が引き上げ始め、二人も移動しようとしたころに・・・一人の小柄な少女が現れた。







 転移した場所から少し歩いた森の入り口付近で、僕は人が集まっていることに気が付いた。

 待ちの方へ戻っている人も居るみたいで、人数は多くない。だがそこに見覚えのある小さな少女が目に映る。


 「・・・えーーと、確かシンさんと同じパーティーの方、ですよね?」


 「貴方は昨日の・・・あの、お金ありがとう。」


 少女は少し僕を見た後、顔を少し赤らめ、目をそらしながらお礼を言ってきたのだ。

 

 「いえいえ、クリスの我儘に付き合って頂きありがとうございました。私はナナミ、流浪の旅人です。」


 「・・・ミームです。」


 ほうほう、ミームちゃんの反応を見た瞬間、爺化が加速した。今のは、僕にはグッ!とくる。

 心は若いつもりだがなんだかんだで300才以上だからね、なんだか孫って感じを受けちゃうよ。あ、飴ちゃんあったかな?何かお菓子でも・・・


 「アンタ昨日の娘か!私はサーラってんだ、ミームと同じパーティー仲間だ。んで・・・そのお連れの方って、近くにいるの?」


 「クリスですか?いえ、今は冒険者ギルドに居ると思います。何とか登録も出来ましたし、今は早速受けた依頼の詳しい話を聞いてるはずですよ。」


 僕がそう答えるとサーラは安堵したように息を吐いた、これだけで分かる・・・彼女もクリスに何かされた仲間だ。後でこっそり話を聞いてみたいもんだ。


 「それより、なぜお二人はこんな所に?シンさんに今朝お会いした時は休日だと聞きましたが?」


 「説明する。」


 彼女たちがここに居る理由は、ギルド職員からの応援があってミームに『孤高の魔女(偽物)』の追跡をしてほしいと頼まれたからだそうだ。ミーム一人で行かせるわけにはいかないので、サーラが共に付いてきたと言う訳だ。

 僕は、少女のミームが凄腕の魔術師だったことに驚いた、才能とは恐ろしい物であると同時に羨ましい。

 しかし・・・結果はあまり良くなかったらしく、成果を上げられず落ち込んだ様子だった。


 「ミームは責任感が強くてね、それもあってちょっと落ち込んでたんだよ。んで?私らはそんな理由だったが、ナナミはどうなんだい?こんな所に一人で来るなんて。」


 「私も仕事ですよ、だからここに来ました。」


 僕がそう返事をすると、サーラは困り顔で続けて質問してきた。


 「いやいや、ここは魔物も多いし今は例のアイツが居るかも知れないんだ。危険なんだよ?手練れの冒険者ですら返り討ちになってるんだ、一人で来るようなとこじゃないさね。」


 「ええ、良く存じてます。ですが私は今は情報が欲しいんですよ、どんな些細な事でもね。」


 そう言って僕は彼女たちの脇を抜けていく・・・もうここに来た時点で一つは確認できた、魔素を直接利用した訳ではなさそうだ。正直一番の懸念が無くなってホッとしている、魔王みたいな奴がまた現れたのかと思ったがその心配は無さそうだ。

 ミームが追跡を行って見つけられなかったのであれば、相手が何らかの手段で隠れている可能性があるが・・・うーむ、僕の感知魔法がどこまで通用するか。

 とりあえず発動させてみて、何かあったらその痕跡を辿りますか。


 僕は手の平に魔力を集めて感知魔法の魔法陣を生成する、少々面倒だが他人の目があるので演出も兼ねてあえて作った、本当はこんな事しなくてもいいんだけどね。

 そしてその作り上げた陣を天に掲げて思いっきり広げる、この陣の範囲に入った物を感知するためにやるのだ、この方法はかなり初歩的なやり方だ、ほとんどの魔法使いや魔術師はこんなことはしない。

 その広がる大きさは僕の魔力の続く限り広がっていく。なので、正直デカくなり過ぎるのだが・・・ミームの事も考えると少し抑えた方が良いだろう後でこっそり使って継続させればいい。


 少し遠慮しがちに感知魔法を発動させている僕に気が付いたギルド職員は、離れた場所からだが様子を窺っているようだ、もちろんミームも見ている。


 「あの子、思ったよりやるさね。ミームはどう思う?」


 サーラはそう言って小さき少女に尋ねたが返事が無い、聞こえなかったのかと思いミームを見たが・・・そこには目を輝かせてその先に見えている人の一挙手一投足を見落とさないようにしている年相応の女の子が居た。


 「(おやおや、この子がこんな顔するなんて・・・。)」


 ミームのそんな眼差しなぞ知らない僕は、お構いなしに感知魔法を使うが・・・そこそこ広がっているのに反応が無い。森の中は魔物の反応が幾つかあるだけ、一部魔素溜まりもあるみたいだが・・・あー・・・担当はラミアのあいつか。

 いや?待てよ・・・あいつが居るなら話を聞いてみるか。


 僕は感知魔法をおもむろに解除すると、森の中へ入ろうと歩き出したのだが。それを後ろから僕の手を掴んで引き留める者が居た。


 「ちょっと待ちなって!まさか一人で入るつもりかい?!」


 「っえ?そうですが・・・問題でも?」


 「ここは危険だってさっき言ったじゃないか、聞いて無かったのかい?」


 サーラは少し呆れたように溜息を吐いていた。

 あー、そうだった確かにそうなんだけども、僕の事は気にしないでなんて言えないしな。かと言って今から会いに行く奴の事考えると、一人で行きたいし。


 すると、サーラの背中から隠れながらこちらを窺っているミームが目に入った。

 コソコソ賢慮するように。


 「(あー・・・あれだ!やっぱり孫って感じだ!その仕草はずるい!)」


 ミームの行動に心の中に眠る爺を発揮し、声を掛けてしまう。


 「そんなにコソコソして、私に何か御用でもありましたか?」


 僕の動かない表情筋を出来るだけ最大動かして笑顔を作った、しっかり出来ただろうか?

 もじもじしながらサーラの背中から出てきたミームは、小さい声だったが僕に幾つか質問してきた。


 「どこで魔法習ったの。」


 「初めは魔法の国でしたね、後は独自に研究を少々。」


 「魔法の国では誰に教えてもらったの?」


 「特定の方からはありませんね、沢山知識が欲しかったのでいろんな方から聞きました。」


 「それなら、王立魔術学園にいたの?」


 「いえいえ、私は貴族ではありませんでしたので入れません。」


 ミームとの質疑応答は他にもあれこれと聞かれ、僕もしっかり答えて上げた。

 普段それほど多く話さないミームが、この時ばかりは次々に言葉を発して質問しているのを脇で見ていたサーラは驚いていた。

 

 「不思議、あれだけの魔力を操作できるなんて。」


 「いえいえ、基本的な事を忠実にやってきただけですよ?ミームちゃんならあんな事しなくても、簡単に使うことが出来るでしょう?」


 「うん、でも・・・ナナミの魔法陣はとても綺麗だった。私が知っている魔法使いや魔術師の中で、一番。」


 ・・・うむ、こんなに心がグッと来たのは久しぶりだ。僕今日からこの子のおじいちゃんになります。

 いや、駄目だな冷静になれ、僕。


 「あー、ミーム?興奮してる所悪いんだけど、とりあえず無謀な事しようとしてるナナミを街まで連れて帰るよ。アンタもいいね?いくら仕事でも命は大事にしな。」


 サーラが脇から突然入ってきて、一度離した僕の腕を再度掴んだ。

 そして僕を引っ張り街へ帰ろうとしたのだが、サーラとは反対の方の僕の腕をミームが掴み綱引き状態になる。

 ・・・地味に痛い。


 「サーラ、待って。ナナミは何か気付いたみたい。」


 「分かってるのよそんな事、でも一人では危険なんだから、メンバー集めて向かった方が良いだろ?」


 お互いの主張は分かったので、とりあえず離してくれないだろうか?

 その後も「一度戻る!」と「このまま行く!」の引っ張り合いになり、お互いに譲らない。僕的には早く手を放してほしいのだが・・・。

 ちなみに、僕は遠巻きに見ていたギルド職員の方に目をやり「助けて」と合図を送ったのだが、誰もが皆顔を横に振ったり、視線を逸らしたりして助けには来てくれなかった。


 「あの、いい加減に離してください。痛いです。」


 「あ、悪いね。」  「ごめんなさい。」


 やっと離れた、ミームは余程力を入れていたのか僕の腕に赤く手の跡が残っている、サーラはしっかり加減してたみたいだ。


 「先ほどから私を差し置いて話を進めていたようですが、少しでも情報が欲しいので行かせていただきます。ミームちゃん?これから先は危険ですから近寄って来ては駄目です、どうやら魔素溜まりもあるみたいですからなおさらいけません。」


 「私もあるのは知ってる、それを言うならナナミも同じ。一人にさせない。」


 「ミームはこうなると言うことを聞かないのさ、だからこの子の事考えてくれるなら大人しく戻って来てくれないかい?」


 弱ったな、これじゃあラミアに会いに行けない。

 まぁ、あいつなら人間を連れて行ってもむしろ興味津々で寄ってくるだろうが、この二人は魔物と思ってしまうだろうから危険だ。実際、魔物でもラミア系は存在するから勘違いするだろ。

 だいたいの場所は把握してるから、そこまで一気に転移してしまうか。この二人にはしっかり説明をして分かって貰おう。


 「ミームちゃん?気持ちは有難いのですが、一人で行かせてください。実力なら問題ありません、この街のギルドマスターであるキリーさんにも認めてもらえました多少の無理は平気なのですよ。これから先は本当に危険なのです、どうかこの街で私の帰りを待っていてください。」


 ギルドマスターの名前が出たからだろうか、先ほどまでの二人とは明らかに様子が変わった。

 ミームは一緒に行きたい気持ちが強いが、何とか自分に言い聞かせようと表情を曇らせており。サーラはキリーの名前が出て驚愕の顔に変わり、僕を探ろうと視線を動かさず見据えている。


 「なんだろうねー、アンタに会ってから驚いてばかりだ・・・。そうかい、あのキリーが認めたのかい・・・。」


 「キリーさんに認めて貰えてるなら・・・。でも、心配。」


 そんな様子の二人から一歩二歩ほど離れ、少しだけ距離を取る。

 申し訳ないがこれ以上は話せないんだ、瞬時に転移魔法を発動させさっさと目標の近くへ転移した。


 「無詠唱に魔法陣無しの即時転移?!」


 ミームは咄嗟に感知魔法を自分の出来る最大で発動させる。

 ・・・しかし、ナナミの反応は何処にもない。


 「・・・そんな、どうやって?」


 「あのナナミって子、そんなに魔力を使ってなかったように見えるね。まったく!何回驚けばいいんだい?ありゃ相当の魔法使いだ、いや魔術師か?」


 「魔法使いも魔術師も同じ、貴族の人は『魔術師』ってよく言われてる。私も、元はそうだったから。」


 「呼び方なんていいさね、んで?まさに『孤高の魔女(偽物)』と同じ事をやってのけたって事かい?」


 「・・・うん、ナナミは気付いてたんだ。やっぱり凄いんだ。」


 ミームのがそう言って彼女が向かったであろう森の方を見やる。自分には特定できなかった方法を彼女は難なく調べ上げた、しかもあまりにも単純な初歩的な感知魔法でだ。だからミームは少しばかり悔しく思ってしまった。


 「また、会えるかな。」


 「大丈夫さね!あのキリーにお墨付き貰ってるんだ、心配しなくて大丈夫だよ。さっ!ナナミは行っちまったんだ、アタイ等は大人しく街であの子の帰りを待つとしよう。」


 そう言ったサーラは動こうとしないミームを小脇に抱え、街に向かって歩き出した。








 今、僕は森の中に居ます。

 転移でミームちゃんとサーラさんから離れ、隠蔽魔法で自分の反応を魔物になるように細工しました。これで下手に彼女たちは追ってこないだろう。今から行くところは危険だし・・・追ってこられたら困る。

 ・・・僕は何も考えず、ただ単にあの二人の追跡を逃れるためにやったこの一連の行動だが。ミームやサーラに都合のいいように誤解されているとは思いもしませんでした。それを知るのはもう少し後の事です。


 さて、ここからもう少し深く進むと魔素溜まりがある。そこには魔族の知り合いが居るはずなんだが、・・・おかしいな?さっきまで有った反応が何処にもない・・・あ、後ろか。


 「なーんだー、もう気が付いちゃったのー?久しぶりだから脅かそうとしたのにー、坊やの感知は有能過ぎー。てかー、なんでこんなとこ居るのよー。」


 「あー・・・と、だからって背後から寄ってきて抱き付かないでくれる?」


 そう言っておもむろに後ろから抱き付いてきたラミア、普通の人が見たら襲い掛かられてるように見えるだろうが、そうではない。このラミアいや『魔族』のラミア族は、親しい物には良く絡みついてくるのだ。


 彼女は『魔族 古代ラミア族族長 ヘヴィー』 魔族長会議の一人である。

 人の上半身を持ち、へそより下からは大蛇のような蛇の胴体を持つ。人間の部分は背中から脇にかけて鱗が揃っており、ちょっと異様に見える。女性の体格に見えるが胸は平たんだ、むしろ少年に見える。瞳は人間とは似つかない蛇の瞳えおしており睨まれたら怖いが、愛嬌のある顔のおかげで相殺されている。

 ちなみに、蛇の胴体の方だが・・・野生に生息している蛇柄そのままだ、赤とか紫とかピンクとか可愛い物ではい、しっかり自然に溶け込めるような柄で出来ている。

 体長は頭から尻尾まで5mはあるだろう、見た目はもっとありそうに見えるが・・・。


 「いいじゃーん?坊やはこれ位でー、簡単につぶれないでしょー?」


 彼女の抱き付きは半端ない強さだ、だから身体強化をしっかりかけ防御の魔法もかけないとありとあらゆる骨が折れる、いや身体が潰される。

 止めて欲しいとも思うのだが、これが古代ラミア族の友情表現の一つなので強くも言えない。むしろ良く思っていてくれていると言う証拠であり、僕的にもさほど嫌じゃないので受け入れている。


 「んはぁー!やっぱすごーい!これだけ締め付けてるのにー、全然平気なんてー。次は絶対に絞め殺してあげるねー。」


 ・・・前言撤回しようかな・・・。


 「ヘヴィー、満足した?」


 彼女は絡みとっていた僕を離し、一度全身を伸ばした後、大きくうなずいた。満足したようだ。


 「ここに居るのは、古龍の助言もあって今は旅をしているんだ、新しく開発された技術を見る為にね。それで旅の途中だったんだけど___」


 僕はヘヴィーにここまでの経緯と今何をしているかの説明をした。

 黙って聞いていたようだが、時々笑いをこらえる様な仕草をしたり「ププッ」とかこらえ切れずに噴き出していたりしていた。


 「・・・しっかり聞いてる?」


 「ぷっ!うぷぷっ!いやー・・・聞いてるっプフ!聞いてるよー?ホントにー、面白い話でー・・・プフフ!なにー、わざわざ笑わせに来てくれたのー?」


 「・・・真面目な話をしているんだが・・・。」


 「ぷっはっはっは!!!!!もうダメーー、面白ーい!!」


 ヘヴィーはのたうち回りながら笑い始めた、・・・僕の失敗談はどうやら魔族達には受けが良いらしい。

 腹を抱えて苦しそうにし、尻尾の先で地面を何度も叩き、ウネウネしながら悶えている。

 一通り笑い終えた後、息も絶え絶えなヘヴィーは僕を見ながらこう言った。


 「はぁーはっー・・・まさかー、私を笑い殺そうとしたんじゃないよねー?本気で死ぬかと思ったー。」


 割と本気な感じで睨みつけてきた。


 「・・・そんな能力持ってないって、古龍なら笑いすぎて失神してるかもね。」


 「あー・・・報告聞いただけでー、大笑いしてそうー。良かったー側に居なくて~、あの龍の笑い声ー、五月蠅いんだよねー。」


 ああ、そうだな、台地が揺れるからな。今日あたりも揺れてるんじゃない?


 そして、ようやくいつもの調子に戻ったヘヴェーにやっと本題を話せた。

 ここ最近の事件についてと、『孤高の魔女(偽物)』の事も聞いてみることにした。


 「んー・・・、人間が殺されてることに関してはー、・・・・・・私は知らなーい。知ってるのはー、近いうちにー、人間が集まって森に入ってくることー、後はー・・・この森の魔物が多くなったことー。」


 「近日中に大規模作戦を行うとか言ってた、詳しい内容は聞いてないけど・・・おそらく多くなった魔物が、森から溢れ出てくる前に討伐するんだろ。でも、なぜ魔物が増えた?魔素はヘヴィーが処理しているんだろ?魔素溜まりを放置していて増えるなら理解できるけど。」


 「そうよー、たぶんー別の事がー原因ねー。」


 「どうやら、心当たりは有るみたいだね。」


 詳しい話を聞いてみると、魔物が増えだす少し前位からこの森に足しげく通う者が現れたそうだ。

 魔族であるヘヴィーは見つからないように隠れ、仕事である魔素溜まりの中和を行っていたそうだ。そもそも魔素が濃い所には人は寄ってこないので、特に気にもしなかったらしい。

異常に気が付いたのはそれから直ぐだったそうだ、その人間が居なくなると必ずと言って良いほど魔物が突然増えていたとか。

かなりの数が突然現れたように増えたため異常に気が付いていたそうだ、あまり増えすぎると周りに悪影響を及ぼすため間引きしていたそうだが、ほぼ毎日増えていったため処理するのがギリギリだったらしい。

 魔素の中和もしつつ魔物の間引きもやっていたのだが、数週間前からこの森に冒険者が頻繁に訪れるようになり、人間から身を隠して作業していたが魔物の間引きが思うように出来なくなったのだとか。そうなってからは増える一方でヘヴィーの手には負えなくなったのだと言う。


 「そんな感じだったー、たぶんー、あの変な奴が原因だと思うんだけどー、そっちなんか気にしてなくて~。あー、でも手がかりならあるよー。」


 緩ーい感じで喋る独特な口調だが、これでも人語を喋れる数少ない魔族なので許してほしい。

 そんなヘヴィーが茂みから何かを取り出してきた。


 「はーい、これー。突然増えた魔物にー、埋め込まれてたのー。」


 「これ、・・・『魔鉱石』?しかも!術式が刻んである!加工品か?!」


 ヘヴィーに渡されたそれは何処にでもある『魔鉱石』だった。しかし、天然物では無く既に術式が刻んである加工品、人の手が加えられたものがなぜ?

 僕は刻んである術式をよく見る、『女王石』じゃないただの『魔鉱石』なら複雑な術式は使えないはず、だからかなり単純なモノだと思うんだけど。


 「・・・魔力供給?いや、吸収・・・寄せ集めてるから収集か?」


 そこに刻んであるのはおそらく「吸収に近い何か」と言うことしか分からなかった。

 魔法使いや魔術師の一部が稀に持っている魔道具の中に似たようなものがある。それは自分の魔力を微弱だが持続回復させる道具だ。某ファンタジーゲームで言えば『〇ジェ〇』効果みたいなものだ。

 普通の魔鉱石ではまず発動しないだろう、出来たとしても・・・ぶっちゃけほとんど意味をなさない、女王石の特級品でようやく恩恵が感じられる道具で、高価な割に効果が低い・・・。

 さらにこの道具は、あらかじめ魔力を少しずつ魔鉱石に保存しておくか、自然の中にある魔力を少しずつ吸収させなければならないと言う面倒この上ないことをしなければならない為、汎用性もあまりよくない。

 まぁ、この道具は常に研究開発や改良を行っているので、もしかしたら改善されているかもしれないが。


 だが、その道具とは少し違うような気がする。

 先ほど僕が口にしたが、『寄せ集める』ような術式にも見える・・・確証はないが、持続回復の道具に刻まれる術式とは要所要所が違っている。

 それに、この術式を使うのであれば只の魔鉱石ではダメだ。おそらく発動しない・・・女王石で刻まないと意味が無いだろう。さらに付け加えるならこの魔鉱石・・・見た所品質はあまり良くない。そこら辺に転がっているような物を使っている、これではいくら魔鉱石と言えども術式を刻んだところで発動しない。


 「ふふっ、相変わらずだねー、坊やの考え込んでる顔ー、とっても素敵よー。」


 「あっ、ついつい・・・、ここでは検討しか出来ないのに考えこんじゃった。本当は研究室に籠って徹底的に調べ上げたいんだけど、今は連れも居るし・・・宿に帰らないと。」


 そう言った僕の顔を、ヘヴィーは目を見開いて覗き込んできた。

 ヘヴィーは普段物静かでそんな行動をとることが滅多にない、しかも蛇の目をガン開きで驚くことなんて知り合ってからは今回を含めても二回しか経験したことが無い。ちなみに一度目は僕が異世界からの転移者と打ち明けた時だ。

 そんな目を見開いたヘヴィーに、むしろ僕の方が驚いてしまったのだが・・・当の本人はお構いなく近づいて来てさらに身体に巻き付いてきた。これはどうしたんだろう?


 「あの坊やが・・・研究ばかりで籠ってた坊やが・・・人と接するのを避けてた坊やが?!」


 「なに?なんなの!どこかおかしい?!」


 「・・・。」


 ヘヴィーは何も言わない。

 ジッと僕の目を見て視線を逸らそうとしない、僕はさながら蛇に睨まれた蛙の気分だ。だけど恐怖心で動けない訳では無い。確かにこの子の目は普通の人が見たら怖くなるだろう、これだけ迫ってこられたら気絶するかもしれない・・・。

 今のヘヴィーは、怖がらせる為じゃなく威嚇してるわけでもない目で見ている。ただただ信じられない物を見ているような目だ。

 

 「そっかー。」


 そう一言口にすると、ニヘらっと笑顔を作り、今度は優しく抱きしめてくれた。

 ヘヴィーはそれほど体温は高くないのだが、・・・暖かく感じだ。





 どのくらい抱きしめれられてただろうか、少し呆けてしまった。

 いかんいかん、まだ日が落ちないうちに調べられることをやってしまわないと。

 気持ちを切り替えてポケットから時計を取り出す、時刻は既に12の刻を周り、午後1の刻を指そうとしていた。今朝あれだけ色々あって濃い一日だが、まだまだ余裕がありそうだ。


 「ヘヴィー?もういいかい?そろそろ行きたいんだけど。」


 「うん、行っておいでー、私はもうしばらくここにいるからー。」


 深く絡みついていた身体をゆっくりと引きはがし、ヘヴィーは魔素溜まりの方へ向かって行く。


 「一週間後、冒険者達が作戦を決行する。この国の精鋭部隊も数人だけど同行するみたいだから、上手に隠れるんだよ?」


 「だーいじょうぶー、隠れるのはー、得意だしー、たとえ人間が1000人来ようとー、私は負けないよー。」


 そう言い残し、ヘヴィーは行ってしまった。

 隠れることに関しては問題ないだろ、いつもの事だし。そして、あの子が最後に言ったこともまた事実、魔族長の肩書は伊達ではない。


 さてと、ここら辺の魔物を少し見ていこう。魔鉱石の埋め込まれてる個体の特徴も知りたいし、どう作用しているかも知りたい。百聞は一見に如かず、あの術式の意味も見れば分かるだろう。



 そうして僕は、森の深き場所を目指し、先へ進んで行った。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

遅れると言いながら、なんとかペース維持できてるような気がしますが、次回はマジで遅れます。

理由は活動報告にでも上げてますので、気になる方はそちらを見て下さると助かります。


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