交易の国へ 道中の街編 5
ここに来て不安な文章になって来てるる僕です。自分でもどこが悪いとかハッキリわからず漠然とした不安なのですが、これがのちにどう影響するのか。行ってみなければ分からない!と言う訳で突き進みます。
「気持ちを切り替えた所で、仕事の話をしようか。さっきも言ったが後方部隊で物資の補充だ、結構な冒険者が参加するんだが、集まって来てる奴等は全員最前線向きでな。今予定している後方部隊は、ランクの低い奴や初心者が多くまとまっている。後方部隊とは言っても道中には危険も結構あるんだ、だが・・・そいつらを守れる奴が少なくて困ってたんだ。王女様には、物資の運搬をしつつそいつ等の護衛も担ってほしい。」
「分かりましたわ!魔法には自信がありますし、武術の方もしっかり鍛錬しておりますわ!なにより、民を守るのは王族の務め!精一杯やらせていただきますわ!」
なんというか・・・罰を与えるっていうよりは、普通に仕事をお願いしているみたいになっている。実際に後方部隊がどう言った経路で物資を運ぶのか分からないが、低ランクと初心者が多いってことは実はさほど危険ではないんだろう。むしろ、クリスも実際には冒険者として初心者なのだから、経験を積ませる意味では最適な環境なのかな?
まぁ・・・罰と言うことにしないと、クリスが納得しないみたいだし。これはこれで良いのだろうな。
「あの、それに参加するのは良いのですが・・・。戦士団と接触することはあるのでしょうか。」
少し遠慮しながらクリスが尋ねる。
そう言えば、ギルド入り口で待ち合わせに遅れた時も「ゴーリラが・・・」とか言っていたな。見つかれば苦言をグチグチ言われるのが嫌なのかな?それとも・・・ほかに理由が?
「いや?戦士団は最前線で陣頭指揮を執ることになってるから、出会うことは無いはずだが・・・まさか!今黙ってる事って、戦士団まで絡んでくるほどの隠し事なのか?」
戦士団に関しては僕は何も知らないので答えられないが、クリスは戦士団長に関しては事情を知っていそうだ。僕は後でしっかり聞くつもりだが、キリーさんにクリスが答えるかは彼女次第だ。
「その・・・戦士団長とは少々ありまして・・・。」
「もういい!話すな!こっちにまで飛び火してきそうだ。王族の問題だ、只の冒険者ギルドに持ち込まれても困る!対処できねーよ。分かった、極力出会わないように配慮してやるよ。」
「まったく、手間がかかる」と小声で悪態をついているのが聞こえるが、面倒な二人で申し訳ないと思う。
どこにでもいる只の人なら、こんなに気を遣わないが・・・相手が国の王女と分かってしまったら話は別なのだろう。いらぬ気遣いまでしなきゃならないんだ、その苦労を考えると・・・申し訳なく思う。
「んで、その作戦は一週間後に開始される予定だ。もうすでに応募が締め切られたから三日後からは事前準備が開始される、その時に後方部隊は一度顔合わせと作戦会議をするから、朝一にギルドに集まるように。」
「あら、意外とすぐですわね?」
「本当ならもう少し早くする予定だったんだが・・・。王都で急遽、貴族達が集まる会議があっただろ?そのせいで戦士団が出発できなくてずれ込んだんだ。だがまあ、そのおかげで冒険者の方の集まりは良かったけどな。」
あー、あの騒動のせいでずれ込んだのか。なんだかいろんな所に迷惑が掛かってたんだな、本当に申し訳ありませんでした。
クリスも少し思うところがあるのか、シュンと落ち込んでいたが、気を取り直して顔を上げる。
「遅れさせてしまった原因は私にありますわ、計画を遅らせてしまい申し訳ありませんですの。」
「・・・王女様、良いんですよ。結果的に多くの冒険者が集まったんですから、その気持ちは仕事にぶつけて下さいよ。」
・・・良い笑顔で言っているが、本音は「お前らが抱えてる事情は、その会議まで関わってるのかよ!もういいから俺を巻き込むな!」と思っているに違いない。だってほら、額に少し汗をかいている。
まっ!キリーさんもう遅いけどね。一番の元凶たる僕に関わっている時点で、すでに手遅れなのだよ!
「さて?王女様については以上だ、ナナミさんについてだが。」
キリーはそう言いながら僕を見る。
その目には厳しく、そして冒険者ギルドのマスターとしての決意が込められている。
「罰と言うのは本来、施設内の清掃や奉仕活動など多岐にわたる。反省を促し構成させる意味も込めてな。最悪は登録抹消なんだが・・・本当にひどい時は、兵に突き出している。」
やはり、兵が出てくる時もあるのか。
僕は大方そうであろうとは予測できていたので、特に驚くことも無く聞いている、クリスは少し顔色が悪くなっているが、最後まで話を聞く姿勢を取っている。
「で・・・だ。俺的には兵へ突き出す予定だったが・・・話を聞けば聞くほど相当な厄介事を抱えているようだし、それに巻き込まれるのも俺はごめんだ。だから、処置としては王女様に近い処置をとる。」
「え?いいのですか?普通に処罰して頂ければ良いのですよ?」
「何言ってんだ、あくまで近いって事だ、表向きは罰になるしこれからやらせることも超危険だ。下手したら・・・死ぬ。」
キリーさんがそう言うと、僕より先にクリスが反応する。
「死ぬ?!一体何をさせようとしているのですか?!」
「・・・・・・『孤高の魔女』の討伐だ。」
「え?!」
僕の声とクリスの声は見事に重なった。
今何と言った?『孤高の魔女』の討伐?えっ・・・と?・・・は?
僕達がお互いに顔を見合わせて疑問に思っていると、キリーさんが付け加えて話し始めた。
「その様子なら対象については知ってるみたいだな。今この街に居る冒険者の中では全員に噂となって知られているし話題になっている。実際に戦って命からがら逃げかえったパーティーも居るからな。」
「そんな!!おかしいですわ!!だって彼女ならこっもあがもがあ!」
クリスが爆弾発言しそうなの所を、慌てて口を塞ぎ制止する。
どう見ても怪しい行動なのだが、発言してからではどうしようもない、無理やり止めてこの場を一度落ち着かせよう。
「クリス!まだキリーさんが話してる最中です、落ち着いて!質問は最後にしなさい!」
そう言いながらクリスに(それを言ったらおしまいですよ)と目で語ってみるが、当の本人は(そんなのおかしいですわ!)と言わんばかりにギラギラと尖っていた。どうやら思いは届かないようだ。
フガフガと未だに反論しようとしているが、なんとか口を塞ぎ言わせないように必死になっている、だが・・・当然それを見ている方が居るわけで。
「・・・なぁ?まさかとは思うが・・・なんか知っているのか?」
冷静な顔をしているが、背中からはただならぬオーラが視認できるのではないかと言うほど、ドス黒くそれは怒りを越え憤怒している。
「い、いえ!噂を聞いたことがあるくらいです。クリスが昔からその『孤高の魔女』が大好きで!あらぬ疑いを掛けられてることに憤慨しているだけで。」
「ふがーーー!!(なんで言わせてくれませんのー!!)」
何とか誤魔化そうと必死に口を押えているが、クリスは必死にモガモガして来るので、押さえる方も必至だ。
なんとか誤魔化せないかと思案していると、キリーさんが「あっ!」と何か気が付いたように言い出した。
「もしかして、過去の英雄の『孤高の魔女』と勘違いしてんのか?そう言えば、過去の女王様が助けて貰ってから、王族はそいつに熱心だったな。悪い悪い、そいつとは全然違うぜ?」
僕達はまた固まった・・・。
「まぁ、一部の奴らは噂に過去の英雄と勘違いして、デタラメを言いふらしているらしいがなー?初めて遭遇した奴等が『孤高の魔女』なんて呼び出したんだ。だが、学の無い奴等でなー・・・過去の英雄と同じ二つ名を広めちまったんだよ。噂が独り歩きして、一部では・・・勇者と結婚するはずだったが国の姫に因縁を付けられて逃亡して一人寂しく死んだが、許すことが出来ず化けて出てきたとか・・・言われてる。」
キリーは「なんだ知ってると思ってたぜ?」とか言ってきたが、僕達はそれどころでは無かった。
クリスは、偽物とわかり安心したが、話を聞けば聞くほど怒りに満ちて良き「その二つ名を付けた冒険者を潰しす!」とワナワナと燃え始めた。
僕は、とりあえず最悪な事は回避できたのでホッとしたのだが、また暴走しそうなクリスを見てハラハラしていた。
しかし、噂は怖い・・・だいぶ歴史を歪ませて広がるんだなーと思った。
「誤解が解けたみたいで良かった。それから王女様?命名した奴らは許してやってくれ、離れた村からわざわざ出て来た若い奴等なんだよ、あいつらにも話したらかなり反省してたし許してくれって。それに、既に数週間も前の事だ、噂はもう止められねーよ。」
「・・・はぁ、仕方ありませんわ。で?そいつをナナミに討伐しろと?人を殺させるのですか?」
「あいつは既に無差別に12人殺してる。しかもここ数日の短期間でだ。・・・今でも被害者は増えてる。討伐に行ったCランクパーティーはさっき言った通りギリギリ逃げてきた。そして、殺された被害者のほとんどが冒険者だ。」
「はぁ?!それならギルドでの討伐では無く国の兵に任せるべき事案です!」
「・・・報告したよ、そしたらな『生け捕りにしろ』って命令が下ったんだ・・・。」
キリーさんはうな垂れた、両方の手を固く握り、悔しさが伝わってくる。
だが、おかしい・・・それなら兵の方で捕まえればいいのだ。そもそもなぜそいつをとらえる必要があるのか・・・分からないことが多い。まさか、そいつを本気で『孤高の魔女』だとでも思いこんで、捕らえようとしているのだろうか?ただの噂にそこまで本気になるとは思えないが。
もしそうなら、その命令を出した奴は只のバカだろう。
ん?でも、今ならわざわざ僕にそんな事頼まなくても、国の精鋭戦士団が来ているのだ。むしろそちらに任せても良いのではないだろうか?
「質問がありますわ、『生け捕りにする理由』はなぜですの?」
「わからねーよ、教えてくれなかった。・・・で終わるわけねーだろ?調べたさ、ありとあらゆる手段を使ってな。なんでも少し前に、王都の方でも『孤高の魔女』が現れたらしいんだ。だがそいつは多くの貴族の前で処刑された。だが、その後にこの街で別の『孤高の魔女』の噂が出ている事に気が付いた一部の貴族が欲しがっているって事らしい。だが、不確かなことで兵は出せないとかアホなこと言って・・・ギルドに命令してきてるって事さ。」
あー・・・。そうか。
その貴族達が主犯なのか。いやいや、それにしても可笑しなやりかただろ!表向きは犯罪者の捕縛とかにして兵を出させて終わりだろうが!これじゃ、ただのギルドに対する嫌がらせじゃないか!
はっ!まさか・・・それが狙いなのか?分からない、何が目的だ?
もし、本当に狙いが僕だったとして、王城では死んだ奴は偽物だったが、もしかしたらこっちの噂の奴は本物かも?的な感じで標的を変えたのだろうか。
考えるだけ無駄かな今は何も出てこないな、真相はその命令を下した貴族本人しか分からないな。
どちらにしろ、始まりは僕の件が発端になっている・・・と思う。・・・大規模作戦のこととか、この魔女騒ぎのこととか、ホントごめんなさ。
「・・・そうですか、やはりあの事がこんな形で影響して来るなんて・・・それに民を守る為の貴族がそんな暴挙を・・・。キリー殿、後で亡くなった方の詳細をお教えくださいませ。後日、王女として正式に謝罪しに行きますわ。」
「・・・そうか、分かった。」
なんだかどちらも暗い感じになってしまった。
おいおい、クリスがそれ言うなら僕が一番の原因なんだから、僕が謝罪しにいかないと・・・そう考えるとなんだか僕まで気落ちしてきた。いろいろごめんなさい。
「その、少人数ですが戦士団が滞在中ですよね?彼らならどうなのですか?協力を要請してみてわ?」
「それも考えてる。今回の大規模作戦は大森林山の魔物を間引く大規模討伐作戦なんだ、その話し合いが後日行われるから・・・会った時に相談するつもりだったよ。」
「相談するつもりだった・・・ってことは、しないのですか?」
女王の国の精鋭部隊だ、さらにゴーリラ戦士団長だ、無理を承知で受けてくれると思うのだが。
キリーは僕を見ながら「ああ、する必要が無くなった」と一言つぶやき、僕を指さしこう言ってきた。
「ナナミさんだよ!俺の攻撃を見切った、お前だ。自慢じゃないが俺はもともとランクは『B』しかも、当時は二つ名まで付いてた。腕は少し鈍ったが、今でも自信は揺るがない。そんな俺の攻撃を見切ったんだ、俺の代わりに戦えるだろ?」
なるほどね、罰というより事件解決に向けて全力で手伝ってくれって事か。
確かにクリスと近いが、リスクが違うな。でも、これが罰なら全力で受けよう。
「分かりました。もともとこれは私がしてしまって事への罰なのですから、その事件解決で許されるのであれば受けましょう。」
「・・・以外だな、もっとごねるかと思ったが?」
正直気乗りはしない、変に目立つこともしたくない。ただ、今ここで起こっていることは自分の撒いた種が原因だ、この事件はここで区切らないといけない。
僕が受けると返事をしたが、クリスが何も言ってこないのが気になる。彼女なら何だかんだと騒ぎそうだと思ったのだが・・・。
「ナナミさん、頼んだ手前こんなこと言うのもあれだが___」
「ギルマスーーー!!!!!」
キリーさんが話している途中でけたたましく扉がノックされる、叩き方が強いせいか扉の周りまで揺れていた。それだけでだいぶ慌てているのが分かる。
キリーさんは返事をするよりもすぐに扉まで走り、自ら開けて出迎えた。
そこに居たのは男性職員だった。息を切らしている所を見ると、ここまで駆け上がってきたのだろう。かなり緊急事態らしい、息も整わないうちに話そうとして何度かむせている。
その様子を見ていたクリスも素早く近くまで行き、話が聞き取れるところまで移動していた。こういう時は俊敏なんだよねあの子は。
ちなみに僕は座ったままだ、十分聞こえるからね。
「はーはー・・・大変です!また奴が現れました!」
『また奴』と言うことは、僕のターゲットになる相手かな?
キリーさんが職員を落ち着かせ、とにかく冷静になるよう言い聞かせ、詳しく話を聞き出した。
狙われたのは今朝威勢よく「ボアウルフを討伐」と言っていたパーティーのメンバーらしい。なんでも討伐に向かった先で待ち構えていたらしく、すぐに引き返したらしいが・・・転移魔法や上級の攻撃系の魔法を連発され逃げ切れなかったそうだ。
さらに、怪我している仲間を捕まえては殴る蹴るの暴行を加え、リーダーの首を刎ねて去っていた。残りのメンバーは、たまたま近くを通った子供冒険者達に見つけてもらえて助かったそうだ。それでもかなりの深手らしい。
「・・・。」
キリーさんもクリスも何も言わない。だが、二人は同じ気持ちなのだろう・・・あれだけ苛立ちを隠してないんだから。
そんな二人とは対照的に、僕は別の事を考えていた。
『孤高の魔女(偽物)』の使用していた魔法が気になる、話を聞く限りかなり強力な魔法をバンバン使っているようだが、一体どれほどの魔力を保有しているのか。
常人ならば大抵の場合、ほとんどが魔力切れを起こす使い方だ。国家魔術師とか魔法使いとか言われる人から比べても異常だ。出来る人は居るだろうが・・・使い切った後に相手をボコボコ殴るくらい動けるとは思えない、僕位の無尽蔵な魔力保有者なら問題ないだろう。
だが、もう一つの可能性がある。
『魔素』これを使えば問題ないだろう、だが・・・人間が使えるはずがない。魔王みたいな奴じゃない限り・・・。
「あの、そちらの方にお伺いしたいのですが・・・犯人の特徴は?それと・・・人間ですか?」
職員は「何言ってんだ?」という顔をしながら、キリーさんの方に確認を取ってから答えた。
「そいつの特徴は、使い古された大きなとんがり帽子に黒のローブを着ている、性別は女・・・だと思われる。身長は低い。武器にこれも古く使われていたような魔法の杖らしき物を持っている。・・・そして、間違いなく人間だ。」
ふーん、と悩む。
ちなみに、話を聞いている間も普通に腰かけていて職員さんの方は見ていない。失礼かもしれないが今は勘弁願おう。
しかし、人間か・・・魔素に当たって異形化していないみたいだし特徴が見当たらない、元々素質があったのか?たぶん冒険者を狙うには理由がある、こればかりは被害者の共通点を探さなければな。
それよりも魔法の方だ、詠唱短縮・・・は使っているか?破棄が使えれば相当な腕前だが・・・状況的には短縮の線が濃厚。魔力の節約もしてるだろう、してなければこれほど数が撃てない。しかし節約の方法は沢山あるからな・・・。
・・・古い杖?もしそれに女王石でも付いてるなら、それを使って節約と威力を上げている可能性があるが・・・あるいは待機呪文?いいや、これだけの事を全てやるのは僕じゃなきゃ無理だ。やはり女王石があれば・・・
「女王石なら、おそらく赤と青が付いてるぜ?目撃者が多数いるから間違いないだろ。」
「へっ?!どうして考えてることが?」
「ナナミ・・・口に出てましたわよ、何が『僕になら出来る』ですの?自慢ですの?」
「・・・どこから?」
「古い杖なら・・・、辺りからだな。というか、『僕』が素なんだな。」
ん~・・・!!!??!
恥ずかしい!やってしまった!!ついつい考えに熱中すると一人で喋り出す癖!しかもバレた!!一人称が『僕』ってバレた!!
ノーーーウ!!!サイアクだーーーー!!!
「・・・き、聞かなかったことにしてください・・・。」
消えたい・・・超消えたい、二人ともなんかメッチャニヤニヤしてるし!職員さんは笑い堪えてるし!
お前ら、さっきまでの怒りは何処へ行ったんだよ!僕の事は良いからそっちに集中しろ!!
「ふふふ、ナナミの仮面の下だけでなく本性まで見れましたわ!これは私の一番の宝もですわ!」
楽しそうだねクリス・・・。
「オッホン!『私』は少し外に行ってきます!一人でゆっくり調べたいので!クリス!このリストに書いてある日用品を買いだして来てください!!」
「うふふふっ、慌てふためくナナミも可愛いですわ。」
だー!もう五月蠅い!さっさと行こう!
速足で扉の前まで行ったが、出ていく前にキリーさんに呼び止められる。
「ナナミさんよ、さっきも言おうとしたことなんだが・・・聞いた通りだ奴は強い。だが、俺はアンタなら出来ると信じてる、生け捕りなんてしなくていい・・・存分にやってくれ。」
キリーさんの目は先ほどまでの茶化した感じでなく、冒険者の事を本気で守ろうとするギルドマスターとしての目になっていた。本当は自分が行きたいのだろう、無念を晴らしてやりたいのだろう、でもそれは出来ないと分かっている・・・だから誰かに託すのだ。
僕なんかで良いのか分からないが、託してくれるならそれに全力で答えるだけだ。
それに、『孤高の魔女』の名が凶悪な殺人鬼の方に負けるのはなんか釈然としない。元『孤高の魔女』としてそいつには負けられない。
「キリーさん、大丈夫ですよ。引き受けたからには最後まで頑張りますからそちらも頑張ってくださいね。あっ、クリス?私は調べるのに街を出ますから、帰りが遅くなるかもしれません。貴方も後方部隊の任務の話詳しく聞くのですよ?では、頑張ってくださいね。」
そう言って転移魔法を使い一気にこの街の外に出ていく、調べるなら今しがた起きたばかりの現場に向かうのが一番だ。
早く帰って、クリスからいろいろ聞かなくては、だいぶ予定が狂ってしまったが、犠牲が出ている以上早い方が良いだろう。
転移魔法を使った理由は、羞恥心のせいでさっさとこの場から離れたいと言う気持ちが強かったからなのは言うまでもない。
転移で街の城壁の外まで出た僕は気持ちを切り替え、今後の事を考えながら、一人で森の方へ歩いて行くのだった。
ナナミが去った後の部屋では、残されたクリスとキリーが話をしていた。
「さっきの職員には、ナナミさんのことは黙っておくように言っておいた。いきなり転移魔法とは・・・今は実用性が無いとか言って使う人が少ない魔法を使っているなんてな、いきなり使った時は久々に見たから驚いたよ。」
「ナナミは凄いんですわ、彼女なら敵もイチコロですわ!」
「・・・王女様、いえ、止めておこう。聞かねえって決めたしな。」
キリーは、何かを言いかけて黙った。クリスはその様子を見ていたが、反応はしない。
少し長い沈黙が続いた、静寂が続く部屋にポツリとクリスは小さく呟く。
「大丈夫ですわ・・・あの方なら。」
今滞在しているこの街は大きな城壁で囲まれている。
ここまで大きな理由は、かつて各国が戦争をしていた頃にこの街は戦いの最前線基地となっていたからだそうだ。籠城戦なども想定していたため頑丈に作られたのだが・・・活躍の機会は訪れなかった。
理由は一つ、この国の兵が強かったのだ。
厳しい環境で鍛え上げた肉体と精神力は、他の国を圧倒し寄せ付けなかった。
あまりに強すぎたため他の国はあっという間に白旗を上げ、和平を申し出てきたそうだ。
もちろん、今でもその圧倒的力を持つ兵は「戦士団」と名前を変えて現在でも存在している。
その戦士団を束ねている今代の戦士団団長は、数日後に迫った冒険者達と共同作戦の資料に目を通していた。
「ゴーリラ団長、先ほどから何度も資料を確認しているようですが。気になる事でも?」
そう質問てきたのは副団長の『ライーオ』
団員にしては珍しく見た目が優男で、顔つきもおっとりしている。年齢も30代位でゴーリラ程身長が高いわけではない170CMの後半くらいだろうか、屈強な身体の戦士が多い戦士団には居ないタイプである。
ちなみに、副団長はもう一人いる。
年齢はもう間もなく50代になる「コンド」だ。実力も経験もゴーリラより優れている、事実前任の戦士団団長だった男だ。年齢を理由に団長の座を降りて今はゴーリラが一人前になるまでの期間限定で、副団長の座に特別顧問みたいな役割で在籍している。
コンド自身は「我はもう身体が鈍ってしまった」が口癖だが、50代に近い年齢とは思えない身体をしており、戦士団でも未だにその力は健在だ。
現在そのコンドは王城の方で女王の護衛をしている、流石に最高戦力のすべてを作戦に投入は出来ない、女王をお守りするのも大事な仕事だ。それにコンドは多くの経験があるため、彼を残しておけば万が一があってもすぐに対応してくれるだろう。
「いや、なんでもありません・・・少々考え事をしていただけで。」
先ほどライーオからの質問に資料を眺めたまま答えるゴーリラ。
ライーオはそんな彼の姿を見て、何の考え事をしているかおおよそ理解した。正しくは、とある方が急に旅に出てしまった辺りから頻繁に見受けられるようになってたので、理解するというより「またか」という方が正しいだろう。
とある方とは、言わずもがなクリスティーナ王女である。
この二人は幼い頃からの知り合いで、俗に言う「幼馴染」と言う関係だ。子供の頃は王女様もかなりのお転婆で、男であるゴーリラを連れては遊びまわっていた。
しかし、ゴーリラの方が年が上なので早く学園に入ってしまい、王女も女王になるための勉学を始められてからはお互いに会う時間が少なくなった。
それから数年後・・・。王女様が学園は入ってからはさらに顔を合わせる機会もかなり少なくなったが、一年ほど経った時に転機が訪れる。ゴーリラが歴代最年少の記録を打ち出して戦士団団長に任命されたのだ。
それからと言うと、事あるごとにクリスに説教と言う名目で会いに行き、護衛と言う名のデートをしたり、王女の剣術訓練と称して共に切磋琢磨していた。王女の方も嫌ではないらしく、常に口論しているのだが顔の表情が幸せ一杯になっていたり、公務に出る時は女王の母親を差し置いて戦士団長を自分の護衛に任命したりしていた。
女王陛下にコンドが苦言を申し上げた時もあったが、『しっかり仕事はこなしているのだから好きにさせなさい』と言う始末で事実上の公認カップルだった。
クリスティーナ王女様に婚約の話が出てこなかった理由は、すでに周りがこの二人の間に割って入るのは無理だと察していたからである。しかも二人の仲を女王陛下が認めていると言うのも大きく影響していた。
そんな二人だったのだ、王女様が学園を卒業した時には結婚も間近だと誰もが思っていたのだが・・・事件が起こったのは・・・王女様の卒業式での出来事。
ゴーリラは、卒業式の数日前に親しい人達にこう話していたと言う。
「クリスに・・・クリスティーナに、想いを告げようと思っている。」
多くの貴族の女性は卒業式のエスコート相手に将来を決めた男性と共に入場することが多い、もちろん居ない者は親や兄にエスコートされる。暗黙のルールではないが、自然とそうなるようになっていたのだ。
今回卒業される王女のエスコートは誰しもがゴーリラだろうと思っていた、事実彼が務めたのだが・・・しかしゴーリラはここ一番で『ヘタレ』てしまい、やらかしてしまった。
綺麗に着飾った彼女と共に入場する前に、王女クリスティーナに想いを告げようとしたのだが。
「ふんっ、お転婆王女がいつもこれだけお淑やかであれば、皆も安心できるのにな。」
「・・・なんですって・・・」
ゴーリラは想いを告げるすんでの所で言えなかった。むしろあまりにも綺麗だった王女に面と向かって言うのを躊躇ってしまい、この期に及んでいつもの調子でお小言を言って逃げてしまった。
入場のタイミングで言われたその言葉がクリスティーナの逆鱗に触れてしまい、「こんな時にまで言うこと?!」「もっと他に言うことがあるでしょ!」「どうしていつも貴方はそうなの!」と散々泣きわめきながら往復ビンタをゴーリラに食らわせた。
そんなやり取りをしたまま会場入りしてしまったので、顔はひどく何度も頬を強く叩かれたような跡があり、仕立てて服は皴になっている。エスコートされている王女様の目は涙の後で真っ赤になっており、ゴーリラは気まずそうにしていた。
誰もが、「何があったんだ?!」と思っただろう。卒業式に参加していた者達は騒然とし、女王も少し慌てた様子で二人を退室させるという前代未聞の出来事になってしまった。
その後、関係の方は多少修復されたみたいだが・・・ゴーリラが一歩踏め出せなくなり、王女の方はもう知らんとばかりに最近公には公表されていないが、お忍びで旅に出てしまったとか。
この街のへ来る前に偶然で王城で会えたようだが、危険な旅に行かないで欲しいと引き留めたらしいが、聞く耳を持ってもらえず・・・。
「ならばせめて俺を護衛として御供につけろ!俺が駄目ならライーオかコンドでも!」
「いりませんわ!!貴方や、戦士団よりもずっと優れた方がご一緒です!!必要ありませんわ!!」
こんなことを言われたらしい。
余計な話が長くなったが、要するに愛している者が遠くに行き不安になり、さらにはその愛しい人と旅を共にしているその者を妬む気持ちが複雑に折り重なり、何も手に着かない状況だと言うことだ。
「団長殿、とにかく今は目の前の事に集中してください。やることは沢山あります、この街に到着早々に耳にした噂の真相も突き止めなければなりません。」
「・・・分かってます、すみませんライーオ。考えても進みません、今は目の前の事を・・・ですね。」
気お取り直してくれたゴーリラを見ながら、ライーオは自分の弟を見ているようで自然と口元が優しく緩む、悩み多き年頃だが戦士団団長としてしっかりしてもらわなければ、自分はそれをしっかり支えなければと強く思うのだった。
そんなやり取りをして報告書など書類をまとめていると、少し慌てた様子の部下が報告をしに来た。
「失礼します、報告です!礼の噂の件ですが、関係ありそうな事件が近くの森で先ほど起こったとの話を衛兵から聞きました。被害者は冒険者のパーティー、一人が首を刎ねられ死亡、残るメンバーは全員ひどい傷を負い重傷です。」
その報告を聞くとすぐ彼らは動いた。
「現場は分かるか。」
「はっ!すでに街の衛兵に案内を頼んでおります。」
「ライーオは被害者の方へ聞き込みに行ってくれ、大規模作戦もあるがあまりにも被害が出過ぎている、ほっては置けない。冒険者と言うことだ、ギルドにも協力してもらえるように連絡を。」
そう言い終わる前に、ゴーリラは部屋を出て行ってしまった。
「頼もしいな、まったく何もない時はこちらが不安になるくらい落ち込んでいるのに。」
ライーオは元気になった団長殿の指示に従い、冒険者が担ぎ込まれたと聞いた教会施設へ向かった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。毎日投稿してる人って凄いですね。
なるべく2~3日で頑張りたいですが、遅くなる時は遅くなります。てか、有名作家さんとか人気作家さんとかじゃないんですから、もっとゆるゆるな感じで作成していきますのでよろしくお願いします。