交易の国へ 道中の街編 3
主人公が情緒不安定な奴に見えてしまう、そんな回です。
時間は少し戻り・・・ナナミがクリスの暴走を止めようと、地下に向かって走り出した頃。
先程、ナナミと対峙していたシンは、冒険者ギルドの二階の資料室に来ていた。
「・・・王女様がタイミング良く現れてくれて助かった。あの女・・・一体何者だ?気が緩んでいたとわ言え・・・あっさり俺の背後を取りやがった。しかも・・・俺の殺気を受けても動じることなく、むしろ向かい合ってきやがった。しかも、あの切り替えた瞬間の目はマジでヤバイ・・・あんな雰囲気は俺の師匠にそっくりだ。」
ナナミが、戦士団長のゴーリラから隠れた時の事を振り返り・・・にじみ出て来ていた冷や汗を拭った。
「戦士団から身を隠した行動から、王女様と一緒に居たアイツを不審に思い警戒したが・・・どうやらとんでもない女だって事が分かったな。まさに藪蛇になるところだった。あんな殺気を返されて、離れるタイミングが無くなったが・・・王女様が来てくれて助かった、感謝しないとな。」
実は、彼がナナミ達から離れる時に呟いた言葉は、自分が逃げれるタイミングが出来たことに対するものだったらしい、ナナミに対して言ったわけでは無ないようだ。
それから彼は資料室にある長椅子に腰を下ろし、気持ちを切り替えるためにゆっくりと息を吐いた。
そうしていると、やたらと下の方が騒がしいことに気が付く。思えば今日はいつもより沢山の冒険者が集まっているようだ。
この時間は人が集まり混雑するのは常なのだが、何か特別な事でもない限りこれだけ人が集まることは無い。
「討伐依頼でもあるのか?少ないが戦士団も来ているみたいだし、ここ最近遠征続きでここから離れてたから情報を集めてなかったな・・・あとで確認してみるか。とりあえず、用事を済ませてさっさと出ていこう。あの女は気を付けないとな、また鉢合わせるのはごめんだ。」
そう気持ちを新たにしたシンは、さっさと自分の用事を済ませるために、資料棚のある区画へ向かって行った。
場面は地下運動場に戻る。
僕は今、クリスと共に新人講習なるモノを受けている。あの後どうなったのかを簡単に説明すると。
クリスが手続きを終わらせ、満面の笑みで僕を迎える。当然クリスの暴走を注意したのだが、興奮状態の彼女は止まることを知らない。
受付の人に僕は受けない意志を伝えると、クリスが騒ぎ始め涙目で一緒に登録したいと訴えてきた。
半ば言い争いになっている僕達に、受付の人は対応に困っていたのだが。突然、ゴツイ禿の男性が現れヒートアップする僕達の間に割って入ってきた。
彼は普段、戦闘訓練の講師らしく、登録希望の新人の講義も担当している人だそうで騒ぎを聞きつけ見に来たら。
それでやり取りを見ていたら、クリスがあまりにも綺麗・・・じゃなくて可哀そうだから、僕も黙って講習を受けろと言ってきたのだ。
ひどい話だ、クリスが綺麗なのは認めるよ、美人だもんな。
講師の人が指示を出すと、受付の人も待ってましたと言わんばかりの速さで僕はあっという間に登録希望者の一覧に加えられ。逃げる間もなくクリスに捕まり、運動場に整列させられて今に至っている。
ふふふ、クリス後でどうなるか覚えとけよ?
さて、話は今現在の状況。
登録希望者は僕とクリスだけじゃなく。あどけない少年と、精悍な目つきの青年に、しっかりとした鎧装備を装着した少女が居た。
それぞれ14歳~17歳位の間に見える、意外と若い子が揃っているようだ。クリスだって19歳、年齢的にはほぼ大人だが・・・爆走暴走お転婆娘の精神年齢はこれ位の子達と丁度いいだろう。
僕は、今の身体の見た目は若そうだが元は27歳、今は300年生きているので比較にならないな。
そして、クリスの容姿に負けて僕を強制的に参加させた張本人が正面に立ち声を張り上げている。
「いいか!冒険者は常に危険と隣り合わせだ!それに仕事内容も様々だ!甘い考えでは食っていけない!泥臭く地べたを這いつくばってでも生きていく、それ以上の意思を持って欲しい!」
彼の名前は『レーリック』まだまだ若い23歳。
しかし、冒険者経歴は10年目になるそうで、依頼を受けていない時などはこうしてギルドの手伝いをしているそうだ。
若くして禿げているわけでは無いらしい。本人曰く、貫録を出すために剃っているのだそうだ。
もともと剣を主力として戦っていたそうだが、槍や斧と言った様々な武器も使うため、多くの武器の基本的な闘い方を教えることが出来ると言う。
現在彼女はおらず、絶賛募集中・・・だそうで。強くて美しい人が好みだとか・・・。
最後の方の情報は、明らかにクリスを意識して言っているようだった。
一時刻ほど経っただろうか。
ギルド全体の規則や決まり事、暗黙のルールや問題が起こった時の対処法など。これから必要な事だろうことを淡々と説明された。
すでにやる気のない僕は、この後の検査をどうやって掻い潜るか悩んでいてほとんど話を聞いていなかった。
そんな状態だったので、クリスに呼ばれていたみたいだが全然気が付かず。肩を叩かれようやく自分が呼ばれていることを知った。
「クリス、ごめんなさい。何でしょう?」
「もー、ここまで来たのですからもう諦めてください。レーリックさんがそれぞれの技量を見るそうですわ、順番に模擬試合をするみたいです。」
ん?そんな検査あったか?!どういうこと?
「適性検査の事だそうですわ。なんでも・・・それに合格すれば討伐依頼などを登録後すぐに受けられるそうです。不合格なら、初めは採取系などの依頼しか受けられず、戦闘訓練の講習を受けなければならないそうですわ。それから、この時の戦闘内容とこれからやる能力測定のデーターが、基準を満たしていればランクが『E』あるいは『D』からスタートすることが出来るそうですわよ。」
まさか適性検査って、戦闘が出来るかどうかってこと?!
想像してたのと違う、なんかこう筆記試験的なあれだと思ってたのに・・・。まさかの実践!関門が増えた。どうしようとか言ってられなくなってきた。
しかも!小説の物語で出てくるお決まりのパターンなのではないか?!危険度がさらに上がる!レッドゾーンだ!手加減、縛り?どうすれば良い?!僕は何をしてもアウトな気がする!僕の平穏な日常が遠のくような気がする!
「よーし!始めていくぞ。まずは少年からだ!」
心の中でメチャメチャ焦っている僕をよそに、無情にも検査は始まってしまった。
脇に居るクリスなんかは「Dランク目指しますわ」とか言っているが・・・もうどうでもいい。
「たぁー!!!!」
少年が気合いの声と共に上段から木剣を打ち込む。
その声を耳にして模擬戦闘の方に目を向ける。
少年は身長差も体格的にも不利な状況にも関わらず、臆することなく攻撃していった。それに、握り方や構えがしっかりしているのが見て取れる、剣士としての基本的なことは習っているみたいだ。
その後も少年が一方的に打ち込み、それをレーリックが受け止め少年の動きを見ている、先ほどまでの表情とは違いどんな相手でも真剣に向き合っている。
「基本はしっかりしているようだ、では今度はこちらが攻めよう!」
レーリックがそう言うと、攻勢が逆転。少年は何とか受け止めたり受け流ししたりしているが、顔には苦悶の表情が出始め、簡単に吹っ飛ばされてしまった。
「うん、なかなかいい守りだ!正直、もっと早く音を上げると思ったが・・・良く持ちこたえたな。合格だ!だが、まだまだ甘い所がある。無理に討伐依頼をせず、戦闘訓練をしっかり行うのも良いだろう。」
「ご指導、ありがとうございました!」
少年はどうやら合格らしい、まだまだ伸びしろは沢山あるからあの子は将来有望株だ。
礼儀正しく礼をし下がった少年に変わり、今度は鎧装備の少女が前に出て行った。
「次は君だね、かなりの装備だが・・・。」
「私はこれで大丈夫です、お願いいたします。」
前に出た彼女が手にした武器は大剣、もちろん木製の物だが。それでもかなりの重量がある。
「持てるのか?」と、青年が声を出したが、彼女は気にすることなく余裕に持って見せた。さらに一回、二回と振り回し、感触を確かめレーリックと向き合った。
青年は茫然とその様子を見ていたが、僕からすれば魔法の身体強化を使えば誰でもあんな芸当は出来ると思っていた。むしろ、身体強化の魔法は戦闘をする者達には必須の魔法と言って良いくらいだと思っていたのだが・・・。
少し不安になったので、隣に居るクリスに小声で聞いてみた。
「クリス?あの程度の身体強化の魔法って、戦闘職の人は皆使えますよね?」
「・・・あー。・・・ナナミからすれば、あの子の身体強化は『あの程度』で済んでしまいますのね。しかも、それが基本的な事だと思っていますわね?」
「私が知る限り、魔王戦争の時のことですが・・・皆さんあれ位普通でしたよ?」
「ナナミ、そこの時代と比べたら駄目ですわ。率直に申し上げますが・・・この時代では、それは違いますわ。みたところあの方の身体強化はゴーリラが使うモノに近い。あれだけ使いこなしていれば・・・おそらくですが上級クラス以上の能力になりますわ。」
僕は衝撃を受けた、衝撃過ぎて言葉が出なかった。
クリスが言うには、あの子がやっている身体強化の魔法は、王国の戦士団の中でもトップクラスの人間達がやっている事とに近いらしい。ゴーリラあたりがすることだそうだ。
たぶん、魔王戦争時代は魔王に対抗するために相当訓練したり、実践の経験も沢山積めた環境だったので、手練れが多かったのだろうとクリスは言った。
今は戦争も無く、大きな争いも無く、魔物との戦闘位しかない。長い時の間に衰退したのでは無いかと思われるが・・・それでも各国を代表する戦士や騎士や宮廷魔術師は、昔と変わらない強さを持っている・・・と思う。
僕はもうどうすれば良いのか分からなくなった。これ下手したら、僕が使う下級の魔法使っただけで凄いとか思われるんじゃない?何をやっても目立ちそうだ。
僕が頭を抱えてるのを見たクリスは、先ほどの僕がした質問の内容と、昨日僕に散々注意されてた事をようやく思い出したようで。今、自分がしたことを理解し、冷や汗を流しながらボソッと呟いた。
「ナナミ?あの・・・どうしましょうか?」
どうしましょうか?・・・本当に・・・ようやく思い出したみたいだな。
「クリス?ゴーリラ団長殿の件も含め、たっぷりお説教しますね。私は、貴方のお母様ほど優しくありませんから、覚悟していてください。」
あぁ、たぶん僕今スッゴイ般若顔してると思う。だってクリスカタカタ震えて涙目だもん。
そんなやり取りをしている間に、少女の検査は終わったみたいだ。
少年の時とは違い、余裕の表情でレーリックの話を聞いている。
「あの大剣をここまで扱うとは・・・正直驚いた。身体強化の魔法の使い方が慣れているみたいだし、能力検査にもよるが・・・Dランクスタートでも申し分ない力だよ。ただ、依頼を受ける時は十分注意することだ、自分の力を過信し過ぎないように。」
「はい、ありがとうございます。」
満足した様子も無く、淡々と返事を返し少女は列に戻ってくる。
その少女に対し、少年の方は「凄い!かっこいいです!」と言って尊敬の目で出迎えていた。男児たる者、そう思ってしまうのも仕方がない。カッコイイが全てにおいて優先されることもある。
僕も未だにカッコいい方が好きだ、武器とかね・・・。
それとは対照的に、青年の方は面白くなさそうな顔をしている。
彼女の実力を見て思う所でもあったのだろう。そんな表情ではあったが、レーリックに呼ばれ前に出る。
「君は見た限りでは相当腕に自信があるようだな、もしかして何かやっていたのかい?」
「俺は魔術師になるために学園に入っている。だからと言って接近戦が出来ないわけでは無いが、二つを使える強みとして遊撃の立ち位置で戦うことが多い。」
「なるほどな魔法学科の生徒だったのか、身体だけ見れば戦士学科の生徒に見えてるな。魔法学科の生徒とは思えないほどだ。」
「軟弱な奴らと一緒にしないでくれ、魔法は万能じゃない。自分自身を強くしなければ魔力も成長しないからな。」
やたらと饒舌に語っているな・・・。
確かに、己を鍛えることは魔力の底上げが出来るし、戦闘に出ながら魔法を使うことでより正確に魔法を使えるようになる。理にかなっていると言えるが、器用貧乏に陥りやすいので難しいところだ。
しかし、学生か・・・もしかしたらさっきの少女も学生だったりするのかな?
学園については全く分からない、関わることが一切なかった。卒業してきた子達に会ったことはあるが・・・特に何もなかった気がする。
普通に冒険者登録しに来るんだな、青年はもしかしたら卒業する年なのかな?だから前もって登録しに来たとか・・・てっ、そんな事考えてどうするんだ僕は。
「では、始めるぞ!」
青年の盛った武器は短剣、30CM~40CM位のエモノだ。
開始の合図とともに青年は一気に身体強化して素早く動く。
「あの方も、身体強化しましたわ。・・・ですが、見ても分かると思いますが。中級貴族と下級貴族の一部や、一般人で魔法が得意な人ならあれ位が普通ですわ。」
確かに、扱えている魔法量は先ほどの少女より少ないな。
こう見ると、青年はだいぶ実戦経験あるようだ。対峙している相手をしっかりと捉えて、攻撃のタイミングや出方を窺っている。
さらに、威力の弱い魔法で牽制したりして相手を翻弄している。まさにオールラウンダーって感じだが・・・魔法の威力が弱すぎる。ワザと下げているのかまでは分からないが・・・そこが気になる所だろうか。
「よし、もういいだろう。」
先ほどの少女の戦いは、クリスと話をしてみていなかったが、この青年のはじっくり見れた。
あれ位が『普通』だと言うことらしいが、僕は余計困ってしまった。
実は、そんなに力を抑えこんだことが無いのだ。常に生活を共にしていた魔族達は、正直人間と比べものにならない位基本スペックが違うのでこんなもんでは無かった。喧嘩の仲裁や下克上の阻止、さらには僕の事を知らない魔族からの挑戦状。それらを軽く魔法をぶっ放して終わらせていたのだが・・・それが今までしていた手加減と言う力を抑えた戦闘だった。全く参考に出来ない!!魔王戦争時代だって自重せずに戦ったことが多かったと思う、まぁ、多少はしてたような気がするが・・・そもそも僕自身暴走してたので良く覚えてない。
魔族相手に行っていた軽くぶっ放す位をここでやってみたらどうなるか・・・考えたくもない。
向こうでレーリックと青年が話しているのが見えているが、僕の頭の中ではどうしようかと考えるだけで頭がいっぱいだった。
するとクリスから一つ質問が飛んで来た。
「ナナミ?貴方の戦闘スタイルはどんな感じなのです?やはり魔法がメインの後方タイプですの?」
「え?あー・・・しいて言うなら、今彼が戦ったスタイルに近い・・・ですかね?」
「はっきりしませんわね。・・・分かりました、少しレーリック教官殿と相談してきますわ。」
「お待ちなさい!クリス?今の貴方は信用できません。何をするのか明確にして下さい。」
まーた何か言い始めたぞ?頼むからこれ以上僕を困らせないでください、お願いしますよクリスティーナ王女様。
僕の言葉はしっかりクリスに届いたようで、説明し始めた。
「簡単な事ですわ。ナナミの試験を免除してもらおうと思ったのです。おそらく、Fランクスタートになりますが、それでも既定の仕事をすればEランクにすぐ上がれますわ。」
・・・ふむ、まともな意見だ。
クリスからこんな提案をされるとは思わなかった。しかし、通るか?その願い。どう説明するの?
「さて!次はどちらかな?」
「その前に、レーリック教官殿・・・。お願いがありますわ。」
真剣な顔つきでクリスはレーリックの方へ向かう。
一歩出るたびに、クリスは王家の風格とオーラがにじみ出てきた。こんな所でそんな気合いを入れなくても・・・とも思ったが。どうやらかなりやる気みたいなので、手を出さないでおこう。
まぁ、任せるのも不安なのだ・・・先ほどまでのお転婆娘がいつ暴走しだすか分からない。
前に出てきたクリスの雰囲気が変わったことを、ここに居る皆が感じ取っただろう。先程までとはがらりと変わったクリス。無邪気にはしゃぐ姿は何処へ行ったのか、少年は息を飲み、少女は驚き、青年は驚愕の表情をしている。
レーリックはと言うと、顔を真っ赤にしてクリスを見ていた。分かりやすいなお前、確かにあんな綺麗で真剣な顔は、好意を持っている人からすれば見惚れるだろうけど。
目の前に居るレーリックの事など気にせず、彼の前まで歩き出る。
「あのお姉さんの雰囲気が変わりました。」
「驚いた、本性を隠していたのね。」
「おいおい、嘘だろ?どうなってんだよ。」
青年の反応が気になるが、クリスはどうやら良い方に誤解されているみたいだ。
「レーリック教官殿、お願いとは、私が無理やり参加させてしまったナナミのことで相談なのですわ。ナナミは少々事情がありまして、本来の力が出せませんの。ですから検査と能力測定を免除して頂きたいのです。」
クリスがそう言うと、僕を除く全員が反応し、僕の方を一斉に見る。
止めて、見ないで!クリスも小声で話せば良いのに、なんでわざわざデカい声で言っちゃうのかな。振り回されてばかりでもう疲れてきた。
レーリックが僕をジッと見て、何かを見定めようとしているのが分かる。おそらく身にまとっている魔力量を計ろうとしているのだろう。だが無駄だ、あまりにも膨大な量の為に常人では測ることは出来ない。
「なるほどな、確かに魔力量がハッキリしていない・・・だが、それを理由に免除は出来ない。これは大切な事なんだ。」
そう言われるのは分かってるし、どうせ駄目だろうと可能性を低く見ていた。
さぁ、どうしようか。身体強化せず魔法も使わないでやってみるか?ただ僕は接近戦を習ったことないし、使ったことはあるけどほぼ我流。ラノベ小説の主人公たちのように知らない武器を持ってもすぐに完璧に使いこなせない。
・・・その方が良いか?ど素人に見えるし、何より力を抑えるよりは楽だろう。
「そうなのですか・・・何か別の方法は有りませんか?今の彼女には荷が重すぎますわ。」
「なっ!クリスさん!そんな顔をしないで。・・・オッホン、そこまで言うなら・・・方法が無いわけではありません。」
おい、この男。クリスが少し涙目でしたからのぞき込んだ瞬間に態度変えやがったぞ!
そんなレーリックを見てた、新人3人もジト目になってんぞ!おい!いいのか?!そんな簡単に折れていいのか?!
「レーリック教官殿!あるのですわね!方法が!」
クリスはさらにレーリックに一歩近づき、顔も寄せた。
これにはレーリックも、少したじろいだが、間近に迫ったクリスに鼻の下を伸ばしまくっていた。
ジト目だった三人は、さらにジト目になり。鎧少女は軽蔑の眼差しに変わっていた。
「はい、今現在は特別講習と言っているのですが。昔はこの方法も良く使われていたみたいで、特殊な事情を持つ方向けの検査として今は行われています。ただ、ギルドマスターの許可が必要なんです。」
「ならそれでも構いませんわ!ぜひやらせてくださいませ!」
クリスがそう言った瞬間に、一瞬の出来事だったが・・・僕の中で何かが切れる音がした。
だーかーらー!!!!なんで僕の事なのにクリスが即決するの!!内容聞いて無いじゃん!!ギルドマスター関わってくるじゃん!!さっきの状況より悪くなってんじゃん!!
流石に僕の『怒』を抑えることが出来なくなり、周囲に空気が重く冷たく息苦しい重圧感が漏れ出してしまった。近くに居た少女と青年はいち早く気が付いて、少女が少年を抱え飛び跳ねるように距離を取った。
レーリックも気付いたようで、クリスをかばう様に立ち位置を変えて戦闘態勢を取った。
クリスは、まるで錆び付いたカラクリ人形のように、小刻みに震えながら少しづつ振り返った。その目に映ったのは・・・怒っていることを隠そうともしない僕の姿だ。
「クリス?私、言いましたよね?昨日の話し合いでも貴方・・・了承しましたよね?なのに・・・なぜ守れないのですか?慎重に行動できないのですか?冷静になり考えようとはしないのですか?ここの受付を勝手に済ませた時にも私は注意したはずです。それなのに・・・これはどういうことですか?なぜ講義内容を確認しないのですか?ギルドマスターが関わって来ると言うことはどういうことか分かりますか?なにより、なぜ私の意見を確認しないまま即決してしまうのですか? ・・・とても・・・不愉快です!」
一気にまくし立てた、最後なんかは本気の殺気を飛ばしてしまった。
レーリックも何とか立っているが、足がガク付き逃げ腰になっているが・・・何とか踏みとどまっている。距離を取っているはずの3人は、最後の殺気に充てられて震えている。
しかし僕が苛立って殺気を飛ばした瞬間、突然後ろからただならぬ気配を感じた。僕は瞬時に身体強化してその場から思いっきり地面を蹴って飛びのく。一瞬で移動してしまう「瞬歩」とか「縮地」とか言われてるモノを想像してもらえば分かりやすいかも知れない。
僕の元居た場所には大きなハルバードが振り下ろされ、轟音を出しながら建物が大きく揺れた。あれが直撃していたら・・・ただでは済まないだろう。
いきなり背後からの不意打ちとは、確実に仕留めようとしに来ていたな。
土煙が収まり、視界が良くなると・・・轟音と大きな揺れの震源地があらわになる。そこは地面が割れ、人が中に入れるくらいの大きさのクレーターが出来上がっていた。
その中から、大きなハルバードを担ぎ上げた男性が出てきた。
「完全に決まったはずの死角からの不意打だったはずなんだが・・・こりゃまたどうした。ありゃ新人冒険者なんかじゃ、避けれるもんでもねーんだけど?」
その男性は僕を睨みつける、その気迫に満ちた目は間違いなく僕を敵てして認識している。
突然の事だったので、僕の中に満ちていた怒りは一気に冷め・・・それと入れ替わるように目の前にいる相手に集中する。
男はクレーターから出て来て僕との距離を縮めてくる、近づいてくる相手に僕は構えはしないが自然体の状態で向かい合う。
一食触発の空気に、男は僕にこう切り出した。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
本当は自分勝手な所を表現したかったのですが・・・ただ単に短気な奴、となってしまったような気がします。
次回は少し遅くなるかもしれません、少し軌道修正を加えていこうと思います。
それから、今更ですが。評価とブックマークして頂きありがとうございます!
僕のような素人の作品で本当に申し訳ないのですが、これからも頑張りますので是非今後ともよろしくお願いします。