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交易の国へ 道中の街編 2

寒暖の差が激しいこの時期、皆さんどうお過ごしですか?

書きながら思ってたんです、街に着いて早々に事件を起こしてるから進行速度が超展開で超急転換なんだと。・・・どうかな?




 自分の行動のせいで、大きな誤解と間違った憶測をされているとは知らず、足早に門を通る僕ことナナミ。とりあえず今はしっかりクリスと話すために急いで宿へ向かっている。

 強引に引っ張られるクリスは、初めは戸惑ったものの、ナナミが強引に引っ張ってくれることに嬉しさを感じ、笑顔のままついていく。


 この街は王都とは違い、しっかり計画的に区画が整理されており、綺麗な街並みだ。一つ一つの作りは王都の城下町と似たような感じで統一性がある。交易の国へ向かう中継地点の為、魔道人形の荷馬車も多く見受けられるが、道幅も広くとられている分苦にならない。


 そんな街並みをズンズン進み、予定していた少しお高めの宿に到着した。

 下手に安い所に泊ると、安全面い不安があるので、安全を買う意味でもこう言うところにした方が良い。特に、女性だけの時はそうだ。さらに!見た目が良すぎる王女様には尚更だ!


 と言う訳で、早速チェックイン!ようやく着いた、やっとゴールだ!これで少しは安心できる。

 ここに入る時は、クリスに頼み自前の幻術魔法で、他人には髪の色がグレーに見えるようにしてもらった。人は髪の色が変わるだけでだいぶ印象は変わるもんだ。

 ちなみ同じ要領で門に居る兵士たちも誤魔化した、入り口で止められても困るからね。とにかく早いうちに変装道具を用意しなければ、魔法は便利でも万能ではない。大抵すぐにばれてしまうのだ。


 「そこそこ良い部屋ですわね、野宿よりは断然良いですが。」


 「クリス、路銀が無くなれば野宿の時でも食事が無くなりますよ?今のこの状況はかなりの贅沢です。それより、いろいろ話をしましょう。このままだと、思わぬ危険を呼び込む可能性もあります。まずお互いが出来る事、出来ない事、クリスがやってみたい事。話して行きましょう?」


 「ええ!もちろん。では、まずマジックバックについて!」


 「駄目です!」


 それからはお互いに話し合いに没頭した。

 国内ではクリスを知っている人は多いと思われるので、国外に出るまでは変装して欲しいこと。なるべく騒ぎには首を突っ込まず関わらない事と、一人で行動する時は危険な路地裏は行かない事と言った、僕からのお願いや。

 せっかくの旅なので有名な場所に行きたい、なるべく多くの人と話てその人達の生活を見たいとか。せっかくの機会だから冒険者として登録し、路銀を稼いでみたいとか。クリスの希望を聞いた。


 クリスは意外とすんなり僕の要望は聞いてくれた。お忍びで城下町に繰り出してた時の約束事と似たようなもんだと笑いながら言っていた。

 僕の方も概ね叶えてあげたいと思う、ていうかどうせ一人で突っ走って行ってしまうような気もするし、彼女なりの理由があるのだろうとは思っているから。

 ただし、冒険者は一緒にはなれない。クリス一人でなるなら良いのだが・・・。


 「折角ですし、ご一緒にやりましょうよ。まだ冒険者登録はしていないのでしょう?ならばいい機会ではありませんか!その方が何かと都合が良いと思いますわよ?」


 「ええっと、正直白状しますと。昔、魔法協会のギルドで冒険者ギルドでも行う、能力測定器の検査で・・・計測器を破壊させた経験がありまして。かなりの大騒ぎになり大変な目にあったんですよ。それ以来、避けているんです、冒険者に登録したことが無いのもその為でして。」


 わざわざ事件を起こすことは無いだろう、クリスだけ登録すれば問題ない。ただ、それでも能力は高いだろうから騒ぎになるだろうが。


 とりあえず、冒険者の事はいったん保留して細かい所の話をすることにした。

 だが、クリスは日頃から城下町に逃げ出してたこともあり、要点は抑えていたのだ。

 例えば、自分の事は必要以上に教えないとか、自分の身が危険になった時の対処法、知らない人にホイホイついて行かないとか。最後のなんかまるで子供に良く親が言い聞かせる様な事だが、これが意外と重要だ。特に容姿の良い女性なんかは、あの手この手を使い掻っ攫おうとする輩は多くいる。本当に、単純で基本的な事が重要になってくるのだ。


 話をしていて少し安心した、お転婆なところが役にたったみたいだが。調子に乗るとペラペラ喋るし、考えが疎かになる。注意は必要。

 でもまあ、あの女王陛下が送り出したってことは、ある程度は問題ないのだろう。今はテンションが上がっているから注意力が散漫になっているだけで、落ち着けば大丈夫なんだろう。

 ・・・ははは、ストッパー役を僕にさせるつもりだったのか。


 そうこう話していたら、いつの間にか日が沈み始めており、空が赤く染まっていた。だいぶ長く話し込んでいたようだ。


 いったん話し合いを区切り、昼から何も食べてなかったのでご飯を食べに行くことにした。ここの宿でも食べられるそうなのだが、クリスが外に行こうと言うのでその提案に乗ることにした。

 宿のご主人に、ここの街の名物料理を出しているお店を教えてもらいそこに向かう、同じ商業区画内にあるらしいのでそんなに離れていないんだとか。


 仕事が終わり、家へ帰宅する人やそのまま酒場に向かう人で通りは賑わっている。この時間からは飲食店が並ぶ区画は賑わいを見せるのだろう。

 飲食街まで来ると、クリスが目を光らせ「あれも美味しそう!」と言いながら、至る所のお店に目移りしている。あまりこう言う所には来たことが無いだろうから、存分に満喫させてあげるか。

 だが、しかし!ご主人オススメの『キノコたっぷり濃厚チーズグラタン』だけは譲れない。名前からして旨そうだ。

 

 今にも走りだしそうなクリスを抑えつつ、ようやく教えてもらったお店に入る。

 入店直後から店内に漂う濃厚な香り、これはなんだ?クリーミーなシチューの香りだ!茸の香りもしてきてすでに食欲をそそられる。・・・これだけでお腹いっぱいになりそうだ。

それもこれもこの身体が超低燃費だからすぐにお腹いっぱいになってしまう、それなのに意外と長時間活動が出来る。

 しかし、本当に美味しい物を前にすると、この体質が憎い!たくさん食べれない!無理に食べると気持ち悪くなる、くっ!つらい!


 そうは思いつつも、空いている席に腰かけてさっそく注文する。見た限り、まだそんなに人も居ないみたいでタイミングが良かった。




 食事後の感想は、大変満足だった。しかし、量が僕には多すぎたため半分残してしまった。セットで付いてきたパンも一口しか食べられなかった。そもそも量がおかしい!一人前が、まさか直径20CMはあっただろう、さらに深さが15CMもあるそこそこの大きさの鍋で出てきた。

 いや、働いている男性や冒険者達からすればむしろ少ないかも知れないが、この身体の僕からしたら多すぎる!これでも頑張った方だ。

 余ってしまった分は、クリスが平らげてくれたが・・・流石に多かったのか、現在苦しそうにお腹を抱えている。

 味は良かった絶品だった、今度食べる時は二人で分けて食べよう。


 来た時は大はしゃぎだった道も、帰りは美味しそうな匂いが胃袋を刺激して辛くなる道のりになってしまった。本当はどこかに寄りたかったのだが、二人で黙って宿に戻った。





 部屋に着いて、胃袋を落ち着かせている時の事である。


 「ナナミ?やっぱり私、貴方と一緒に冒険者をやりたいですわ。」 


 「・・・先ほども説明しましたが出来ません、クリスお一人で登録してください。登録したからと言って必ずパーティーに入る必要はありませんし、別に私と離れることは無いのですから気にする必要もないでしょう?」


 「私はナナミと一緒にやりたいのでわ、能力計測だってもしかしたら受けなくていい方法もあるかもしれません。明日、一緒にギルドへ行ってみましょうよ。」


 クリスはどうしても僕と一緒に登録したいらしい。別に構わないんだけど、計測があるからな・・・この長い年月の間に規則が変わってればもしかしたらだが。

 クリスがしつこくなり始めたら頑固で譲らなくなる。こうなってしまってはこちらが歩み寄る行かないだろう、とりあえずギルドに行くだけ行ってから決めよう。


 「私は見に行くだけで良ければ付いていきますよ。」


 「決まりですわ!そうと決まれば明日に備えて、今日は寝てしまいましょう!」


 そう言って布団の中に潜るクリス、まだ食べたモノが残っていると思うのだが、スヤスヤ眠り始めた。


 「・・・早いですね。落ち着いたら私も寝ますか。」


 話足りない事もあったのだが、それは明日でも良いだろう。一番気になってた事はお互いに確認できたし、あの感じならあまり過保護になる必要も無さそうだ。ただし、クリスの気分が高まってる時は、目を離せないことに変わりはないが。


 胃袋が落ち着くまでの間に、買いたい物のをリストアップしたり、手荷物の整理をしたりとしていたらいい具合に眠気がやってきた。明日の準備を済ませ僕も布団で眠りに就く。

 明日は急ぐ要は無いし、昼近くまでゆっくり寝ていよう・・・。





 早朝、日が顔を出し始め鳥たちが心地よい囀りをし始めた。

 早くも朝の仕込みで仕事をしている者や、職場へ向かう人々が現れる。だが、大抵の人はまだ微睡の中に居るはずの時間帯に・・・僕は突然起こされた。


 「朝ですわ!!さっ、起きなさいナナミ!出かけますわよ!」


 目をギラギラさせているクリスがそこには居た。鬱陶しい・・・。


 「こんな朝早く、ギルドは開いていませんよ?と言うか、もう少し寝かせてください。」


 「えー!そうなんですの?てっきり朝早くから開いているものだとばかり・・・。では!朝の散策へ行ってきますわ!冒険者ギルドも、朝の七刻目までには開くと思います。それまでにナナミも来てください、ギルドの前で待ってますわ!」


 そう言って、クリスは足早に出て行ってしまった。

 ちなみにクリスの言っていた『朝の七刻目』とは単純に『朝七時』と言う意味だ、時間に関することは故郷と大差ない・・・と思う。

 詳しく調べてないので大きな違いが、もしかしたらあるかもしれないのだが。どうも僕の探求心がそちらに向かないので調べてない。そこに時間を費やす位なら、魔法の研究に費やした方が良いと思うくらいである。

 この世界の時間はこうなのだ、それに合わせられればそれで良いのだ。


 「七刻目?そんなに早く、あと二時刻位しかない。・・・もっと寝ていたい、でもクリスを一人にする訳にもいかない。」


 まだ重い瞼を何とか持ち上げ、何とか布団から出る。

 ここから冒険者ギルドまではそんなに離れていない、だが身支度を済ませないと・・・なんだかんだと時間が掛かるのだ。もう慣れてしまったが、初めの時なんかはかなり酷かった。

 

 顔を洗い、歯を磨き、長い髪を櫛で流す。

 化粧はほぼしていない、この世界の化粧品は高級品で庶民にはなかなか手に入れずらい。ファンデーション?だったか?顔全体に薄く延ばすあれ、おしろいとも呼ばれてるあれ。他にもあるみたいだが、庶民の味方はこれ位しか無い。僕が使っているのもそれだけだ。

 この身体の良い所は、常に最高の状態を維持することだ。肌のキメやハリなんかもそうだし、しっとりしてモチモチだ。本当はしなくても良いんだろうが、この身体になってまだ間もない頃だったか。

初めの頃なんかは全然分からないので、化粧をしたことが無く研究所の女性から非難の嵐を受けた。お願いしてないのにやり方を教えて下さり、そのおかげで少しは出来るようになったが・・・化粧したら今度は元が良いんだから素材を生かせと非難された。

 それ以来、化粧を全くしていないと変に思われるので、簡単に済ませられてしつこくない感じに収まったのがファンデーションを塗るだけ。安価で手に入れられるので経済的にも良し。


 テキパキと準備し、長い髪を結わえる。

 結ぶ位置はだいたい毛先から40CMくらいの所だ。髪を結わえるのだけは、未だになかなか慣れない、思い切ってバッサリ切ったことがあるのだが・・・魔族達から批判を浴び、結局また伸ばすことになったのだ。

 その後、ポニテが良いだのツインテだのアップにするだの、僕の髪の事なのに魔族達が会議を始め、それで至った結論が・・・今の髪型だ。

 まぁ、難しい髪型を要求されなかっただけ良しとして、面倒だったので受け入れた。



 余計な話も混ざってしまったが、ここまで来ればようやく身支度は完了だ。

 後は荷物を入れるバックと、昨日書き出したリストを持ち部屋を出る。


 宿を出る時に、ご主人とあったので出かけることを伝える。食事はとるのかと確認されたが、昨日あれだけ食べたのだ、朝は食べなくて平気なので不要とだけ言って宿を出ていく。

 出た先ではすでに多くの人が出歩いており、各々の仕事に向かう人で賑わっていた。

 魔道人形の荷馬車も引っ切り無しに往来している、商品を卸している人たちの物だろうか、結構な数だ。


 冒険者ギルドの場所は、宿の主人に教えてもらったのでそちらの方向へ向かっている。

 街一番の大きな通りに面しているため、そこに出てしまえばすぐに分かるそうなのだが・・・朝の混雑のせいでなかなか目的の所までいけない。

 クリスはこんな状態で迷わず着けるのだろうか?と不安にもなったのだが、彼女なら大丈夫だろう・・・なんだかんだでフラッと現れるだろう。


 やっと大通りに出られたので辺りを見渡してみた。

 まず目に入ったのは、高さがさほど高くない時計塔だった。時刻は6:45分を指している、クリスの希望した時間になんとか間に合いそうだ。もっと早く着くかと思ったが、朝の混雑のせいで遅れてしまった。


 さらに見渡すと、五階建て位の高さはあり大きな倉庫にも見える重厚な建物が目に映った。考えるまでもなく、あれが目的地だろう。入り口付近には大きな看板が掲げられてるし、間違いないだろう。

 しかし・・・言われた通りすぐに分かったな、ここまで大きな建物だなんて。昨日は一直線に宿へ向かってたから見ていなかった。

 とりあえず、もうすぐ時間だし近くまで行ってみよう。クリスが来てるかもしれない。



 冒険者ギルド、ここの街にあるギルドは女王の国の中では王都に次いで大きいギルドだ。交易の国とも近く、王都にも近い丁度いい場所に存在している為、護衛依頼や配達依頼などが多い。魔物のも、この街周辺の村や集落に出現することが多く、討伐依頼も頻繁にある。その他、街の治安維持補佐の依頼や小さなトラブルの解決など多岐にわたる。

 このギルドがここまで大きい理由は、それだけ数多くの仕事があると言うことだ。


 大き目の入り口は今は解放されており、仕事をしに来た冒険者達の声が聞こえてきている。

 少し顔を出して中の様子を見て見ると、かなりの冒険者で賑わっていた。


 「今日はボアウルフの討伐か、腕が鳴るぜ」

 「なんだこりゃ、流石に金額が安いよ」

 「ねー、今日は休まない?さすがに連続で護衛依頼は辛い」

 「よーし!今日こそはキンキュー草を二束の目標を達成しよう!」


 屈強な体つきのおっさんや面妖な服を着ている女性、明らかに冒険者の装備ではない青年から大きな大人たちに混ざって小さな子供達の集団まで居る。顔ぶれは本当に様々だ、そしてかなりの人が居る。

 朝は仕事の確認をしに来ている人達が多いのだろう、それぞれ仲間内で集まって相談などもしている、一部の人達は依頼を受けないで魔物を狩に行くようだ。


 そんな光景を眺めながら中を確認していると、後ろから声を掛けられた。


 「お前は確か・・・ナナミさんだったか。こんな所で何をしているんだ?」


 聞き覚えのある声だ、確か昨日荷馬車の護衛をしていた冒険者パーティー『ハートエッジ』のリーダー、シンだったけ?

 まぁ、ここは冒険者ギルドの入り口。しかも朝の依頼確認の時間だ、現れたとしてもおかしくは無いだろう。だが、一人のようだな。


 「おはようございます、シンさんでしたね。昨日はありがとうございました。」


 「いや、大したことはしていない。ギルドに用事か?」


 「いえ、私は用はないのですが。クリスとここで待ち合わせをしているのですよ。彼女、冒険者に登録したいそうで、不安なので付き添うことにしたのです。」


 そう言うと、シンは納得した表情になったが「なんでクリスの方?」と納得していない顔をした。

 いや、僕も気持ちは分かるよ。


 「シンさんは依頼の確認ですか?昨日に続き、モックさんの帰りの護衛でも受けるのですか?」


 「いや、モックさんは帰る時は滅多な事が無い限り護衛は付けない。荷物も無いから魔物も強盗も寄り付かないからな。今日はメンバー全員休暇だよ、俺は少し用があったから来ただけだ。」


 そう言いながら、中に入って行くシン。


 「どうした、入らないのか?」


 「外で待っていますよ、この中で待ってても、小さい私はクリスに見つけてもらえません。」


 中へ行こうと促されたが、こんな慣れていない環境でこの人ごみ。申し訳ないが遠慮したい。

 僕が断ると、一度中に入りかけたシンが戻ってきた。

 なんだ?と思っていると僕の隣に陣取る、そしておもむろに小物入れから一冊の本を取り出し読み始めた。その様子に困惑していた僕に気付いたのか、目線をこちらに向けてきた。


 「俺も一緒に待ってやる、それと・・・気を付けた方が良い。冒険者の中には非常識な奴も多い、アンタのような奴がここで一人で居たら何をされるか分からない。慣れてないなら尚更そいつらの獲物になりやすい。」


 気を使ってくれたようで、目つきがキツ過ぎて台無しになっているが、良い人のようだ。

 しかし、それってクリスの容姿なら余計危険だったって事かな?早めに来ておいて正解だった。でも、シンに言われたように自分も気を付けなければ。こう言う些細なことでも気を付けられれば、面倒事もより回避できるようになる!

 ふむ、良いことに気付かせてもらえた。ありがとう!シンさん




 シンさんとそんなやり取りをし、時間になるまで待っていたのだが・・・クリスが来ない。

 既に時刻は七の刻を少し過ぎている・・・あのクリスが時間に遅れるとは思えない。あんだけ楽しみにしていた冒険者ギルドだ、もう来ていてもおかしくないはず。

 まさか、何かあったか?良からぬ輩に絡まれてたり、事件に巻き込まれてたり・・・はたまた素性がバレて面倒なことになっていたり!


 そんな感じで不安が大きくなり探しに行こうか悩んでいた時、僕はとある気配を感じ取りとっさにシンさんの背中の方へ身を隠してしまった。

 今僕が居る目の前の大通りを、そこそこのスピードで数台の騎乗型魔道人形が通過していった。その通過して行った魔道人形のうちの一つに騎乗していた人物が・・・女王の国 戦士団団長のゴーリラだったのだ。

 別に隠れる必要は無かったかもしれないが、もう会うことも無いだろうと思っていたので気配を感じ取った時に驚いてしまい行動してしまった。

 

 その集団の鎧には、戦士団のシンボルマークが彫られており全員が正規の戦士団であることが見て取れる。

 大通りで目立っているに、さらに国一番の兵隊である戦士団とあっては人々から注目の的だ。足早に去っていくその集団を、行きかう人々は皆見ている。


 すでに通り過ぎており、隠れなくても良くなっているのだが・・・僕はそんな事も忘れて考え込んでいた。なぜ戦士団がこの街に居るのか、5人程度の小隊で何が目的か、ゴーリラ戦士団長自ら動く理由はなにか。

 そこにシンさんから声が掛かる。


 「おい、もう隠れなくてもいいだろ?」


 「こ、これは失礼。ごめんなさい、突然・・・」


 思わずしどろもどろしてしまった僕だが、彼の眼を見た瞬間にスイッチを切り替える。

 それは抑えることのない殺気、研ぎ澄まされた眼光は獲物に襲い掛かる鷹のようだ。読んでいた本はすでに手元にはない、本を持っていたはずの手は、威嚇する蛇のように待機している。

 

 「ごめんなさいナナミ、ちょっと遅れてしまいました。まさか彼がこの街に来てるなんて思わなくて・・・って、どうしました?決闘でも始めますの?」


 お互いに睨み合いをしている所に、クリスが現れた。

 するとシンの殺気が収まり、足早にギルドの中へ入って行った。

 去り際に「あの方に助けられたな」と呟いていたが、これはどうやらクリスの正体に気付いているみたいだな。僕は誘拐犯として間違わられたんだろうか?戦士団から慌てて隠れちゃったから・・・もしかしたらそう思われたのかも。

 誤解されたままなのも嫌だが、不必要に喋ってしまうのもマズイ。ギルドに来る機会もあまり無いだろうし、彼に会う機会もそんなに多くないだろう。・・・よし、放置!


 「あの、ナナミ。先程の方は確か、昨日知り合った冒険者のシンさんですわよね?」


 「そうですよ、今日はお休みなんだそうですが、確認したい事があるそうでいらしたみたいですよ?それより!なぜ遅れたのですか?何かあったのですか?」


 「えっ?!あ・・・その思いのほか道に迷ってしまい、それから・・・ゴーリラに見つかりそうになって。」


 最後の方、なんだかかなり小声になって聞きずらいが、どうやら団長殿が関係しているらしい。

 手をモジモジさせて目線は泳ぎ落ち着きがない、しきりに周りを気にしている様子から察するに、どうやら何かあるようだ。


 「とにかく、ここだと詳しく話が聞けないようですから、それについては宿に戻った時にでも聞きましょう。ほら、登録するのでしょう?中に入ってください。」


 「ええ!そうでしたわ!楽しみですわ!」


 黄色い声を上げながら入るもんだから、多くの冒険者達の視線がクリスへ向く。

 おいおい、お約束のイベントが起きそうで嫌なんだが。頼むから勘弁してくれよ?

 僕の不安の気持なんか一ミリも知らないクリスは、まさにお上りさん状態で室内を見ている。さらに受付を見つけるや否や、ダッシュで向かって行った。


 「私!冒険者登録をしたいのですわ!あの子と一緒に!!」


 そうそう、冒険者登録ね。

 ・・・おい、君が指さしている『あの子』とは、僕の事かい?


 「登録希望の方ですね?それでしたら、適正検査及び能力計測を行いますので、地下運動場脇にある受付へまずは行ってください。」


 「そうでしたか、ありがとうございますわ!行きますわよ、ナナミ!」


 誰かあの暴走娘を止めてくれー!僕にストッパー役なんて無理だぜ女王陛下!

 ていうか、昨日僕が話したこと覚えてないのか?!駄目だって言ったじゃん、やらないって言ったじゃん!クリスのあほー!

 だが待て、まだ大丈夫だ。受付に行く前にしっかり言いつければ!


 「クリス!少し落ち着きなさい、私は登録しないとあれほど言いましたよね?!」


 「あ、あの。・・・お連れの方は既に向かわれたようですが。」


 受付のお姉さんが申し訳なさそうにそう言ってきた。

 あのお転婆娘!あっという間に行ってしまったのか!急いで追いかけねば!


 受付のお姉さんに場所を教えてもらい、急いで後を追いかける。既にクリスが通ったであろう方向は冒険者達が道を開け譲っていた。僕もその道を使わせてもらおう。

 譲ってくれている者達から、軽く茶化されたりしたが気にしてはいられない、全部無視だ!このままクリスを暴走させていては何をしでかすか全く予想できない。


 ようやく地下運動場とやらに到着した。お転婆娘はどこだ?

 見渡したら、手を振っているクリスが見えた。満面の笑みだ、クリスはこの顔になっている時はだいたいの物事が終わっている。


 どうやら、遅かったようだ。







ここまで読んで頂きありがとうございます。

次回は少し遅れるかも知れません、そしてかなりご都合主義な展開になると思います。

それでも良ければお付き合いくださいませ。

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