試練
「はいこれで体操の半分です」
「はあはあはあはあ・・・やってやったぞ」
半分の第五までやり終えた
結果は三人とも生存だ
「ふう・・・確かにきついな」
「ちょうどいい具合に体が温まる」
二人はまだ余裕そうだ
一方アレンは肩で息をしながら顔は満身創痍のそれだ
僕は普通にやれている。おそらく超人の力もあるだろうけど・・・
「さてでは続き行きますよ」
村長さんの顔が引きつった
「今ので半分じゃねえのか?」
「はい、今のが体操の半分です」
「さっきは運動と言っていたな。あとは何がある」
カサンドラさんは余裕そうな表情だ。息も乱れていない。どうやって鍛えてきたかはわからないけど村で一番強いっていうのは納得だ
「体操は全部で十。普通ならそれを三セットですが、半分なので一セットと今やった半分が体操です」
「ふむ。体操以外もあるんだろう?」
「はい。まあでもあとは走るだけですね。そうですね・・・ここから一番近い湖までを二往復しましょう」
おそらくそれが六キロだと思う。感覚だけど・・・
「な、なるほど。タカキが条件を出した理由がわかったぜ・・・」
「では始めますよ」
アレンはまだ立っている。僕よりも基礎体力が高かったからだ、多分あとは気合で乗り切れるはず
「・・・」
アレンの亡骸がころがっている
十セットこなした後、音もなく倒れていった
「これは・・・きついな」
「ああ、なかなかだ」
村長は膝に手をつき、カサンドラさんはようやく汗をかき始めた
初めてでここまでできるなら普通に化け物だと思うけどな・・・
やっぱりカサンドラさんが対人戦に慣れていなかったから勝てたんだろうな
あとは異能力の差だ
「では走りましょうか。一往復している間にアレンも目を覚ますでしょう。華蓮起きたら走れって言っといて」
「・・・休ませてあげないの?」
「あーじゃあ僕が休んでた時間くらいで休ませてあげようか。起きなかったら水かけて。じゃ行ってくる」
「鬼ね」
華蓮。それは僕も思う。だけど命を懸けるならこれくらいはしないといけないんだ
僕と二人は湖まで走りだした
「タカキがあそこまで強いのには納得がいったぜ」
「なかなかにいい運動だが・・・最後までやり切る自信はないな」
そりゃ全部やり切られたら特戦の名がなくよ
「僕もちゃんとやり切るまで結構かかりました。いろいろイレギュラーもありましたけど・・・」
有栖の防具事件。あれは本当にきつかった
なぜあれだけのことをこなせたのかついぞわからな・・・待てよ、華蓮が知ってるはずだ
ここまで来て教えてくれないなんてことないだろうしあとで聞いておこう
「はじめてで一セットこなせるなんてすごいですよ」
「タカキはどれほどでこなせるようになったんだ?」
「三か月ですね。もともと全く体力がなかったのでそこまで苦労しました。初めてで体操を一セットこなしたジンには脱帽ですね」
以前はちょっと走ってちょっと筋トレするくらいだったもんな。しかも文明が発達した生活の中で
生きるために森で暮らし、狩りをして生活しているこの人たちとは比べものにならないくらい怠惰な生活だった
時代が経つにつれて人間の体力が落ちていく理由がわかったよ
「そこまでのものか・・・タカキにも弱い時代があったのだな。そうか、人間ではあったか」
カサンドラさん僕のことどう思ってたんだ
確かに今の僕は自分でも人間の枠は超えていると思うけど・・・でもこれじゃ足りないんだよな
体操をしている時間はないし、異能力を伸ばしていくしかないか
超人を持ってからまだ一月、全く心を開いてくれる気配がない
体は段違いで強くなったけどそれだけだ、あいつのような力は使えない
どんな力を使っていたのかくらい知っておけばよかった
「ところでタカキは中から来たと言っていたな」
「はい。信じられないと思いますが」
「いや、信じるさ。で?中はどういったものなんだ、少し興味がある」
「お前まで旅についていくとは言わねえよな!?」
村長が狼狽えている・・・大切な人が離れていくんだ寂しいんだろうな
「行くのならこんな話は旅の途中に聞く。行かないから聞きたいんだ、タカキの暮らした世界のことをな」
「そ、そうか。ならいいんだが・・・。んなら俺もきくかな」
「いいですよ。そうですね・・・ではイズモ様に話したことから・・・
僕らは談笑しながら走り続けた
湖についてまた村に切り返す
半分を過ぎようとしたころアレンがこっちに向かって走っ・・・ふらふらと歩いてきていた
「あいつ大丈夫か?」
「最初はあれでいいんですよ。走らなくても最後までやり切ることが大事なんだと指導してくれた人に教わりました」
タツマ隊長の意志はまだ僕の中で生きている
・・・そして生かされたこの身。死なずに目標を達成しなければならない
「そうか、タカキに・・・一度会ってみたいものだな」
「そうですね。カサンドラさんなら気に入られるかもしれませんよ」
言えない。でも言わなくてもいい、きっと中に来ることはないから・・・
「アレン、お前大丈夫か?」
「え?ああ、親父平気だよ」
顔色は・・・そこまで悪くはない。さすがは野生児といったところか
でも倒れないかちょっと心配だ・・・あ
戦闘服の迷彩のせいでわかりにくかったけど華蓮が隠れながら様子を見てくれているようだ
目があったからありがとうとだけ伝えておいた。口パクだけど華蓮ならわかるはず
(鬼)
そんなこと念話しなくてもいいよ・・・




