水汲み
夢を見た
巨大な黒い塊
聞けば震え上がる咆哮
青い光
濁る碧
「忘れないで」
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「また変な夢だ」
目が覚めて起き上が・・・れない
昨日寝た時と全く同じ体勢で僕の体は華蓮の両腕でがっちり固定されている
さて、どうしたもんか
後ろからは寝息が聞こえる。まだ夢の中のみたいだ
「華蓮ー起きてー・・・で起きたら世話無いか」
睡眠の邪魔したらまた腰をへし折れるかと思うほど締められる
僕が離れればすぐ起きるくせに何で呼びかけで起きてくんないんだよ
・・・脇でもくすぐってみるか
そっと後ろに手を持っていく
ここが肩だからもう少し下・・・
むに
!?
「ん・・・」
・・・危ない。折れるとこだった。起きてないよね・・・
少し反応を待ったけど起きる様子はない。もう一度だ
今度はもっと下・・・届かなくないかこれ
鼻でもつまんで・・・完全に背中に埋もれてる。無理
どうしようもないな
いっそ揉みしだいてやろうか・・・やめとこう。殺される
はあ、まだ暗いしもうちょっとゆっくりしよう。こんな朝早くにやれることないし
・・・今日何やることは
まずは村長にイズモ様との話を伝える。五日後にこの村を立つこと、そのための物資を用意してもらう。対価は・・・立つまでの間狩りを手伝うってことでどうにかなんないかな
交渉、ユンファにやってもらおうかな。僕は逃げよう
いや、多分ダメか。
それから・・・ああ、お菓子の作ってみようと思ってたんだ
くらいかなあ。用意できるものも少ないし、できることもほとんどない
中にいたら地図とか必要な装備揃えられるんだけど
地図か・・・今だにここがどの大陸かもどの国だったのかもわからないんだよな
大戦前の地図があったとしてここまで地形が変わってしまっていたら意味がない
・・・測量の技術とかないよなあ。そういう加護あるのかな、村長に聞いてみよう
あと・・・は思いつかないな。こんなベットの上からじゃこのくらいしか思い浮かばないや
「おーい華蓮さんやー。起きてけろー」
・・・返事がない。姫は熟睡中のようだ
「ユンファが起きてきてくれればなあ・・・いたたたた」
急に締め付けが強くなった。寝ぼけてるのか力加減が容赦ない
「うううううう・・・」
なんか唸ってるし変な夢でも見てるんだろうな・・・
「華蓮、痛いから起きて」
超人がなかったら確実に折れてるよこれ・・・
「ん・・・おはよ」
「おはよ」
締め付けられていた腰が解放される。軽い
起き上がって座ったらまた華蓮がくっついてきた
「なに」
「・・・?」
まだ寝ぼけてるなこれ。目もほとんど開いてない
・・・
「起きてるでしょ」
「・・・」
またベットに寝ころんで寝息を立て始めた
うーん・・・まいっか
とりあえず顔洗いに行こう。ついでに水汲んでこよ、どうせ顔洗うのに使うだろうし
昨日アレンが持ってきてくれていた水桶をもって部屋を出る
「あ、タカキおはよう」
「おはよ、ユンファ」
ちょうどユンファも起きてきたみたいだ
「まだ暗いのに今日はどうしたの?」
「いえ・・・あの、早めに目が覚めたのよ」
歯切れ悪そうに話すユンファの目は泳いでいる
「なんか隠してる?」
「いえ?何も?あ、今から水汲みに行くのよね?私もついていくわ」
・・・うーん。様子がおかしい
でも別に大事じゃなさそうだしなあ
「わかった。一緒にいこっか」
「私も行くわ」
「っひ!」
気配もなく後ろに立っていたのは華蓮だった
「やっぱり起きてたんじゃん」
「今起きた。行くわよ」
・・・何言っても聞かなそうだしそういうことにしとこ
「ジンは?」
「いびきかきながらお腹出して寝てるわよ」
・・・うーん。
「じゃあ汲んでくるのジンの分だけでいいか」
ジンが起きるのは大抵朝日が昇ってからだ。日の出までまだ時間があるし帰ってきても寝てるだろう
僕らは村の人に迷惑がかからないよう、静かに宿の外に出る
昨日は漁から帰ってくる人がいたけど今日はいない。宴の後だからかみんな休んでるんだろう。みんなお酒飲んでたし
村の入り口に向かうとすでにキキとダインが待機していた
「さすがに乗せてくれないよね」
その証拠に目すら合わせてくれない。昨日乗せてもらえただけでも良しとしよう
そういえばオオカミたちに着けられる鞍ほしかったんだ。これも聞いておこう
まあ朝のちょっとした運動にはちょうどいい。いつも通り僕は走ることにした
湖から戻るとちょうどジンが起きて部屋から出るところだった
「おはよう、ジン」
「ん、おう。おはよ。みんないねえと思ったら顔洗いに行ってたのか」
「うん。水汲んできたから顔洗いな」
「お、あんがと」
まだ眠気眼のままだ。ほんの数分前に起きたんだろう
水桶を受け取るまで目をこすっていた
さて、いつもなら食事の準備をするんだけど・・・どうしようか
昨日のクマまだ余ってそうだったしそれで済ませられるならそうしよう
できなかったら自分たちで狩ってくればいいしね
「とりあえずアレンが来るまで待とうか」
昨日ほとんど村にいなかったし案内と化してくれるだろう・・・そんなに大きくないんだったこの村
トイレとかは夜に聞いたし、特に聞くこともなさそうだな
ここに滞在するのも五日だけだし、そこまで知る必要もないか




