宴
村人の騒ぐ声は外からも聞こえたけど中に入ると比べものにならないほど賑やかだった
踊ってる人もいるし、あれは皮で作った太鼓かな。それに木や貝殻を加工した笛を吹いている人もいる
料理は全部一緒の机に置かれていた。バイキング方式みたいだ
一人こっそり食べようとしてカサンドラさんの手刀をくらっていた
みんな楽しそうにしている
巨大クマ。カカマクはそれほど村人にとって脅威だったんだろう
恐怖から解放された喜びもあるんだ
「みんな楽しそうだ」
「宴の時はいつもこんな感じらしいわ」
みんなでどんちゃん騒ぎするなんていつぶりだろう・・・
僕もこの一か月の頑張りに自分自身を労って存分に楽しもう
村長を探して歩いていると、村長席だと思っていた場所に陣取っているのを見つけた
ジンもユンファも一緒だ
「お、やっときたな!主役がいねえと始まんねえ、待ちわびたぜ」
主役って・・・カカマクを狩ってきたのはオオカミたちなんだけどな
「ほれこっちに寄れ!宴の音頭はタカキが取るんだからよ」
え、え、何で僕が!?
三人の方は笑ってるだけで何も言ってくれない。なんか嵌められた気持ちになった
飲み物の入った入れ物を持たされ、されるがまま村長の少し前に立つ
村人のみんなはそれを見て静かになった。みんな片手に飲み物を持っている
視線が痛い・・・
「僕音頭とかとったことないんですけど」
「んなもん適当でいい!一言でもいいからよ」
なんでもいいが一番困るんだけど!えーと・・・
「この村で飲み始めのときに言う言葉って何ですか?」
「ああ、乾杯だ」
そこは中と変わんないんだ・・・じゃあ
できるだけ大きな声で聞き取りやすいように・・・
「では、カカマク討伐を祝して・・・乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」
みんな一斉に中身がこぼれんばかりに入れ物を掲げる
それを合図にまたどんちゃん騒ぎが始まった
「なんだ、できんじゃねえか」
村長が背中をたたいた。一発が重い
三人はまだクスクス笑っている
「何で僕にやらせたのさ。こういうの一番向いてないのに・・・」
「そりゃタカキが俺らのリーダーだからな!」
「一番偉い人がとるのは当然よ?」
そんなこと初めて聞いたんですけど・・・やりたくないからって担ぎ上げたなこの人達
全然嬉しくない。逆に迷惑だ!
「さ!食べるわよ!」
華蓮は早速料理のほうに走って行った
とりあえず座って落ち着くことにしよう。華蓮に迫られてすぐだ少しくたびれた
渡された飲み物を見てみる。明かりが少なくて色は見えない。匂いは巨大ブドウのものだ
ぶどうジュースか。いただこう
「これ美味しいですね」
「だろう。村自慢の酒だ!」
なかなかに甘い。砂糖も使わずにここまでの甘さが出るものなんだ
もしかしたらいい具合にお菓子を作れるかも。五日の間に試してみよう
・・・ん?
「今なんと?」
「そいつは村自慢の酒でな。ウドゥラでできてんだ」
なるほど・・・あのブドウみたいなやつウドゥラって言うんだ。覚えておこう
・・・じゃなくて
「酒・・・ですか?」
「さっきからそう言ってるじゃねえか」
僕未成年なんですけど!!!!
「あははは!タカキの顔!ははは!」
「ジン・・・笑い事じゃないよ・・・」
この反応、絶対知ってたな・・・
「まあいいじゃない、どうせ法律なんてないんだし。楽しんだら?おいしいって言ってたし」
「ユンファまで・・・」
確かに法律はないけど・・・
「うーん・・・まあいっか。二人とも飲み過ぎないようにね」
「俺らは普通のジュースだぜ?」
「一口飲んだけどアルコールがきつくて無理だったわ」
・・・僕の事おもちゃだと思ってない?
楽しそうだしいいけどさ
「でもお酒って感じしないな・・・これもジュースなんじゃない?」
「嘘だろ?ちょっとくれ」
アルコールっぽくなかったし多分ジュースだ
ジンはためらいなく入れ物を傾けた
「ぶふっ!!!酒じゃねえか!!!」
派手に噴き出た液体が僕の顔面に直撃した
・・・
「あ、すまねえ。でもタカキが悪いんだからな!だまして飲まそうとするから!」
「ええ・・・でもほんとにお酒って感じしないんだけど」
飲んだことないからかな・・・もしかして味音痴になっちゃったとか
「なんだ?タカキはいける口か!んなら飲み比べするぞ!」
いや、さすがにそんなことしたら酔っぱらう。大衆のなかでみっともない姿を見せるのは嫌だ
「あとで一試合するんですよね?だったら飲まないほうがいいと思いますよ?」
「ははは・・・なら飲まねえとな。ほらグッといけ、俺がついでやる」
この人僕だけ酔わす方向に切り替えたな・・・
「では、今からやりましょう」
なら酔う前にやるだけだ
立ち上がろうとして肩を抑えられた
「いや、すまねえ。飲み比べはなしだ」
潔よすぎる
よし。これで普通に楽しめる
・・・いや。試合もなくせないかな・・・
「なに?もうやるの?」
華蓮が両手いっぱい、口いっぱいにして戻ってきた
「行儀が悪い」
「ごめん」
料理は僕の分も持ってきてくれたようで僕の前にも置いてくれた
華蓮に言われてはなしにはできないな。それに料理も持ってきてくれたし
「村長さん、いつからにしましょう」
「あ、ああーとりあえずアレンとやってくれ、そのあとカサンドラ。んで俺はカサンドラより下だから俺のは・・・」
「逃がすと思います?」
「だよな・・・」
最初から逃げる気だったな、この人
言い始めたのは村長だ。責任取ってもらおう
尊厳は守らないといけないか。ほどほどにしよ




