新生活
目が覚めて二週間経過した
僕らは少しずつ川に沿って障壁の反対方向へ移動している
行軍した時とは違って本当にゆっくりだ
食事は何とかなっている
やはり森の中。食べられるものはいくらでもある
「タカキこれ食べてみろ」
もっぱら僕は毒見役だ
超人の体は毒が効かない。感じはするから判別ができる
存在価値を見出せてすごくうれしい
「これ、果物かな?」
ここには見たことない植物や動物が多く存在する
障壁とはまるで別世界だ
ジンに渡されたのは青色の硬い皮の中に緑の果実が入った果実のようなものだ
ブドウのような見た目だけどリンゴと同じくらい大きい
一口食べてみた
「これ、すごく甘いよ。ブドウに近いかな」
「ほんとか!?俺にも一口」
食いつきそうなジンを僕は「金縛り」にかけた
「遅効性のものかもしれないから食べるのは待ちなさい」
「っち、久しぶりの甘いのだったのによ」
ジンはすねながらもゆうことを聞いてくれた
「華蓮もだよ」
両手にブドウ(仮)をもってよだれを垂らしている華蓮にも注意した
「・・・わかったわよ」
華蓮も毒見をやったことがあるけど二日ほど吐いてしまうことがあったので辞めさせた
ずっと好物の甘いものを食べられてなかったから今すぐにかぶり付きそうだけど、あの苦しみを思い出したようだ
諦めて皮と木で作った背負い梯子のようなものに入れた
皮の加工はまだまだだけど何とか形になってきている
硬い木の上に巻いて緩衝材にするくらいはできてきた
色んな道具も試行錯誤しながら作ってはいるけど一朝一夕にはいかない。根気よくやろう
「しかし、思ったより食べられるものが多いわね。助かるんだけど」
飢え死にする心配がないのはいいことだ
それに気候もちょうどいい
でもそれは今だけだ。これからだんだん下がってくるだろう
折を見て住む場所を作ることにしている
その時の食事に関しては特に気にすることはない
千里眼で探して寒さに強い華蓮がとってくればいいだけだ
保存食を作る手立てがない今それが最善だと皆できめた
「どうする?今日はこの辺で野宿しようか?」
「もう少しだけ進みましょう」
「わかった」
華蓮とジンは食べ物探しに夢中だ。甘いものがどうしても欲しいらしい
「タカキの異能力はほんと便利ね。特に暗視はサバイバルにうってつけだし、共有できるなんて。無人島問題が出されたら迷わずあなたと答えるわ」
「それは光栄ですね」
それに超人のパワーもある
今華蓮に教えてもらってる気配を消す技を習得できれば僕も狩りに参加できる。少し楽しみだ
「あとどれくらいで森に終わりが来るのかな」
「そうねえ、一度山の上からでも見たほうがいいのかしら」
僕らが歩いている川岸の反対側にはどこまでも続く山脈がある
「もしかしたらあの向こうに何かあるかもしれないし」
「行ってみる価値はありそうだけどかなり距離があるし水が持たない可能性もあるからなあ」
意外と近くではあるけどそれでも数日はかかりそうだ。上るとなるとなおさら
「水の異能力もちが入ればどうにかなったのかも」
「革命軍に一人いたけど飲めたものじゃなかったわよ」
「だめだったか・・・」
なにか乗り物でもあれば体力を抑えられたかもしれないけどこの森を抜けるにはあの悪魔の乗り物が必要になってくる
二度とあんなものに乗りたくはない。逆に体力を持っていかれそうだ
「このまま進んでかなり近くになったら考えましょう」
「それがいいね」
初めのころの方針は四人で決めてたけど、今じゃ僕とユンファで決めている
華蓮は頭がいいほうだけど、どんどん野生に帰って行ってるからお頭が回っていない
今では獲物をとってきてくれている犬みたいなものだ。馬鹿にしているわけではないけど
「・・・待って。この先に大物がいる」
華蓮も感じ取ったようで同じ方向を見ている
千里眼の距離ぎりぎり。まだ十キロほど距離はあるけど警戒はしよう
ここまでの道筋で化け物じみた動物を数匹見てきた
全部僕でも倒せるものだったけど今回は群れだ
「見た目はオオカミみたいだけどサイくらいは大きい。・・・七匹はいる」
障壁の外の生物はことごとく大きい。ウサギがイノシシだ。一匹で二日はいける
「野営中に襲われたら厄介ね。ちょっと見てくるわ」
華蓮は一人で群れのほうに走って行った
まあ大丈夫だろう
「とりあえず進みましょうか」
「そうですね」
ジンはまだ食べものを探している
いつもこんな感じだ。特に心配していない
「オオカミって食べられるのかな」
「犬を食べていたっていうのは聞いたことあるけど」
「まあ華蓮が持ってきたら試してみようか」
狩り終わったらしれっと帰ってくる
食べれそうだったら担いで一人で返ってくるんだ
でも今日は違った
「何してんの・・・華蓮」
「覇気垂れ流して近づいたら降伏してお腹見せてきたのよ」
七匹全員連れてきた。一匹の上に乗って
「買いましょう!」
「返してきなさい」
この大きさのオオカミ七匹はちょっと手に余る
「大丈夫よ、狩りは自分でするし背中に乗せて走ってくれるらしいわよ」
「な、華蓮オオカミと会話できるの?」
「何でかわからないけど思念で意思疎通できるみたい!だからいいでしょ?」
思念で僕に話しかけてきたことはあったけどまさか動物と話せるとは
これも”獣”神の力の一端ってことなのか
「いいじゃない。足ができるのは助かるわ」
ジンはすでにすり寄っている。頭をなでられているオオカミは嫌そうな顔をしていない
「俺こいつに乗るよ」
「いいんじゃない?そのこジンのこと気に入ったみたいよ」
「ほんとか!じゃあよろしくな。お前の名前は今日からシルバーだ」
「ぼふ」
名前まで付けちゃったよ。みんな銀に近い毛並みだけど区別つくのかな
「まあいっか」
「よっし!じゃああんたは・・・今日からキキよ!」
「ぼふぼふ」
すでに乗っている一回り大きなキキが華蓮の僕となった
一匹のオオカミがユンファの前で座った
「ふふ、私の事気に入ってくれたみたいね。そうね・・・あなたはダインよ」
ユンファとダインは額を合わせている。木漏れ日も相まって幻想的な空間ができている
「じゃあ僕も・・・」
知らんぷりされている
近づこうとしたら吠えられて威嚇された
「・・・貴樹はダメだって言ってるわ」
華蓮が説得しようとしてみてくれたけどダメだった
また何か話してる
「・・・嫌な臭いがするんだって」
「臭いってこと?」
「おおむねそうらしいわ」
じゃあ僕だけ歩きか・・・
「異能力の訓練にいいじゃない。荷物くらいは持ってくれるみたいよ」
前向きに捉えることにした
「ひとまず今日はこの辺で野営しよう・・・ちょっと心にきた」
三人から憐みの目で見られた
僕も乗りたかった・・・




