心配
汚れもかなり落ちたような気がする。そろそろ上がろう
「ふう」
上がってみると華蓮が川に入ろうとしてた
二人も心配そうな顔をしてる
「タカキ、さすがに潜りすぎよ。ちょっとひやひやしたわ」
「え、そんなに潜ってた?」
「カレンがアワアワするぐらいにはな。もうちょっとで飛び込みそうだったぜ」
華蓮は力が抜けたみたいに戻って行った
三人で服を洗ってくれているみたいだ
心配するのはわかるけど・・・いや、普通の人間が長いこと潜ったら溺れたと思われても仕方ないか
川岸に向かって歩きだしたら華蓮が立ち上がってまたこっちに来た
「な、なに」
僕の顔に布投げつけてまた帰って行った
パンツだ
危ないまた川底に逆戻りするところだった
「ごめん、洗うの任せちゃって。あとは僕がするよ」
「いいのよ。こういうのは速くした方がいいでしょ。着るものがないと困るでしょうし」
「いつまでも半裸のままいられたら目のやり場に困るんだよ」
さっきは全裸にしたがったくせに
「薄いのは石で乾かしてるからもう少しで乾くと思うわ。匂いもちょっとはましになってるでしょう」
「うん、ありがとう。これから毎日洗えば落ちるか。でも痛むの早まりそうだな」
「そこなのよね。今毛皮なめしているんだけどいろいろと足りないからうまくいかないと思うわ。原始時代の人を心の底から尊敬したのは初めてよ」
ユンファって意外とサバイバル力が高いな
「ははは、できなかったら全裸かもな!あいたっ」
ジンが華蓮から手刀をくらった
さすがにそれはまずいよ
「体を隠す分にはできると思うからどうにかね。衛生面はまた考えましょう」
今の服が使い物にならなくなったころにはどうにか形になってることを祈ろう
まあ後二、三年は大丈夫かな
夜がきてから僕らは食事を済めせ、眠りについた
華蓮が暴れまわってるおかげで野生動物が寄ってこない
狩りの時は気配を消すからその時、動物たちは怯えだすんだろうな
いつ自分がどこから襲われるかわからないから
さて、いつか間眠りっぱなしだった僕は案の定眠れないわけだ
ちょっと散歩することにした
異能力の把握もやっておきたかったし
僕は少し離れたさっきの川岸に座って試すことにした
まずは最初から持ってる目の異能力。暴走した時の感覚を思い出すように使ってみる
「威圧眼」は相手がいないから無理
「金縛り」も相手がいないから無理
・・・・あれ?できることなくないか
あ。「千里眼」でどこまで見れるようになったか試してみよう
使ってみたけどそんなに変わらなかった。成長なし
やっぱり「威圧眼」と「金縛り」か。あ、あとは異能力を無効化したやつ
でも正体がわかんないんだよなあ
異能力も答えてくれないし・・・有栖・・・にはもう聞けないし
また突然現れたりしないかな・・・
後ろでガサっと何かが動く音が聞こえた
「千里眼」でも見た時は何もなかった
もしかしてほんとに有栖か!?
「暗視」を使って確認する
「華蓮・・・どうしたの?」
いたのは華蓮だった
「ちょっと眠れなくて」
「じゃあちょっと話そっか」
華蓮は僕の隣に座って頭を肩にあずけた
「膝枕しようか?」
「・・・さすがに石の上は痛いわ」
「確かに」
沈黙が続いた
何せ二週間もろくに話してなかったんだから何から話そうか迷ってるんだ
それに何を話したらダメなのかも
まあでもこれもこれで悪くない気がしている
「ここ、星きれいにみえるね」
「そうね」
「空気も全然違う」
「うん」
「まあちょっと不便ではあるけどね」
「・・・」
華蓮に触れている部分が暖かい
「心配した?」
「しないと思う?」
「だね」
言葉は少ないけど気まずくはない
もともと華蓮はこんな感じで、二人もずっとこんな感じだったから
虫の音が聞こえる。日本じゃないから何かはわかんないけど
「ねえ」
「なに?」
「辛くない?」
「平気だよ」
「そ」
少しずつゆっくりとこうやって言葉を交わすのは今も昔も変わらない
変わらないからこそ心地いい
「寂しかった?」
「そんなに。みんないたから」
自意識過剰だった
「そ、そっか」
「ううん、うそ」
「なんだよ・・・」
仕方なかったとしてもやっぱり罪悪感すごいなあ
一緒にいるって言ったのに
「貴樹」
「なに?」
「その、ごめんなさい。あの時黙って隠れちゃって」
断罪の時か
「ほんとに焦ったよ。あんなに怒りが湧いて溢れたの初めてだった」
世界が終わったって。そんな風に思ったもんな
「あの時隠れて見てたんだ」
「うん。ごめんなさい」
いつの間にか僕の腕は逃げられないようにがっしり掴まれている
にげないよ
「謝んなくてもいいよ。こうして生きてるんだし」
「怒ってないの?」
「ううん。怒ってる」
「・・・」
「ふふ、冗談」
思いっきり腕をつねられた。イタイ
「その。私がやらなきゃいけなかったのに。全部任せちゃって。それに西方の・・・」
「華蓮だけがやらないといけないことなんてないよ。それに隆則さん死んでない」
「え?」
そう。実際に僕もそう思ってた。殺すことにしか頭が回ってなかったから
「今思い返したら、光のところから戻る途中死体がなかったんだ」
「・・・もしかして」
「うん。父さんの「幻影」だろうね。暴走さえしてなかったら見破れたと思うけど」
「あのおっさんいないと思ってたけど、そっかさすがに来てるわよね」
父さんの「幻影」僕でも全開で使わないと見破れない
感触も血も全部本物だと錯覚しさせてしまうほどの異能力
有栖に言わせてみれば完全制御していると言っても過言ではないほどの異能力者
数に制限があるからあの場にいた全員ってわけじゃないだろうけど多分光にもかかってたんだろうな
「それでちょっとだけ救われた気がしたよ。たくさん殺したのには変わりはないけど、戦争だったんだ。仕方ない」
「その、ね。油断して断罪されそうになったのは本当。貴樹が叫んでくれなかったら多分消えてた」
「僕も宣言が終わる少し前に気づいたんだ。間に合ってホントよかった」
全部偶然で、奇跡が重なったからきっと救えたんだ。救われたんだ
「僕がこうして生きてるのも華蓮が生きている可能性を教えてくれた光のおかげなんだ」
「あいつ居たんだ。リーダーがおかしくなったのってあいつのだったのね」
華蓮は光の異能力を知っている。というか周知の事実か
「そういうことだね・・・全部光が悪いとは言えない。でも教えてくれたおかげで暴走は収まったし意識も僕に戻ってきた」
光のことは許してない。友達だとも思わない。でも教えてくれたことには感謝しよう
「あのまま光が何も言わずにいたら本当に何もなくなってただろうね。異能力がどんどん強まっていくの感じたから」
嘘だとは思ったけどそれでも異能力は揺らいだ。だから落ち着いたんだろうな
「あのまま続いてたら超人以外全員殺してたかもね・・・でもそんなことになるなら私が止めたわ」
「さすがに超人は殺せなかったと思う。でも、そうだね。そうなる可能性もあったかもね」
そう思うと寒気がしてくる。たぶん父さんも探し出して殺しかけた隆則さんさんも最後まで
「最後まで私が手を出さなかったから大勢死んだ・・・タツマもそうよね。あれは・・・私が殺したよなものだもの」
確かに隊長の死は止められたかもしれない
でも隊長のおかげで華蓮はこうして逃げてこられた
隊長じゃなくて華蓮が足止めしてたら、華蓮以外が外に出ることになってた
インシーさんの断罪が成功したのも華蓮が不意をついて抑え込んだからだ
・・・三人には悪いと思う。でも僕にはこれが最善だ。華蓮がいるから世界があるんだから
「もう、この話はやめよう。こうして僕らは生きてる。それでいい」
すすり泣く声が聞こえる。つかむ力もさっきより強い
・・・あの場に絶対悪なんて存在しなかった
あの戦争を起こしたのは全部、世界政府の秘密にある
あれだけの事をしてでも隠そうとしたこと・・・全く分からないけど今となっては知る由もない
もしも戻れたら、その時は最後まで突き止めよう。シェンさんとインシーさんのためにも
それから華蓮は黙った。落ち着きたいんだろう
いいさ、いくらでも待つよ
「ねえ貴樹」
少しして華蓮は口を開いた
「なに?」
「私が消えた時どう思った?」
「世界が終わったと思った」
「何よそれ」
ほんとなんだもの。嘘はついてない
華蓮が少し笑ったきがする。顔は見えないけどそう思った
「大切な人がこの世から消えたんだ。そう思うでしょ」
きっと誰もがそうだ
家族が目の前で殺されたとなると世界を呪う
「そっか・・・貴樹って私の事ほんと好きよね」
「え?好きだけど。どうしたの急に」
「私も好きよ」
ああ、嫌いになったらいなくなるってそう思ってるんだったっけ
「大丈夫だよ。僕は黙っていなくなったりしないから。それに嫌いになったりなんかしないよ」
絶対の約束にはできないけれどずっとそばにいるってそういう気持ちは変わらない
「・・・ばーか」
なんでだよ
ま、なんでもいいか。ちょっと元気が戻っている気がするし、よかった
「膝枕しなさい」
「さっき痛いって言ってなかった?」
「私は大丈夫よ、そんな軟じゃないもの」
ってことは僕の心配だったわけか。足が痛くなるって・・・
「じゃあ向こう戻ってしようよ。冷えるでしょ?」
「ここがいいの」
まったく、わがままなお姫様だ
僕は膝をあけた
頭をのせてすぐに寝息を立て始めた
・・・僕このまま?
でも最近ずっと不安で休めてなかったんだろうな
僕のせいでもあるわけだし仕方ない
華蓮の寝顔は完全に無防備だった。信頼してくれてる証拠だ
それに僕の膝はお気に入りらしいからね
満足してもらえるならいくらでもしてあげよう
僕は華蓮の頭をなでながら星を眺めることにした
今日は眠れないだろうな
足もつらく・・・・ないや。これも超人の力だろうな
なんだか僕の努力が全部こいつに持ってかれた感じがしてやるせない
華蓮と並べる力が手に入ったとはいえ使い方も馴染んでないし
宿主が変わった異能力がどうなるのかもわかんないしなあ
体が強くなってるってことは別に拒否されてる感じはしないし大丈夫か
こんな時有栖がいたらわかったかもしれないのにな
考えたって仕方ないか
今は四人で一緒に生き残ることが先決だな
ユンファのサバイバル能力もすごいし
体力自慢の華蓮も
なんでも切れるジンもいる
僕は・・・周辺見ることしかできないや
・・・もしかしてヒモ?
どうにかして存在価値を探していこう
明日もきっとどうにかなる。今日はもう寝・・・れないんだった
まあ、一日くらい大丈夫だ
かくして、僕らの外での生活が始まったのだった




