別れ
タツマさんが向かうのを見送った後、インシーさんは宣言を始めた
「世界を区切り、数十年もの間人類を閉じ込めた檻」
これは・・・いつもと違う・・・?
「人類の可能性を狭め、希望を忘れさせたその存在に罰を
神に変わり、我が剣にて断罪する」
インシーさんの手に光が集まってくる。障壁と同じ薄い青
「許されぬ罪に制裁を
この世すべての罪を裁き
この世すべての罪を背負うもの
我は神々の代弁者
遍く神の使い也
解放の器はここにある」
「「すべてを開く鍵」」
インシーさんの言葉が終わったとき
障壁は音を立て剝がれていき、数人通れるくらいの穴が開いた
・・・外が見える
「これもすぐに閉じてしまいます。早く外に」
確かに障壁はすでに修復されていっている
たださっきインシーさんの手に帯びていたものと同じような光がそれを遅らせていた
「インシーさん、さっきのは・・・」
「いずれ知るときが来ます。私もつい昨日知らされたのですよ」
「なにを・・・」
「タカキ、あなたは冷静になればちゃんとやるべきことがわかるはずです。あなたが大事なものを、大事な人を守り抜きたいならいつも冷静にいなさい」
「インシーさん・・・あなた・・・」
僕に笑いかけたその表情は、悲しみと慈愛に溢れえていた
「私はここに残って障壁が閉じるまで超人を足止めします。行ってください」
いや、違う。残るべきはインシーさんじゃない
「僕が残ります。インシーさんがいけばまた戻ってこられるはずです」
華蓮はいない今、守りたいものが多いのはインシーさんのほうだ
有栖には天津さんがついてる。心配ない
ジンもユンファさんもこのままインシーさんがいれば何とかなる
隊長はもう、死ぬ気だ
だったら僕も・・・
「タカキ、さっきの断罪ですが途中で中断されています」
「それは・・・・本当ですか。ええ。なら見ていてください」
インシーさんは隊長と戦っている超人に向けて手をかざした
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「一つだけ教えといてやるよ。依頼料もなしでいい」
「華蓮ちゃん。生きてるぞ」
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「・・・どうやら消滅まで持っていくのは難しいですね。なぜかはわかりませんが。いえ。きっとおそらく法則から外れてしまったからでしょう」
法則って・・・
さっきから何を言っているかわからないでも
今はあのことしか考えられない
「ですが、よしこれなら」
少し考え答えが出たみたいだ
そして宣言を始めた
「暴力の権化たるその凶行。死者を侮蔑するその行い」
タツマ隊長が僕たちの後ろの障壁に叩きつけられた
・・・息は。
超人がこっちを見た
だけどインシーさんはやめない
その額には汗が流れている。体も震えていた
「異能力によってもたらされるその蛮行の数々に天罰を」
超人がこっちに来ようと地面をける寸前”それ”は”彼女”は天から降ってきた
下敷きになり動けなくなった超人を見たインシーさんは笑みを見せた
「罰は異能力のは・・・譲渡。チャールズ・バトラ―からタカキに」
え、なにを・・・
直後、体に異変が起こった
熱が高まる。全身が痛い。脳が焼けそうだ
もう立ってられない
だけど、だけど。また会えたんだ、気絶するなら顔を見た後に・・・
「ごめんなさい貴樹。有栖がこうしなきゃって・・・」
はあ、また。会えた。今度こそダメだと、そう思ってた
でも、よかった・・・
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「カレン。行きなさい」
「わかってる。超人・・・の抜け殻はいいとしてまだ囲まれてるわよ」
超人を倒した革命軍一行だったが、囲まれているに変わりはない
そこには光速の姿もある
「大丈夫です。カーリア。一度だけ加速を、そのあと逃げてください」
「・・・いいえ。わ、私も残ります。リーダーが生きる可能性を捨てたくありません」
カーリアの覚悟は本物だった。彼女は頑固だ誰にも止められない
「そうですか・・・力強いですね。カーリアよろしくお願いします」
インシーは前を向く。徐々に集まりだしている敵を見つめた
「それじゃ、いくわ」
気絶した貴樹を背負い華蓮は後ろを向く
「はい。カレン、タカキを頼みます」
「ええ」
華蓮は穴をくぐろうとしてまた振り返った
「リーダー・・・お世話になりました。きっと生きてください」
「・・・ははは。善処します、ありがとうございました華蓮さん」
その後一切振り向くことなく外に出っていった
「皆さんも早く」
ユンファとジンはまだ残っていた
一緒にいた時間が長く、そして近くで世話になっていた最初期からのメンバーだ
それに二人は孤児で、父の姿を知らない
革命軍を率いる、彼の大きな背中と優しく頭をなでるその大きな手は彼女らにとってまさしく父のものであった
「・・・」
「いいのです。逃げなさい。そしてあの二人を頼みます」
「・・・はい」
二人は涙を堪え、穴をくぐった
背を見送るインシーもまた娘を見るような目をしている
「では、カーリア。あと少し付き合ってもらいますよ」
「はい、覚悟はできています」
インシーは笑う
この行く末を
可能性を
「はあ、まさかこんなことになるとは」
「なにか?」
「いえ、独り言です・・・もしかしたら聞いているかもしれませんが」
カーリアは不思議そうに見ている
まあそりゃそうだ
何を言ってるか、何が起きているのか、何が起こったのか、そしてこれから何が起こるのか
その可能性について”私”は彼女に何も話していないからね
さて、ここからは私の力が及ばない場所だ
あとはあの子が導いてくれることを信じようか
きっと、彼らはここまで来れるだろう
お膳立てはしたつもりだ
それまで少し休もうかな
この数年ろくに休んでなかったし
中の世界は・・・まあ大丈夫か、関係ないな
解放の時は近い・・・それはあの子たち次第か
今回は上手くいくといいな
気長に待とうとしよう
第二章「革命軍」終




