地獄の兆し
「よし、じゃあ訓練所で体力づくりするか」
全くできる様子がない異能力の制御はおいておいて今できることをやることにした
「わかった、私はここに残るね。ちゃんと「共有視」使うんだよ。距離の問題とか試してないでしょ」
そうだった。近くにいる人にしか使ってこなかったから失念してた
そういうのも訓練になりそう。有栖はよくこんなこと思いつくなあ。すごくありがたい
「うん。よろしくね」
僕と華蓮だけで訓練所に行くことになった。訓練所についても途切れる感じはなかったから何とかなりそう
と思ったけど意識しないと途切れそうだ。走ってる最中もしっかり意識しないといけない
「これ結構難しいな」
「まあ、続けていればできるようになるわよ」
華蓮も応援してくれてる。早くできるようになろう。少しでも華蓮に追いつくために
が、華蓮の異能力の圧に気おされて途切れてしまった
もう一度つなごうとしたけど有栖のほうはダメだった。かけるときは近くにいないと無理みたいだ
これも訓練してたらできるようになるのかな
こんなに多くの異能力を持っていたところで使いこなせなければ意味がない。まだまだ未熟だ
でも成長できる余地がこんなにもあるというのはやる気が上がる
全部制御できればきっと華蓮と並ぶことができる。時間はかかるけどやるしかない
華蓮はこのあとの天津さんとの稽古のために気を高めている。いつ見てもきれいな異能力だ
僕もあんな風に姿が変わったり・・・しないよな。使うの目だけだし
そんなこんな考えていたら、走り始めて二時間半が立っていた
二か月前の僕じゃこんなことできなかったな。ちょっとは成長できている
「華蓮、そろそろお昼にしようか」
「わかったわ」
「その程度で終わりか」
扉の方から声が聞こえた。全く気配がしなかった
「あんた・・・誰」
華蓮は異能力を使ったまま彼を見る
「それはこちらのセリフだが・・・まあいい」
それだけ言って訓練所から出て行った
ほんとに誰なんだ
革命軍のメンバーをまだ全員把握しきれてるわけじゃない。裏肩の人とかは特に
でも彼は裏方という感じはしなかった
インシーさんやローガンさんと同じ感じがした。つまり相当の実力者だろう
「襲撃の時あんな人いたっけ」
「いえ、見てないわ。あんなの一度見たら忘れないわよ」
華蓮も感じとったらしい
後ろを振り向いたらすぐそばに龍がいたって感じるような圧だ
虎とか熊ではない。空想上の生物がそこにいると錯覚するくらいすさまじい
「敵ではなさそうだし、インシーさんから紹介してもらえるかも。あとでいってみよう」
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昼食をとってからすぐ、僕たちはインシーさんのところに向かった
なぜか有栖も一緒だ。異能力はかけなおしてある
「いるわね。この先に」
「わかるんだ」
「一度見たら忘れないって言ったでしょ。超人と同じよ」
超人レベルの人が革命軍にいたのか。何で襲撃の時にいなかったんだろう
二十階の広間に行くと幹部メンバーが集まっていた
知らない人が数人いる。全員戦闘服だ
「おはようございます。皆さん」
「おはようございます、タカキ、カレン」
有栖には挨拶がなかった。また気配消してるなこの子は・・・いたずらっ娘め
「ちょうど迎えに行かせようとしてたんですよ。来てくれて助かりました」
「いえ、何せ彼が気になったものですから。特に華蓮が」
「おや、あっていたのですか」
「ああ、訓練所で遊んでいるところを見ていた」
遊んでませんけど?
「あはは、あまり厳しくしないであげてくださいね。この方はタツマ。各地に赴いて地下街の場所を調べて貰っていました」
「貴樹です」
「華蓮」
「うむ。結構」
革命軍の戦闘服を着たタツマと名乗る男は、身長は百七十そこそこ、ローガンさんほどではないけど体つきはかなりよさそうだ。黒髪をオールバックにしている。多分日本人だ
「私は革命軍地下街捜索部隊の隊長をしている。みなを守ってくれたようだな感謝する」
そういって頭を下げた。隊の皆さんも一緒に
「しかしほんとにこんな軟弱小僧が超人を撃退したのか?」
軟弱小僧・・・否定できない。でも小僧じゃ・・・あるか
「いえ、僕は何も。すべて華蓮が」
華蓮はタツマさんを物凄く睨んでいる。失礼だぞ
「ほう。正直で潔い。軟弱ではあるがいっぱしの男だな。いいぞインシーこいつは俺が育てよう」
「そうですか。それはよかった」
聞いてないです。インシーさん
「タカキは強くなろうとしていたようなので早速タツマに相談していたのですよ」
「強くなりたいならこいつにしごいてもらうのが一番いい」
勝手に話が進んでいる。なんだか嫌な予感がする。でも
「では、よろしくお願いします。タツマさん」
強くなれるのならなんだってやるって決めたんだ。何が起こるかわからないけど頑張ろう
隊員の皆さんが肩を叩いてくれた
「一緒に頑張ろうな!」
「とりあえず持ちこたえるんだ。そうすれば戦えるようになる」
「きついだろうけどがんばれよ」
「弱音はいても背中は押してやるからな」
・・・気が早かった気がする
「あの・・・やっぱ・・・
「よし、では捜索隊十五時第一訓練所に集合!遅れるな」
「は、はい」
「了!!」
隊員さんたちの声は完全にそろっていた
インシーさん達はうるさいと思いながらもニコニコしている
・・・・大丈夫かな
「あんまりいじめないで上げてね」
有栖が前に出てきた。有栖が言ってくれればちょっとは優しくなるかもしれない
またもや全員驚いていたけど僕も驚いた
タツマさんが五体投地している。え・・・
「はい、有栖様!」
尊敬というよりこれはもはや信仰の類だ
たぶんタツマさんの前には後光を背にした有栖が見えてるんじゃないか
でも、これは好感触
「しかし、いつ死ぬかもわからぬこの世界。生半可なものでは生きられるものも生きれませぬ!」
「んー貴樹が死んじゃうのは嫌だ。じゃあ一番きついのしてあげて!殺さないでね!」
「了!!」
無理だったそれどころか背中を押す形になった
・・・殺さないでねってなに?
華蓮にも助けを・・・
「そうね。強くなるなら教官は必要よね」
うんうんとうなずいている
味方は誰もいなかった
「それじゃお昼食べに行こっか」
「う、うん」
逃げ出そうかな・・・
昼食はほとんど喉を通らなかった




