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閉ざした世界に革命を。  作者: 凛月
第1章 「平和な世界」
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東方華蓮

 狐に化かされたかのように、南の端から東の端にある自宅まで転移させられてから、二時間ほど経っていた


 僕は帰ってきて制服をきたまま、学校の鞄を隣に置き、湯船につかりおそらく至福の表情を浮かべているであろう主人を、一枚の壁を背に待っている


 機嫌を損ねた日はいつもこれだ。そのせいでいくら正座をしても疲れなくなった


 門の前でドロップキックを受けたあと


「私は先に汗を流してくるから、お風呂の前で正座でもして待っていなさい」


 と言って風呂に入っていった彼女はまだ出てこない


 今日の彼女は相当ご立腹のようだ。いつもより長くなりそうな予感がする


 東方華蓮ひがしかたかれん。


 日本四大名家である東方家の令嬢である彼女は、世界でも3人しかいない特等級の異能力保持者だ


 


 異能力は人類、環境への影響力をもとに等級のよって区分されている


 殺傷能力をもった攻撃的な異能を主において説明するなら


 3等級であればほぼ無害、または影響なし


 準2等級クラスは軽度の傷害がまたは殺害が可能、それ相当の異能


 2等級は数十人単位の死傷が可能、それ相当の異能


 準1等級で単独テロ行為が可能、それ相当の異能


 1等級クラスになると都市の壊滅が可能、それ相当の異能


 特等級は大陸の消失、文明の崩壊が危惧される


 高田さんの「大火」は2等級


 鶫さんの「防壁」は準1等級


 ちなみに僕は2等級だ


 区分は二歳の誕生月にどうやってか政府から認定書みたいなのが届く


 どういうシステムになってるかは極秘だそうだ



 華蓮の異能力は「獣神」


 その名の通りこの異能力は人間の枠組みを越え、超常の存在に昇華する


 髪の一部が獣の耳のようにながれ、背には大きな羽が、腰には一本の長い尾


 それらは異能力によって生み出されるエネルギーにより、薄いオレンジ色に発光する


 大戦末期にいた同じような異能力者は、腕を振っただけで山岳が消滅したという


 華蓮はまだ齢十五の少女だけど異能力を使えば、ただ歩んだだけで地面にひびが入り、羽ばたいたのならガラスは割れ木は倒れ、その尾は鉄筋コンクリートの建物をも粉微塵にする


 本気になれば建物の2つや3つくらいなら一瞬で吹き飛ばせるはずだ


 いずれは、かつての異能力者に近いかそれ以上の力を手に入れるかもしれない


 そして、この異能は体内で生成し続けるエネルギーが自身の許容値を超えた場合、自身の意思とは関係なく自我を失い暴走してしまう


 不安定だった小さい頃の彼女はよく暴走し、それを止めるのが僕と兄の役目だった


 そういえば兄さんあの怪力を片手で止めてたな


 しかも、笑顔だったしちょっと怖かった


 ・・・お腹すいてきた。あと制服も早く脱ぎたい


「ねえ、まだ出ないの?」


 今華蓮は昼の間に溜まったエネルギーを少しずつ放出している


 一時的に姿を変えるだけでも力の抑制は可能だ


 今では僕の助力なしでも制御できている。大きくなったものだ。ちょっと感動する


「そうねー。あと一時間といったところかしらね」


 壁の向こうから、ではなく頭の中に直接華蓮の声が流れ込んでくる


 これも異能力の一端だ


 ・・・一時間かあ


「ちょっと暇だし何か面白い話でもしなさいよ」


 二時間ほど前とは違う、落ち着き払った華蓮の声が聞こえる


 これもまた能力を使っている時特有のものだ


 普段の華蓮はこんな声で話さない。もっと横暴で傲慢だ


 だけど絶対に言わない。怒るから


 落ち着き払っているとは言ったもの言動はいつもの華蓮と変わらない


 さて今日はとっておきの話題があるぞ


「んーじゃあ、今日来た転校生の話なんてどう?」


「ま、なんでもいいわ。聞かせて」


 聞かせて。と言ったときは大抵その話に興味を持った時だ


 なんでもいいなんてことはない。興味がない時は「違う話がいい」っていう


 この間は三回違う話がいいと言われた。話す身にもなって欲しいもんだ


 僕は放課後になるまでの転校生の話をした


 誰に話しかけられても何の反応もしない彼女の、ずっとうつむいたままの彼女の、まるで人形のような龍見有栖の話をした


「人形のみたい、ね。その子本当に人間なのかしらね」


「それはどういうこと?」


「そのままの意味よ。世界中で異能が発現してもう70年。私たちにとったら異能力なんて日常だけどさ、大戦以前はそんなのなかったんでしょ?だったら、それまで隠れてた人間以外の何かが人間に交じって暮らしてても不思議じゃないじゃない。ほらあんたが好きなUMAとかさ」


 確かになあ、でもほんとにいたとして龍見さんは目立ち過ぎじゃないかな


 ばれたらどうなるか・・・想像もしたくない


 でも・・・人外か・・・


「私みたいに、半分人外みたいなのもいる。それにすべての異能力を管理しきれているわけでもない、いまだに得体のしれない異能力も存在してるんじゃない?」


「だから、龍見さんが本当は人間じゃないかもしれないって?」


 うーん、人外だとしたら何に当てはまるんだろ


 白い肌と濁った眼・・・ゾンビ?・・・あの夕方の姿を見ると吸血鬼の線もあるか


 ・・・吸血鬼ねえ


「・・・冗談。そのこ体調悪そうだったんでしょ?ただの人間よ」


「だね」


 少し気落ちした声が頭に流れ込んできた


 華蓮は自分が持った異能力の辛さを語り合える人がいない


 特等級の異能力者は二人とも海外だし、高い地位にいる


 あったことすらないし、会うのも至難の業だ


 人間じゃない存在。であれば対等に話すこともできると思う


 期待してるんだ、どこかにいることを


 僕じゃ力になれないのがほんとに悔しい

 


 そのあとも他愛のない話をしながら、彼女が放出を終えるのをまった

 


 彼女があと一時間と言ってから、一時間と三十分たったときようやく浴室の扉が開いた


 すっきりした顔で出てきた華蓮に着替えるからさっさと出ていけと言わんばかりににらまれた


 理不尽だ


 まあ思春期の女の子の着替えを隣で待つのは人としてどうかと思ったので、脱衣所を出てその場でまた座った


 もちろん正座である


 華蓮の力になりたい。それは本心だ


 だけど僕は日が落ちてからの龍見有栖のことを話すことがどうしても出来なかった


 僕が見た金色に輝く髪と暗闇に光る血のように赤い瞳は、どう考えても人間のものではない


 華蓮がこの話を聞けば必ず興味を持ち会いたがるだろう



 でも、龍見有栖はどこか危険に思えた



 彼女自身ではなく、彼女を取り巻く得体のしれない何か・・・さっきなんとく感じた


 華蓮は僕の護衛対象だ。危険にさらすわけにはいかない


 力不足でただのお目付け役であることはわかってるけど、それでも近衛の任だ。守らないといけない


 それに僕にはまた別に華蓮を守りたい理由がある


 華蓮が浴室から出てから数分が立ち、ジャージを着て脱衣所から出てきた


 未だに正座を続ける僕を見つけ


「もう許してあげるわ。それにお腹すいた」


 仕方ないなと笑顔をみせる華蓮は僕に手を差し伸べ、僕はその手を借りる


 その一瞬はとても尊くて、幸せを感じるんだ


 だから僕はこの日常を守りたいと思う









 たとえ三時間もの時間を取られようと




 この後ご飯を作るのが僕であっても・・・

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