華蓮
「二人ともお疲れ様!」
リビングに飛ぶと有栖がお茶を用意して待ってくれていた
ソファに促されて僕らは座ってお茶をもらった
「ありがとう」
ここに来るのも久しぶりだ。二回しか来てないけどなんだか懐かしく思う
入れてくれた紅茶がすごくおいしい。有栖自慢の一品だ
「久しぶりにいっぱいお喋りしたいけど今日はゆっくり休んで。向こうの部屋よりくつろげるでしょ」
「うん、ありがとう。お言葉に甘えるよ」
有栖はうんうんと頷いた
「あ、そうだ!近衛の家に帰れないだろうから二人の荷物、空いてる部屋に運んであるからね!天津が!」
「ほんと!?」
華蓮の食いつきがすごかった
帰れないだろうなと思いつつ、大切なものとかいろいろ置きっぱなしだったからすごく助かった。さすが天津さん
「ほんとに助かったよ。有栖いろいろありがとう」
「お友達だもん当然よ!」
華蓮は早くつれて行ってと言わんばかりに有栖をせかした。僕も見たかったからついていくことにした
案内された部屋のドアを開けると僕の荷物があった
というかまんま僕の部屋がそこにあった。壁紙も広さも全部同じだ
これで確信した。拠点のあれはすべて天津さんの仕業なんだ
てことはこれ全部コピーか
「これは全部ほんとに持ってきたものだよ。今頃向こうの部屋はきれいさっぱりもぬけの殻だね」
コピーじゃなかった。全部本物だった
「ほかにも欲しいものあったら言ってね。とってくるから。天津が」
天津さんが使い倒されてる。それでも文句を言わないなんて従者の鏡だな。さすが天津さん
「ありがとう。何かあったら頼らせてもらうね」
「うん!じゃ、私はリビングに戻るね。今日は部屋で休むといいよ。王には言っておくから」
インシーさんを王って。僕も最初そう呼んでたけど、今は恐れ多い
「それから、今日は華蓮ちゃんといてあげて。んじゃ私は戻るね」
「わ、わかった」
なぜとは言わなかった。有栖が言うならそうしよう。華蓮がそれを望むかどうかわからないけど
答えはすぐに来た
「座って」
「わ、分かった」
とりあえず椅子に座った
「そっちじゃない」
床か。正座か
「ふざけてんの?」
華蓮はベットを指さした。僕は言われるがまま腰かけた
「そっち寄って」
「わかった」
なんとなくわかった気がする。こういう時華蓮がすること
僕は壁に背を付けて華蓮が頭を置きやすいように座ってふとももを開けた
「・・・わかってるなら最初からそうしてよ」
いや、わからなかったんだよ。ごめんね
華蓮はベットに乗って僕の太ももに頭を預けた
弱った時にする膝枕だ。今日は寝やすいようにふとももだけど
まだ二回目だからとっさに判断できなかった
華蓮はそれから何も言わなかった
僕も何も言わなかった。その代わりに頭をなでてあげた
お気に召したようで拒まれることはなかった
華蓮は今日初めて人を殺した。躊躇せず、一息に一撃で三人を
そのあと少し止まっていたのは思うところがあったのだろう
何を思っていたかはわからないけど華蓮がここまで弱るほどのことだったんだ
そのまま超人と戦って死にかけて
きっと僕以上につらかっただろう。比べるのもおこがましい。想像することすら・・・
「ねえ。」
「どうしたの?」
「今日の私・・・どうだった」
「どうって、なにが?」
「おかしくなかった?」
おかしくないと言えば噓になる。だって普段とは違うんだから
でも華蓮が聞きたいのはそういうことじゃないんだろうな
「私ね。何も感じなかったの」
「・・・なにを?」
わかってしまった気がした
「・・・ひとを殺しても・・・なんにも」
・・・
「何にも感じなかった。殺したって感触も、自覚も」
・・・・・・
「やるまではが抵抗あったの。殺すことはよくないって」
・・・・・・・・・
「でもそれもいつの間にか消えてて・・・殺すことに躊躇しなくなってた」
「今日のは三人殺した後すぐに引いていったからそこまでだったけど」
「多分、そのままそこに居たら全員殺してたと思う。あんたの姉さんまで」
「何にも感じなかったの。でもそれが怖かった」
「このままそれが普通になっちゃったら、もしかしたらッて」
太ももが濡れる
「もしかしたら、ほんとに・・・何に対してもそうなっちゃったらって」
肩が震え始めた
「味方が巻き込まれた後しても何も思わなくなったら・・・
あんたが・・・死んでも。何も・・・おもわなく・・なっちゃたら・・・っ
それっが・・・わたし・・・」
嗚咽が止まらない
「いや・・・なの。そうなりたくない」
華蓮が飛び起きて僕の顔を見た
「あんたはっ・・・」
目が真っ赤だった
顔は絶えず流れる涙でぐしょぐしょで
それでも涙を堪えようとしてでも止められなくて
自分じゃどうにもならないからって助けを求める華蓮がいる
なんて声を掛けたらいいかわからない
華蓮は僕の胸に顔をうずめる
「なんで・・・あんたが泣いてんのよ・・・」
いつのまにか僕は泣いていたらしい
胸元を濡らしていたのは僕のものだったらしい
それが何の涙なのか僕はわかっている
いつも約束を守れず
自分にかせた誓いも破り
そして彼女の願いすらもかなえられない
何もできない自分に対しての涙
「ごめん、何を言ってあげればいいのか僕にはわからない」
情けない、情けない、情けない
自分で自分を殺したいほど憎い
いつもいつもいつも
どうしてお前は守れない
今度は泣かせないと誓っただろう
なぜそれをすぐに破られる
「いくら考えても、華蓮の求める答えを出せないと思う」
守れないのに守るといって
口先だけで何もできない
それどころか
守りたい相手に守られて
支えなきゃいけないのに支えられて
彼女がそばにいるって
それだけで守れていると勘違いする大馬鹿野郎
「何とかしてあげたいって思ってる。それは本当なんだ」
何とかしてやると言って
なんともできていないじゃないか
華蓮のためと免罪符にして
結局は自分を守るしか能のないクズ野郎
「でも、今の僕なんかじゃ・・・僕なんかじゃ何もしてあげられない」
強くなるといったじゃないか
中途半端のクソ野郎
僕は僕が嫌いだ
「だから今はこうして胸を貸してあげることしかできない」
そんなことしかできない僕に華蓮の隣にいる資格なんてない
気づくと華蓮の肩の震えは止待っていた
嗚咽ももう聞こえない
ただ僕の胸の中にいるだけだった
「・・・そうね。そうよね・・・」
ぽつぽつとつぶやき始めた
「あんたにはわからないわよね」
ダメなんだ。もう・・・きっと。僕らは
「わかってるわよ。そんなことくらい」
でも違った
呆れているような、でも優しい口調で華蓮は言った
「それでいいの・・・私にはそれでいいの」
それでいいなんてそんなの・・・
「あんたがあんたがどうしようもなくヘタレってことくらいずっと前からわかってるわ」
「え・・・?」
華蓮はずっと顔を上げない
「のくせ、大事な場面で変に維持張ってどうにか私を助けようとしてかっこつけて
そのあと迷って悩んで落ち込んで。私を見つけて安心する。いつもそうじゃない」
ばれてたのか。全部
「けど・・・それでいいのよ。私だってあんたが近くにいるだけで安心できるし
弱いあんたを守りたいって思っただけで強くなろうって、どうにかして異能力を制御しようと頑張った・・・だけどね。今日はちょっと弱気になっちゃった」
華蓮は胸に顔をうずめたまま僕のことを抱きしめる
「私はね。こうしてあんたに泣きついて、全部吐き出せばきっと楽になれると思ったの」
「でも僕は何もできてない」
「それはわかってるって言ってるじゃない。私が勝手に満足して答えを出せればそれでいいのよ
だからあんたは黙って私の話を聞いて、頭をなでてくれればいいの。それだけで落ち着いて考えられるから」
「それでだけでいいなんて言いわけ・・・」
「しつこいわよ。いいって言ってるの。私のわがままを嫌な顔しないで聞いてくれるのなんてあなただけなのよ。消すはずがないじゃない。最初から答えは決まってるわ」
確かにわがままを聞くのは苦じゃない。むしろそれくらいが愛おしく感じる
「そうだったのか・・・」
勘違いしてた。あの日の、泣きついてきた華蓮を僕は守らなくちゃいけないってずっと思ってた
でも華蓮はもう立派に一人で歩けて自分のことは自分で守れるくらい強くなったんだ
華蓮は顔を上げた。顔は変わらずひどい有様だけど涙はもう消えている
「華蓮はまだまだ子供だと思ってたんだけどなあ」
「なによ。私がいないと何もできないくせに」
「あ、いや・・・否定はしない」
「この間なんてプルプル震えて私が手を握らないと覚悟決めれなかったでしょ」
「・・・おっしゃる通りで」
なにも言い返せない自分が情けない
「知ってるのよ。ずっと一緒にいたんだから。あんたはわかってなかったでしょうけど」
ぐうの音も出ない
「あんたが守ってるって思ってた子に守られてたなんて思ってなかったでしょう」
はい。守っている気になってました
「ふふ。でもそれが嬉しかった。馬鹿で、間抜けでどうしようもないほど勘違い野郎でもね」
「それはちょっとひどいと思います」
気づいたらいつもの調子に戻っていた
「だからね、もう守ろうなんて思わなくていいわ」
そっか。僕はもう用済みか
「これからは二人で並んで頑張って行かない?」
「僕は弱いから、華蓮になんてついていける気が・・・」
「そこは、「わかった。もっと強くなるよ」っていうところでしょうが」
「・・・うん。じゃあもっと頑張ってみる」
そうだったな。華蓮は一人にしないでって言ってたもんな
だったら追いついて、負けないくらいに強くなろう
「うん、よく言ったわ。弱虫なあんたにしては上出来よ」
口が悪いのは直してほしいなあ
「とりあえず、そうね・・・あの超人に怯まずにちゃんと立ち向かえるくらいには成ってもらうわ」
「ごめんなさい。無理です」
僕の腹に拳が入った
「ふう。すっきりした」
サンドバックの任からは解放してくれないみたいだ
「有栖に頼んでお風呂入らせてもらお」
華蓮はベットから降りてリビングのほうに向かった
「あ、その。いろいろ濡らしてごめんなさい」
「いいよこれくらい。慣れっこだから」
「・・・そ、私の後であんたも入りなさいよ。有栖に言っておいてあげるから」
そっか。答えは自分でか・・・
華蓮の成長は日に日に感じてはいたけど
僕は一番見てあげなくちゃいけなかったところ、見ないようにしてたんだなあ
これも僕の悪いところだ
直していかなくちゃ。すぐにはできなくても華蓮と一緒ならやっていける気がする
対チャールズは待ってほしいけど。でもそんなこと言ってる暇ないか
久しぶりに帰ってきた自分の部屋を見て回りながら感傷に浸っているとドアのほうで空いているのにノック音が聞こえた
「ちゃんと、泣かせてあげた?」
有栖だ
「うん。でも僕がいなくても立ち上がれたんじゃないかな」
「さすがの私でも、それは違うって思うけどなー」
わかってないな~なんて感じだった
「そうかな・・・そうだね。華蓮もいてくれてよかったって言ってくれてた」
「助け合いは大事だよ。ま、私が困ったときも助けてほしいな」
「当たり前でしょ。友達なんだから」
「ふふ、約束ね!」
固くユビキリをした
華蓮が上がってきたので僕もいただくことになった
この家の風呂は広い。拠点のお風呂に入れなくなりそうだ
有栖に言ったら毎日入らせてくれるかな・・・メンバーのみんなに悪い気もするけど
かなりリラックスできた気がする
そのあと有栖と一緒に夕食をとることにした
作る気力はなかったからお惣菜で済ますことになった。天津さんに感謝
そのあと革命軍での二か月間について有栖に話してあげた。といっても楽しかったものだけだ
有栖は嬉しそうに聞いていた
なんでもこの二か月天津さんとしか話していないらしい
学校は?と聞いたらあんまり言ってないと言っていた
僕がいなくなったってのが大きいらしいけど、一番は第一印象が悪すぎて友達ができなかったみたいだ
鶫さんは話しかけてくれたらしいけど大体そばに高田さんがいるから逃げている
そんな話に三人で笑いながら時間が過ぎていった
時間はもう二十一時に差し掛かっている
明日は何かすることがあるかもしれないからそろそろなることにした
久しぶりに自分のベットで寝られるということに喜びを感じていたら枕を持った華蓮が部屋に入ってきた
「今日くらいいいわよね」
まあ今日くらいなら一緒に寝てあげよう
狭くて窮屈だったけど寒い日にはちょうどいいぬくもりでいい夢が見られそうだ
華蓮はすぐに寝息を立て始めた。それを見て僕も限界がきたから眠ることにした
明日はどうなるかわからない
でも有栖の事を信じて何も起こらないことを願う
生き残れてほんとによかった




