救いの天使
今僕の目の前にはいるはずのない少女が自慢げに立っている
「何で有栖がここにいるんだ?」
「ふふん天津に飛ばしてもらったの」
もう何も言うまい。さすがです天津さん
「いや、何しに来たの・・・戦場だよここ」
なぜかチャールズはいない
「何ってお友達を助けるためよ!ピンチに駆けつけなくちゃ有栖の名がすたるわ」
「危ないじゃないか、現にさっきまで特等級の異能力者がいただろう」
「残念、私はその程度では止まらないよ」
すごく得意げに胸を張っている。かわいい
「でもちょっと力を使いすぎたや。血もらっていい?」
僕は何も言わずに腕を差し出した。結構持ってかれた気がした。さっきドバドバ出した後なんだけどな・・・
「うん!ありがと。貴樹の血って結構持つのよね。コスパがいいの」
「そりゃよかった」
華蓮からの視線が痛い。何も考えてないって
いつの間にか華蓮の傷も癒えている。有栖がやったんだろうか
「でれでれしてんじゃないわよ」
「あははは・・・」
どうやら顔に出ていたらしい。仕方ないだろ久しぶりの再会なんだから
「ところであいつはどこに?」
「あっちの方に吹き飛んでいったわ。有栖が来たと同時にね」
指さされた方には何も見えなかった。遠視してみると叩きつけられて気絶しているチャールズが見えた
「今のうちにここから逃げよう。あいつが起きたらどうなるかわからない」
「大丈夫!すれ違いざま大量に血を抜いてやったわ!でも特等級はしぶといわね抜ききれなかった」
地面を見ると真っ赤に染まっていた。これ人間の血か・・・
「な、なあ、こりゃ一体どうなってんだ?」
声のほうに向いてみるとローガンさんが混乱していた。ユンファさんも同じくだ
「えっと。友人の龍見有栖です」
僕はとりあえず紹介をしておいた
「いや、そうじゃなくてだな・・・」
「私に任せればこんなこと簡単よ!」
ローガンさんはもうどうにでもなれと頭を抱えている
すみません。僕も理解不能なんです
「とりあえず嬢ちゃんが転移してきたのと同じように俺たちも逃げられるか?」
「うーん。飛ばすのはできたみたいだけどうーん。応答なしって感じね」
帰れない可能性を考えていなかったのか・・・
「まあでもきっと大丈夫。どうにかなるわ」
「その根拠のない自信はどこから来てるの・・・」
「・・・勘!」
ダメだこりゃ
「しかし、どうにか脱出しねえとな。このままとどまるわけにはいかねえ。普通に移動したところですぐに見つかっちまう」
この拠点を見つけるほどの探索能力だ。すぐに見つかる
「今もどっかで見ているかもしれねえしな。メイのやつに迎えに来させようとも来てくれるかわかんねえ」
メイさんはできれば来てほしいとローガンさんは言っていた
すでに死亡扱いされてたら迎はないな
「ったく。せっかく助かったのに手詰まりか・・・」
その時後ろで衝撃音が響いた。チャールズがこっちに来る
「かなり抜いたんだけどな。「超人」はやっぱり人間じゃないね」
「嬢ちゃんどうにかできるか?」
「うーん。あいつとやるにはもっと血が必要なんだけどな~貴樹はこれ以上吸ったら死んじゃうかもしれないし」
しれっと怖いこと言われた。もしかしてさっきぎりぎりまで吸われたのか
「血が必要なら俺のを使え」
「やだ」
ローガンさんは難しい顔になった
「わがままじゃないんですよ。力になるものとそうじゃないものがあるらしいです」
「そうなのか。しかしそれならどうするか・・・」
少しづつ殺気が強まってくる
「いいわ。私がやる」
「ダメだよ華蓮さっきも・・・」
「大丈夫。さっきは取り乱しちゃっけど冷静になったら怒りが込み上げてきたわ。ヤレる気がする」
華蓮の残りわずかだったエネルギーが回復している。というよりさっきより濃いような気がする
「貴樹心配しないで今の華蓮ちゃんは一味違うわ。見守ってあげて」
有栖がそこまで太鼓判を押すなら・・・僕も華蓮がいつもと違うことには気づいてるんだ
「来るわ。下がってて」
僕らはできる限り離れた。ユンファさんが壁を張りなおしてくれている
ついにチャールズが戻ってきた。血が抜かれたのも関わらず激昂している
「おいおいおい、なんださっきのはよお。邪魔ばっかりいれやがって・・・なんだ?元気になってんじゃねえか。そこのちび助がなんかやったのか?」
「ちび助じゃないわ!有栖よ!あーりーす!!」
チャールズは珍獣を見たような顔つきになった
突然叫びだした。なんて怖いもの知らずなんだこの子は・・・
「なんでもいい。次は邪魔してくれるなよ」
なんでもよくないと荒ぶる有栖を押さえつけて華蓮を見守ることにした
遠すぎて僕らには聞こえないけど、有栖には聞こえているようだ
何やら二人は向かい合って話している
殺気がどんどん膨れ上がっているのが分かる
膝が折れるのはわかってるしどうせ逃げられないから僕は座ることにした
有栖は僕の膝の上に座って二人の会話をニマニマしながら見ている
なんだか有栖を見ているとこんな時でも気が抜けてしまう
華蓮のエネルギーがどんどん収縮されていく
異能力特有の体の変化もある。ただいつもとは色が違う
いつもは薄いオレンジだけど今ははっきりとした赤だ
華蓮のきれいな赤髪と合わさって神々しさが増している
・・・これは前に見たことがある。あの日だ。華蓮が近衛にやってきたその時と同じだ
いつのまにか、さっきまで感じていた華蓮からの殺気も重圧も嘘のように消えている
「やったわね華蓮ちゃん。でも惜しいな~あと少しで完全制御できそうなのに。まだまだ訓練が足りないみたいね」
「俺との訓練じゃ物足りなかったってわけか・・・」
ローガンさんはわかりやすく落ち込んだ
「今のカレンからは何も感じない。だがそれが恐ろしい。何が起きているんだ」
「それは乙女の秘密ね」
「なんだそりゃ?」
有栖はウインクして答えた。僕にもしてくれないかな
「さて始まるわよ。決着は一瞬。刮目して視なさい」
「わかっ・・・
たという頃にはもう終わっていた
華蓮がさっきまであいつが立っていた場所で拳を振りぬいた姿で立っていた
拳から先の地面が末広がりに抉れてる
あいつは・・・と周りを見ていると有栖が教えてくれた
「さっきあいつが伸びてた場所見てみて」
言われるがまま見てみると穴が開いていた。訓練所の壁を打ち抜いた時みたいに山をいくつも貫いている
おそらくあっちの方に飛んで行ったんだろう
空いた穴は数秒後にけたたましい音と共に消えていった
華蓮は異能力を解いて歩いてきた。すっきりしつつも残念といった顔だ
「やり損ねたわ。腐っても特等級ってわけね。ちゃんとガードされた」
あれで生きてるのか・・・そりゃそうか。だからこその特等級だ
「体力は極限まで減らせたはずよ。有栖の分もあったしね」
華蓮と有栖はハイタッチして笑い合っている。微笑ましい
どこまで飛ばされたかはわからないけどこれなら追ってくる心配もなさそうだ
「残ってた人たちも帰っていたね。完全勝利!」
有栖はうんうんと腕を組みながらうなずいている。カワイイ
ただ華蓮の視線が痛かった。膝に座らせてただけだ何もしてない
ローガンさんとユンファさんはもう何も見なかったと現実逃避をしているようだ
拠点に何か残っていないか探しに行っている
僕も二人のことを知らなかったらああなるはずだ
「さてじゃあ地下の訓練所にいこっか!」
有栖は拠点・・・の跡地に向かって歩き出した
「訓練所に何かあるの?」
「それはついてのお楽しみ」
人差し指で口をふさいでいる。カワイイ
待てよ。何で有栖が訓練所の事知ってるんだ・・・まあいいかかわいいし
とりあえず皆でついていくことにした
訓練所の場所も完全に把握している
連れてこられたのは第二の奥、第三訓練所の壁だった
「華蓮ここ打ち抜いてくれる?」
「いいけど・・・」
華蓮はなんで?と首をかしげながら打ち抜いた
「おいおい。もう驚かねえぞ。で、なんだこれは」
そこには小さな部屋があって床には直径4メートルほどの陣が書かれていた
「これはちょっとした転移装置なの。一度しか使えないし飛べる人数も少ないからほんとに緊急な時しか使えないの」
「・・・そうか」
ローガンさんの声はわかりやすく震えていた
「どこに飛ぶの?」
「ん-・・・どこでもと言いたいところだけど。いろいろ交じってるんだよね。転移の異能力使った?」
「ああ、皆を逃がすために何回か使ったんじゃないかな」
「やっぱか・・・これじゃその転移した場所にしか行けないかな。時間を置けばちゃんと使えるだろうけど」
「それってどのくらい?」
「2日」
「よし、すぐに行こう」
さすがに時間がかかり過ぎだ。もう一度攻めてきかねない
ローガンさんとユンファさんはすでに陣の上だ
僕と華蓮も乗って有栖はこれを起動した