特等級異能力者
僕らの前に立ちはだかった超人はつまらなさそうに周りを見回している
「どうせ逃げてんだろ?ほかの連中。だったら下でやろうぜ。ここじゃすぐ足場が崩れちまう」
くいっと親指で地上を指さし飛び降りた
「さっさと降りるぞ。機嫌損ねりゃあ隕石より悲惨なことになる。つってももはや手遅れかもしれねえが」
ローガンさんは残ったユンファさんを華蓮は僕を担いで降りた
チャールズは跳躍運動をしながら伸びをしあくびしている
ローガンさんを不思議そうに見た
「そいやお前何で残ってんだ?にげりゃあ見て見ぬふりしてやったのに」
「逃げずに戦うガキどもおいて逃げるような人間だと思うか」
「ははは!違いねえ。我が弟ながら愚か愚か」
高笑いするチャールズをローガンさんは睨む
「そう睨むんじゃねえよ。お前の相手はあとだ。今はこっちの殺意垂れ流しのガキだ」
チャールズは華蓮のほうを向き構えをとった
「おめえも特等級だったな東方の。ちっせえころからちょっとはましになったじゃねえか。全力でこい」
僕はチャールズに静止をかけようとしたが重圧で精神を乱された
「おう、東方の秘蔵っ子。お前のはあの弱腰爺から聞いている。邪魔すんじゃねえ」
異能力ではないのに僕は身動きが取れなかった。これほどの殺気は受けたことがない
これは華蓮でも危険だ。と言っても止められない。背中を見せたら無抵抗でやられるのと同じだ
華蓮はものおじすることなく正面に立っている
声も出ない僕は目線でがんばれというしかなかった
「お前のタイミングで来い。受けてやる」
あたりの音が急に消えた、その直後爆風と共に二人の”殺し合い”が始まった
見ようにも見えない
早すぎる何も見えない
心臓が見脈打つ
華蓮は無事か
ローガンさんとの打ち合いとは違うこれは殺し合いなんだ
殺気と殺気がぶつかり合いその余波だけで足に力が入らない
ローガンさんは立っているが汗が滝のように流れている
ユンファさんもかろうじて意識はある、手が震えながらも壁を作って爆風から僕らを守ってくれている
少しして二人とも姿を現した。というよりぶつかり合いを一時的にやめた
「おいおい、なかなかやるじゃねえか!こりゃあいい。頼みを聞いてやって正解だったぜ」
チャールズは余裕綽々だ。疲れが見えない
対する華蓮もまだ戦えそうだ。余裕もある
「んならもう少し上げようか!音え会えるんじゃねえぞ」
「馬鹿言わないでよこっちはほとんど全開よ」
「そうか?なら死ね」
今度はチャールズから仕掛けた。さっきまでと比べものにならないほどの暴風と地響きだ
あまりの揺れに拠点も異音を鳴らし始めた。少しずつ崩壊している
目も少しなら追いつくようになってきた。毎日華蓮とローガンさんの訓練を見ていたからかな
・・・誰から見ても華蓮が劣勢のように見える
両者とも特等級の異能力者。そこに差はない
しかし歴戦の大人と齢十五の少女だ
力の差は明白だ。すぐにでも止めたい・・・だけど声すらでない
チャールズの猛攻を受けている。受け流しとカウンターを覚えたはいいがローガンさんレベルに対してだ
格の違う相手に対応できていない。何発も有効打が入る
しかも戦い方のスタイルも違う。チャールズのスタイルは初見だ
だけど華蓮はローガンさんに近い。兄であるチャールズには有効打は華蓮の力をもってしても入りきらない
纏っているエネルギーで、受けた攻撃も多少は緩和できているが徐々に不安定になってきている
まだ覚えて二か月だ。完璧には使いこなせていない
胴に横蹴りが入った。防ぎはしたが衝撃を受け止めきれず拠点に吹き飛んだ
拠点はそれで完全に崩れた。あの巨大な建物がほとんど更地だ
「華蓮!!」
気がついたら声が出ていた。呼ばなきいけない気がした
「まだ、平気」
瓦礫の中から華蓮が出てきた。無事・・・ではない
纏っていったエネルギーは底をついたようで完全に消えている
それに伴って「獣神」による体の変化も戻っていた
僕の心臓がは今までにないくらいに動いている。全身が震える
「華蓮。もう・・・」
「もう・・・なによ。あの化け物相手に何かできるの?さっき打ち消されていたでしょうが」
華蓮は頭から血を流している。左腕もだらりと下がっている。目もうつろだ
「おいおい。もう終わりか?」
いつの間にかチャールズが近づいてきていた
「それなりに楽しかったけど、こんなもんか。上の命令がなけりゃ生かして育ててやったんだがなあ」
満身創痍の華蓮の首を掴み持ち上げた。華蓮に抗う力は残っていない
「これもやってみたかったんだよ、瀕死のやつをぶら下げるやつ。あーそんなにだな」
完全に戦いが終わった勝者の顔だ。隙だらけだが僕が殴ったところでびくともしないだろう・・・隙だらけ・・・隙!
「華蓮!」
薄れる意識の中で僕の声を聴いた華蓮は意をくみ取って、目を見開きチャールズを凝視した
催眠
効果ありだった。首から手が離され真下に落ちたが何とか受け身をとった
こっちを見て笑いかけてくれた
「やったわね」
「うまくいってよかった。よく気付いたね」
「何年一緒にいると思ってんのよ」
華蓮はボロボロながらも満足そうに笑いかけてくれている
何とか切り抜けられた
とにかく華蓮の手当だ。異能力のおかげで治りは早いと言ってもエネルギーを使い切った今そこまでの回復力はない
と言っても拠点はボロボロだしなあ。この中から無事な奴探さないといけないのは骨が折れるぞ
ローガンさんにも手伝って・・・
「タカキ!よけろ!!!」
「え?っがは」
違和感があって下を向いてみると僕の胸から手が生えていた
チャールズは起きていた。当たり前だとどめを刺していない
すべてに安心しきって完全に抜けていた
引き抜かれ僕の体は地面に倒れた
「邪魔すんなって言っただろうが。くそ、頭がすっきりしねえ・・・厄介な」
ああ、これはあれだ。ダメだ。ダメなやつっだ
華蓮が泣き叫んでいるのが聞こえる
ローガンさんがチャールズに襲い掛かり吹き飛ばされるのが見える
ユンファさんが近寄ってきて壁を出してくれている
ああ、僕はいいから華蓮を・・・
ダメだ、頭が、め みえ ・
お 貴 ま 生
ああ、有栖の声が聞こえる。やっぱり心残りだったんだな。もし生まれ変わりがあるのなら次は・・・
「だから起きなさいってば貴樹!!死んだふりしてないでおきなさい!」
え?あれ。おかしい
頭がすっきりしてる
瞼を開いてもはっきり見える
それに胸にあった違和感も消えている
スーツは破れて地肌は見えているけど
というか
「有栖?」
ずっと会いたかった女の子
過ごした日はわずかだけど、とても仲良くなった女の子
もっとちゃんと感謝を伝えたかった女の子
もっと一緒に居たかった女の子
もっと知りたいと思った女の子
小っちゃくてカワイイ女の子
「はい!そうです!有栖ちゃんです!」
龍見有栖がそこにいた




