襲撃2
拠点の屋上へはかなりの高さがあるにも関わらず数秒でついた
予想通りローガンさんが前衛の役割をしている
華蓮には手も足も出なかったがそれは相手が悪かったからだ
並の相手じゃ彼は止められない
インシ―さんは屋内にいた。ユンファさんの防壁で守られている
ただ屋根は半分消えていた。攻撃によるものだろう
華蓮におろしてもらい、僕も屋内に入った
「すみません。遅れましたか?」
「いいえ。予想より早い到着ですよ。下ではよい働きをしてくださいました」
随時、下の情報をもらっていたらしい。議会の一人を落としたのも知っていた
インシ―さんはかなり疲弊している。異能力を行使しすぎたんだろう
「断罪」を連続して使えたのにはからくりがあった
「加速」という異能力で自身の時間を加速させ、「断罪」の二十四時間という枷を外したんだ
「断罪」は一度使うのにかなりの体力を消耗させる
二十四時間というのは異能力が宿主の限界を超えさせないための制限だ
その時間を加速させ、異能力を騙して連続使用という荒業をやってのけている
「情けないことに私は今戦力になりません。できればお力を貸していただけませんか」
「もちろんです」
「私も加勢するわ」
戦わせたくないと言っている余裕はない
戦わなければ革命軍の人たちも、解放した人達もただでは済まない
今は華蓮の力に頼ろう
「ありがとうございます。今はローガンが耐えてくれていますが向こうは議員が六人です。じきに底をつくでしょう。私も回復次第戻ります。それまで耐えてください」
「招致しました。できる限りやってみます」
「今日は全力出してもいいのよね」
「はい、お願いします・・・惜しんでる場合じゃありませんから」
「わかったわ。安心しなさいこれでも加減は覚えたわ」
今の華蓮の全力だと拠点は一たまりもないだろうな。でもばれた以上ここにとどまるわけにはいかない
”あの方”には悪いけど仕方がない
華蓮はあの日見せたとは比べものにならないくらいのエネルギーを身に纏った
耳が生え、腰に尾を。そして拳と足も変化している
有栖の言い方を借りるなら、おそらく六割制御といったところか
それでもこの圧力。特等級は計り知れない
「いってくるわ」
「うん。がんばって」
ふっと笑うとローガンさんの加勢に向かった
「カレンが来るとタカキも後方で支援してくれますとローガンには伝えてあります。できうる限りの全力を」
僕は頷いて前方を見た
議員の顔は大体知っている。確か六人いる。片腕のない人がいた。ローガンさんが消し飛ばしたんだろう
・・・そこには姉さんもいた。「御雷」は中~遠距離型の異能力だ、ケガはなかった
ただ、異能力を使う仕草も構えもない。おそらく「断罪」によって剥奪されたんだ
ほっとしてしまった
だけど今は敵だ。躊躇してはいけない
今ローガンさんが相手しているの議員の三人。それぞれ近接に特化した攻撃系の異能力者だ
席次は低いものの議員は異能力者の処刑人。その攻撃にずっと耐えている
華蓮はそこに突っ込んでいく
僕は静止で援護しようとしたけどその必要はなかった
一撃入れた瞬間三人とも消し飛んだ
華蓮は一瞬止まったが、ローガンさんの前に立って何か伝えている
するとローガンさんは足早に退いてきた
「助かった。ちょいと疲れてきてたんだ」
「お疲れ様です。ローガン」
「おう、しかしあのビリビリは鬱陶しかったな。それ以外は何ともなかったが」
姉さんのあれがビリビリ・・・一等級の異能力なんだけどなあ
「わかってはいたが、カレンは次元が違う。こちの手札を知ってて今まで仕掛けてこないってことは、やはりあいつが来てるな。インシ―が完全につぶれるのを待っていやがる」
「そうですね。私がつぶれる前に出てきていただけるとありがたいのですが・・・」
ローガンさんが言うあいつ。華蓮を止められる数少ない異能力者・・・
「おい。ありゃなんだ」
ローガンさんは空を見上げた。僕も同じく見上げる
何やら赤い点のようなものが見えた
いつの間にか屋上にいた敵は誰もいなくなっている。華蓮が倒したわけではなさそうだが
華蓮も上を見つめている
僕は遠視を使ってそれを見た
「隕石」だ。議会第二席ソーニャ・アレクサンドル・チェリャビンスクの特等級異能力だ
このままだとあたり一帯が消滅する。地下に避難した人たちもろとも
下も完全に静まりかえっている。代わりに無数のヘリが山の向こうに消えていくのが見えた
この能力のために攻撃を仕掛け、インシーさんを疲弊させただろう
政府は完全に消し去るつもりらしい
「おいおいおい、こりゃまずいぞ。メイはどこだ!」
「ここにいる!だがこの範囲の転移は無理だ!ここにいる者たちだけならいけるが下にいるやつらは全員見殺しになるぞ!」
メイさんの転移有効範囲は触媒である宝石の純度と量で決まる。しかし拠点全体を包み込むことは現実的に不可能だ
華蓮一人だけなら逃げられるだろうけど。彼女は逃げなかった
「私が叩き壊してみるわ」
自分ならやれると、迫りくる隕石をじっと見つめている
「だめだよ、華蓮。あれはそんなやわなものじゃない。わかってるだろ?」
「それでも何もしないよりましよ。いってくる」
「やめなさい!」
翼を生やそうとした華蓮をインシーさんがとめた
「私が消しましょう。一回くらいならすぐに使えます。カーリア「加速」を」
「しかし・・・」
「今はこうするしかありません。死ぬわけじゃないのです。よろしくお願いします」
「・・・わかりました」
「加速」の異能力をもつカーリアさんはインシーさんの方に手を当てて行使した
その直後、インシーさんはふらついたがこらえた
「このままでは遠すぎてはっきり見えません。タカキ遠視をお願いできますか?」
「はい」
僕は遠視をインシーさんに共有した
「これはすごいですね・・・では・・・文明そのものを滅ぼさんとする隕石に天罰を。我が正義に基づき刑を執行せん!消滅」
宣言が終わった瞬間、そもそも空には何もなかったかのようにきれいさっぱり「隕石」は消滅した
そしてインシーさんの体は電池がぬけように膝から崩れ落ちた。ローガンさんはそれを受け止めゆっくりと座らせる
「無事ですか!?」
カーリアさんは駆け寄り顔を覗いた
「ははは、少し堪えました。フルマラソンを走り切ったような疲労感ですよ。大丈夫命まではとられませんでした」
顔色も悪くないけどさすがにもう動けそうもない。インシーさんは下の階で休むことになった
華蓮が何やら察知したようでまた空を見た。でも隕石ではなさそうだ
「隕石」はひと月に一度、そして大きさに応じて寝込むらしい
ソーニャさんを一度だけ見たことがあるけど、ずっと半目でけだるそうにしていた
たとえインシーさんがやった裏技を使おうにもひと月分加速させたとしてソーニャさんの意識は戻らないだろう
だったら何だろうと僕も見たけど上空には何もない
「やはり、来てしまったか」
ローガンさんも華蓮と同じ方向を見ている
やはり・・・か
少しして山を越えてくるヘリが見えた
「カレン。撃ち落としてみろ。今度は止めん」
華蓮は近くに散乱している瓦礫を手に取り、目にもとまらぬ速度でヘリに向かって投げつけた
が、何かに阻まれあたりはしなかった。隆則さんがいるんだろう
「ダメか。まあ当たったところで死にはせんから意味はないな。メイ下の地下街も連中を転移させてやれ。今度は見つかんねえ場所にな。そのあと下の連中だ。通信で集めて飛ばせ。最後は・・・まあいい命の保証はねえが気が向いたら来てくれ」
「・・・わかった。死ぬなよローガン」
下に走っていくメイさんの目には涙がたまっているような気がした。泣くのは今じゃないと言い聞かせるように
ローガンさんは半ばあきらめたようにその場に座り胡坐をかいた
「全員覚悟を決めろ。ここが分水嶺だ」
ローガンさんほどの人が覚悟を決めるような事態だ
「カレンが勝たん限り俺らに先はない。援護できるだけやるしかねえ。行きたい奴はメイについていけ。止めはせん」
ほとんど降りて行った。自分じゃ役に立てないと、邪魔になるだけだとわかっている人たちだ
残ったのは僕、華蓮、ローガンさん、ユンファさんの四人だけだ
ユンファさんにも降りるよう促したがとどまった
ローガンさんがここまで警戒する人物
馬鹿な僕にもわかる
大胆な攻撃を仕掛け、インシーさんを疲弊させるのが第一段階
「隕石」によって完全に「断罪」を封じ込めるのが第二段階
「断罪」が使えない今に最高戦力を送り込み殲滅する最終段階
「奴さん完全につぶす気らしいな。どんな秘密を隠しているかわからずじまいになっちまったが悔いはねえ。もし生き残ったのなら暴いてやろう」
ヘリは上昇し真上まで来て何かを落とした
いや何かが降ってきた
人だ
高さがなんだと言わんばかりに彼は豪快に着地した
華蓮はすでに臨戦態勢だ。異能力もできうる限り開放している
「こういう。登場の仕方一度はやってみたかったんだよなあ」
余裕のあるバカげたセリフ
「よう、ローガン久しぶりだなあ」
ローガンさんより少し大きい体躯に、光輝くオレンジの髪と髭からなる獅子のようなタテガミ
「いやあ、上の連中うるさくてなあ。さっさと消して来いってよ。一人残さずだぜ?俺は飼い犬じゃねえってのによお」
華蓮の圧に負けないほどに膝に響く重圧
「まあ久しぶりに気分よく暴れられるんだ。癪だが頼みを聞いてやらんこともないってな、だからよお」
尋常ならない殺気
「すぐに壊れてくれんなよ?」
世界政府直轄異能評議会第一席特等級異能力「超人」の異能力者 チャールズ・バトラ―
が僕らの前に現れた




