日常の終わり2
建物内部は凄惨なものだった
外からは見てはいたからどうなっているのかは把握していた
でも見るだけじゃわからなかった死の匂いが充満している
ガスマスクはつけている。ほとんど匂いもない
それでも想像してしまうともう鼻からとれなくなる
爺さんたちは慣れているせいかマスクはなしだ。大半は大地を削られたときに失われたらしい
慣れていない僕たちに優先して渡された
華蓮もつけているがほとんど意味をなしていないないみたいだ。ずっと眉間にしわが寄っている
数分進んだあたりで先行していた隆則さん達と合流できた
それ迄の道のりかなりの数の死体はあったが建物にはほとんど被害が出ていない。隆則さんがすべて防いでいたんだろう
異能力が建物にさえ向いていなければこちらの死傷者はほとんどいなかっただろうけど、広範囲の建物を守るとなると味方にまでは及ばなかったらしい
「吉宗、孫も一緒か。第一作戦は失敗だったようだな」
「はは、痛いところをつつかないでくれよ」
隆則さんはこの惨状の中にいても冷静だった。友人をからかえるほどの気力も残っていた
突入開始から二時間以上経過していたけどあまり前には進めていない
革命軍の攻撃が激しすぎる。こちらは建物を守りつつだけど、相手はそんなの構わず対抗してくる
人数も圧倒的に向こうが上だ。ろくに戦えない民兵もいるだろうけどそれでも異能力もちを軽くは見れない
鎮圧隊のひとたちも無策できたわけではないが、主戦力がいなくなってしまっているがため中々攻めるのが厳しいといったようだ
「現在膠着状態でな、政府の阿呆が下らん指令を出したせいでこっちも人が死んだ。お前んとこのも数人な。面目ない」
「そんなこと今はいい。どうにか切り抜けないと」
・・・道中見知った顔を見つけた。飛行機で笑顔をで接してくれた人たちだ
そんなに接点があったわけではないが、味方が死ぬのはやはり堪える
「数分前に先行隊の指揮者が戦死した。今は鎮圧隊の判断を待っている」
「こちら側が指揮に立つわけにはいけないからねえ。どうしたものか」
「やむを得ん場合は私が指揮を執る。その時は建物への被害など無視して制圧するぞ」
ここは中国だ。こちらは積極的に行こうにも政府の規則が邪魔になる
他国において、援軍以外の目的で隊を集め異能力を行使し損害を与えてはならない
それを破れば政府からお咎めをくらう
今回に関しては政府からの要請だ。甘く見てもらえるだろうが、それでも規則は守らないといけない
守らなかったとき日本がどうなるかわからない
「政府もまた無理難題を押し付ける。何が規則だ、バカバカしい」
「隆則、そこまでだ。誰が何を聞いてるかわからない」
「そうだな。うん?伝令か、こっちに来るぞ」
鎮圧隊の一人がこちらに近づいてきた
「これよりこちらの異能力の制限を解除し、強行突破に出ます。今以上に激しくなります、どうかお守り下さい」
「無論だ。しかし隊に回していたものが機能しなくなる。そちらも今以上に気を引き締められよ」
「それではすぐに合図を出します」
強行突破。強力な異能力の行使が始まる。普通ならこんなところで使えば建物もろとも吹き飛ぶような異能力でも「守護」なら防ぎきれるはずだ
巻き込まれないようにだけ注意しておかなければならない
僕はまだ動かなくていいようだ。そもそも待機可能な身の上だ、僕がいなくとも機能するように作戦は立てられている
これがうまくいかなくなった時、出番が回ってくるだろう
ホイッスルの音がなった。行使の合図だ
隆則さん顔は一層厳しくなった。異能力に集中しているからだ
おそらく風系統と土系統の異能力だろう、激しい衝突音を土埃が飛んでくる。悲鳴も聞こえてきた
僕は見なければならない。現状を把握するために
壁ごしから透視を使ってみる。そこまた地獄のような光景だった
「貴樹どうかな。先の様子は」
爺さんは心配そうな顔で聞いてきた。どうやら僕はひどい顔をしているようだ
「多分、先には進めるようにはなったと思う。でもこの先で革命軍は何をしてるんだろう」
革命軍の防御は地下に続いている。文字通り袋のネズミ状態だ
全部は透視できない、もっと下に何かあるんだろう
それがもしかしたら隠したい何かなのかもしれない
「便利なものだな、その眼は。吉宗に聞いてはいるが末恐ろしいぞ」
褒められているんだと思うけど。顔のせいで危険視されているようにしか見えない。実際されてるのかもな
「前進の合図だ。行くぞ」
頭を下げながら奥に移動する。先は地下への階段だ
その途中異能力によって荒らされた通路を通った。壁には一切傷がない。だけど血に染まっている。誰のものかもわからない四肢がそこら中に散乱していた
見て見ぬふりはしなかった。この光景を目に焼き付けておかないといけない。そう思ったから
そのあとは順調・・・と言っていいのかわからないけど、スムーズに地下三階まで降りることができた
この施設は地下十階まであるらしい
地下四階に差し掛かろうとしたとき、僕の目にさっき見た人物が映った
「隆則さん、王と数人主力に顔が上がっていた人達がこの先にいます」
「理解した」
隆則さんは大地が震えそうな大声で先にいる鎮圧隊に伝える
耳が割れそうだ。人間ってこんな声が出せるんだ
革命軍は逃げるように王のいる場所に去って行った
鎮圧隊は限界態勢だ。出てきた瞬間に消し飛ばす算段なのだろう
大半を失い弱体化した鎮圧隊でもかけ合わせれば革命軍の主力だろうと吹き飛ばせる
大地をえぐったあの異能力が使ってこないはずだ。使えば下にいる味方もろともなのだから
膠着状態になるかと思いきや、先に動いたのは革命軍だった
おそらく守備系統の異能力を前にした王を先頭に姿を現した
その瞬間鎮圧隊はためにためた異能力を放った
さっきのそれとは比べものにならない威力であったが、王には届かなかった
さっき爺さんの鉛玉を止めた異能力だろう。チリひとつ侵入を許さなかった
「異能力による殺傷未遂。未遂を加味して、罰を。異能力のはく奪」
王は異能力を行使した。あっけなく。二十四時間に一度しか使えない「断罪」を
しかし、こちらの被害は中々に大きかった。死者が出たわけではない
ただ今さっき革命軍に放った異能力を行使できなくなった
最前線で猛威を振るっていた鎮圧隊の面々は混乱していた。それはそうだ長年連れ添った体の一部が急に使えなくなったのだから
王の異能力は鎮圧隊に大打撃を与えた
しかしまだこちらの戦力は十二分にある
再行使に長い時間がかかる王の異能力が消えた今障害になるのはすべてを防ぐあの異能力だけだ
おそらくリストにあった「守護壁」という異能力だ
あの異能力は永遠に行使できるものではない。耐久値がある
時間が経つにつれて回復はするが、爺さんの鉛玉数発にさっきの強力な攻撃だ。もう破れかけてる
鎮圧隊は二撃目の異能力を行使した。さきほどのものまでとはいかないけど、十分な威力だ
この攻撃で壁が破られた
すかさず三撃目を準備するがもう一つの壁がはられた
リストにない異能力だ。革命軍に新たな異能力者が合流したとみて間違いない
鎮圧隊はそれくらいは予測していたのだろう、慌てるそぶりを見せなかった
が、予測はすぐに打ち消された
「異能力による殺傷未遂。同じく異能力のはく奪」
王がまた口にした。それははったりではなく本物だった
また異能力が使えなくなった鎮圧隊は混乱している
援軍の僕らも困惑している。例外なく隆則さんもだ。見たことのない顔、頬には汗がつたっている
「おい、これはどうなっている」
「私もわからない。王は腐っても議会のメンバーだった。異能力の詐称はないはずだ」
なにかからくりがあるんだ。僕と爺さんがやったように、鎮圧隊が火力を底上げしたように。異能力同志を組み合わせている
「貴樹、何かわかるか」
「いいえ、僕では相手の異能力が何かはわかりません」
よほど焦っているのか隆則さんは僕に聞いてきた。僕については爺さんに聞いてるはずなのに。そんな異能力は持っていない
王はまた口を開いた
「我々は争いを望まない。そのまま引き下がってはもらえないだろうか」
「何をいまさら!今までお前たちが何をしてきたか、覚えていないとは言わせないぞ」
鎮圧隊の指令は憤っていた。それはそうだ仲間が大勢死んで大将首を目の前にしてこれだ。引くことはない
「降りかかる火の粉を払ったにすぎません。我らは解放を。世界政府の陰謀を止めるべく活動しているにすぎません」
はったりだ。
「今まで死んだ同胞たちはみな理解し賛同し、命をなげうってまで守ろうとした。なぜほうっておいてはいただかないのですか」
宗教か、洗脳かいずれにせよ操っているには違いない
暴動を治めるべく派遣された王が革命軍を組織した。それは何者かの催眠によって操られているだけだ
こちらはそう解釈した
「政府は隠していた、汚染されてなお広いこの中国の地に。各地にここと同じような施設を作り隔離していた。彼らは何の罪も犯していない。しかし生まれたことが罪だと言わんばかりの扱いを受けている」
・・・何を言っているんだ
「彼らは不当に労働を強いられ、外の世界を知ることもなく死んでいく。それがさも当たり前の人生であるかのように。私はそれを断じて許すことはできない」
・・・・
「世界から隔離され、いないものとされる彼ら、”異能力を持たぬものたち”を解放するために、私たち革命軍は存在する」
異能力を・・・
「あやつは何を言っている」
「わからない。でも彼が言うことが本当なら世界がひっくり返る」
これは・・・どうすればいい
「なんとも厄介な。政府が介入したのがこれを隠すためなら納得がいくが・・・」
世界政府が隠しごと・・・人類平等を謳い、平和をもたらす政府が異能力を持たぬものを世から隔離する理由は
隔離してなにをしているんだ
何もわからないけど、王と周りを倒したその先に答えがあるはず
鎮圧隊は再度攻撃を仕掛けるがまたもや壁に阻まれ王によって使用不可にさせられた
王の異能力に時間制限がない今僕らはどうすることもできない
「貴樹。お前は催眠の異能力があったなここからならば全員眠らせることができるのではないか」
「それには全員と目を合わせる必要があります。王だけなら簡単でしょうけど鎮圧隊が使い物にならなくなってしまった以上、彼だけでは・・・」
「では、静止はどうだ」
「それならできそうですが・・・動きを体を静止させるだけで口は動いてしまいます」
「攻撃しようにも王の異能力は止められないというわけか」
はっきりいって手詰まりだ。今頃僕の異能力を使っても何もできない
もっと早くに判断して使えて入れば解決できたかもしれないけど、経験の差とそもそも僕は戦力に含まれていない
周囲を警戒するくらいしか役目を与えられていなかった
爺さんの異能力を合わせれればもしかしたら・・・
いやダメだ。壁を張っているのが誰かわからない。わかったとしても王と一緒に眠らせられなければ意味はない
それにリストにな異能力だ。意識がなくても壁がそのままってのもあるかも・・・
「さすがにこれは政府も許してくれるんじゃないかな・・・?」
「かもしれん。だが連中まだやるつもりだ」
鎮圧隊の面々はまだ隙を探っている。異能力を使えなくなった人たちもどうにかできないかと考えている様子だ。異能力のはく奪はすぐに終わる可能性もある
まだ諦めていないようだ。何が彼らをそこまで動かしているんだろうか
隆則さんは鎮圧隊のほうへ近づいて行った。説得しに行ったんだろう
しかし異能力を持たぬものたち・・・無能力者の存在。僕が不安に思っていたことが現実だった
僕は彼らに非があるように思えない
確かに彼らは大勢殺した。僕の知っている人だって殺した
でもそれは追われたからであって攻撃し刺激したのはこちら側だ
現に王は攻撃してきた者たちを殺さなかった。彼は罰を自由に決めらるのにも関わらず
私は殺すつもりがあるわけではない。そういう意思が感じられる
それがはったりかはわからない
でもこの先にあるものが答えなんだ
僕はそれを知らなくちゃいけない気がする
「私に賛同し、協力してくれるのであればよし。攻撃をやめ去るのなら私たちは見逃しましょう」
本当に見逃すのかどうかわからないが、こちらから仕掛けることのできない今の状況なら引くしかない気がする
「あいつ。嘘は言ってないわ。周りのやつらもそれに従ってる」
華蓮がここに来て初めて口を開いた
「華蓮は人の心がわかるのかい?」
爺さんの問いに華蓮は答えなかった。それどころかそっぽをむいている
こういう時くらい協力してやってよ・・・
「華蓮が言うなら間違いないと思う。異能力によるものかはわからないけど多少は読み取れるみたい」
「そうなのか。だったらうれしいんだけどね。あとは鎮圧隊が引いてくれればいいんだけど」
隆則さんが説得から戻ってきた
「だめだ。まるで聞く耳をもたん。このままだと特攻を仕掛けるやもしれん」
答えは最悪だった
「やつらが全滅すれば我々は早々に引くことができるがな」
表情が動かないから本気で言ってるのか冗談なのかわからない
・・・多分本気な気がする
「それから、華蓮の存在を知っておった。無理やり使われるかもしれん気をつけい」
華蓮は何も言わない
・・・華蓮をつかう?そんな選択肢はない。僕は絶対ゆるさない
でも膠着状態の今どうにもできない
日本側から仕掛けることもできない
撤退命令を指揮官が出さないと引くことができない
緊張状態のまま数分が経過した
革命軍のメンバーが王に耳打ちをして、事態は動き始めた
「答えは出ましたか?」
指揮官は答えない。しかし鎮圧隊に指示を出した。攻撃だ
異能力を封じられたものたちが壁になりその後ろから異能力を打ち込む算段らしい
こんな子供じみた作戦が通用するわけがない
まだ距離はあるが無力化されるのも時間の問題だ
そうすれば華蓮が使われる
それだけは止めたい。さっきの人たち同様華蓮の異能力がはくだ・・・つ
もし華蓮が異能力を使えなくなれば今までみたいに悩みながら生活できるのかもしれない
そしたら、一人の普通の女の子として生きていけるかもしれない
だったらそれでいいんじゃないか・・・
それを華蓮も望むんじゃ
今の僕には何もできない、だったら華蓮が幸せになれるような道を進ませてあげればいいんじゃないか
華蓮がいいように使われるのは嫌だ、でももしそれで華蓮が重荷を背負わなくてもいいようになれば
だけど華蓮が無事だという保証はどこに・・・
ああ、まただ。また迷ってしまっている
僕はいつもそうだ
なんだかんだ抱え込んで、考えて
何か決断することにおびえてしまって、なにも考えられなくなる
いつだって華蓮の事を思って行動してきた
でも今は華蓮がどうすれば幸せになれるかの選択だ
何もしてあげられないのはわかってる
でもこの場所から一緒に逃げ出すことは可能だ
政府の命令なんてそっちのけで振りむかずに全力で
だけどそうしたらつかみかけていた幸せになれる可能性を消してしまう
僕はどうすれば・・・
そんな時よく知っている
僕が困ったら差し伸べてくれる
握られたらちょっと痛いけど
でも暖かなその手が
僕の指先によわよわしく触れていた
はっとなって華蓮の顔を見る
悲しそうな寂しそうなそんな顔だった
いつも苛烈で傲慢で、横暴で笑顔がよく似合ってちょっとすねた時はカワイイらしい彼女が
不安そうに僕を除いていた
華蓮は僕の頭に直接話しかけてきた
(私はどうすればいい?)
僕はそこで思い出した
華蓮が有栖と一緒に楽しそうに異能力の訓練していたことを
初めて華蓮が異能力を使って笑っていたんだ。あの時
心の底から笑っていたんだ。無邪気に年相応に
異能力が消えることが幸せなはずがない
華蓮をまた泣かせてしまうところだった
不甲斐ないない護衛を、みっともない僕を許してほしい
有栖が言っていた、何もかも無視して全力でつかえって
政府なんてくそくらえだ。知ったこっちゃない
有栖は言っていた、体が耐えられるなら異能が使い方を教えてくれるって
「大丈夫僕が何とかする。華蓮には戦わせない」
「貴樹、何をするつ・・・
僕は近くにいた爺さんと隆則さん、残りの二人を眠らせた
「華蓮はちょっと待ってて、その間についてくるかどうか考えておい・・・
「考える必要なんてないわ」
即答だった。うれしい
僕は王が視界に入る位置まで出た
それから僕は”鎮圧隊”を少し静止させた
「僕はまだあなた方の事信用できない!革命に値するものがあるなら見せてほしい!許してくれるならこの騒動を一時的に止めて見せる!!」
華蓮が信用してもいいって言った人たちだ、攻撃はしてこない
今僕がすべきはこの争いを止めることだ。そのためなら異能力を惜しまない
指揮官はこちらを見て何を言っているとみてきたが無視だ
「よろしい。この場を切り抜けられるのであればその場所へ連れていくことを約束しましょう」
王は疑うことなく受け入れてくれたならばこちらも誠意で返す
頼むよ僕の異能力。守ると決めた僕を信じてくれるなら力を貸してくれ
有栖の言った通り、異能は意思を持っているらしい。今できるすべてを教えてくれた
僕はそこにいる鎮圧隊と日本援軍すべての目を乗っ取り全員を眠らせた




