↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/37

第34話「トランプ is 凶器」

「トランプで勝てばさっきのアレ、あたしも一号にしてもらえんのか?」


 第二保健室に戻った朱雀井さんが何か言い出した。


 アレとは、僕がさっき芽野先生にした壁ドンのことだろう。


 そして朱雀井さんのこの発言に、ミナちゃん先生も反応。


 なぜか期待を寄せたような目で、僕の返答を待っている。


「……しないよ。もう二度と、誰にも」


 僕が答えると、朱雀井さんもミナちゃん先生も、あからさまに落胆した。


「……なに? されてみたかったの?」

「ああ。あんな感じで一号から詰め寄られてみてぇ……。

武器持った先輩とかからされたことはあるんだけどな!」


 あぁ……ありそう……。

 朱雀井さん、そういう意味での壁ドンの経験は豊富そう……。


「わ、わたしは後学のためにぃ!?」


 上擦った声で、しどろもどろ言うミナちゃん先生。

 少女漫画とか読む人だし、ちょっと憧れてたりしたんだろう。


 ただ残念ながら、僕とミナちゃん先生とでは身長差がありすぎて、多分壁ドンしても体勢的に変な感じになる。


 なのでミナちゃん先生は、もうちょっと大きくなってから、彼氏さんにでもお願いして下さい。


 するとこのやり取りを聞いていた芽野先生が、優越感をひけらかす。


「そうだよ~。そもそもあの壁ドンは、私がトランプで勝ったご褒美だもん~

そう簡単にはしてもらえないよね~?

特に朱雀井さんは、大富豪でもババ抜きでも今ひとつだったし?」


 これに朱雀井さんがムッと来たようだった。


「は? あたしだってゲーム次第なら勝てるっつーの」

「え~? 朱雀井さんにも得意なゲームあったんだ~?

何が得意なの~?」


 芽野先生の質問に、朱雀井さんは勝ち気な笑みを浮かべて答えた。


「スピード」


 ☆ ☆ ☆


 なるほど。

 確かにスピードみたいな反射神経を要求されるゲームは、朱雀井さんの得意分野のように思われた。


 というわけで、いざ芽野先生と勝負してみたのだが――、


「はい、私の勝ち~」

「…………」

「朱雀井さん、弱すぎ~」

「…………」


 朱雀井さんは、ほぼ一方的に芽野先生に押し切られ、完全敗北を喫していた。


 手も足も出ないとはまさにこの事。

 なんとなく、持ち前の反射神経で、シュババっと手札を捌く朱雀井さんの姿を想像したものだが……実際はフリーズを起こして固まってしまっていた。


「きょ、今日は調子悪かったのよきっと! ねえ!?」


 あまりの惨敗っぷりに、ミナちゃん先生が朱雀井さんのフォローに回る始末。

 優しいなぁ。


 けどその優しさが、かえって朱雀井さんを辱めたようだ。

 朱雀井さんはプルプルと肩を震わせて、僕に助けを求めるような目を向けてきた。


 僕は軽く嘆息しつつ、朱雀井さんを労るように問い質す。


「……ねえ? 朱雀井さん? スピードに自信あったんじゃないの?」

「……あった」

「そもそも、このゲームやったことある?」

「ない」


 ないんだ……。


「じゃあなんで挑んだのさ……」

「いや、なんかこう、シュバババババ!って手札を捌いてくじゃん?

そういうのあたし、得意そうじゃん?

でもいざやってみたら、脳みそがまったくついて来なかった……」

「…………」


 朱雀井さん、見切り発車が過ぎる。


「……ぷーくすくす……」


 芽野先生は完全にツボに入ったようで、必死に笑いを噛み殺していた。


「次はちゃんとやったことがあって、本当に得意なゲームで挑みなよ」

「酷なことを言わないでくれ、一号ー。

そんなのあったら、とっくにそれで勝負挑んでるってー」


 ならもうトランプという土俵から降りようね。


 僕が呆れていると、朱雀井さんがふと零した。





「あーあー、トランプ投げならマジで得意なんだけどなー」




「……ん?」


 その一言に、僕もミナちゃん先生も芽野先生も、興味を引かれて顔を上げた。


 ☆ ☆ ☆


 食堂へ行って、佳代さん(ミナちゃん先生のお母さんで、学生食堂の職員さん)からキュウリを一本調達。

 それを凧ヒモに括り付け、第二保健室の天井から吊り下げた。


「こんな感じでいい?」

「おー。オッケー」


 朱雀井さんからOKが出たので、僕は脚立を折り畳み、後ろに下がった。


 キュウリの高さは、朱雀井さんの肩くらい。

 5メートルほど距離を取って、朱雀井さんはキュウリと向かい合う。


 僕とミナちゃん先生と芽野先生が固唾を呑んで見守る中、朱雀井さんは特に気負った様子もなく、手首をくねくねと準備運動。


 そして一枚のトランプを指先に挟む。


「いーかー?」と確認を取ってくる朱雀井さん。

「どうぞ」と頷く僕ら。


 次の瞬間――、


「よっ」


 気の抜けた掛け声とともに、朱雀井さんは鞭のように腕を振り抜いた。


 白い軌跡が宙を奔った。


 かと思うと、キュウリを吊り下げた凧ヒモがスパッと切れ、カッという小気味良い音が響く。

 

 見れば一枚のトランプが、第二保健室の壁に刺さっていた。


 壁は画鋲などを通す材質とはいえ、普通、トランプは刺さらない。


「「「…………」」」


 絶句する僕ら三人。


 かたや朱雀井さんは、ばつが悪そうな照れ笑いを浮かべた。


「やっべ外した。キュウリ切るつもりだったのに。失敗失敗」

「「「…………」」」


 いや、どこが失敗?


 キュウリを切るより、凧ヒモを切るほうが普通にすごい。


 しかも壁にまで突き刺すなんて、もはやそれはトランプではない。


 飛び道具だ。


 クナイとか手裏剣とかの類の凶器だ。


 そしてこの絶技を目の当たりにして、ミナちゃん先生と芽野先生が、それぞれ一言。


「……朱雀井さん、あなた、今後トランプの所持禁止」

「……一号くん、今後も朱雀井さんの友達として、管理と調教よろしくね?」

「……はい」





 朱雀井さんのマブダチでいることに、謎の責任感が芽生えた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。