表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

第2話「お昼寝タイム」

「一号、顔色あんま良くないなぁ。大丈夫か?」


 昼休み、一緒にご飯を食べていた友達に言われた。


「うーん、この季節はどうしてもね」


 朝は割りと調子良かったのだが、昼になるにつれ身体がだるくなってきた。


(5限は体育……どのみち見学か)


 みんなが体操着に着替え始めたタイミングで、僕は第二保健室へ向かった。


☆ ☆ ☆


 第二保健室の引き戸をノックする。しかし返事がない。


(留守かな?)


 幸い、鍵は閉まっていなかったので中に入っていく。


 いつも通り人気はなく、部屋の主の姿も見当たらな――、


「――……すぴー……すぴー……――」


 いや、いた。


 川の字に並ぶ三台のベッド。そのうちの窓際の一台で、ミナちゃん先生は安らかな寝息を立てていた。


 ちなみに、手前二つのベッドには、熊と白イルカの大きなぬいぐるみがそれぞれ寝ている。


「――……すぴー……すぴー…………ふひ……」


 いい夢でも見ているのか、口角がちょっと上がっていて、そこはかとなく幸せそうだ。


(お昼ごはん食べて、眠くなっちゃったのかな……。流しにお弁当箱洗ってあるし)


 ミナちゃん先生は白衣を脱いで、お腹にタオルケットだけ掛けている。


(……こうして見ると、ほんとただの子供だなぁ)


 白衣を纏わない私服姿だと、保健室の先生要素が微塵もない。


 チュニックにショートパンツとレギンスという格好はもう、まんま小学生女児だ。

 ただ、


(……寝相はいいな……)


 お腹のところで手を組む仰向けの姿勢は、お人形のような顔立ちも相まって、童話の眠り姫みたいにも見える。


(……起こしちゃ悪いよね)


 これだけ見事なお昼寝っぷりだ。

 邪魔するのは忍びない。


(5限は第一保健室で休ませてもらうか)

 

 僕はそーっと回れ右して、忍び足で第二保健室を出ていこうとした。


 が、制服の裾をくいっと引っ張られる。


「…………」

「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか」


 振り返ると、ミナちゃん先生が僕の制服の裾を握りしめていた。


「…………」

「…………」


 どうしたんだろう。


 もしかして、昼寝を邪魔されて怒っているのだろうか。

 ミナちゃん先生は俯き加減で黙っている。


「あの……」と、僕は怖ず怖ずと声をかける。


 するとミナちゃん先生は、もたーっと顔を上げ、僕を見つめる。

 焦点の合わない、とろんとした眼差しで……。

 

 そして、


「――え~!? わたしが新しい魔法少女に~!?」


 ふにゃふにゃした滑舌で、そう声を張り上げた。


「…………」


 どうやらミナちゃん先生は、寝ぼけているようだ。


 僕がいたたまれない気持ちで立ち尽くしていると、ミナちゃん先生はひとりでに回れ右。


 のたのたとベッドへ戻り、再び寝息を立て始めた。


「――……すぴー……すぴー…………ふひひ……」

「…………」


 僕はそっと第二保健室を後にし、第一保健室へ向かうのだった。


 ☆ ☆ ☆


 後日、この時のことを本人に話したら、ミナちゃん先生は顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいた。


 曰く、


「うそよ! もう魔法少女ものは卒業したもの!」


 今はちゃんと年相応に、テレビドラマを嗜んでいるらしい。


 ……〝ちゃんと〟っていうのもよくわからないけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ