表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/37

第28話「突撃! 南中道邸」

 目の前にあるインターホン、そのボタンを押すのには、少しばかりの思い切りが要った。


 ピンポーン……――呼び出し音の残響も早々に薄れ、訪れた静寂。


……無性に緊張する。


『はい』


 受話口から返事があって、僕は落ち着いて名乗ろうとしたが、


『あ、一号くんね?』

「あ、はい。そうです。こんにちは」


 このインターホン、カメラ付きのようで、名乗るまでもなく僕と認識してくれた。


 それにしても、


『ミナー、一号くん来たわよー。どうするのー?』


 この声は、まさか……。


『わー! 待って待って! あと三分~!』というミナちゃん先生の声が、微かにインターホンから漏れ聞こえる。


『ごめんなさいね。

入り口の鍵を開けるから、とりあえず玄関まで来てもらえる?』

「わかりました。お邪魔します」


 言うやいなや、目の前の戸口がカチャンと解錠の音を立てた。


 表札には『南中道』とある。


 ☆ ☆ ☆


――ねえ一号くん、よかったら週末、うちに遊びに来ない?


 そうミナちゃん先生に誘われたのは三日前。


 すでにミナちゃん先生とは何度か遊びに出かけたりしていたから、僕は何の気もなしにそのお誘いを受けた。


 ミナちゃん先生は10才にして大学を卒業した才女。


 祖父も高校の理事兼校長と来てる。


 さぞかし立派なお家柄なのだろうなぁと、ぼんやりと想像してはいたが……その立派さは僕の想像を軽く超えるものだった。


 まずもって豪邸である。

 しかもその豪邸ぶりがなんというかその……生々しい。

 漫画に出てくるような、西洋風のお屋敷ならまだ逆に笑えたかもしれない。


 けれど違うのだ。


 まず公道からは、車三台は優に停められそうなガレージ部分しか見えない。

 

 重厚なシャッターが下ろされたそれは、堅牢な要塞を思わせた。


 そしてそのガレージは、門扉を兼ねていたようで、脇に戸口とインターホンがあり、僕はそこから敷地内へ入った。


 敷地内は外観からは想像もつかないほど緑豊かだった。

 

 手入れの行き届いた芝生と植木が目に眩しい。


 足元は石畳で舗装され、石畳が伸びた先に母屋があったのだが、それがまたモダンなキューブ型の、モデルハウスのようなシャレオツ豪邸。


 事前情報として二世帯住宅とは聞いていたが……五世帯は余裕で住める。

 

 庭にテントを張ればさらにその倍世帯いける。それほどの大きさだ。


 これが現代日本におけるお金持ちの実像かと、僕はひたすら圧倒された。


 そのシャレオツ大豪邸の玄関が開く。


「いらっしゃい。どうぞ上がって」


 言いながら顔を出したのは、大人の女の人だった。

 先程インターホンに出た人だろう。声が一緒だ。


 シンプルなブラウスにパンツルックで、くびれた腰に前掛けのエプロンを巻いている。


 艶やかな黒髪は、後ろでゆるく、ひとつ結び。


 自然な薄化粧でも十分に映える美人さん――その姿をひと目見て、僕は確信した。


「ごめんなさい。挨拶が遅れたわね。ミナの母の佳代です」


 やっぱり。この人がミナちゃん先生のお母さん。

 

 インターホン口の印象から、なんとなくそんな感じがしていた。


 言われてみれば、確かに目元にミナちゃん先生の面影がある。


 それとひとつ、「あれ? この人……」と気掛かりがあったのだが……それはまぁ追々確認するとしよう。


「いつもミナがお世話になってます」

「いえ、とんでもない。

こちらこそミナちゃん先生にはお世話になりっぱなしで……。

――あ、これ、お土産です。どうぞご家族の皆さんで召し上がって下さい」

「まぁ、そんな畏まる必要ないのに……かえって悪いわねぇ」

「いえ、つまらないものですので」

「ありがとう。頂くわ」


 そうして持参していた菓子折りを手渡し、なんとなく一仕事終えた感を覚えていると、佳代さんは僕をまじまじと見て言う。


「話に聞いてた通り、本当に礼儀正しい子なのね」


 そして、




「嫌だわ、こんな格好でお迎えした私がだらしないみたい」





 佳代さんは困り顔でしんなり微笑みながら、ブラウスの胸元を軽く引っ張った。


 その仕草に、僕はドキッとしてしまった。


 引っ張って伸びたブラウスの襟から、ほっそりとした鎖骨と、下着の肩紐が覗き見えたのだ。


 落ち着いた物腰とは裏腹の、その無防備さ――それがそこはかとなく漂う生活感と相まって、しっとりとした色気を醸していた。


(なんかちょっと……初対面だからとか関係なく緊張する人だな……)


 そんなことを考えていると、正面の階段からパタパタと足音が駆け下りてくる。


「わー! ごめんなさい一号くん! いらっしゃーい!」


 慌てた様子で現れたのはミナちゃん先生。

 その姿を見て、僕はようやくひと心地着けたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ