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紅い髪留めを追って

地球の裏側を旅してきた太陽が山々の際から顔をのぞかせる

川が草が木が生き物がその光で目を覚ます

僕も決して例外ではない


「またダメだったか・・・」

上田が自分の置かれた状況を理解するのにそう時間はかからなかった

なぜなら彼がこの状況に立たされるのは七回目だからだ


   







黒板の上の時計の短針は2の文字あたりを陣取り短針は5の文字を通り過ぎた

俺は午後の授業が嫌いだ、というより授業が嫌いだ

教科書を読めばわかることを偉そうに人前で披露する教師も気にいらないし、その授業をまじめに受けて成績が少しいいくらいで自分に自信をもつ優等生が嫌いだ。

でも一番嫌いなのは俺の目の前の奴らだ。

休み時間もペラペラ無駄話をしてるくせに授業中にこそこそ手紙をやり取りしてまで、メールをしてまで話すことがまだあるのかとあきれるを通り越して感心してしまう。

あんなに無為に学園生活を過ごすくらいなら俺のようにひとりでも世界情勢について考えていたほうが有意義だ。自分でも苦しい言い訳だなと苦笑しながら何も知らない空を眺めた。


雲一つない青い空!澄み渡る海!真っ白い砂浜! 

となればいいがここは学園でありそんなことがあるわけなく、青空の下には何の変哲もない校庭があるばかりだった。

ここ最近足を踏み入れた記憶がないその校庭を歩く人がいる。

授業中に堂々と一人で校庭を歩く姿はあまりに不思議で俺は見入ってしまった、遠目ではっきりとは確認できないが髪の長い女の子のようである。

学園の制服を身に着けているのだからもちろん学内生だろうが一度も見たことがない子だった。

顔はよく見えないが太陽の光をこれでもかと反射している朱色の髪飾りが印象的だった・・・

「上田この方程式を解く方法がわかるか?」

教師の声が聞こえたときにはクラス中の目がこちらをみていた

慌てて黒板に目をやるがそこには授業を聞いていなかった俺にはさながら遠い国の未知の言語のような意味不明な文字列が並んでいた。

「わかりません...」

俺が答えるや否やクラスの視線はちりぢりになった。教師に小言を言われていた気がするが恥ずかしさでそれどころではなかった。

やはり俺は授業が嫌いだ。


さっきまで青かった空がオレンジ色に染まるころHRの終わりを告げるチャイムが鳴った。

本当にHRは退屈だこの年にもなっていちいち指示されることが気に入らない、

ちょっと俺より早く大人になったくらいでどうして教師はあんなに偉そうなのかまだ四半世紀も生きていない人生だが最大の疑問だ。

このチャイムと同時に教室はその日一番の盛り上がりを見せる。

やれカラオケに行くだ、ボーリング、カフェにいくだのあちこちで話し合いが始まっている

一人でいることが一番楽に決まっているのになぜつるみたがるのかこれも最大の謎である。

そんな喧騒を背に下駄箱に向かう。いつも校門を出る一番乗りはこの俺なのだ、なんと合理的なのだろうか

だがその日は少し違っていた、俺より先に校門を出ていく人がいたのだ。

一度しか見たことがないが間違うはずはない長い黒髪にきらめくあの朱色の髪飾りを

オレンジ色の夕日をあびて昼間より髪飾りは喜んで輝いているように見えた。

そのときふと振り返って彼女と目が合う、そこで俺ははじめて彼女の顔をみる。


<一目惚れ>辞書には一度見ただけで好きになってしまうことと書いてある

正確には昼間見たから二目惚れか?などと考えられる俺はまだ理性を保っているのだろう。

長い黒髪と対照的な白い肌、切れ長の目に鼻筋の通ったきれいな鼻、そして朱色の髪飾りがとても似合って見えた。

語彙力の少ない俺でもこれだけ語れるのだ、稀代の作家が書けばもっと美しい顔が読者の脳裏に浮かぶだろうし、稀代の画家なら一生忘れられない絵画ができあがるだろう。それほど夕日をバックにした彼女の姿は絵になった。


そんな俺の感動とは関係なく彼女はすぐに歩き始めた。決して俺は彼女のあとをつけているのではなく俺の通学路を歩いているだけだといいきかせる。彼女の歩く姿は凛としていて、育ちの良さがうかがえた。

そんな彼女が俺の通学路から外れる曲がり角を曲がってしまった、正直に言うと相当残念である。

これで俺が彼女と同じ道を歩く理由がなくなってしまったのであるが予定のない俺が通学路から外れて寄り道することを止める理由も人もいないである。


静脈と動脈で流れる血の色はちがうと理科の授業で習った気がする。ただ曲がり角を曲がって目に飛び込んできた血の海の色がどちらか判断することはできなかった。赤黒いその水たまりはドラマで見る血の色とは大きく違っていたし、それが誰の血で、なぜこんなに血が出ていて、自分が次にどうするべきかなんて考えることができるほど俺は利口ではなかった。なにも頭の整理ができていないからそれを見つけることができたのかもしれない。血の海の真ん中には草船のように朱色の髪飾りが浮いていた。


人間の視覚は印象的なもの、次に見たことがあるもの、その後面積の大きなものに目が行く。

だから俺があいつを目にとらえるのは必然的に最後になった。

身の丈は2Mあるだろうか、薄暗くなった道でその黒色を判別するのに多少時間がかかったのもこいつを発見するのが遅れた理由だろう。人型ではあるが赤黒く燃えた炎を身にまとっている時点で普通の人ではないことは判断できたし、ここにいてはいけないと俺の生存欲求が告げていることも頭では理解できたが、体が動くことはなかった。

体に風穴が空くなんていう経験は普通の学生は経験ないだろうし、一生で経験することもないだろう。

自分の体に大きな穴が開いたなと認識するにはあまりにあっけなさすぎたし、次の瞬間には目の前が真っ暗になった。それがあの化け物が俺の視界をふさいだからなのか、俺の意識がとんだからなのかなんて判断する暇はなかった。



「上田この方程式を解く方法がわかるか?」

教師の声が聞こえたときにはクラス中の目がこちらをみていた。

「え?あ、またですか?わかりません...」

クラス中の視線は再び俺から離れたが先ほどと違ってあちこちでまたってなに?寝ぼけてたんだろというやり取りがなされているのが俺の耳にもきこえた。

「上田?またってなんだ?今日お前指名したの初めてだぞ。寝ぼけているなら顔でも洗って来い」

相変わらずむかつく態度は変わらなかったが俺は顔を洗う提案に乗ることにした。

廊下に出ると校庭を一人の少女が歩いていた。

黒い長い髪に朱色の髪飾りがよく似合う彼女が歩いていたのだ。

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