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第四話 当て馬甘やかし

新調したレイピアの使い心地はなかなかのもので、筋力の少ない私でも扱いやすく技量が伴えば相手へのダメージは大きい。


毎朝の稽古に付き合う騎士たちに自慢していると

「どれ、一つ手合せねがおうか?」

と、修練上の入り口に大きな影が起った。


「お父様!!」

嬉しさで声が弾む。

突然の王の登場に騎士たちは整列する。大柄な騎士たちのさらに頭一つ分大きい長身。

隊長の任を譲った今でも最強の名を馳せる英雄王。


ライヌール・リニィ・ファルゴア


現在のファルゴア王にて、私の父。父の強い瞳の色が大好きでそれを受け継いだことが私の誇り。煌めく銀の髪は私の自慢。


歳を経て醸し出される威厳。稽古用の防具をなれた手つきでつけながら歩いてくる美丈夫。


顔に刻まれた皺は確かに年相応だと思うけど、肉体に関してはとてもじゃないけど年齢を感じさせない。


王である父はやはり忙しく、なかなか手合せをお願いできない。

早朝にこうやって来てくれた事が嬉しい。


そんな父の前に模擬武器を持って立つ。

新調したレイピアに近い木製の片手剣。


父はこの稽古場にあるなかで一番大きな木製の大剣。


「私、今回はかなり上達したわよ?」

にやりと笑うと、低く喉を鳴らして笑う父が

「新しくはいった騎士達が太刀打ちできないと嘆いてると噂に聞くぞ」

そう言って新米騎士達に目線を送る父。

ビクリッとさらに姿勢を正す数人の騎士達。


「ふふ、久しぶりでなまってるんじゃないの?お父様?」


父がどんな時でも鍛錬を欠かさないと知っていながら挑発する。


「ふふ、そんななまってしまったこの父が勝った暁には、願いをきいてほしいものだなぁ」


そういって大剣を構えた父から普段の優しさが消えて、代わりに静かな闘気が体を包む


私は片手剣を構える。


いくら木製といえども大剣なのだが、父はそれを片手で扱う最強伝説進行形の父から一本取るには、それこそ奇襲しかない。

なんとか隙をついて防具に剣先がかすれば私の勝ちだ。

慎重に父の動きを見る。


動いたのは父から直立の体制から突然の攻撃、地面すれすれから切り上げてくる。

間合いを盗んでバックステップ


ギリギリでかわしたものの剣の風圧が遅れてやってくる。


切り上げはそのあと脇に隙をつくるが強靭な筋肉の動きでそのすぐあと振り下ろしてくる。


誘われて踏み込めばひとたまりもない…


さらに後方倒立回転でよけると大剣は砂埃を上げて地面を切っていた。

その隙をついて前方へ飛ぶ!

地面をローリングして父の背中に回り込む。完全に起き上がる前の膝立ちの状態から体をひねって

背中の防具めがけ剣を突き出す。


「取った!」


と思った瞬間父の大きな背中が消えたっ、ように見えた。

片手剣を突き出す先には何もなく剣先の間合いをしっかり読まれたうえで私の頭上に大剣があった。


風圧だけが私の前髪を通りすぎた


この大きな剣を余裕で寸止め。わかってたけど負けた…


緊張が切れてどっと汗が噴き出す。


見ていた新米騎士達も息をとめていたのか決着がつくとわっとわいた。


お互いに武器を収めるそして父が言った

「クララ、負けたということは、久々に頬すりすり刑だな」

ニヤリとした父


「うわーぁぁ…」

私はあからさまに逃げ腰になるそれをあっさり捕まえる父


小さいころから父は、私たちにその丈夫な髭が生えた顎や頬を擦り付けてきては愛情表現をしていた。


まーわかりやすい親ばか行為。


最近は大きくなって素直に抱きつくこともなかった私に父は嬉しそうに告げ‘頬すりすり刑’を楽しそうに執行する。


18歳にもなる娘にすることなのか?

仮にもあなた王様ですよ?


ただあまりに嬉しそうなので苦笑しながらも甘んじて受ける。


「いたたた…いたいってぇ」

相変わらずの髭を擦り付け

「すりすりだぞぉーわーっはっはっは!」

と上機嫌の父。


いつもは無口な王だが、娘の前ではこうなってしまうことを騎士たちは知っている。


父に抱きかかえられて頬ずりされながら去っていく私を騎士たちが笑って見送っていた。


こんな最強の父が唯一かなわない人物がいる。


「あなた」


背後から突然声がかかった。

すりすりしながらご機嫌で愛娘を運んでいた父は、その声にビクッと震えその大きな体をかがめる。

私をゆーっくりと床におろし

「うむ…」

といって背筋をのばして振り返る。


どこまでも優しく微笑みをたたえた笑顔。

「朝議をさぼって娘へのいやがらせですか?」

でも、声にのっているのは…怒りだろうなぁ。


(お父様…さぼっちゃったの?)

目で問いかけると、父は

(うん、さぼっちゃった…)

と目で返してくる。


そんなやり取りをみて、大きくため息をついたのがそう、私の母で父が決して敵わない相手


ルベーラ・ルヌィ・ファルゴア

この国の平和を司る王妃


父とは8年歳が離れている。年下の母はそれをモノともしないし、女性としてもまだまだ若若しく妹が受け継いだ白い肌は年齢を重ねてさらに艶めき、年齢はどんどんわからなくなっていく。

これは竜の加護なのかもしれない…という噂もあるほどだ。


「私だってクララとおやつを食べたり、紅茶の味を聞き比べて、新しい精油の香りを試して、その銀の髪にブラシを通して、可愛い髪型を研究して、ドレスの色をいろいろ試して」

ああして、こうして…止めどなく溢れ出す。


あぁ、すいません。この人もやっぱり親バカな部類でして…

そして忙しいことには変わりなく。


ぷりぷりと不満を漏らす母は可愛い。父も私もそんな母が大好きでしかたない。


父とこっそり笑い会う。


最初になだめるのは父の仕事。

「よし、朝議に行って来よう」

そういって父は苦笑しながら会議の間に向かう


「王妃は体調が悪くなったとしておこう。ゆっくり休んでなさい」

優しく言う父はもう王の顔に戻っている

「はい」


さっきまでの拗ねた子供のような母は形を潜めて笑顔で答える。

そして私を連れて向かう先は…

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