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第三十四話 当て馬窮し

「7年もかかった。

 私は魔力が低くてね……一族の間でもずっとバカにされてたんだ。」

淋しげにポソリポソリと話し出す。

同情を誘うようなその弱々しい声に怒りがほんの少し揺らいだ。

「そーーんなおかげで、あのバカどもには誰にも気が付かれずにすんでるんだけどねー。」

手のひらを返すような人を小ばかにした明るい声でいい放ち

「かわいそうだとおもった?」

といって大爆笑している。


壊れているのだ。心を覗くのは危険なほど、彼はもう壊れてしまっている


「いいね……蔑んで憐れんで……」

私の顔を見上げながら台座に膝をつく。

私の太ももに手を這わせ、頬を付ける。荒い息が肌に絡みついて、そこから自分が腐っていくような感覚になる。


でも、必死に堪える──時間を稼ぐ為に。


ジフェルは気分を良くして語りだした

「元はこの国は、私たち一族のものだったはずなのだよ。

 さかのぼれば、横暴な兄王が魔術の才に秀でた弟をねたんで追放したんだよ。禁忌の技を使ってでも、他国もろとも支配した方がより良い暮らしが出来るという当たり前の考えを、魔術を理解しえない兄王は妬んで受け入れようとしなかった。」

そんなことをケロリという、反射的に怒りが口をつく

「そんな!禁忌は冒したら不幸になるから、禁じられているのよ!!!」

「それは……魔術の才能のない奴がねたんで言ってる言い訳だぁ」

突然太ももにザラリとしたぬめる感覚が這う。

慌てて見下ろすとジフェルが、私のももに舌を這わせている


吐き気を伴うほどの不快

あまりの事に体が固まる。

更に両手で足を撫でまわす。

「我々は奪われたものを取り返そうとしているだけだからねぇ」

気持ち悪い……逃げたい。


……逃げられない。

でも、ここにこいつがいる限り証拠は集められるはず。

「わっ我々?」

なんとか震える声を振り絞って声を出す。


「あはは、魔術の才能ゆたかな兄が私におりましてねぇ、でもあいつはその才能におぼれて失敗した。私が魔術の才能が低いことを馬鹿にしてたから罰があたったんだよ。

 私を馬鹿にした奴はみんな馬鹿だ、あのラルという小僧もだ!」

突然、ラル王子の名前がでて心臓が跳ねた。

が、ジフェルは全く気にも留めずひたすらしゃべり続ける。

「ヴァレイズが失敗して」

その名はラル王子を利用したあの魔術師の名前。

まさか兄弟だったの?

「私たちの一族は路頭に迷った。

 あのラルと言う小僧は、残った一族は魔術の才能が高くないからといって全員を処刑するのをやめさせて恩を売ったと思ってるようだが、それは違う!!!!

 知っているんだよ……私を馬鹿にしているんだあいつは!!!」

興奮して叫び喚く

「馬鹿にしやがって!

 馬鹿にしやがって!!!

 だから!!! 復讐を誓った!」

あぁ、もうその時点で彼は壊れてしまっていたのか。


国家を揺るがす大罪を犯したものの家族──もちろん遺恨を残さないために全員を処刑する国もあるだろう。


ただ、ピコランダではそれは取られなかった処置だったのだ。


もしかして、ラル王子があれほど自分を責めた原因はジフェルの素性を知っていたからなのか。

先入観で彼を見ないようにしてきたのに、……また裏切られたと。


「ラル王子はあなたが、ヴェレイズの弟だと知っててそばに置いたの?」

「私がここに来たときはあの小僧は魔術師学園にいたからねぇ……上手く隠せていたんだが。」

忌々しげに吐き摺れるように言う

「でも、いろいろ手を回して調べてきたようだったよ。隠していた過去を知ってる事をほのめかしてはきたが、私みたいなささやかな魔術しか生み出せないものは取るにたりないと馬鹿にして放置だよ。

 だからねぇ仕返しも兼ねて盛大に裏切ってやることにしたんだよ。」


違うのに!!!


たしかに、彼の魔術で何か仕掛けをしたとして、ラル王子自身はそれを止められるという目算もあっただろう。


何よりも、ラル王子の制御できないような魔力を彼は持っていない。


でも、ラル王子は自分の奢りと無知の為に暴走した自分を戒めるように、きちんと誰に対しても耳を傾けるそう思っていたんじゃないだろうか。


他国の姫がやってきて混乱する宮殿において、警戒しつつも侍女だと思った私には優しかったように。

過去の経緯にとらわれることなく、彼の政治的な動きを評価していたのだろう。


感情に流されて見失っても、きちんと思考を回してそれを解決出来る人──それがラル王子なのに。

……どうして彼を裏切るの?


これは私の勝手な想像かもしれないでも、あの心を覗いたから……わかってしまう。


『信用しない』そういいながらも『疑いきれない』そんな甘さと大きな優しさを、彼は持っている。


……そんな人だ。


いまだに成長段階の一人の青年だ。

彼がたまたま大きな魔力を持ったばかりに、周りが彼を巻き込んでいる。


それが辛かった。


竜について調べる為各地を回りたいと言っていた彼。

でも、そんな事は王子である彼に許されはしないのだろう。


あの時、抑え込むようにして諦めていたのは、自分の立場を考えてだ。


そんな彼を……こいつは。

きっと恨めるなら、誰でもよかったんだ。

その暗い欲望を満足させるために。


なのに、彼は自分を責めていた。


「馬鹿にしやがって……馬鹿にしやがって……」

ジフェルはぶつぶつつぶやいている。

「でもねぇ。チャンスはくるんだよ……ヴァレイズが残したこの施設の場所が分かったのだよ。」

復讐を誓って王宮にはいったものの、ジフェルはやはり魔術の才能の為に計画が具体化しなかった。

ただただ恨みを募らせる日々に心が折れかけた時、

「闇商人ゲゼルヴァーツの売人が朗報をくれたのだよ。

 それがこの場所だ」

「ゲゼルヴァーツ?」

聞いた事が無いその名前に顔をしかめる。

しかし彼はその呟きが聞こえなかったようで、自分の語りに入りきっている。


「でも!どうして、これだけの魔術フィールドが気がつかれなかったの?」

今度はきちんと聞こえるように声を大きくして言う。


「だから7年かかったんだよ。兄が残したこの施設を見つけてからね」

まず最初に動かしたのはアンチマジックフィールドの作成装置だった。


ここだよ、ここ──と言って私のっている台座を示す。

「毎日毎日すこしづつすこしづつ……魔法で感知されない範囲を広げていった」

歪んでしまった努力。

どうしてその勤勉な努力をピコランダの為に生かしてくれなかったのだろう。壊れてしまっていた心にはこの国のもつ優しさは届かないのか。


「ラルの小僧が帰ってきてからは慎重に慎重に広げたさ。

 自分の魔術が低いことを主張しながら、ピコランダの内情も探ってきた」

きっと、彼はこの思いが無くてピコランダに普通に勤めていればきっとよい人材だったのだろう。


──私がもし、ピコランダの為に、【平和の心】を使えたら。この頑なに歪んでしまった魔術師の心をほぐすことが出来ていたら。


「そしてついにその時はやってきたんだ。」

目を輝かせながら語るジフェル

「7年目でやっと城の地下、つまりここから城壁部分、さらには私の自室に至るまでのアンチマジックフィールドが完成した!!」

ジフェルはスフィアにつかつかと歩み寄り、こちらに振り返って両手を広げた

「そしてついにこのスフィアを動かす時がきたのだよ!!!」

ヴェレイズの残したスフィアは、7年前、効率の悪さから放棄したマナ暴走装置だという。


この装置はやはりヴァレイズが闇商人ゲゼルヴァーツから購入したもので、この装置の特性を分析し独自の術式を組み立て、ヴァレイズが失敗した暴走を引き起こす計画を立てた。


「私はねぇ、時間をかけてじっくりと計画を実行する。なんでも自分の魔力でどうにかなるという奴らの隙をついてね」

得意満面の歪んだ笑顔。


この大規模な花嫁選抜試験計画をたて魔力の強い花嫁候補を選び、選考からおとす。


帰国したと思わせて本当は誘拐し拉致して、ここに閉じ込める。

その拉致監禁に協力していたのが、森から出てきた山賊たちだったのだろうか。


「でも、彼女たちが帰らなければ国で大騒ぎになるはずよ!!6人以外の国では帰国した姫達がいるんですもの!」

ジフェルは大げさに首を振りながらこちらに歩いてくる

「魔術は偉大だといったろう? 姫様」

そう言いながら──また足をさすりだす。


背筋が凍るような寒気に鳥肌が立つ。

私が反発するたび、その心を削ぐように

──触る。


「あの姫たちが頭につけているのは『心身隷属装置』だよ。これを付ければ数時間は私の言いなりになるのだよ。

 疑うような手紙がくれば、本人たちの筆跡で試験に受かって残ったという返信を国に送ればいいのだ。」


『完璧だ』といって太ももに頬をこすりつけてくる。

「だれも気付きはしない。もともと半月は帰る予定のない姫ばかりだ。」

そして、その姫達から引き出されたマナはスフィアの中にたまっていく

「そして、私はこの装置から好きに魔力を引き出せるのだよ。この指輪でね。

 この指輪さえあれば……適正が少なくともどんな魔法でも使える。発音すらかなわなかった術式がこの指輪で変換され化現するのだよ。クックックッ、素晴らしいまったくもってすばらしいぃいいい!!」

そういって私の正面に立ち、得意げに指輪を見せる。

「このスフィアのお蔭で、私は空間転移も可能になったのだ!

 しかも、あの小僧にきずかれることなく、くふふ」

指輪は金色の題材に赤紫の石が埋められて怪しく輝く。


ただ、その素晴らしい指輪の為に6人もの人間が犠牲になっている。そんなモノ──許されていいはずがない!


「魔物を遠方に呼び出したりして何とか隙をついて進めた計画。まだ最終調整がのこっていたのに……あの小僧、突然研究所行きを命じやがった。お蔭で姫様ぁ、あなたに見つかる羽目になったのだけど」

あの魔物の大量発生はコイツの仕業たっだたの?


「でぇ〜もぉ〜」

そういってこれ以上の楽しみは無い、といった調子で語り続ける

「あと2日でこのスフィアは満ち足りる!そう、暴走の準備が整うのだ、あの兄でさえ失敗に終わった計画を、この私が成功させるのだよ。

 しかもだ、国中の王族が集まる舞踏会でこれを起動させれば……ひひっ…うひひひひ」

狂ったように笑い始めるジフェル──でも、その声が急に静まり。


ジフェルは穏やかに微笑んだ。

「この国は……終わりですよ」

さっきまで狂っているとしか思えない言動だったのに、もうまともな顔つきになって、柔らかい人のいい魔術師がそこにいた。


「大地震により噴き出した地下水脈が、お城にあつまった王族を無残にも飲み込み、この国は崩壊するのだよ。」

放っている言葉と表情の違いに驚く。

それがさらなる恐怖を呼んだ。

「混乱の中……王子達に止めを刺してあげます。」

こうやって、知らない人からみたら、普通の人に戻ってしまうのか。


狂気の中でこそ可能になる人格。

「運よく私は研究所にいるのでね、災害には巻き込まれない。遠縁の私が──王の傍にいて政治にも明るい私が、新王につくしかないのだよ」

さもあたりまえというように語るジフェル。

もう、止められないのだ、この人の狂気は。


「いい顔になっていらっしゃる」

顔を柔らかく笑って、彼は指輪からマナを引出し手の中に赤紫色の魔法陣が展開する。


狂気の魔術師の手中に銅色の仮面が現れる。


「ひっ」

それが何を意味するか悟って、息がひきつって止まる。

「姫様には、今騒ぎを起こされてはこまるのですよ。

 なので、お国に帰って頂くという事でどうでしょう?」

操って、国に帰らせるつもりなのだ。その途中の馬車を襲うんだろう。


「察しが良いのはありがたいし、何よりその恐怖に歪んだ眉がっひひ……そそりますなぁ」

そお言いながら仮面をもって近づいてくる。


仮面から黒く這い出した紐──いや一つ一つが意志をもって動いているように見える。


そうそれは触手。ザワザワとうごめき、私に向かってその手を伸ばしてくる。


本能から来る拒絶感が息を荒くさせる

心臓が暴れ出し、汗が噴き出る。

……助けて……


脅威からくる絶望が、私を包んでいく。

「ふふふ……助けてあげましょうか?」

まるでその言葉が、絶望の中に指した一筋の光に思える。


震える瞳が彼を捕える。

触手がすんでのところで触れる位置まで彼は近づき歩みを止めた。


「助けてあげても構いませんよ。」

ねっとりと囁く。


もう……こいつにしか……すがれないのか……


「泣きわめいて命乞いしなさい。そして私にすべてをささげると誓うのです。」

目の前で蠢く触手の向こうで……魔術師は優しく微笑む。


狂気に歪んだ顔に真っ黒な喜びを湛えて


「当て馬姫は極上の体を持っているともっぱらの噂でねぇ、それをたぁっぷり味わいうのもいい」

目線が太ももを舐めるように動いた。

目の前で動き回る黒い触手、でも差し出される助けの糸も……また黒く歪んでいた。

ただ……ゆっくりと……心が折れていくのがわかる。


もう……どうなっても……いい…

「我が国の最初の妃の一人になる光栄を与えてもいい」

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