第三十二話 当て馬間が悪し
この物語もクライマックスです。
あとは信じて待つしかない。
朝食が終わるとジフェルが研究所に向かって出発していった。
庭を散歩する態で馬車に乗り込むジフェルを見にいった。
ラル王子が兵隊と一緒に彼を見送っていた。
そして、城内にいるであろう隠密行動を行う人たちが、ジフェルの陰謀を暴く証拠を見つけてくれるのを祈るしかない。
本を読み、ダンスの振り付けの稽古をして時間が過ぎていく。
こんなに、平和でいいのかと思うほど静かに時間が流れる。
今、どんな状況になっているか──私が知る由もない。
午前中に書庫に行ってみたが誰もいなかった。
会議は続いているだろうし、指示してるのもラル王子だろうからいるわけもない。
昼ご飯は、外で食べるのが自分の恒例になってしまった。
ハトナにバスケットを頼み、魔術師塔の裏の小さな庭園にむかう。──もしかしたら、ここの監督責任者としてラル王子がやってくるかもしれない、そうすれば今の進捗がきけるかもしれない。
そんな思いがあってここでご飯を食べることにした。
ところが、思っていなかった人物を目撃する事になった。
バスケットをもって魔術師塔から庭園に曲がる道を歩いていく。
庭園の城壁が見えてくる
──と、目の端に、翻った紫のローブ。
反射神経で植え込みの陰にしゃがみ身を隠した。
心臓が途端に騒ぎ出す嫌な汗が額から流れる。
バスケットを握った手が汗ばんでいくのが解る。
まさか────────ジフェルだ!
何故、どうして……今日研究所に向かうのを見た。
ラル王子もきちんと見届けていたという事は、今彼がここいるのはおかしい。
こっそりと伺うと、ジフェルも相当周りを気にしている。
でも、あの特徴的な鼻や細い眼は、この2日でしっかり記憶に焼きついたジフェル本人だ!
たぶん、あの城壁の彼しか通り抜けられない穴を通って外に出るところなのだ──後をつけようか、そう思って腰を浮かす。
『面倒くさいことするなよ』そう言った夜色の瞳を思い出す。
引き受けてくれた彼が言った、私を心配して。
もう一度腰を静かに下ろす。
まずは報告をしなければ、この目撃情報があれば、今すぐ研究所に行ってジフェルの不在が確認できて、彼の疑いは濃くできる。
強引な家宅捜索も出来るようになるはずだ!!
昼食のバスケットを放置してジフェルがいなくなったのを確認して、走って自室に戻る。
今、ラル王子は会議の場にいるか調査の指揮をとっているかだろう。
どっちにしろ極秘で動いているだろうから、居場所がわかるわけない。
ましてや、無関係の他国の姫にその場所が漏れるわけもない。
でも、ハトナなら。
私には秘密でも、内部のモノは王子の場所を知っているかもしれない。そう思って手紙を書く、内容だけのメモに近いもの。
それをハトナに渡して頼む
「大至急これをラル王子に渡して」
真剣にお願いする。
ここで理由を聞かれたらどうしよう──なんて思わなかった。
ハトナは当たり前のようにうなずいて。
「大至急承りました。」
そう言って部屋をでていったから。
私は、急いで魔術師塔の庭園に戻った。
置いてきてしまったバスケットを回収するためだった。
──間の悪い。
そうとしか言いようがなかった。
思い返すと、おぜん立てされて、夜這いをかけた夜。
──あの部屋に幼馴染の姫が来たように。
愛の誓いの瞬間に、
──彼の子を身ごもった妊婦さんが現れたように。
海辺で足がつってそれを介抱してもらってただけなのに、
──『この泥棒猫!』とひっぱたかれたように。
なんで、このタイミングってところで見つかってしまう。
そんな私が壁から顔を出したジフェルと目が会ったのは、
もう、間の悪い人生の集大成なのか?──そうとしか思えない絶妙な間だった。
まずい!!と思った瞬間──突然、立ちくらみに襲われ、
意識は、刈り取られるように突然闇に飲まれた。
ブックマーク・評価ありがとうございます。
明日には最終話までいくと思います。
もうしばらくお付き合いくださいませ。
楽しんで頂けたら幸いです。




