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第三十一話 当て馬託し

「なのに……また俺は見誤ってるのか?」


自分の魔力を正しく使い、魔力を振りかざして奢らず、自分を利用しようと接してくるものを信用しないであれから生きてきたのだろう。


面倒くさいという理由をつけ好感をもたせない事で人との関わりを避けてきた。


でも、私にはわかる。

王や王妃や兄を見て育ってきた心根の根本にある優しさが。

彼を非情にはさせられない。だから、今また彼は苦しんでいる。


最年少で最高学位をとるほどの天才が苦悩している。

不安に支配されて──思考を止めているから。


今回の花嫁選定試験は、そんな彼には相当な負担であっただろう。


ただ、そこで内側に注意が集中した彼のその隙をジフェルは見事に突いた。


彼の心が自責の念で支配される。


信用できない他国から来た姫か自国の宮廷魔術師かどちらが自分を騙しているのか。


どちらがこの国に害を及ぼそうとしているのか。


「今のあなたは、11歳の時のあなたと違う」

自分をすっかり信じられなくっている──彼に。


届いてほしい

そう願いながら言葉を伝える。


「今のあなたは、こんなに不安に駆られようと目の前の事実をしっかり受け止めて対処も出来る。」

今回の事はすでに、王へ申告して対策を講じている


「自分を責めて思考を止めないで……私は今の貴方の判断を信じる」


そう、彼を信じて判断してもらう。


私と言う人間を信じるかどうかは、あなたの判断に任せる。

だから、自信をもってほしい。


「私は、この国に来てからまだ半月もたっていないけど……貴方たち兄弟がどれだけ皆に愛されてるか分かったわ。

 そしてそれはあなたたちが行動で示してきたからでしょ?この国を守ろうとこの国をより良い国へと導くために」

気が付いてほしい。

いまは混乱して弱くなってるかもしれないけど。


本当は、あなたは誰よりも冷静できちんと状況を見極められるはず。


一時期自分を見失っても、ちゃんと冷静になって私に頭を下げてくれたように。


だれかに止めてもらわなくても、もう、自分できちんと対処できる。


今はそれが間に合うのだから。


「私は……この国が好き」

彼の瞳を見つめながら心の底からあふれ出る思いを空間に解き放つ。


黒く渦巻く不信感の中、今は押しつぶされそうな彼の気持。


「この国を壊されたくない」

ここまで来たらもうあとは、彼自身に委ねるしかない。


「誰が信じてくれなくても……私は動く。」


あなたも自分を……信じてほしい


「この国の人たちを」


夜色の瞳の奥に伝わって欲しい。

あなたがこの国を守ろうとしている事に私も協力したい。


「……好きになったから」


彼が少し目を細める。

──そして小さく息を吐いた。


荒れ狂う自責の波が、不安が少しづつ収まっている


本来の彼はきっと思考することで冷静を保つのだろう。

今回はきっと、過去の事例と重なりすぎてあふれ出た不安に流されそうになっただけ。

過去を経験してあなたはきちんと判断を出来る人に成長している。


考えて──そして思い出して。

……自分を。


ほら! 瞳にいつもの青い光がもどって来た。


それを確認して私の能力を閉じた。


「ジフェルの事……内密に大至急で調べる」

彼が導き出した結論に感謝する。


……良かった。


「ありがとう」

ホッとした。


この人に任せればきっともう安心だ。

そう思うと自然に顔が緩んだ。


「あんた、あっ……」

ラル王子がなにか言おうとして、目をそらされ「なんでもない」とつぶやく。

「え?何でもないって?」

よくわからなかったので聞き返すと咳払いと一緒に立ち上がった彼が、手を差し伸べる。


その手を自然にとって立たせてもらう。


私が立ったのを確認して握った手をパッと放すと、ぶっきらぼうに言う


「もう、俺がこの案件引きとったから……面倒くさいことするなよ」


後をつけたり、証拠を探したりって事かしら?

心配してくれてるのが分かった。


「うん、一番協力してほしかった人にお任せできたから、もう迷惑かけるようなことしない」


本当に安心した、一人で何かを探るのはやはりつらかった。


どんなに覚悟を決めても、結局私は弱い。

虚勢を張っても出来ることが限られてるから、

「あなたが動いてくれたら100人力だもの、私は大人しく祈ってるわ」

嬉しかったから素直に言葉が出てきた。


「よろしくお願いします」

そういうと彼は口角をふっとあげて優しく言った


「俺の国の事だ」

それは、私を拒絶する言葉でなくて、彼流の引き受けたってことだって分かった。


だから私も微笑を返した。


ラル王子は明日の朝、一番でジフェルをマジックポーション研究所の方へ出向させる手筈をとるという。


まずは城内・城外における彼の行動を徹底的に洗うのだ。


いきなり家宅捜索や、危険な罠があるかもしれない森の空き地に突入とはいかないらしい。


ただし、舞踏会の日に何かが起こるという事が解っている。

それまでという期限が具体化しているのは動きやすいという。


と言っても時間がないのでとりあえず少数で迅速に動くため、ジフェルを一旦別場所を移すのだ。


ジフェルの身辺が洗われたら陰謀もきっと暴けるはずだ。


深夜もいい時間だが、事の緊急性が高いので早速秘密裏に会議を招集するという。


これから寝ないで話し合いは行われるだろう。


私は、また彼にベランダまで送ってもらう。

本を二冊抱えての飛行も彼は苦でもなく、やはり事務的に私を下ろして青い魔法陣の中に消えていった。


魔法陣が消えて月光だけが明るくベランダをてらす。


どうか、この国が守られますように──そう祈って。


私は部屋にはいった。

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