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第二十三話 当て馬惑わし

朝食会にはきちんと間に合って、いつもと変わらず穏やかな朝食をアル王子と取る。


沢山の目の中でも臆することはない。


この数日でピコランダの国の事も解ってきたし、本当にこの国が好きだと思える。


きっと私が見えていない問題もあるだろう、それを一緒に乗り越えていきたいそう思う…


この国の未来を担うアル王子の肩の荷が、少しでも軽くなるお手伝いが出来たらそう思わずにはいられないほど、まっすぐで真面目なアル王子。


彼の瞳が私を映してくれている。


さて…永遠に私だけを見つめてくれる瞳になるのだろうか。

談笑しながら私は彼の瞳は…太陽の輝く青空のような色だと思った。


* * *


本をもって玉砂利の道を歩く。

もうすっかりお馴染みの小気味いい音を聞きながら。


橙の光の漏れる書庫に向かう。

月はだいぶ丸に近づいてきた……

夜空は今日も晴れ渡り、書庫の住人である、あの第二王子の瞳の色をしている。


今日の夕食も美味しかった。

でも、朝食と違ってアル王子とは一番離れた席になった。

ローテーションだから仕方ないけど、一番離れると離れるで御姫様トークに付き合わなくてはいけなくなる。


もっぱらの話題はやはり、毎日誰かしらが受けているダンス稽古の話題になる。

「難しいわよね」とため息をつけば、「私も全然覚えられない」と答え「王子のリードがあるから大丈夫よ」などと白々しいフォローの仕合になり、みんなが牽制しあって出し抜こうとしている。そんな空気を自分も含めて持っている。


「クラァス様は、明日は二度目の王子との稽古でしょ?仕上がりはどうですの?」

メイン料理の白身魚の香草焼きをほおばってその深いうま味にうっとりとしていたところでこちらにお鉢がまわってきた。


ここは、合わせておくべきだろう

「私もやっと振りを覚えられたという所でしょうか?

 明日もまたアル様の足を踏んでしまわないか心配ですわ」っと……こんなもんでどうでしょう?


周りはあからさまにホッとした顔をする。

「すごいわー」「さすがですわー」とか言ってるけど、目が笑ってないですよ皆様。

ここにツインテールちゃんがいたら

「さすが当て馬、経験値がちがうのね」

なんてイヤミの一つも言われるだろうが、彼女は王子のそばで猫なで声で自国でお抱えのパティシエの作るデザートの話をしている。

王子も笑顔を絶やさず聞いている。


そんな夕食も無事に終わり部屋に帰ってお風呂に入る。


そうなのだ、明日は午後からアル王子とのワルツの稽古の二度目の合わせだ。


振りは既にハトナとの訓練で入っている。


ただ、リフトされる感覚や組んで踊る感覚はもう王子との稽古でしか養えないので、明日の稽古は集中してしっかり感覚を体に覚えこませたい。


舞踏会当日に見せ場の部分を王子と踊れるよう完璧にしておきたいところだ。


早めにベッドに入って明日に備えようとしたものの……


早すぎたのか、気合が空回りして一向に眠れる気がしない。


ベッドから起き上がり再度振りの確認をする。


よし完璧!!

と両手で拳を握ってベッドに入る…


が、しかし…眠れない…


仕方ないから本を読んで心を落ちつけようとしたところ、

あぁ…この前借りた分はもう既に読んでしまっていた。


うーんと考えて…散歩も兼ねて書庫に行ってみるかと思った。


時間もまだ早い。

こんな時間から寝ようとしている自分がちょっと滑稽になる時間。


寝間着から淡い水色をしたロングシフォンドレスへ着替える。

同色のショールで露出を抑えて部屋を出る。


警備の兵士とも今はすっかり顔見知りなので、

「本を返しに行ってきますね」

と声をかけると静かに了承の敬礼をしてくれたのでそのまま出かける。


書庫はいつも鍵はかかっておらず、出入りは自由だった。

今までに何度かこの時間帯に本を返して持っていくことがあったが、ここの住人…ラル王子とは、その時に出会ったことはない。


さらに、今朝のハトナの話だと、夜は体を鍛えるみたいなので、この時間に会う事もないようだ。


初日に遭遇したのは、確かにもっと遅い時間だったし、次はあの天然さんのポーチを拾った時で昼だった。

あと、研究所から帰った時も昼だった。


どうもこの書庫が彼の自室兼研究室という事になっているらしいが、研究所に行ったり、宮廷魔術師の指導をしたり多忙なので、いつもここに居るわけではないらしい。


昼は陽の光が入ってくるし、夜は常に明かりがついていて住人がいなくとも返却時に暗くて困った事はなかった。


ということで、住人に気を使わず遠慮なく利用させてもらう。


重そうなのに軽々開く扉を押していつものように入る。

一番近い机に、本は置いてあって、いつ来ても5冊分の高さの本の山が二個ある。


最初来たときは、あんな感じの状況だったから気が付かなかったけど、次に来たとき一冊づつ借りているのに減らない本の高さにちょっと驚いて、一番下に新しいラインナップが増えていることに気が付いた。


伝記はすこし難しいピコランダ史も入るようになった。

物語は長編のモノが入ってきて、今日返すのはその下巻だった。

新しいおすすめ物語が楽しみでもあった。


お蔭でアル王子との会話で苦労はない。

もちろんラル王子の名は私からも出さないし、ラル王子からのアシストもないだろう。

ただ、この本を読ませてくれることで私は助かっている。


あんな事があったけど、アル王子の優しさを弟の彼からも感じる。


新たな本を手にしてふと、大きなガラス窓に自分の姿が写っているのに気が付く。


夜の闇をせき止めたガラス窓が内側の明かりで鏡のようになっている。


全身が写る鏡があるとついダンスの振り付けで気になる部分を確認してしまう。


ホールドされた時背中が綺麗にきちんと反っているだろうか?

手の角度は美しく流れているだろうか?


小さく揺れながらステップを確認する。

そのうちだんだん熱が入ってきて、机に当たらない程度に気になる部分を本域に近い動きで確認し始める。


最初のスタンダードなステップが終わると特徴的な振り付けになる。


右手を額の上の上空でふんわりかまえ、

左手は肩の高さで横にふんわり。


この羽ばたきは天馬のように優雅に、

左右に流れるように…


顎は落とさない。

姿勢正しく。

王子の右手が背からまわって腰に来るから

それに右手を添えて…


と手を腰に当てようとしたところで、すっと腰に手が置かれた。


左肩に温もりを感じて驚いて左を振り向くと、


微かに微笑む夜色の瞳があった…


ラル……王子?!!!


突然の遭遇に反射的に体を離そうとすると腰に回った手がおもった以上の力でガッチリ身体を固定する。


定番の白いシャツはボタンが胸のあたりまで開いていて……


いつもみたいにきっちりしまってない…


髪はしっとりと濡れているようだ。

お風呂上りなのか石鹸の匂いがほのかに漂う。


離れるどころか、さっきよりも近い。

彼の胸に肩が触れる…白いシャツ越しに鍛えられた胸板を感じて触れた部分が熱を持った気がした。


……本当に鍛えていたのね…


稽古終わりで汗を流して帰ってきたのかしら…


そんな戸惑いをしってかしらずか彼は無言で左手を差し出す。

それは、このワルツの続きを促しているとわかる。


スマートな促しに、このワルツに対する熟練が伺える。

そうか、この国の人ならだれでも踊れるなら、彼だって当然踊れるのだ。


おずおずとその手を取る…

すると腰の腕がさらに私を彼に引き寄せる。

シフォンのドレス越しに左半身が彼の温もりを感じる。


接したのが背中側でよかったと、跳ねてる心臓を落ち着かせる様に一度目を閉じて小さく深呼吸。


目をあけて…

そしてゆっくりと

腰の手に右手をそえる。


微かに音楽が流れ出す…

それは私の頭の中だけで流れているはずなのに、まるで彼にも聞こえるように同時に最初の一歩目がでる。


前へ進む自分が…軽い……!


脚が自然に次の目的地に向かって走る。

感動して彼を見上げると見下ろす彼と目が会った。


やっと落ち着いていたのにまた…顔が熱い。

でも、確かこれは振り付けだ。

そうだ、ここで見つめあるようになってるから…


そう思うのに夜の闇のような瞳に映る私が見えるそんなに近いところに彼はいるのだ。


促されてターンする私。

何度か回ったところで、その手を驚くほどの強引さで引き寄せられる。


まるでパズルのピースが合うように、ここに嵌る運命だったようなホールド。


優しさの中にある力強さ。

背中を支える腕の安心感に寄り添うように自然に美しく背中が反る。


そして、ふわっとした浮遊感の中…

私にも翼があると思えるほど軽やかに視線の高さが上がるリフト。着地したら逆側へターンだ。


回る景色にふわりと優しく微笑む彼がいて……


あぁ、王子様だったんだなぁ


そんな風に認めざるをえないほどの気品が眩しかった。


もうすぐ終わってしまう……

終焉に向けてステップは緩やかになっていく。

握り合った右手を強く握り直す。

背中を支える彼の左腕が腰に回って引き寄せられる。

彼の胸に頬をあて、私の右手はすべるように彼の首筋に触れる。


動きが止まり…彼の手も自然に私を抱き寄せる…


音楽は静かに消えていく…


耳に残るのは彼の心臓の音。


包まれるように抱きしめられる…


温もりと鼻をくすぐる石鹸の香りが心地いい。


甘えるように彼の胸板に唇を寄せる。

ゆっくりと彼の右手が動いて私の顎を彼の綺麗な指が持ち上げる。


見上げるとそこに深い深い青がある。

その奥にある妖しい光に誘われて目が離せない…


漏れる吐息が熱い


求めているもの、

求められているもの…

それが触ようとする場所が、

空気越しに温もりを感じられるほど近づく……


―キシッ

爪先立とうとして床が鳴った。


!!!!!

バンと彼を突き放した!


我に返る!

何を……しようとしていたの?

わたし…混乱が全身を支配して震えてしまう。


こんな事になるなんて思いもしない…


流れに身を任せて気が付くとこんな状態にっ。

どうしたらいいのか、心臓が口から飛び出してしまいそうだ。

何か言わなきゃ……でも、何を?

いや、私はアル王子の花嫁候補だから!

そうだ、冷静になれ私!

こういう時こそ当て馬経験を生かせよ私!!


でも、その経験にあんなに自然に我を忘れた事が無いことに気が付いて背中を嫌な汗が伝う。


でも、とにかく彼は弟になるかもしれないから、

何でもいいから、この空気を換えなきゃと焦る。


で、出たのは

「こらこらぁー!おねぇさんをからかうのは、やめなさいよっ」

ひきつってないよね?

ちゃんと笑えてるよね?

でも彼の顔は見れない…何を思っているかとか…

無理……見れない。


私は表層で言葉がつらつら滑って出てくるのに任せて、もう考えるのを放棄する。

「たしかに、こんな感じで、アル王子といい雰囲気になったら…っ!」

あぁ…いい雰囲気って認めちゃった…いやいやいや……

「アル王子と明日の稽古でも接近できたらいいよねぇ。」

あははははは…乾いた音しか出なくても笑うしかないじゃない。

「こりゃ、あんたの姉確定だわ。お姉さまと呼んでいいのよ」

うわーもう…白々しくて。

そして、もういたたまれなくなって…

結局彼の顔を見ることができずに書庫から逃げ出した…


外に出て振りかえる。


さっきまで私たちを映してたあの大きな窓越しに、彼の背中が見えた。


柱によりかかる彼の右手が頭を抱えている。

大きくため息をついたように肩が動く……


後悔…だろうか…


だったら…私は……どうなのか?

これ以上思考を回すとなにかとんでもない方向に行ってしまいそうで…


とにかく何も考えるな!

考えるな!!!

心の中で唱えながら部屋まで帰る。


本を忘れてきたそれにはきずいたのに……

心が覗けるとこを忘れている自分に


気が付かなかった…

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