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第二十話 当て馬誇らし

深い緑にに囲まれた湖が見えてきたのは、朝食後に馬車で出発してから、太陽が頭の上に位置して影がすっかり短くなるそんな時間だった。


この湖の向こうに風車がいくつか見えてくる。


その風車がたっている大地には広大な畑が広がっているのが見えた。


公務の見学で王子についていくことになったのは、現在この国で推し進めている『魔術補助頓服水薬研究施設』通称、マジックポーション研究所への視察だった。


魔術は魔術師学園都市などで教育・研究されているが、基本的にそれは才能ある人物にしか扱えず、その数はあまり多くない。


ファルゴアで言えば宮中に一人いる。


彼は薬剤師兼魔術師で基本的には医者の補佐で、魔術を施行している。


他は天候の占いや武器への属性付与エンチャントとか

してくれる時もある。


ただ、平和なファルゴアでは彼の仕事は、祭事の花火打ち上げ担当と薬剤調合、お天気を聞きに来る農家の相談役、孫の嫁を探すおじいちゃんの御茶飲み友達などなど多忙であるが魔術と関係あるのか?と言われたら…結構疑問が残る。


話を戻して魔術は、扱う人の才能に起因するものが多く、その才能が優れているものにしか扱う事が出来ないものもあるという。


マジックアイテムの研究は至る場所で研究されているが、魔術適正が無いもの、つまり魔術をきちんと扱える器が無いものが使用すると副作用によりさまざまな弊害が出るとされている。


先日、ラル王子が使った空間移動など普通の魔術師は、魔法陣さえ組み立てることができないという、それだけたくさんの魔力を使用するようだ。


触媒として呼び出される魔力をマナと呼び、マナを使用して魔術は実行される。


魔術・魔法の研究は盛んで、才能あるものが学べばいろんな事ができるというが、禁忌も数多く存在している。


研究者はやはり道が見えるとそれを証明するために動く。

その結果、悲劇の起こることも過去には何度かあったという。


とまぁ、危険なものはどこまでも危険であるが、基本的には管理されていて安全である。


というか、そんな危険な技を使える人物は限られている。


さらに魔術師には感知能力があり、才能あるものは近くで魔術を使用すると場所や魔術の内容を感知出来るらしい。


ピコランダにはラル王子がいるので、魔術的にこの国に攻め入る事や、魔術でなにか大きな悪事をはたらこうものなら、すぐにばれるという。


それこそ、さらに膨大な魔力を使って感知できないようにカモフラ−ジュすれば可能だけど、王子以上の魔力をもったものはこの国にはいない。

さらに、世界でも片手の指に入るほどの才能をもっているらしい……


あの真っ黒眼鏡王子がである。凄い人だったんだねぇ…


そんな話を馬車の中で聞きながらの移動だった。

「今回皆様に見学していただく施設は、魔術師の作り出したポーションの保存や効果の持続を研究し魔術師のいない場所にも魔術的効果をもったポーションをある程度流通させるのが目的の研究所であります。」


馬車の中はやっと着いた目的の場所という事で、外の景色に夢中になる姫達がほとんどで講師役の役人の話はあまり聞かれていない。


それでも、彼は誇らしげにこの施設の説明を続けてくれた。

私は彼に疑問を投げ掛ける。

「そんな大切な技術を私たちが見学してもよいのですか?」

マジックポーションは現在とても高価である。


高度な魔術師がいないと作れないし、大量に作れるものでもない保存は効果の高いものほど短くなる。


例えばヒーリングポーションだったら、少々の怪我を直すことが出来る。がとても高価で癒しの効果は時間が経つごとに薄れる。

これが流通するようになったら夢のような話で、犬にかまれたとか食あたりしたとかであれば医者にかからずポーション一本で治ってしまうという事になる。


辺境の地に住んでいる狩人や特殊な土地でしか栽培できない作物を扱う農夫たちには、それを安価で手に入れたれるとなったら喉から手が出るほど欲しいだろう。


「クラァス様、これを大切な技術と言っていただいてありがとうございます。」

役人は一礼して続けた

「魔術師学園都市と提携は結んでいるものの、まだまだ研究段階であります。

 今の時点では絵空事に近いですので、秘密にしなければいけないような成果がまだ出ていないというのも事実なのですよ。」

苦笑しながらそういうものの、かれの瞳はキラキラ輝いている。

「ただ、ラル王子のお力があり、この発想は理論的には夢ではないと私どもは思っております。

 アル王子もこの研究には大変力を入れていただき、ずっと先にはなると思いますが、今後のピコランダの重大な産業に発展する為に私どもは日々精進しているのです。」

ここでも、この国が王子二人に期待している事がわかる。まだ成果はでてないが、アル王子が未来の花嫁たちにこの産業を見せたかった気持ちがわかった。


このマジックポーションが完成したら、ピコランダはさらに発展するだろう。

そんな未来を一緒に歩んでほしいと思う気持ち。

父の業績に甘えず、次世代を切り開く。

先見の明の持ち主……それがアル王子なのだ。


風車は思ったよりも大きな建物だった。

中には大きな球場のガラスの器が金色の台座にのっている。


その周りを色とりどりの魔法陣が展開してまばゆい光が辺りを照らす。

その器は人が縦に3人も入る大きさだった。見上げていると講師役の役人が教えてくれる。

「こちらがエンチャントスフィアと呼ばれるもので、独自の魔術フィールドを展開してその中で実験などを行っております」


数人のローブを着た魔術師が杖や魔法陣を使ってスフィア内のモノを動かしているようだ。


とても幻想的で綺麗だけど…知識のない私達にはよくわからなかった。


まだ発展途上の研究という事で、研究所の内部はほのぼのとしている。しばらく、その様をみてから、今度は水薬の製造過程をみる。


可愛らしい小瓶を作っている作業場には風車の動力を使った工夫がしてあったり、中に入れる液体の研究をしている場所で飲み物の試飲をしたり真剣に取り組む職人さんや研究員の人に尊敬の念を覚える。


農業が中心なフォルゴアでは見られない光景も見られてとても楽しかった。


私たちは中庭で昼食となる。

この地方で取れた食材をふんだんに使った料理で、羊の肉が使ってあるのが珍しくて美味しかった。


昼食後はアル王子は一足先に別の公務へ向かうという事で私たちとは別れた。


今日はあのツインテールちゃんとお友達は猫をかぶっているのか始終おしとやかだったし、天然さんも私にビビリながら荷物はしっかり管理していた。


私たちは食後のお茶を楽しんだりしながら、風車の回るのをながめたり、ダンスが難しいという話をしたり国では何が流行っているとか、他愛のない話をして時間を過ごした。


良い時間になったので帰ろうとすると、このあたりの子供だろうか、8人の小さな女の子が一人ひとり花束を持っていた。


私たちに歓送の花束を贈呈してくれるという。

それぞれ綺麗なミニブーケを持っている。


他国の姫で、将来の王妃様かもしれないという事で女の子たちは緊張と憧れの目で私たちを見る。


役人に促されて私たちに歩み寄り花束を渡す。

受け取った姫も笑顔を子供たちに返している。


私にお花を渡そうとしていた女の子はこの8人の中で一番小さくものすごく固くなっているのが分かった。


今日の為に両親が用意たであろう、可愛いピンクのドレス。

まだ産毛かなと思えるほどの柔らかそうなブラウンの髪を小さなお団子二つにしてそこに小さなお花のピンを付けていた。


他の子が渡してしまった事に焦ったのか急いだその子は


―ポテン


と軽い音を立てて転んでしまった。


お花はなんとか持っていたけどドレスは泥だらけになってしまう。

起きあがった彼女は自分の泥をみて、そして私をみて顔をゆがませ、みるみる目に涙がたまっていく。

可愛く愛くるしいその姿に自然と体が動いた。


「おいで、泣かないでいいよ」

私もドレスの裾が汚れるのを気にせず膝をついて女の子と同じ目線になる。


両手を広げて呼ぶ。

彼女はトテトテとあるいて私の胸に収まってくれた。


女の子を抱きしめて花束の匂いを嗅ぐ

「ありがとう」

そういうと、彼女はくすぐったそうに笑ってくれた。


花束を受け取って親の元に送り出すと彼女は振り向いて

「お嫁にきてくださいね」

とたどたどしくではあるが、嬉しくなるほどまっすぐに

言ってくれた。

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