表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/39

第十九話 当て馬必死

右手を額の上の上空でふんわりかまえ、左手は肩の高さで

横にふんわり…目線は右。


一度羽ばたいて、手と目線を反対にしてすぐ戻すっと…


王子の右手が背から回って腰に来るから、それに右手を添えて二人でステップしながら前進。


それにともなって左手を胸の前あたりで握りあい…


目線を交わす。


左手が前に出て、私のターンを促す。

左手はふれあったまま私はターン…

ホールドされてそのままステップ

回って…それから…

……えっと……

「リフトの後、逆側にターンです」

ハトナの静かな声がかかる。

架空の王子とダンスを踊る。

組み合って次はどうしましょう?

という感じで止まっていた私はその声で思い出して、リフトされた態でまわって再度ホールドされ、逆側へまわりだす。


架空のアル王子はさーっと消えていって目の前にベッドが現れる。


バフッと勢いよく倒れこみ、枕に顔を埋めて疲労困憊な声が漏れる

「ふぁー…覚えるのでせいいぱいぃ

 …てか…頭がついていかない…」

「まだ時間はありますし、私たちもお役に立てる事があったらお手伝いいたします。」

そう優しく言ってくれるハトナ

「ありがとう頼るわね。

 それにしても王妃様きれいだったなぁ

 …ねぇ、ハトナ、みんな小さいころからこれ踊ってるの?」

脚のマッサージをするための準備を整えるハトナが足湯をもってきてくれた。ラベンダーの香りが漂ってくる。


フットバスに足をつけるとジーンと疲れが湯に流れ出していくようだ。

「そうですね、この国で育ったものだったら大体の者が踊れる伝統的なものですね。」


足が暖まる間、横に控えながら話してくれるハトナ

「王妃様は隣国の出身なのでこちらに来られてから覚えられたと思います。

 年中行事、大小パーティー、舞踏会や式典において王族含めてこのワルツは踊られますので、ある意味これが踊れなければ王族にお迎えできないと言っても過言ではありません。」


大げさではなく事実として伝えられる。

「そっか……」

先はまだ長いな…


今日は、待望の王子とのダンスレッスンだった。


朝稽古の時間に今日、来てくれたのは2人が昨日と一緒で、あとの2人は今日初めて見る兵士だった。人数は変わらない4人。


夜勤を終えて、人を入れ替えながらきてくれているのだ。

ありがたい。


昨日の兵士が身軽な奴を連れてきたといって逆立ち競争に意欲をみせる。

ただ、格闘でその兵士があっさり負けてしまった。

「おまえーきょうの目的なんだよ、それは勝てんだろう」

体格に勝る相手兵士は強引に体当たりをかまし、枠からはみでて身軽な兵士は負けてしまった

「やー行けるっておもちゃって、隙見せるお前がいかんだろう」

そんなやり取りに観戦してる2人と私は大笑い。

結局、体格のよい兵士が一番になって逆立ち競争は私の勝ち。

「くそーもうちょっとだった」

「いや、全然だから……」

そう突っ込む身軽な兵士も次回は一位になりますよ!

と言っていた。


そして、すこし時間があったので勝った私への商品と言い分けながら、兵士たちが無駄にアル王子の弱点?のようなものを教えてくれる。


「首筋がグッとくるらしいです」

昨日から参戦した兵士が真面目な顔で言った

「そっか、じゃぁ練習の時も髪はアップにしていくわ、ふふ」

そう笑うと、身軽な兵士が

「でもたしか、太ももも好きでしたよね王子は」

そうすると、いや胸だとか、二の腕のこう柔らかいのが…とか部分的なフェチ情報が飛び交うが

「それはお前の趣味だろう?」とか「それは、別人の嗜好だ」とどれも不確定な情報で収集がつかなくなった。


「ありがとう、今後の参考にさせてね」

笑いが止まらない。


すると、初日から来てくれてる熟練の兵士が

「玉ねぎが子供のころ食べられないとおしゃってましたよ」

すると兵士がわいて

「そうそう、兄弟そろって玉ねぎ苦手だったみたいですね」

「ただ、王たる者食べ物を粗末にするなって王に叱られてから、無理に食べて克服されて」

たぶん小さいころの王子たちを知っている二人が懐かしそうに語る


それを楽しそうに聞く。

私と残りの二人あぁ、こういう事からも王族に対する信愛が感じられる。


「でもラル様が苦手なままだったから、魔法でこっそりアル様の皿に玉ねぎを移してたらしくて」

「あーあれだ『玉ねぎ大戦争』」

丁度、王が公務でいないときにその弟の所業が兄にばれて

『無理して頑張ってるんだ!お前もちゃんと食え!!!』

と切れた兄に『食えるんだから兄貴が食えよ!!』と食堂で二人が大ゲンカになったらしい


如何にも子供のケンカだが…そこがただの子供でない。

ピコランダ王国の王子である。


それこそ、体術ですでに抜きんでていた兄を魔法で抑え込もうとする弟、二人で大暴れした結果…


「食堂が半壊して、結局俺らも駆り出されてなんとか止めましたよ」

そういって笑う顔には、愛情が溢れている

「そのあと、王が帰ってきて大目玉くらった二人は、監視のつく中で玉ねぎ料理を毎日食べさせられてたよな」

ことのかわいい顛末に皆がわらって

「アル王子が首筋を凝視して練習に集中してなかったら、『玉ねぎ』って言ってみるわ」

わっはっは!そりゃいいそんな笑いの中、朝稽古は終了。

「頑張ってくださいね」と手を振りながら去っていく兵士たち。


言われたとおり髪はアップにしてダンスの稽古をする部屋に向かった。


いざアル王子の前に立つと彼はとても紳士的で、それこそ、何度もステップ間違える私に根気強く付き合ってくれた。


構えて迎えてくれる時の安定感。

組む前から既に組んでいるような包容力のある構えで安心して組みにいける。

さすが王子様。

鍛えられがっちりとした大きな体躯からは想像できない優しいタッチ…


最初、お手本にと王妃様がいらっしゃって王子と王妃様で踊られたとき、リフトされて回る王妃様から翼が生えてるんじゃないかと思うほど綺麗で、緊張がたかまった。


ただのワルツでなく独特のふりが各所にはいっている。


普通はこの数分間の曲をペアで踊り切るのだけど、今回は、特別な趣向として王子が代わる代わるパートナーを変えていくというモノになっている。


ある一定時間おどったら、交代して次のパートナーに王子を渡す。


その間、フロアーには王子とそれを囲む私たち花嫁しかおらず、その趣向を賓客たちは遠巻きに楽しむという事みたいだ。


いつ順番がまわってくるか分からないし、一応ある程度ここで交代かなというタイミングはあるけど、なにより振りが入らなければそんなタイミングを見る余裕なんてない。


基本のワルツは踊れるけど、それも綺麗に見せながら振り付けもして…


ショウとしての催しでもあるんだから、ちゃんとしないとね。

そうは思うのだけれど……本当に今日は、ただただ一生懸命なままで終わってしまった。


そんな必死な私に、目じりに皺をよせてにっこりしてくれるアル王子。


緊張している私をしっかり支えてくれる王子に『玉ねぎ』なんて滅相もなかった。


ベッドに横になり思い出す。


キュートな笑顔、厚い胸板、安心感のある優しい腕を思い返して、振り付けを再度、頭の中で繰り返す。


脚が終わって全身のマッサージに入っている。


ハトナのマッサージが心地よくうとうとしてたみたいで、夢うつつの中で踊っていたらしい私は

「ターンから右手っ!」

と自分で言ってその声で起きた。

クスクスとハトナが笑ってるそれが自分でも可笑しくてわらっちゃう。


『必死だな』


そう、必死だよ……必死に前に進む。


日を追うごとにこの国が好きになっていく。


だから今は必死に…

全力で向かうしかない……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ