第十七話 当て馬残し
煌びやかなドレスの波がはためいて晩餐会は始まった。
長いテーブルの上には綺麗にセッティングされているお皿や銀食器。シャンデリアの光を反射してクリスタルみたいに輝いてるワイングラス。テーブルの中央には一席ごとに飾られた品のいいお花たち。
それぞれの御付のメイドに案内されて席に着く。
ハトナ渾身の、『晩餐会のクラァス様』は
銀の髪を綺麗に夜会巻にして真珠の粒を散らす。
そしてハトナが選んだのは髪の色に合わせた、銀色のワンショルダーイブニングドレス。床に静かに流れて軽く裾を引くフロアレングス。光沢のある生地のスマートなAラインがウェストのくびれを綺麗に見せる。
ワンポイントは腰の後で流れるリボンが裾と一緒に品よく尾を引く。
主賓席は起立で迎えてくれている。膝を折って静かに頭を下げ椅子に座る。
王と王妃の横には、白を基調とした正装のアル王子が優しく微笑んでいた。ガッチリした体躯がその立派な勲章たちに説得力をあたえ、この方が王を継ぐのだと思うと安心できる。
その横に……黒を基調とした正装にローブという姿のアイツもいて、第二王子だったんだなーと改めて思う。
兄と変わらぬ長身だが、比べるとほっそりとしていて学者然としている。笑ってもいないけど不機嫌と言う顔はしていない。
つい観察してしまったけど目を合わせないようする。
残った花嫁候補は8人だった。
24分の8
3分の2が帰国したという事か。
驚いたことに、初日の要注意人物──緑ローブのあの姫はいなかった。
うーん、緊張でやっぱりうまく印象に残れなかったのか?
予想が外れてザンネ…いやいや、ライバルが減ってよかったじゃない。当て馬のカン──嫌なカンが外れてよかったよ。
食事は厳かに進む。
自己紹介が終わり、出席していたピコランダ関係者も紹介される。王や王妃のお話を聞きながら、アル王子に質問したり質問されたり、姫たちも終始和やかに食事を終えていく。
アル王子の心を覗いてみる。
特にこの子という姫がいるわけではなさそうだ。
きちんとこの国の為になるように、そんな責任感が伝わってくる好意はすべての姫に平等にあるようだ。
未来予知も起こらない事から、まだ未来は決まっていないってこと!
まーそれはここにいる全員にチャンスがあるという事だけど……よし、今回こそ決めてやるんだから!
──それにしても……だ。
アル王子の心を確認したかったのに、横にいる真っ黒ローブ王子の心も覗いちゃったんですけど……
うわぁ……もう、なんていうか酷い。
面倒くさいとか、煩わしいとか、この場への嫌悪感、姫達に対する疑い・猜疑心。あからさまに場の空気を乱す思いが流れ込んできて慌てて能力を閉じた。
彼は、私がというよりこのお見合いの場が憎いという事がわかった。
アル王子が等しく好意的なら、ラル王子は等しく懐疑的だった。
白と黒。
今日の服装のように対照的な二人の王子。
それが少しベルと私とかさなった……
「ウオッホン!!」
デザートが出てきて食事も終わりと言う時、わかりやすい咳払いで背の小さな、眼鏡に小太りの老齢の紳士が王の横に立った。
ピコランダ王の執事で今後の予定を発表するという。
会場内がシンとして自然とみんな背筋が伸びる。
これから私たちは約二週間、王子と直接触れ合って親睦を深める。
そして最終日の前日には、ピコランダ王家の全員と国の要人を集めての舞踏会が開催されるという。
舞踏会と聞いて私を含めた姫たちが色めきたった。
ダンスを大勢の前で披露して注目を浴びる。
それが、何を意味しているかみんなわかっているようだった。
姫達の反応を満足げに受けて、
「舞踏会の翌日に、最終的なお答えをアル殿下がいたします」
そういって執事は眼鏡を光らせた。
アル王子も真面目な顔を更に真面目に固くしていた。
舞踏会では王子とこの国の伝統にしたがったワルツを踊るという。独特のスッテプや決まりごとがあり、それを覚えなければいけないらしい。
1日に2人ずつ王子とのワルツの稽古をする。
さらに、これからは朝食と夕食は、このように候補者全員でとる事になる。その時、今日は帰国する姫の対応で、この晩餐会に参加できていない関係者もいるらしいのでそういう人物もおいおい紹介していくと言う。
稽古のない日は、王子の公務を見学しにいくという予定もある。
今まで隔離されて個別対応されていたのに、急に協調性を求められる内容に変わった。王子との親睦を深め行動範囲を増やして自分をより見てもらうある意味ここからが本番だ。
やっとスタートラインに立った──そう思った。
「早速ではありますが、王子とのワルツ稽古の予定をお伝えいたします」
私の順番は、明後日の午前中だった。その後の予定はまた御付のメイドからそのつど詳しく伝えられる。
そんな高揚感と緊張感のなか晩餐会はお開きとなった。
アル王子は最後に退出する私たちに生真面目な顔で一礼してくださった。
ほんとうにいい人なんだなぁ。
そして、どうでもいいけど、その横で肩肘ついて長い脚を組んでダレまくってる黒ローブのあいつなんでいるんだろう……まったく。
主賓に見送られながら、それぞれのメイドに付き添われれて部屋に戻っていく姫たち。
お互いを意識しまくっているのに、みんな上品に微笑み合って分散していく。
──大人な対応だ。流石に最終選考に残っただけあるね。
ちょっと怖気づいてる感じの子もいたけど表面的には穏やかに気を張って対応してる。部屋を変わる姫も数人いるらしく、廊下をメイドたちが慌ただしく動いている。
私は初日のタシーの働きのお蔭で、変更なし!さすがよタシー♪
そして部屋にもどりお風呂に入る。
今日は一日待ち疲れ、晩餐会ではなんやかんやで気が張った。
精神的な緊張が体をすっかり固くしていたみたい。
湯船で大きなため息がでた、それを聞いていたハトナが
「よろしければ」と湯上りにマッサージをしてくれた。
そういえばタシーが、
『今日はため息でちゃいましたね? ほぐしましょう』
と肉体的にはそんなに疲れてない日も強引にマッサージしてくれていたなーと思いいたる。
ハトナはそれをタシーから聞いていたのだろう。
精油で全身の疲れを癒すマッサージ。ゼラニウムの甘い香りが心をリラックスさせてくれる。
とにかく今日残れたことが本当にうれしい。
他国であるにも関わらず、信用できるメイドが側付きになってくれて環境は最高だった。
となると本当に私自身が試されているということだ。
マッサージが終わってリラックスしてる私に、ハトナがハーブティーを入れてくれた。
ふとベッドのサイドテーブルに置いてある本が目に入った──そうだ、この本……返した方がいいのだろうか?
これからもいることになったのだから、ここに置いててもいいだろうけど、あの書庫にある他の本も読んでみたい。
『適当に持ってって適当に返して』
ぶっきらぼうな声だったけど、優しさが見え隠れしていた。
まさか、姫である私があんなに嫌われているなんて思わなかった。
それが私個人に対するもじゃないってのが分かっていても、疑われて、そして嫌悪の対象であることは変わらない。弟になるかもしれない人にそんな態度をとられると思うとつらい。
かといってハトナに本の事をお願いするというのもなんだかなぁという感じだ。
そうだよね、いつも彼があそこにいる訳じゃないだろうし、なにせ第二王子様であらせられるわけだしぃ?
それになにより、たぶん彼は私があの日の娘だって気がついてないと思う。
お見合い先の姫は嫌いでも国を嫌ってるわけじゃないというのは初日のあの会話でわかる。
こっそり行って本を置いて、もしまだ残りの本があそこに置いてあったら借りよう、会わなきゃいいんだから。
明日の予定は、朝と夜の食事会以外は自由行動だった。他国の姫との交流に関しては自己責任という事で、特に規制もされてない。
──でも、私は……
本を手に取り、ふっと息を吐く。
それは苦笑になった。
『当て馬姫』──何かと有名になってしまってるらしい。
まぁ、なるよねぇ。だからこそ! トラブル回避のためにも向こうからの接触以外では近づかないと決める。
アル王子に選ばれる為にいるのよ。
敵なんだから周りは! お節介も同情も今回は禁止!
それを何度も経験したでしょ? 最後の一押しを私が押したことが何度かある。
かといって孤立しすぎても印象は悪いだろうから適度に付き合う!──自分に何度も言い聞かす。
そう!臨機応変に行こう。
そしてこっそり書庫に行こう!!
予定が決まるとすっかり眠くなった。
胸に抱いていた本をサイドテーブルに置いて、久々にゆったりした気持ちで一日が終わったのだった。




