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第十五話 当て馬願いし

夕食前、手紙を回収に来たハトナがゆっくりと明日の予定を告げる。


「明日は、この手紙の内容も含めての中間結果の発表がございます。これで候補者は半数以下に絞られる予定です」


半月滞在するつもりでいたので、まさか三日目の中間発表というのに少し驚いたものの、20人以上の候補者を半月も個別対応できる訳もなく、当初からこういう計画だったのではないかと思った。


ギリギリに伝えられる翌日の予定も、個別対応も普段の素行を見るための試験だったのだろう。


ハトナは続ける

「最終候補者は王を始めとして王宮の関係者と王子自身も参加して、話し合いで決められます。

 ご縁がなかった場合は、ピコランダ国より帰国の手配を行います。貴国へ最後までお送りいたしますので、結果が分かり次第の手配になります。ご了承くださいませ。」


即日帰国かぁ──そうだよね。


それこそあの黄色い声の集団のように残って第二王子へ方向転換とかしだしたら国としてはいい迷惑だろう。


ふと壁にかけて乾かしてある、夜色のローブが目に入った。


私には、関係はないけど!


「そして、最終候補者の方は顔合わせも兼ねて全員で夕食会がございますので、結果発表後にお支度させていただきます。」


ついに今回の候補者が勢ぞろいという訳だ。

選ばれたのだから精鋭である。


トラブルも少ないと踏んでいるのだろう。

その辺りも選考基準だったりするのかな?


「という予定になっております。結果は夕方には出ると思われます。

 昼食時にお聞きした件、兵士にも伝えておりますが明朝はどういたしますか?」


結果発表という大事な日


朝の稽古をするかと再度の確認をしてくれる。

既に兵士に伝えてくれているという事は基本的にはOKだけど、私の気持ちを考えての提案だろう。


たしかに、衝撃的だけどだからと言って私には日常だった。


縁がないつまり不合格だと今までと同じで重い帰国が8回目になるだけ……


平静を保つ意味でも、日課を自分に課しておきたいと思った。


「あの丘の上で城下町の朝を見てみたいから、お願いするわ」


ハトナはほんのりやわらかく「承りました」と言った。


下がろうとしたハトナを引き留めもう一通の手紙を渡す。

そして、いかにも何ともないという風にサラっと伝える。


「先ほどの雨の時にたまたま通りかかったラル王子に借りたあのローブ、ハトナから返却してもらっていいかしら?

 お礼に一筆書いておいたのでこれも一緒に」


中身は至ってシンプルに

「ありがとうございました」

とだけ書いた。


明日が結果発表なら直接返さなくても失礼にはならないだろうし、なにより彼が私には会いたくないだろう。


ローブと手紙をもってハトナが下がる。


いろいろ考えてしまうと眠れなくなりそうなので、伝記を読む。

もしかして最後の夜になるかもしれない。

読み終わればいいなと思いながら頁をめくる。


絵本のように挿絵が多いその本は思いのほか早く読み終わってしまった。


その本には──騎馬民族の若者が英雄となり神から授かった天馬に乗って民を救う物語が綴ってあった。

物語の最後はこうだ。


平和を取り戻したピコランダの地に立った英雄が、苦楽を共にし、心を交わした天馬を離れがたく思いながらも神に返すという場面で、神がこの働きを賞して

『なんでも願いを叶えよう』

と言う、そこで英雄は天馬が

『天馬自身の為に自由に空を飛んだことがないので、一度でいいから誰にも縛られず自由に飛んでみたい』

と 言ったのを思い出し、神に願う。


──天馬の自由を。


願いを叶えられた天馬は、しかし飛び立たない。

何故か?と問う英雄に天馬は言う

『あなたの為に飛ぶことが、私の為に飛ぶことなのです』

こうして天馬と英雄は永遠に離れず天に召され、星になりいつまでもピコランダの地を見守っていると。



素敵な話だった。

想いがかさなりあって幸せになる話だった。


──永遠にかぁ。


ベランダにでて空をみあげて星座をさがしてみる。


明日残れたら、私の願いに一歩近づけるはずなのだ。


当て馬じゃなくて天馬になれるだろうか。


『あなたの為に飛ぶ』私に……なれるだろうか。

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