なろう書籍化で損をしている理由②
※中盤の会話文は何処かの書店員AとBです。
「( ˘•ω•˘ ).。oஇ\(´-_-`*)」
「すみません。ちょっと探してる本があるんですけど」
「はい、タイトルは御存知ですか?」
「うーん、それが、テレビで放送されてたのを見ただけで、よく覚えていなくて……」
「では、出版社や作者名、若しくは漫画や小説でしたらレーベルだけでも覚えていらっしゃいませんか?」
「……?」
「?」
ところで、本屋ではこの様な遣り取りがよくある。唐突に何を、と他愛もない話にクエスチョンマークが浮かぶと思うけど、ある程度必要な前置きだと判断して許容して欲しい。
『タイトルすら記憶出来ない本を、貴方は本当に求めているのか』と、これに似た問い合わせを受ける店員である私達は毎度揃って疑問を覚えるものの、実はこうしたお客様はお求めになる本の系統関係無く老若男女問わず多い。付け加えると、四十代前後のおば様方が最も「あら、何て言ったかしら?」と首を傾げる物忘れ傾向が強い事を明記しておこう。(無論、態々新聞の切り抜きを持参して下さる方も居る)
言わずもがなの事ではあるけど、そんな情報の少ない状態で該当する商品を探し当てるのは非常に困難と言える。
仮に取り扱う品数が薄くこじんまりとした店舗であっても、『お客様が何を望んでいるのか知る』と言う前提が叶わない中では、そもそも対処の仕様が無いからだ。(ただし、専門コンシェルジェが在籍する店舗は除く)
「いや、寧ろそれを見抜け」と仰るかも知れないが、自分の身に置き換えて想像してみると理解しやすいだろう。
家で消失したコンタクトレンズと、外で紛失したアクセサリーを探す状況に陥った時、一体どちらが途方も無い話であるか。一目瞭然だ。
メディアで特集されていたらしい番組すら朧げとなれば尚更、それは広大な砂漠に埋もれた一粒の砂を掴む作業に等しい。(子供向けに表現すると迷宮ダンジョンの再奥で秘宝をゲットする位の難易度、とも言うよ)
この様に、少数とは言い難い数の人間がいつの間にかタイトルすら頭の片隅から抜け落ちてしまう点は大凡理解して貰えたと思うが、要約するとこうだ。
「大抵の読者は看板の名前がぼんやりしている時点で、『出版社』や『レーベル』なんか端から知らない可能性が高い訳ですよ」
「まぁ、発行所や印刷会社は余り目に入らないんだろうね。そもそもレーベルって何? って所から始まったり、違いを理解してる人は少ないし……」
つまり、前述した『表紙』に次いで挙げる二つ目の理由は、お察しの通り『出版社』と『レーベル』である。
前置きを見れば「初めから出版社等の情報に関心が向いてないんだから、無関係じゃね?」と矛盾を覚えるかも知れないけど、視点を変えた場合の立ち位置で理由が分かると思う。
端的に言うと、表紙が目に留まった流れで本を手に取った時、読者は次に値段とサイズを見るのだ。
念の為、レーベルを知らない人の為に簡単ながら概要を述べておく。音楽を嗜んでいる方ならより聞き覚えがあるだろうが、出版社に限らず音楽業界でも用いられている単語でもある。同様に出版業界で分類されているレーベルだけど、認識率が高い漫画の方がピンと来るかも知れない。(少年じゃんぴんぐ、週間日曜日、別冊弾倉コミックス……コンナ言い回しのヤツネ)
所謂、週刊誌や月刊誌等の雑誌に掲載されているものを単行本にした際、出版社が作品の方向性に応じてジャンル分けしたものだ。それはライトノベルや文庫にも当て嵌まる。
作品を雑誌で連載している様な刊行物は漫画に比べると極僅かではあるものの、概ね仕組みは一緒なので、即ちレーベルとは『ブランド名』と言い換える事が出来る。
それでも「うん、よく分からん」な方の為に更に優しく表現すると、出版社は『レストラン』であり、レーベルは『メニュー料理』だと思って欲しい。
和食欄に洋食のナポリタンが並ぶ事は無いし、ドリンク欄にビールや日本酒が載っていても、その副食物である肴は決して隣に鎮座しない様に、大まかにジャンル分けされている。……比喩力が軒並み低いけど、まぁ、味の異なる料理なのだから当然と言える。(セットメニューは別ね!)
更に言えば、店員が時々注文ミスをする場合がある様に、レーベルにも時折、不思議な事に『場違いな作品』が存在する。
論ずるまでも無く個人で受ける印象は違うし、出版社も様々な人間の手で『レーベルに相応しい作品』を篩にかけていると思うので何とも言えないが、ここで強く主張したいのは『レーベルの指標に似合わない作品』について、では無い。
寧ろ、作品を書籍化するにあって『そのレーベルが本当に、読者にとっても適当かどうか』と言う事だ。
出版社と作者の間で生じる利益の話は、避けられない事情として憶測する事しか出来ないものの、やはり現実問題お客様の商品に対する目は厳しい。
絵柄に次いで気になる点は、悲しい事に作品の中身より「値段たっけー」「サイズでか! おっもー」なのだ。(更に言うと「表紙つるつるして傷付く」「ざらつき過ぎて水濡れ怖い」等々……)
では、作品に声が掛かり『出版社』から推奨された『レーベル』で書籍化する事において、どんな風に損をしているのか?
その要点については、やや長文になりそうだったので次回説明したいと思う。
……あ、一応ふわっとね。