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鏡鬼の旋律  作者: 雪りんご
第1章 綻びた檻
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4話

 さて、どうしたものか……と座布団の上で仰向けになりがら、私は目を閉じ考えていた。

 今私の頭を悩ませている問題はどうやって二人をあの場所から助け出すか、という事についてである。

 いつまでもあんな暗くジメジメとした場所に閉じ込めておくのは精神衛生上良くない。

 それに血が出るほどの暴力を受けているのであればなおさらだ。

 もし、この環境に放置したせいで私の死が確定したら……いや、それ以前に二人の性格が歪んだらと思うと……何気に怖い。

 てか洒落にならない。


 まあ、とりあえずそれは置いといて今はこの現状を打破する方法を考えなければ。

 一応二つほど案は思いついたんだけど、どれも現実的じゃないんだよね……。


 一つ目は私の小さな能力を火種にして家を燃やし、その騒ぎに乗じて二人を牢から連れ出すという方法。

 これは上手くいけばなかなかいいかもしれないけど、色々とリスクが高すぎる。

 木造の家に火を放ったまではいいかもしれないがそれが見つかればただでは済まないし、上手くいかなければ私もそうだけど可愛い弟たちが焼死してしまう可能性もある。

 それに上手くいったとしても二人を外へ連れ出した後どうやって生活していけばいいのか分からない。

 よってこれは没。


 次に考えたのは二人の実力を認めてもらい牢の外へ出してもらう方法。

 これも一見はいいように感じるが、その実力が認められるまではあの現状が維持されたままだし、仮にそれ相応の実力を身につけたとしてもお父様が地下牢まで足を運ぶのかどうかも怪しい。

 て言うか忙しいを理由に来てくれない気がする。

 一応、月影家現当主であるにせよ自分の息子の力を恐れ閉じ込めた張本人だしね。

 それに私は一刻も早く二人を牢から出したいのであって、放置したいわけではない。

 よってこの考えも没。


 いずれにせよ私が求めるのは安全かつ確実な方法だ。

 仮定の段階で死ぬかもしれないのは少しばかり…いや、かなり頂けない。

 そもそも自分の死亡フラグを回避するために考えてるわけだしね。

 とにかく私は自分の生命が脅かされず、確実に二人を牢から解放できる事を条件に方法を見つけたいのだ。

 


「あーどうしたらいいんだろう……」



 これっ!というような良い案が思い浮かばず無意識に、はぁ…とため息がこぼれ出た。

 なんかどれもこれも危険なんだよね……。

 気分転換にごろりと寝返りをうち、おもむろに目を開ければそこには三人で折った折り鶴が転がっていた。

 三つの内二つは綺麗な鶴で、最後の一つは歪な鶴。

 手を伸ばして畳に転がっている三羽の鶴を私の方に引き寄せ、なんとなくそれを眺めた。

 しばらく眠気と戦いながら鶴を見つめる事数分。

 また一つ案が思い浮かんだ。

 しかも今度はただの案じゃなくて名案だと思う。

 

 今閃いたのは、お父様を説得して二人と一緒に別邸に住むという方法だ。

 これなら二人を牢から出せるし、お父様も二人から離れられる。

 まさに一石二鳥だよね。

 もちろん、ただ説得するだけじゃお父様は首を縦に振らないから、お父様から出されるであろう条件を飲むために先に私から条件を持ち出して認めさせる。

 これなら私の努力次第でどうにかなるかもしれない。

 それに私が死ぬ可能性も多分ないし、もしお父様に条件として、死ねと言われたらまた別の方法を考えればいいよね。

 まあ……多少は私の希望的観測が入っているけれども……そこは気にしない方向で。

 なんとなくだけど、この方法なら概ねは大丈夫そうだ。


 そうと決まれば即行動に移すべきなんだろうけど……その前に着替えないと。

 もし、身支度を疎かにして会いに行こうものなら確実に門前払いだ。

 例え家族と言えどそこに例外はない。

 これはどこの家にも当てはまる。

 つまり私たち鬼の常識として現当主は崇められるべき存在であるからこその暗黙の了解。

 それに名家ともなればそれなりの礼儀作法も必要になってくる。

 もちろん、家族にもだ。

 内心、家族の間に礼儀も何もあるものか、と思わなくもないけどね。



「うん、まあ……こんなもんかな」



 部屋の隅に置いてある大きめの姿見の前に立ち、赤い着物に乱れがないか確認する。

 一人で着付けをするのって以外と大変なんだよね……。

 それに上手くできないから何となく苦手だ。

 姿見の前で、くるりと周り背面を写す。

 いつもなら二、三回はやり直すんだけど……今日はまあまあ綺麗にできていた。

 全く……珍しい日もあるものだ。

 最後にもう一度だけ着物に乱れがないか確認し、自身の黒い髪を櫛で梳かす。

 所々、髪が絡まっていて地味に痛かったがその痛みを代償に髪はさらさらになった。


 ようやく準備を終え、いそいそと立ち上がると障子を勢い良く開け放ち廊下へ飛び出た。

 そして早歩きでお父様がいるであろう執務室へと向かう。

 本当は走りたいところだけど、その間に身嗜みが乱れたら嫌だから我慢。

 だって、乱れたら一度部屋に戻って手直ししないといけないんだよ?

 そんなの時間の無駄でしかない。

 まさに、急がば回れの状態を体現してると思う。

 いや……ちょっと意味が違う気がしないでもないけど……。


 そんな事より、目的の部屋が見えてきた。

 他の部屋よりも明らかに造りが違う豪華な障子を前に私は若干狼狽えるも意を決して声をかけた。



「お父様、柘榴です。今、お時間よろしいでしょうか?」



 障子の前で正座になりお父様の返答を待つ。

 かさり…と紙をめくる小さな音が執務室から聞こえ、その少し後に落ち着いた、それでもって威厳溢れる低い声が響いた。



「……ああ、入れ」

「失礼致します」



 両手で障子を開け中に入る。

 そして丁寧に障子を閉めてから居住まいを正し、床に手を付き深く頭を下げた。

 教えられた通りに挨拶をこなし顔を上げるとお父様の金色の目が私に向いていた。

 正直言ってものすごく怖いが、ここで退くわけにはいかない。

 そう思い真正面からお父様の目を見つめた。



「お前がここに来るとは珍しいな……。して、何の用だ」



 ことり……と慣れた手つきで置かれた筆の音がやけに大きく聞こえたが、それよりも細められた目の方に意識が向いた。

 射抜くように見据えられ背筋に悪寒が走る。

 逃げ出したくなるような威圧に耐えながら私は乾ききった口を開いた。



「……折り入ってお父様にお願いがあり、こちらに参りました」



 簡単にここに来た用件を告げると私はこれからが本番だと言わんばかりに姿勢を正した。


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