1話
初投稿です。至らない点も多々あるかと思いますが読んで頂ければ幸いです。
「あー詰んだ……かも?」
決して広くはない古い造りの自室で私は頭を抱えながら座り込んでいた。
畳のささくれがお尻やら脚やらに刺さって地味に痛いが別に我慢できないほどではない。
自分の長い髪が顔に掛かっていようが肌寒かろうがそんな事は今どうでもいい。
そんな事よりも今優先すべきなのは私の頭の中の内容についてである。
それも私の人生に関わってくるような内容だ。
何せ私の生死が懸かっているのだから。
部屋に足を踏み入れた瞬間に思い出した前世の記憶らしきもの。
何がきっかけとなって思い出されたのかは知らないが、その思い出した内容がヤバかった。
いや、思い出しただけならなんの問題もない。
むしろ好都合とも言える。
しかしそれも自分とは関係のない、安全な記憶であればの話だけど……。
思い出したのは前世でプレイしていた乙女ゲーム。
それも結構ヤバイ感じの恋愛ゲームで過激なヤンデレがゴロゴロと出てくるような仄暗くも甘い、そんな内容だったはずだ。
ゲームタイトルは『狂鬼乱舞』で通称、鬼舞。
豪華な声優陣と美麗なイラストに目を奪われた記憶がある。
それはさておき、この鬼舞と言うゲームは五つのストーリーに分かれる。
一つ目は【鏡鬼編〜箱庭の宴〜】
ニつ目は【皇鬼編〜緋紅の調べ〜】
三つ目は【蛛鬼編〜糸編の紡ぎ〜】
四つ目は【蛇鬼編〜叶華の奏で〜】
五つ目は【憐鬼編〜籠縛の響〜】
そして私はこの【鏡鬼編〜箱庭の宴〜】にて出てくる名前だけのサブキャラである。
ただのサブキャラならば文句はなかった。
遠くからでも近くからでも美男美女のあれやこれを鑑賞できるしね。
でも私の配役はサブキャラにして過去の存在。
つまりは殺されて終わりの存在である。
しかも私を殺すのは攻略対象である双子の弟たちで一人は月影桜雪、もう一人は月影雪桃だ。
そしてその問題の二人といえば今現在、力が強すぎるという理由で地下牢に閉じ込められております…はい。
そしてそれを知っていながら私、見て見ぬ振りをして日々を過ごしておりました。
………うん、詰んだ……マジで詰んだよコレ…………。
何故なら二人は自分たちが殺されそうになって初めて反撃をする。
それも虐められていた報復を兼ねて一気に敵だと認識した鬼を殺すのだ。
例え私自身が無関心であったとしても二人からしてみれば自分たちを見捨てた酷い姉。
当然、敵だといえる。
むしろ二人の記憶に私が存在しているのか怪しいところだけど、もしかしたら覚えてるかもだし覚えてなくてもお兄様やお姉様の手先だとも思われるかもしれない。
お先真っ暗とはこの事か!と思わざるを得ない。
ていうか…私の死に方って結構グロかったような記憶があるんだけど?
それこそ好みの顔と口調でプレイしたのを後悔するくらいには…グロかったと言うべきかエグかったと言うべきか、とにかく凄かったと思う。
『桜雪)ふふ、私たちを心配して下さるのですか?なんてお優しいんでしょう。…ですがその心配は無用ですよ。何せこう言った事は良くある事ですので…
雪桃)ええ、そうですよ。貴女が気づいていらっしゃらないだけで…こういった事は多々あります。それに私たちからしてみれば些細な事でしかありませんし
桜雪)兄の桔梗と姉の蓮華と柘榴を殺した、あの日を境に私たちを殺しにきた鬼を逆に殺す事が日常になりましたからね。弱い癖に私たちを殺そうとしたので返り討ちにして差し上げたのですよ。ああそうです。兄弟といえばあの三人の事は不思議とよく覚えているんですよね。それこそ、どういう風に殺したのかも…ですよ?
雪桃)確か兄と姉の蓮華は四肢を切り落としてその切り落としたモノを見せつけながら燃やしましたね。ふふ、あまりにも叫んで煩かったものですからまだ、燃え尽きていなかった焼けた肉を口の中に入れて差し上げました。勿論、力のある鬼でしたからそれなりに力を使うとは言え四肢を再生させる事も可能なわけです。ですからあの二人は早々に心臓を貫いて絶命させました
桜雪)もう一人の姉、柘榴は力がない癖に私たちを一番いたぶってきましたので私たちもそれなりに礼を尽くしたのですが…所詮は力のない無力な鬼。直ぐに絶命してしまいました。ただ、耳を削ぎ落として四肢を滅多刺しにし、目に針をいくつも刺して少しずつ傷をつけて差し上げていただけでですよ?
雪桃)あまりの呆気なさに少し物足りない感じしかしませんでしたが…仕方がないですよね。所詮は弱い鬼。弱いから私たちの玩具になった…ただそれだけでしょう?』
うん、改めて思い出してみると結構えげつない。
そして私の名前は月影柘榴である。
そう、月影柘榴なのだ…。
てかさ…ここが鬼舞の世界だと知っていれば絶対助けてたよ!?
だって死にたくないし。
あんな悲惨な死を迎えたくないし。
例えお兄様やお姉様に虐められたとしても助け出してた…と思う。
いや、うん…………我が身が可愛いから手を出さなかったかもしれないという考えを否定できない自分が憎い。
今も若干疎まれてるしね。
まあ、それはさておき、もしこの世界がストーリーの流れに沿うのであれば地下牢にいる二人は私や私のお兄様、お姉様に虐められたすえに色々と歪んで私たち家族を殺すという発想に至るんだけど…。
今世の私、まだ二人を虐めてない…よね?
勿論、暴力的な意味でだけど…。
記憶に何らかの障害がなければ絶対に虐めには行ってないはず。
今から矯正していけば大丈夫だったりするんだろうか?
試してみる価値はあるはずだ。
ここで何もしないで死ぬよりは何か行動を起こして少しでも抗った方が生存確率は上がるというもの。
そうと決まれば即行動すべし。
私は思い立ったが吉日と言わんばかりに持てるだけのオモチャや本を持って部屋を飛び出した。
向かう先は地下牢。
まだ幼い双子の弟たちが閉じ込められているあの場所へ私は走った。
途中、お兄様に出くわしたが軽く会釈をして難を逃れた。
まあ、後ろから「月影家の面汚しが…」という冷たいお声がかかったわけだが…。
そしてそんな冷たいお兄様はそれなりに力を持つ鬼の一人である。
ちなみに力とは魔法とか超能力みたいな能力の事であり、種類も幅広くあったりする。
そもそも鬼という種族は色彩にて強さがある程度決まる。
黒を纏う者が一番弱いとされ、白を纏う者が一番強いとされる鬼社会では黒により近い者が弱く、白により近い者が強い。
つまりは色の濃淡によって決まると言っても過言ではない。
色が薄ければ薄い程強いとされるのだ。
そして私が持つ色は黒。
鬼の中では最弱であり、能力も小さな炎を灯すくらいしかできない私は名家の月影家にとってみれば汚点でしかない。
だからこそ、お兄様は私に対して月影家の面汚しがと吐き捨てたのだ。
それにお兄様の色は薄い紫色の髪にそれよりも少しばかり濃い同色の瞳である。
少しばかり濃いと言っても薄い。
月影家では始祖の再来とまで言わしめた逸材。
更に言えば、お兄様は双子の弟たちが生まれる前までは次期当主確定であった。
そんなプライドの高い彼からしてみれば私の存在は許し難いのだろうと思う。
だって私は月影家の汚点だからね。
そんな事よりもやっと見えた。
そう、徐々に見えてきたのは地下へと続く不気味な扉だ。
変な存在感を放つ大きく厚い扉を開けるのは、生まれてからまだ十年しか経っていない子供の私には少し大変そうだ。
「はぁ…はぁ…やっと着いた」
長い廊下を全力疾走したせいで息苦しいがなんとか大きな扉の前に辿り着いた。
ひんやりとした扉を肩で押し開く。
予想していたよりも少ない力で中に入る事ができた。
どうやらこの扉は見掛け倒しだったらしい。
黒くて不気味だからってビビってた自分が馬鹿みたいだ。
一歩、足を踏み入れ中に入ると今度は重苦しいジメジメとした空気が私に纏わりついてきた。
私が扉から離れると、それは微かに軋みながら閉まった。
光が閉ざされたせいで周りは何も見えず、方向感覚が早くもなくなった。
私の後ろには確かに扉がある。
そのはずなのに見えないせいで、ないようにも感じる。
なんとかこの状況を打破すべく私は自分の目の前に小さな炎を灯し光源を作った。
淡いオレンジ色を纏った光が地下牢へ続く階段を照らす。
ユラユラと不規則に揺れる感じがなんとも不気味だけどそこは我慢。
だって死ぬよりも怖い事なんてないからね!
石造りの階段を降りた先はたくさん鉄格子が並んでいた。
そしてどことなく鉄錆臭くて肌寒い。
所々にある茶色っぽい染みは…うん、深く考えちゃいけないと思う。
私はゆっくりとその染みから目を逸らし二人の弟たちを探す事にした。
道は一本しかない。
そのため私は左右の牢の中を確認しながら真っ直ぐ進むだけでよかった。
しばらく歩いているとやっと見えてきた行き止まり。
そして、その行き止まりである鉄格子の中に私が探していた双子がいた。
〜報告〜
始めてから約三ヶ月、やっとルビのふり方を覚えました。いろいろとご迷惑をおかけしましたm(_ _)m