命意
7歳の春。物心が付いてから、初めて友人と呼べる存在が出来た。
しかし、友人はその翌年には何処か遠くの国に行ってしまった。
11歳の夏。昔の友人の顔がちらついて、私は新たに人付き合いが出来なくなっていた。
私は蝉の声で震える障子に手を当てて、その向こうから聴こえる楽しそうな子供達の声に、ただ想いを馳せていた。
14歳の秋。私は部屋に籠って春を想った。
16歳の冬。私は初めて人に恋をした。
しかし、それも身分の差異で掻き消された。
そして巡り巡って18歳の春。
夜。私は庭の桜をぼんやりと眺めながら、縁側で酒を呑んでいた。
杯に1人酒を注いで、1人傾けるのは、やはり寂しいものだった。
ならばいっそ呑むのを止めようかとも考えたが、酒が無いとその寂寥に拍車がかかる。
酔えば全てが良くなるのだ。そう己に言い聞かせる。
しかし不幸な事に、私は女の癖に酒には強かった。酒場で呑んでる屈強な大男と飲み比べ出来る位には強かった。だから、酔いが回るのには時間が掛かった。
この時、私は時間が憎かった。
思えばこれまでの人生、酔いが回るまでの時間を早められぬ様に、思い通りに進まぬものだった。
こんな人生に意味があるのか。私は何が為に生きているのか。
到底答えの出ないと思える様なそんな難問が頭に浮かぶ。それを腹の中に仕舞い込むように、私は杯をぐいと傾けた。
杯が空いたので、次の一杯をと、徳利を傾けたが、もう空になっていた。
ならば酔いが回るまで寝転がるかと思って、私は縁側に庭の方を向いて横になった。
自分の着物の袖と、庭の池に写った桜と月が見えた。
それをぼーっと眺める。
「生きてる意味なんて無いさ。」
ぼそりと呟いた。
そして自分の呟きを心の中で反芻する。
そうだ、そうなのだ。分かっている。
生きてる意味なんて無い。
なんだか急に悲しくなって来た。
泣きたくなった。しかし涙は出なかった。
こん。こん。こん。
いつの間にか月が雲に隠れて、辺りには暗闇だけが流れていた。
こん。こん。こん。
少し目を瞑った。
こん。こん。こん。
目を開けると、雲が晴れて明るくなった。
……??。
ぽつりと、袖に桜の可愛らしい花弁が落ちていた。
なぜか、それが少し嬉しかった。
ふと、私は気付いた。
「生きてる意味なんて無いさ。」
そう呟いて、花弁と夜桜の並ぶ様を見た。
「綺麗だなぁ。」
そんな言葉が、やんわりとした笑みと共に零れ出た。
生きててよかった。
何故かそう思った。
それで、良かった。
そう気が付いた。