卓上にて!
神見山という山の麓にポツンと一つ、中学校が立っている。
全校生徒250人と少し。特に部活動に力を入れているわけでもないが、坂道だらけの通学路で日々鍛えられている為か、存在する運動部の殆どが、いわゆる「中堅」もしくはそれ以上の認識を受けている、らしい。
大して広くもない運動場は、放課後になると、その評価に応えるべく鍛練に励む生徒たちで毎日溢れかえっている。
…らしい。
らしい、としか言えないのはハルカ自身が放課後の運動場で活動したことはおろか、出向いたことすらないためだ。
別に部活に所属していない訳ではない。
ハルカがこの中学校に入学してはや半年。入学早々に友人とともに強引に復活させた女子卓球部。その卓球部の部長として、総勢3名の部員たちを懸命に引っ張ってきた。
様々な障害を越え、この間は地方大会一回戦を勝ち抜くという快挙だって成し遂げたのだ(二回戦では負けた)。
だというのに、である、
運動場の使用許可をねだり…もとい、申請に行く度、ハルカに返ってくるのは曖昧な微笑みばかりだった。
「『既に多くの部活動で使用可能日のローテーションを決めちゃってますからねぇ…一応、考えてはみますよ』だってさ。使わせる気が無いのがまーる見えだっての」
ノギは口をとんがらせてボヤき、卓球台に突っ伏した。肩口まで綺麗に切り揃えられた焦茶色の髪が、無造作に広がる。
黒髪ショートにメガネを掛けた委員長風の少女からはため息ひとつ。
「私達の実績を考えてみれば当然のことでしょう。先々週の試合だって、2回戦に進めたのはコトミだけでしたし」
「ノギちゃんだって頑張ってたじゃーん…」
「いくら頑張ろうと、結果が1回戦敗退では実績にはなりません。というかハルカの2回戦敗退というのも、実績と言うには程遠いものです」
「えー…」
「そもそも運動場の使用許可を貰えたとして、私達卓球部が一体なにをするというんですか」
「そうねぇ…走り込みとか?」
「どこでも出来るでしょうそれくらい…」
ため息もうひとつ。
この黒髪の少女の名は乃木 静美。春賀 奏とは10年来の付き合いになる。
自由奔放すぎる幼馴染の一人、ハルカのブレーキ役として教師たちからは一目おかれると共に、学業面でも学年トップクラスの成績を取り続ける、言うところの優等生だ。
部長のハルカ、副部長のノギ。そしてあと一人を加えた計3名が、この女子卓球部のメンバーである。
「運動場の使用許可申請をすげなくされて気分が乗らないので、今日は活動内容を雑談にしまーす」
「今日は…というか。いつも通りな気もしますけど」
「何か言った?」
「いえ何も」
ガサゴソと。
卓球台の卓上に、何故かお茶とお茶菓子が並び始める。
ジャ●リコ、ポッ●ー、●アラのマーチ…そして梅昆布茶。
一口啜って、今日も部活動が始まる。
「先生とハナちゃん遅いね…あ、これ美味い」
「Bクラスの方は席替えしてましたから…梅昆布茶も美味しいです」
空はまだ青い。
チィチィと軽やかな泣き声を響かせて、数羽のセキレイが窓の外を飛び去っていった。
しばらく書き溜めた後、1話から投稿していくつもりです。
気になる部分の指摘、またアドバイスなど頂けますと幸いです。