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「小出さん、私もね、気づくのが随分と遅かったんです。


工業高校を卒業して、就職して、結婚をして、そして娘も出来ました。

仕事も、作業長にこっぴどく叱られながらでも、何とかそれなりの道を歩ませてもらいました。自分の腕に誇りもありました。

一生懸命にやってきたつもりです。仕事も、家庭も。

ですから、生活も充実しているのだと思い込んでいました。

でも、私には、自分のことしか見えていなかった。

いや、自分のことすら、見えていなかったのかもしれません。


あの旋盤の仕事は、自分の天職だと信じていました。

だからこそ、のめり込めたんだとは思いますが、この12年間で分ったことは、決してそうではなかったのだ、ということなんです。


あの倒産直後には、あなたを、そして、別の意味で作業長をも恨みました。

なぜだ、どうしてだ、とね。


でも、そうなってみて、初めて自分を見直すきっかけが生まれたような気もするんです。

給料を貰えなくなって初めて家計のことを何も知らないことに気がつきました。

家出同然、駆け落ち同然で出て行った娘の気持をも初めて知りました。

その娘の亭主のことも偏見の目で見ていましたが、それが如何に浅はかであったかも思い知らされました。

そして何より、妻が私のことを私以上に理解してくれていたことを、初めて知ったんです。


私は、私の力でここまでやってきたと自負していたんです。

でも、それは大きな勘違いだった、大きな錯覚だったことに、ようやく気がついたのです。


私が今日こうしていられるのは、作業長をはじめとした諸先輩、優秀な部下、そして、私を支えてくれていた妻や娘という家族のおかげなんです。

人間は、決して自分だけで人生を送れる筈はないんですよね。周囲にいる人達との関わりを大切にしてこそ、充実した時間が訪れるんだということに、初めて気がついたんです。


それでね、今からでも遅くはないと思うようになったんです。

平均寿命からすれば、私にもまだ20年ばかしの時間が残されているんです。

だったら、その20年の時間を、今までに出来なかったことを一生懸命になってやれば良いんじゃないかってね。


ですから、この店、またやりたくなったんですよ。」


江島は、淡々と言葉を続ける。


「12年前のことがご自分の責任だと思われるのでしたら、今度は、そのご自分の手で再構築されたら如何でしょう?

これからは、海堂君が相談相手になれると思いますし、技術的な面は木原君が作業長という立場でしっかりと支えてくれると思います。

もちろん、私も陰から応援させてもらいます。」


(つづく)



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