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江島は、この一連の話が、どうやら自分が考えているような単純なことではないような気がしてきた。


「申し訳ありませんが、私がお応えできることではないような気がします。

この金額も、私個人としては、驚くような金額なのです。

でも、いま、片野さんがおっしゃったとおり、どうやらこれから先のこともよく考えないといけないようで・・・・。

その件も含めて、持ち帰らせていただけませんか?」

江島は、改めて片野にそう言った。


片野は、少し笑みを浮かべるようにして、

「分りました。後日、お返事をいただければ結構です。」

と言った後、顔を引き締めるようにして、

「ですが、このお仕事を江島さんが引き受けていただくことは、この場でお約束ください。そうでなければ、あの図面をお渡しすることは出来ません。」

と付け加える。

江島は「もちろんです」と答える。

「それをお聞きして、安心致しました」と片野がその言葉を引き取った。


それで、実務的な話しは終わった。

そのあと、2人で昼食を共にした。

江島に配慮してくれたのだろう、和食のコース料理だったが、当の江島は殆ど喉を通らなかった。



片野が手配してくれた車で、自宅まで送ってもらった。

もちろん、あの図面も一緒である。


自宅に入ると、木原が真っ先に玄関へ出迎えに来た。

「班長、ご苦労様でした。如何でした?」

「ああ、ちゃんと話して、図面貰ってきたよ。」

そして、運転手が重そうに運んできてくれた図面を受け取ったのは、その木原である。

早速、大きな座敷テーブルがある居間に運んでいく。


その後から、妻の咲江が出てきた。

「お帰りなさい。今、明子から電話がありましたよ。」

「ん?なんだって?・・・・・・・」

「いいえ、大した話ではなくて、お父さんの好きなお造りが出てるんだけど、買っておこうかって。」

咲江は嬉しそうに話した。

そう言えば、咲江が明子からの電話があったと言うのは、初めてのことである。


「じゃあな、お前から明子に電話して、その旨そうな造りを持って、今夜うちに食事に来いって伝えてくれ。あ、必ず海堂君も一緒にな。それを言い忘れるなよ。」

咲江はその意味を理解したらしく、「はい」と言って奥へ走った。


居間に行くと、既に、テーブルの上には、図面が番号順に並べられていた。

12年前、江島が木原に教えた「設計会議」での段取りと同じである。

「一服したら、順に細かく見させてもらおう。何しろ、作業長が心血を注いで作られた図面だ。疎かにはできんからな。」

「はい。」

江島も、そして木原も、まるで子供がこれから運動会の100メートル走るような緊張感に包まれている。


咲江が2人にお茶を入れて来た。


(つづく)




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