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11時に迎えに来た車でホテルに行った。


江島は、本当は木原も連れて行きたかったのだが、作業長ですらこの自分にもそうしたことを一切言わなかったのだ、という経緯から考えて、今回は見合わせることにした。

木原も同じことを考えていたようで、「大人しく班長のお帰りを待っています」と送り出してくれた。



片野は別室を準備して待っていた。

そのテーブルの上には、生田作業長が何年もかかって作り上げた分厚い図面の冊子が積み重ねてある。

簡単に挨拶を済ませると、江島はまっすぐその図面のところに足を運んだ。

そして、そっと触ってみた。


何とも言えない温かみがある。

いや、熱いぐらいだと言っても過言ではない気がする。

たった今プリンターから打ち出された紙を束ねたのかと思うほど、その冊子は熱を持っていた。


「やはり、生田さんの愛弟子さんですなぁ。何よりも先に図面ですか。」

片野は、笑いながら、それでも嬉しそうに江島の動きを見ている。

「これを見ると、血が騒ぎます。もう10年以上も忘れていたんですが。」

江島は、素直に言う。


「お持ち帰りいただきますから、後ほどゆっくりと見てください。

私も、仕事柄いろいろな図面を見てきましたが、ここまで細かく、しかも緻密に書かれたものは見たことがありません。

さすがは、生田さんだと、ただただ感服するだけです。」

片野が傍にやってきて、江島がランダムに開けていくページに眼をやりながら言う。


「作業長がよく言ってました。

金属は常には眠っている。だから、冷たいんだと。

だけど、こちらが何らかの加工をしようとすると、突然目覚めて機嫌を損ねるんだ。

まるで、生まれたての乳飲み子と同じなんだと。

だから、加工をする場合には、突然に揺り起こすのではなく、ゆっくりと金属自身が目覚めてくるのを待ってやる必要がある。

そのためのゆりかごが我々が使う旋盤機をはじめとした加工機器なのだと。」

江島は、遠い昔を思い出すように言う。


「ほう、生田さん、まるで詩人ですな。まあ、そういう方だから、これだけの製品、いや作品、芸術品をお作りになれたのだと思います。」

片野はしみじみとした口調で言ったあと、

「では、早速ですが、その芸術作品を完成させていただくための打合せを致しましょう。」

と続けて、準備されていたテーブルに江島を誘った。


「ところで、新たに創設される会社では、江島さんが社長になられるそうで、おめでとうございます。」

座ったとたん、片野はそう言って握手を求めてきた。

江島は驚いた。何かの間違いだろうと。

「えっ!・・・・そんな話にはなってませんよ。第一、会社を作るのかどうかも決まってないようですし・・・・。」


それを聞いた片野が「しまった!」という顔をした。


(つづく)




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