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その翌朝9時過ぎ、江島は御陵重工の片野専務に電話を入れた。
名刺に書いてある番号に電話をする。
「おはようございます。御陵重工業片野専務席でございます。」
どうやら秘書の女性が出たようである。
「江島と申しますが、片野専務はおられますか。」
「まことに失礼なことをお伺いいたしますが、どちらの江島様で・・・・・」
さすがに大企業である。相手を確認してくる。
江島は一瞬戸惑った。
これが12年前だったら、ちゃんと「定森金属の・・・」と言えたのだが、今はその所属会社は無いのだ。まさか店の名前で「スイッチ・バックの・・・」とは言える筈もない。
どのように答えるべきかを迷っていたところへ、いきなり片野本人が電話口に出てきた。
「失礼ですが、定森金属の江島さんでいらっしゃいますか?」
江島は、少し嬉しかった。
「あっ!・・・はい、・・・そうです。・・・一昨日はどうも・・・・」
それしか言えなかったが、それだけで十分のようだった。
「こちらから掛けなおします。今、掛けられている番号でよろしいですか?」
どうやら細かい話は秘書にも聞かせたくないようだ。
1分もしないうちに片野から電話がかかってきた。
「お引き受けいただけるのでしょうね。」
片野はそう切り出した。
「はい。」
江島は端的に答える。
「有難うございます。これで私もほっと出来ます。では、早速なのですが、今日にでもお目にかかりたいと思うのですが、何時にどこへお伺いすればよろしいでしょうか?」片野は明日以降をまるで認めないとでも言いたげである。
江島は少し考えた。
自宅に来てもらうのはいろいろな意味で不都合がある。
かと言って、その辺の喫茶店という訳にはいかないだろう。
しかも相手は東京の本社からやってくるのだ。
時間もそれなりに考えなければ・・・と。
「私は、駅前にあるタワーホテルにおります。今からでも、お伺いできます。」
片野が江島の思いを汲んだのか、そう言ってくる。
「えっ!・・・東京におられるんじゃないんですか?」
「あははは。江島さんのお答えを頂戴するまでは、東京へなど帰れませんよ。」
「・・・・でも、・・・私が電話したのは、東京03の番号で・・・・・」
「はい。秘書が受けている電話はすべて転送されて私の携帯電話で聞けるようになっているのです。ですから、私から改めてお電話させていただいたのですよ。」
さすがである。
「もし、このホテルに足を運んでいただけるのでしたら、昼食でもご一緒しながら、詳しいお話をさせていただきたいのですが。如何でしょう?」
片野が提案してくる。一刻も早く会いたいという気持がありありと分る。
「有難うございます。では、お言葉に甘えまして、そのようにさせていただきます。」
「では、11時に車を差し向けます。ご自宅の前でよろしいですか?」
「えっ?私の家をご存知なのですか?」
「はい。もちろんですとも。」
江島は舌を巻いた。
(つづく)




