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そうか、そこまで落ちているのか・・・・・・。
江島の気持の中は複雑だった。
だが、作業長は、そうしたことを、小出孝雄の現状を知った上で、会社再建後は形だけでもいいから社長にしてやってくれ、と言っているのだ。
その意味が決して理解できない江島ではない。
それでも、そこまで落ちた人間をどうして?という疑問は完全に払拭できるものではない。
小出孝雄、彼の責任なのだ。会社が倒産に追い込まれたのは。
その思いは、あの当時に会社にいた誰もがそう思っている。
現場を知らない社長。ものづくりが何であるかを語れない社長。
サラリーマンの発想でしたか、経営を捉えられない社長。
従業員を将棋の駒程度にしか考えない社長。
いろいろな批判があったのも事実である。
それでも、先代社長から経営を引き継いで、何とか15年ぐらいはやってきていたのだ。
それは、小出社長が連れてきた高瀬という工場長が支えたからだとは誰も思っていない。
品質低下がじわじわりと経営を圧迫していくのを感じて、ひとり「現場重視」を叫んでいた生田作業長のおかげだと思っている。
「作業長あっての会社」だと誰もが考えていた。
だから、今更言ってもどうしようもないことなのだが、あの倒産時に作業長が入院していたことが傷口を大きくした。
もし、生田作業長が現場で指揮を取れたとしたら、会社は最悪の事態を回避できたに違いない。
誰しもが、そう思った。
それほど、作業長の存在感は大きかった。
「奥様は、作業長のそうした思いをご存知なのだろうか?」
江島は、その点が気がかりで、海堂に訊ねる。
だが、海堂は、黙って首を横に振るだけである。
それが、「そうしたことは一切知らないだろう」という意味なのか、それとも「あちらの家とは接触がないから」という意味なのかは分らない。
海堂自身も説明をしない。
江島は、悪いことを訊いた、と反省した。
その夜は、結局、木原が江島の家に泊まることになった。
海堂と明子は、2人を江島の自宅まで送り届けてから、自宅へと帰っていった。
江島と木原は、どうやら朝まで、いろいろな事を話し込んでいたようである。
この12年間を取り戻すために。
(つづく)




