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江島は、一気に現在の心境を吐露できた。
それは、不思議な気もする。
海堂には、やはり一種のわだかまりがあった。
いくら恩義のある作業長の息子だとしても、娘の明子を強奪同様に連れ去ったこともあるし、やはり何といってもその人間性に疑問があったのだ。
だからこそ、今まで、父親の意地、男の意地、職人の意地で突っ張ってきた部分がある。
だが、それなのに、ここへきて、そうしたものがどこかへ消えたような気がするのだ。
何故なのかは、自分でもよく分からない。
その江島の言葉をじっと聞いていた海堂が、おもむろに顔を上げた。
そして、何事が明子に言って確認をしてから、ゆっくりと話し始めた。
「おやっさんには、本当のことを正直に言うべきや、思てました。
明子のこともあったし、オヤジとの関係もあったし。
せやけど、わいはよう言わなんだ。ほんま、情けない奴ですわ。
あれは、明子がわいのところへ来てくれて半年ぐらいたった頃や思います。
生田のオヤジのところへ“嫁さんもろたで”と明子を連れて行ったんですわ。
そんとき、オヤジ、明子の顔見て、すぐにどこの誰と分ったみたいでした。
な〜んも言わんで、いきなりどつかれたんですわ。ボコボコにされました。
“よりによって、なんちゅうことをするんや!”ってね。
わいは、訳が分りまへんでした。
褒められる、思てるぐらいでしたよって。
せやけど、オヤジの剣幕はおさまりまへん。
明子に、“この男のことは忘れなさい。お父さんの所へ帰りなさい。”って言うたんですわ。
明子も、どうやらオヤジの顔を覚えていたようで、言われてる意味は分っとったようです。
せやけど、明子は“この話は、うちの父とは関係のない話です。私も20歳になりましたから、もう、自分の責任で相手を選べます。もう、帰ったりはしません。”こないに、言いよりましたんや。
オヤジ、その言葉聞いて、涙流しよりました。
明子の手取って、“すまんな、有難う”って。
その時に、3人で約束したんです。
おやっさんには、このこと、つまり、わいが生田徳三の息子や言うのは、時期が来るまでは言わんでおこうって。
その時期が、こないな時になってしもうたことは、ほんま申し訳ないと思とります。
せやけど、わいも、生田のオヤジの息子でもあり、江島のおやっさんの息子でもあるんです。
その2人のためやったら、わいは何でもする覚悟はしとります。
それが、せめてもの罪滅ぼしや思てます。
せやから、会社を再建するってことは、わいに任せてもらえまへんか。
資金のこと、設立登記のこと、事務所の手配から、従業員の確保まで、一応のことはちゃんと考えてあります。
決して、おやっさんにご迷惑などかからんようにする段取りはつけとります。
せやから、おやっさんには、当面は、オヤジが残した宿題を仕上げることだけに専念してもらいたい、思とります。どないでしっしゃろ?」
海堂の目が、江島を真正面に捉えて離さない。
(つづく)




