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(4)

江島は、明子のその言葉に非常に驚いた。


従業員として社内にいた自分達はそのような気配は微塵も感じなかった。

だのに、こうしてまったく取引も何も関係のない海堂たちは早くからそうした状況を知っていたのだ。

ましてや、会社倒産後の自分を心配してくれていたとは。


「お母さんには、その時連絡したのよ。」

「・・・・・・・・・・・」

「そしたらね、今、お父さんに言っても信用しないばかりか、怒るだけになる。万一にもそうなれば、お父さんのことだから、まずは部下のことを心配する。自分ことは最後まで後回し。そういう性格だからね。今は、言わない方が良い。・・・私は、それなりに覚悟をしておくわ。って、お母さんは言ってた。」


「そうだったのか・・・・」

江島は、自分の不覚を恥じた。


「おやっさん、どう転んでも、もう駄目ですわ。あの会社、技術も設備も、もう時代遅れですし、どこも買うてでも・・・とは思いまへん。今日まで、よう持ったと思うぐらいでっせ。相当、綱渡りしてきてましたさかいになぁ。」

海堂は、シビアなものの言い方をする。

「お父さんは、これからどうするつもりなの?」

明子が訊く。

「おやっさんの1人や2人、うちで面倒みまっせ。」

海堂は、胸をポンと叩いて言う。


「いゃ、ありがたいとは思う。・・・・だけど、今は、自分自身で心の整理も出来てないし、まだ、これからを考える余裕なんてないんだ。もう少し、時間が欲しい。」

江島は言葉とは裏腹に、何としてでもこの2人の世話にだけはなるまいと考えていた。

父親の意地、職人の意地、男の意地。それらが、全て複雑に絡んでの答えである。


海堂は、タクシーで帰るから、という江島を抑えて、

「明子。久しぶりやから、お前がおやっさんを送っていけ。車は、わいのを使え。」

と明子に言う。

「ありがとう。・・・・・・じゃあ、お父さん、私が送るから。」

海堂から車のキーを受け取った明子は、嬉しそうに江島の腕をとって、

「お父さん、ほんと久しぶりねぇ。昔は、よく、こうしてお父さんと腕組んで歩いたのに。」

と言う。


海堂の大きな外車を明子が運転してきて、ビルの前に付ける。

「お父さん、どうぞ・・・・。」

明子は、そう言って、後部座席のドアを開けた。


「前でいいよ。こんな大きな車の後部座席に乗れるほど大物じゃないし。第一、落ち着いてなんかおられん。」

江島は、自家用として使っている小型車とのあまりの違いに、そう言った。

「はいはい、じゃあ、横に乗って。」

明子は、笑いながら、今度は助手席のドアを開けた。


「家でいいの?それとも、どこか寄る予定のところがあるの?」

明子は、シートベルトをしてから、江島にそう尋ねる。

「家でいい。旋盤の連中を家に呼んでるんだ。」

「相変わらずなのねぇ。お父さんは。・・・・家族より、会社の部下。」

そう言ったかと思うと、明子は轟音を響かせて車を発進させた。


(つづく)




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