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(36)

江島は、その封筒を開ける前に、裏返してみる。

そこには、日付と「生田徳三」と作業長直筆の署名がなされていた。

黒いインクの万年筆で書かれたものである。


その万年筆は、生田作業長が大切にしていたものだ。

「先代社長に貰ったんだ」と話していた。


手にすると、意外に分厚かった。

便箋の1〜2枚だと思ったのだが、どうやらそんなものでは済みそうにない。


江島は、開けることに躊躇する。

自分宛に作業長が自らの手で書いたものなのだから、誰に遠慮するものでもないのだが、今、ここで、まだ自分なりの覚悟が出来ていない時点で、それを読むのにはそれなりの思い切りが必要だった。


江島は深呼吸をひとつする。

そして、明子と木原の顔を見る。

2人ともが、江島の手元を凝視している。

開けて読むのだろうと、息を呑んでいるような雰囲気である。


江島は、裏側の「×」印のあるところを剥がそうとする。

普段なら、そんな手間なことはしない。

一番上の部分を手で破って開けている。

だが、これは作業長から貰う最初で、そして最後の手紙である。

その思いが、江島をして、そのような行動を取らせていた。


中の書類が分厚いこともあったのだろう。

糊付けされていた部分が、浮き上がるようにして剥がされた。


封が開いて、中の書類が覗けるようになる。

そこまで行っても、中の書類を一気に引き出せない。

時間稼ぎに、封筒の中に息を吹き込む。

そして、ようやく諦めがついたように、中の書類を取り出す。


便箋が3枚。そして、何かのコピーのような紙が折り畳んで入っていた。

まず、便箋を広げる。

3つ折になっていたものを、上と下に折り返すようにする。

そして、読み始める。



江島がそれを読んでいる間、明子も木原も、まるで呼吸すらしていないような静けさである。

じっと、固まったように動かない。

ただ、ひたすら、作業長からの手紙を読む江島の目の動きだけを追っていた。



何分を要したのだろう。

便箋3枚に書かれた手紙を江島は2度読み返した。

そして、ようやく、それをもう一度元のように折りたたんで封筒に戻す。

それから、何かのコピーらしきものを広げる。


その時になって、ようやく木原がその身体を少しだけ江島のほうに寄せる。

そのコピーらしき資料に、関心があったようである。


(つづく)




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