(34)
「はい。・・・・・・・」
明子がすぐさま答えた。
どうやら、その電話が掛かってくることを事前に知っていたようである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はい、わかりました。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それでは。」
それは短い会話だった。
挨拶らしき言葉は何ひとつない。
感じとしては、ビジネスに関連したことだろうな、と江島は思う。
「ごめんなさい。うちの人からだったの。」
江島は驚いた。
今の電話がまさかあの海堂からだとは想像できなかったのだ。
夫婦なのである。
例え、その内容は仕事に関係したことであってもだ、今のような会話で終わるのは、江島としては承服できなかった。
「・・・・それにしては、えらく冷たい受け答えだったなぁ。」
江島は、心配になってきた。このふたり、うまくやれているのだろうか?
「うん、まだ商談の席からだったから。」
明子は、これが普通なのよ、っていう顔をしている。
そこに部屋の外から声が掛かった。
「お連れ様がお着きになりました。」
仲居さんのようである。
「あっ!はい。・・・入っていただいて。」
明子が応じる。
江島はまたまた驚く。
一体、誰?誰が来たというのだ?
部屋の戸が開いて、懐かしい顔が笑顔で入ってきた。
「班長!・・・・おひさしぶりですっ!」
その声は、木原だった。
江島が右腕として信頼していた、それで、和歌山で梅作りをしているはずだった、あの木原である。
「木原!・・・・・お前・・・・・なんで、?」
江島は、訳が分らない。どうして、木原がここにいるのか?
「いゃあ、班長、お元気そうで、何よりです。」
木原は、これ以上壊れることはないと言うほどの笑顔である。
2人は、手を取り合って、しばし黙ったままで、互いの顔を見詰め合っていた。
「いやいや、班長が水商売をされているという話は耳にしておりましたが、いよいよもって箔が付いた感じですねぇ。・・・・・それで、いよいよ、だそうで・・・・。」
木原は、嬉しそうにそう言った。
(つづく)




