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「・・・・・・・・・・・・・・」
江島は明子の話をただ黙って聞くしかなかった。
最初は、「まさか」「嘘だろ」などと思ったが、ここまで詳細な話をされると、信じたくはないのだが、どうやらそれが事実らしいというおぼろげな感覚というものが沸いてくる。
会社が倒産してから、あちこちの同業者には頭を下げて歩いた。
江島の性格からして、まずは部下達の再就職先を見つけてやりたかった。
だから、どこへ行っても、自分ことは後回しになる。
それとなく、自分自身を売り込むような話もしてみたが、どこもいい顔をしてはくれなかった。
腕には自信がある。採用すると約束してくれた若い部下達よりも仕事は出来る人間だと思っていた。それなのに、いい顔をされない。
やはり、年齢の問題なのか、給料の問題なのか、と思ったこともある。
だが、明子の話では、そもそも、そこからがまったく違うのだ。
作業長が「江島は採用しないでくれ」と言ったというのだ。
それが事実なら、そりゃ、どこも話を聞いてくれない筈だ。
いい顔をしなくて、当然なのだ。
「だったら・・・どうして言ってくれなかったのか、って思うでしょう?」
江島のそうした戸惑いを察して、明子が言葉を継ぐ。
「会社が倒産した時点では、まだ開発そのものは完成していなかったから、生田さんにも“これっ!”という確信はなかったのね。
でも、だからといって、会社再建のためには絶対に必要なお父さんを他社に譲り渡したら、いざというときに取り戻せないでしょう?
だから、お父さんと木原さんには悪いんだけれど、しばらくは“自宅待機”ってことになったらしいの。」
「・・・・なんだ?、その“自宅待機”ってのは。」
江島が口を挟んだ。
「生田さんの言葉を借りると、この業界から一時撤退して貰おうってことらしいわよ。
でも、生田さんは、だからといって、お父さん達をほったらかしにした訳じゃないのよ。」
「でも、結果的には、それも同然になってしまった。再就職の口をそうして封じられていたんだから、俺達にはどうしようも無かった。」
江島には、自分と右腕と信頼していた木原の仕事が最後まで見つからなかったことを多少恨みに思ったのだ。
「木原さん、奥様の実家の家業を手伝うってことで、今は和歌山でしょう?
あの話もね、生田さんが奥様の実家に頭を下げられて決まったことなのよ。だってね、木原さん夫婦の仲人は生田さんだったでしょう。奥様の実家とはその以前からお付合いがあったらしいの。
だから、時期が来るまでって約束で預かってもらっているの。」
「・・・本当なのか?・・・・・そりゃ、確かに仲人だったけれど・・・」
江島は驚いた。そんな話まで、作業長が噛んでいたなんて。
「それから、お父さんのお店の話ね。
それも、生田さんがうちの人に指示して、何とか喰えるようにだけはしておいてくれと。
それで、うちの人が、あの居酒屋のご主人を使って、今のお店をやれるように仕組んだのよ。言葉は悪いけれど。
だってね、お父さん、まともに話しても、絶対に聞き入れなかっただろうし。
だから・・・・・・・・・。」
(つづく)




