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「なんだって!?・・・・・・・・」

江島は、開いた口が塞がらない。

頭がクラクラしてくる。決してビールのせいだけではない。


そう言われてみれば、確かにビルのオーナーとは会ったことは無い。

居酒屋の店主が「とりあえずなのだから」と正式な借主を引き受けてくれていた。

江島はその店主から、俗に言う「又貸し」の形で店を借り、家賃はその店主に支払っていた。

最初はありがたいと思った。

素人なのだから、いつ失敗して撤退するかもしれないのだから、居酒屋店主の下請のような立場で始められたのはありがたかった。


だが、よくよく考えてみると、あれからもう11年なのだ。

もはや、「とりあえず」の時期は過ぎただろう。

なのに、店主はおろか、ビルのオーナーですら、何も言っては来なかった。

家賃も当初のままである。値上げも、更新料も言ってきたことは無かった。

確かに、異常な状況ではある。

江島は、自分が世間を知らないままにここまで来てしまったような気になる。


しかしだ、よくもまあ、次から次へと、驚くべき話を・・・・・。

もし、これが、この話をしているのが娘の明子でなければ、江島は一笑に付すだろうと思う。

作り話だ、まさに小説だと思うだろう。


江島が明子の顔をまじまじと見つめる。

明子の目は、決して笑ってなどいない。真剣そのものである。


「・・・・・明子、俺って、・・・・・」

江島は体中から血の気が遠くなっていくような感覚になる。


「お父さん、・・・・話を進めるね。

今言ったことを総合して考えると分ると思うんだけど、あの会社倒産があったときから、お父さんは、今日のために生田さんに“温存”された“秘密兵器”だったのよ。」

「・・・・“秘密兵器”?・・・・そりゃ、どういうことだ?」


「生田さんは、先代社長に世話になった恩を忘れない人。会社が危なくなったとき、御陵重工からの大きな開発事業を引き受けた。無理をしてでも会社を支えたかったの。でも、結局は時間的には間に合わなかった。

そこで、生田さんは考えた。

この開発をやり遂げたら、後にはそれを生産する仕事が必ず付いてくる。

開発のノウハウを持たない他社には絶対に負けることは無い。

それを武器に、会社を再建しようと。


だけど、生田さんにも、弱点、つまり弱みがあった。

ひとつは健康問題。

この開発を始めてから、生田さんは入退院を繰り返された。

本当は、その時に、お父さんにこの話をしようかと考えたみたい。

俺に代わって、この仕事をやってくれと。

でも、開発の成功確率は7割だったそうなの。しかも、会社が倒産した以上、ある一定の期間は無給で仕事を続けざるを得ない。

そうした状況で、お父さんに引き継ぐことは出来ない、と思ったらしいのね。


だから、開発は自分がする。それで、もし失敗したら、その責任はすべて自分が被れば良いと。

うまくいったら、その後の生産は自分ではもう出来ないから、それをお父さんに任せよう、そう考えたの。

だから、お父さんには、それまでの間、他社に行くことのないように業界への工作をしたの。

お父さんの再就職先が見つからなかったのは、そうことがあったからなのよ。」


(つづく)



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