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江島の言葉に、明子が怪訝な顔で言う。

「でも、お父さん、生田さんの残されたお仕事はされるんでしょう?」


今度は、江島が仰天する。

「明子。どうして、それを・・・・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」

江島は、明子の顔をただマジマジと見る。


「お父さんは、自分のブランクに不安がある。だから、今日、三橋さんのところへ行ったんでしょう?それに、お仕事をやるためにはそれなりの設備も必要だし。それを借りたいと頼みに行った。・・・・違う?」


江島は、ビールの酔いで、耳が変になったのかと思った。

だが、そんな馬鹿なことは無い。

いま、たった今、明子が言った言葉は空耳などと笑えるものではない。


江島はビールのグラスをテーブルの上に戻した。

「なぁ、明子。どうして、そんなことまでをお前が知っているんだ?変じゃないか。どうしてなんだ?」

さすがに、明子を睨むように問い質した。


明子が、江島の方を向いて、座りなおした。

改めたことを話すときの娘の癖である。

「お父さん、今から話すこと、怒らないで聞いて欲しいの。絶対に、怒らないって約束してくれる?」

「そんなもの、聞いてみるまで、約束なんか出きゃしない。」

そうは言うものの、このまま何も聞かないで済ませるわけには行かない。

それだけ、重要なことを明子は話そうとしているのだ、と江島は思った。


明子は両手を膝の上に揃えておいた。

そして、江島の、父の目をしっかりと見据える。

「お父さん、12年前の会社倒産のとき、再就職が出来なくて困ったわよね。うちの人が面倒見ると言ったのに、お父さんはそれを拒んだ。ううん、はっきりとは言わなくても、うちの人は“おやっさんにもプライドがあるからな”とそれを承知してたの。

でもね、本当は、お父さんを欲しがる会社はいくつもあったのよ。生田さんに次いでね。

でも、生田さんは他社に行くことを頑なに断られた。それは、その理由は既にお父さんが聞いている通りなの。でね、その生田さんの強い意向で、お父さんを欲しいといった会社もその意思を封印したの。」

「嘘だろ!・・・・どうして作業長がそんな依頼をするんだ?」

「その理由が、これからお父さんがやろうとしている仕事なのよ。」

「どういうこと?言っている意味が分からん。」


「じゃあ、順序だてて話すわね。

生田さんが大きな仕事を引き受けられた。それが15年前。

それは、危なくなっていた会社を立て直すための大きな賭けだったようよ。

開発に成功して、それでその後の生産を受注できれば、会社は生き返る。生田さんはそのように思ったみたい。

でも、開発については機密保持が絶対条件だったから、生田さん、迷った挙句、自分ひとりでされる覚悟をされたようなの。

でも、他の部品との整合性を計るための設計変更が何度かあって、結局は生田さんが当初に描いていた時期より完成が遅れたの。

それで、会社の倒産を救えなかった。

このことは、生田さん、相当に後悔されてたそうよ。もう少し早く出来ていたら・・・って、何度も言われたらしいの。」


確かに、明子の話は江島が知っていることとほぼ同じである。

だが、それはつい最近になって聞かされたことであり、それをこの明子がこれだけ詳しく知っていることが不思議でならなかった。


(つづく)



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