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あれから11年だ。


多少の季節変動の影響があったりはするが、客足は年々増加していた。

それに伴って、当然のように売上が伸び、手元に残せる江島の取り分も年々増えていた。

ありがたいことである。


オープン当初から来てくれている20代30代の若者も年を追うごとにおっさんになっていく。

だが、その過程で、殆どが後輩達を連れてきてくれるようになり、自然に世代交代が回りだす。そして、その輪が広がっていた。

ありがたいことである。


それと、大きく様変わりしたのが、夜の11時以降の客層である。

これも、たまたま偶然なのだろうが、1年目の冬、店仕舞いをしようと1階の所へ出している看板を取りに行ったときのことである。

あるクラブに勤めるお姉ちゃんが、雪交じりの雨の中を最終電車に乗ろうと道を急いでいた。

ところが、足元の水溜りをよけようとして、その場ですってんころりとやってしまった。素敵にお洒落をしていたのに、ドレスもその上から着ていた毛皮のコートも泥で汚れてしまう。

見かねた江島が、店へと誘い、お湯で湿らせたタオルを貸し、そして「もう店仕舞いだから」とそのお姉ちゃんを言われる場所まで自分の車で送ってやったのだ。

それからである。そのお姉ちゃんが、店の帰りにちょくちょく顔を見せてくれるようになった。

同僚のお姉ちゃん達を連れてきてくれるようになる。

そして、さらには同伴出勤の際のデート場所として指定してくれるようになる。

ありがたいことである。


そうして、瞬く間に11年の年月が流れた。

その間、別に店を改装したわけでもないし、メニューを変更したのでもない。その代わり、値段も上げてはいない。


世間の景気変動に伴う売上の増減は多少はあっても、経営のやり方を根本から見直さなければならないようなことにも出会わなかった。

淡々と、同じように毎日が過ぎて行き、毎月が過ぎて行き、そしてその積み重ねで11年が過ぎていた。


ただ、その間に変わったと言えば、40歳代半ばだった江島が50歳代半ばになっただけのことである。

鏡を見ると、そのことが良く分る。頭髪に白いものが目立ち始めていた。



「お父さん、何を考えているの?」

明子の声で、ふと我に返る。


「いやな、そう言えば、もう11年もあの店やってきたんだなあ、と思ってね。」

「そうね、ところで、お父さんは、あのお店、いつまでやるつもり?」

新たなビールを頼んでくれたらしい。それを酌しながら、明子が訊いて来る。


「いつまで?・・・・・・そうか、そんなことも考えたことなかったなあ。会社に勤めていたときには、自分がどうのこうのというより、会社が勝手に、昇給だとか、昇進だとか、定年だとかを決めてくれていたから、自分じゃそうしたことを考える習慣も無かったんだが、・・・・・そうだな、今は、自分で決めることなんだな、そういうことってのは。」

「うふふ、お父さんらしいわね。・・・でも、私は昔の会社勤めをしていた頃のお父さんって好きよ。そりゃあ、今のような自由さは無かったんだろうけれど、若い人達と一緒になって、時間を忘れて仕事して、そして区切りが付いたら何とかの打ち上げだとか言って、また皆でお酒を飲んでワイワイと。その点で言うと、今のお父さんは物分りが良すぎるの。紳士過ぎるのよ。もう少しワイルドになっても良いんじゃないのかしら。まだ還暦も迎えてないのよ。今のままで、お父さん、満足なの?人生、まだ先は長いわよ。」


「そりゃあ、そうなんだろうけれど、もう、この歳になっちゃえば、現状維持で十分じゃないか?今更、欲を出したって、碌なことにはならなさいさ。」


(つづく)



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